未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―町外れのスタンド―(2)

 平和そのものの長閑(のどか)な昼下がり、やる事もなく暇を持て余して機関車の店の中で(たむろ)している常連客達は、久々に流れた速報でテレビの画面に釘付けになっていた。

『—今回入手したニュースは以上です。それではまた新たな情報が入り次第お知らせします』

 そう言った途端、女性ニュースキャスターが画面から消え、それまで流れていた番組に切り替わる。

 終わってみると前回とあまり代わり映えのしない内容に、常連客達はがっかり感が否めない。

 スナッチ団の続報という事で、一応見ていたライダーの若者など、途中から飽きたのか、既に夢の園に旅立っている。

「近頃はろくでもないニュースばかりだな。なんかこう、パーっと明るい話題はないもんかなぁ」

 速報を見終え、カウンター前に座る男がつまらなそうに溜息をついた。

「まったくねぇ、(しま)いには平和なのはここだけってコトになっちまうかもね」

 一番奥の席で大口を開け、ヨダレを垂らして幸せそうに惰眠を貪るライダーの若者を見やり、この店唯一の壮年の女性客は軽く肩を竦める。

 そんなところへ、誰か来たのか、外で爆音が轟いた。

 窓から外を覗いて見ると、見覚えのあるアッシュブロンドの少年が、店先の空き地にサイドカーを停め、後ろに誰か連れてやって来るところだった。

「おお、君かっ」

 カウンター席の男が、入って来た少年を見るなり大仰に出迎える。

 前回は何となく声が掛けられなかったのだが、今回は事情が違った。

「いやぁ、実は心配してたんだよ。少し前にここに変な連中が来て、君の事を捜していたみたいだったんでね」

 そいつらは血走った目をして、店に乱入してきたかと思うと店中を家探しした挙句、捜している奴の服装を事細かに並べ立てて行方を訊いてきたのだ。

 特徴的な肩当てと手甲の事は、ここにいる全員が覚えていたので、すぐに誰の事かピンときた。

 ついでに腹が減っていたのか、そいつらはハンバーガーと飲み物を人数分注文してちゃんと金も払ったので、マスターは彼等を客として扱い、少年の行方についても教えてしまったのである。

 ——こいつの所為かっ。

 あいつらが自分の居場所を、ああも早く嗅ぎ付けたのは。

 話を聞いたレオンは思わず眉を撥ね上げ、マスターの厳つい顔に鋭い視線を突き刺した。

 それに気付かず、カウンター席の男は話を続ける。

「でも後から、あいつらスナッチ団の一味じゃないかって話になってね」

 そんな奴等に、あの少年の行き先を軽々しく教えて良かったのかと、一応心配していたのだ。

 もっとも、それ以上にスナッチ団に追われているらしい少年の素性についての話に盛り上がっていた。さっき速報が流れる直前まで延々と。

 そう言いながら、心配三割好奇心七割の入り混じった目で、カウンター席の男はアッシュブロンドの少年を見やる。

 レオンはそれに無言を貫いたが、別の声が得意そうに応えた。

「それなら大丈夫。ちゃんとやっつけちゃいましたから」

 ひょっこりとレオンの後ろから顔を出したルナである。

 それを見て、惰眠を貪るライダーの若者以外の常連客達は目を丸めた。

「何時の間にこんな可愛いガールフレンドをっ。いいですねぇ、羨ましいですよ」

 独り身なのか、テレビ前に陣取っていた優男が心底羨ましそうな顔をする。

 まぁ、相手がいないから、閑古鳥の鳴くこんな所の常連客をやっているのだろうが。

「………」

「え~っ、そんなガールフレンドだなんてぇ~」

 どちらも誤解を正そうとしているようだが、一層目付きを鋭くして優男を無言で見返すレオンとは対照的に、何故かルナは頬に両手を添え、照れたように身をよじらせた。「可愛い」と言われたのが余程嬉しかったのかもしれない。

「で、何の用だ? もうフェナスシティには行ったんだろ」

 あそこには何でも揃っている筈だから、わざわざここに戻って来る必要はない。

 少年の鋭い視線の圧に、少々後ろめたそうにマスターが訊く。

「ここにモンスターボールがあると聞いたんだが」

 一息ついて気を静めると、レオンは淡々と用件だけを告げた。

 その言葉に、厳つい顔のマスターが眉根を寄せる。

「そんなもの、この辺は用がないからなぁ……」

「でも、以前売ってたって聞いたわ。本当にないの? 一つも?」

「ん~、そうだなぁ……」

 訊いてくる少女の必死さに、マスターはカウンターの奥にある棚の中をガサゴソとひっかき回し始めた。

「あるとしたら、ここら辺なんだが……」

 ホコリを被って忘れ去られた商品の詰まった棚の更に奥へと手を突っ込む。

 ——と、何やらコロリと丸い物が幾つか転がり落ちて来た。

「おおっ、あった、あった。ちょっとホコリを被っちゃいるが、ちゃんと使えるぜ」

 床に転がり落ちたモンスターボールを拾い、片手で被っているホコリを払い落として薄汚れたモンスターボールを数個カウンターの上に置く。

「ほれっ、こいつはサービスだ。持って行きな」

「えっ、いいの?」

「おうよ」と頷いて、マスターはどうせならと、見つけたモンスターボールの残りを、ホコリを払って他の商品と一緒に売り棚に並べた。

「もっと必要なら買ってってくれ」

「……ああ」

 レオンは念の為、貰ったモンスターボールに傷がないかどうか丹念に調べ、ちゃんと確認してからポケットに入れ、更に幾つか購入してルナと共にスタンドを後にした。

 二人が去った後、ヒマ人の常連客はモンスターボールを購入した少年に話題が集中した。

「この辺りで野生ポケモンなんて見かけやしないのに、あんなに買い込んでどうするつもりかね?」

 壮年の女性客が顔を(しか)めて呟く。

 彼女には使い道のないモンスターボールを買うなど、ただの無駄遣いにしか思えなかったのだ。

「何処かでサンドやイシツブテの群れでも見つけたんでしょうかね。それともエアームドの巣でしょうか」

 顎に手を添え、テレビそっちのけで優男は自分の推測を口にする。

「いずれにしても、滅多に姿を現さない野生ポケモンを見つけたとしたら、すごい事ですよっ、これはっ!」

「んっ、なんだ、なんだ?」

 興奮した優男の声に、少年のサイドカーの爆音にも目を覚まさず、ひたすら惰眠を貪っていたライダーの若者が、寝惚(ねぼ)(まなこ)でキョロキョロと辺りを見回す。

「いやな、さっき例の肩当てと手甲の少年がやって来て、モンスターボールを多めに買って行ったから、何に使うのかって話してたんだよ」

「肩当てと手甲の……」

 カウンター席に座る男の言葉に眉間に(しわ)を寄せ、寝惚け眼で必死に記憶をまさぐったライダーの若者は、漸く思い出してハッとなる。

「あの小僧がやって来たのかっ!」

 慌てて窓から外を見回すが、当然のことながら姿形もない。

「くぅ……、油断したぜっ。まさかこの俺が寝込んでいる隙にやって来るとはっ」

 席から立ち上がり、ガシガシと髪を掻きむしってライダーは盛大に悔しがった。

 が、すぐに何を思ったのか、急に余裕の笑みを浮かべて席に座り直す。

「ふっ、やはり俺の強さに恐れをなしたんだな」

「なに言ってんのさ、単にあんたが意地汚く眠りこけてただけだろうに。それに、あの子はあんたなんか、きっと眼中にないよ」

「それを言っちゃ、お(しま)いですよ。わっはっは!」

 身も蓋もない女性客のツッコミに、テレビ前の席の優男が更に追い打ちをかけた。

「ぐふっ」

 心にダメージを負ったライダーの若者が、テーブルの上にバタリと突っ伏す。

「ま、確かに、可愛いガールフレンドも出来たみたいだし、野郎の相手なんてしてるヒマはないかもな」

「なにーっ、ガールフレンドだとぉっ!」

 話題を締め括るように漏らしたカウンター席の男の言葉に、他の常連客にやり込められていたライダーの若者は、ガバリと起き上がって素っ頓狂な声を張り上げた。

「俺にだってまだいないのにっ、何時の間にそんな羨ましいモンができたんだ!? くぅっ……、油断したぜっ」

「…——この調子じゃ、百年()ってもできそうにないね」

 本気で悔しがっているライダーの若者を呆れ顔で見やり、壮年の女性客がボソッと言う。

「それを言っては、本当にお(しま)いですよ。わっはっは!」

 陽気な優男の笑い声が店の中に響き渡り、今日も町外れのスタンドは概ね平和だった。

 

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