未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―ラルガタワー―(2)

 通路の移動用のムービングボードに乗り込む。

 さっきは動くとは知らないでひっくり返ってしまったが、そうと判ればもうそんな無様な事にはならない。

 入り口のドームに戻ると、二人はラルガタワーの模型の脇を通り、今度は入り口の反対側正面にある扉に向かった。

 ムービングボードに乗り、頭上の透明な強化ガラスの屋根から正面に見える、天高くそびえるラルガタワーが段々と大きくなっていく。

 このままあのタワーの下まで行けたらいいのだが、二人を乗せたボードはそれよりかなり手前にあるドームで止まった。

 中に入るとそこは受付けカウンターが置かれ、その奥の壁にはロゼリアが舞い踊る姿が描かれた大きな絵画が飾られてあった。

 そして、その両脇にポケモンの回復マシンとパソコンが設置されている。

 どうやらここが、このラルガタワーのロビーなのだろう。だが、カウンターには受付けしてくれる者は誰も居なかった。

 取り敢えずレオンはカウンターの奥にあるポケモン回復マシンで、さっきの戦いでダメージを受けたチルタリス達を回復させる。

 そこへ、いきなり背後から声を掛けられた。

「おやおや、どうなされました。この建物の中が広すぎて、迷ってしまわれましたかな?」

 ぎょっとして二人が振り返ると、そこに杖をついた老人がにこにこと二人を見ている。

 さっきまでこのドームには確かに誰も居なかった筈なのに、何時の間に来たのだろうか。扉が開く音すら聞こえなかった。

「え、え~と、迷ったっていうか、ここの受付けの人って居ないんですか?」

「オープン当日で皆さん忙しいからのう。なんなら、このわたしが連れてって差し上げましょう」

「え? 連れて行くって……?」

 まだ自分達が何処に行きたいのか言ってないのに、さも判っている風に言う老人を、ルナは怪訝そうに見返した。

「ええ、そうですよ。貴方達に相応しい場所にね」

 そう言いながら、老人は上着を脱いでそれを二人の目の前に放った。

 一瞬老人の姿が隠れ見えなくなる。

 そして、上着が床に落ちた時そこにはもう老人の姿はなく、フルフェイスの紺の戦闘服を着た男がいた。

「貴方っ、シャドーの戦闘員!?」

「フェイクか?」

「あんなお間抜けと一緒にするな。オレはバレル、おまえ達の墓場への案内人さっ」

 と、ボールからポケモンを呼び出す。

 それは体長一・二メートル程の紫の体に赤い足と黄色い複眼に触角、そして赤い輪の模様のある緑色の(はね)を持つドクケイルと、汚染された海底のヘドロから生まれたと言われ、体長一メートほどのブヨブヨの体中からバイ菌だらけの体液を垂れ流しているベトベターだった。

 両方とも毒タイプのポケモンだが、ドクケイルはいもむしポケモンであるケムッソの最終進化形の一つだけあって虫タイプも併せ持っている。

 それに対し、レオンは先程のミラーボとの再戦で出したヌオーとチルタリスを出した。

 チルタリスの『神秘の守り』で、味方共々毒タイプ技を受けても状態異常にならないようにし、上機嫌が続くヌオーの『地震』でドクケイルとベトベターを仕留める。

 次にバレルが出して来た、太めの長い胴体に刀のような尻尾と鋭い二本の牙を持つ毒タイプのハブネークを、「先制のツメ」を舌の上で回してご満悦のヌオーが、素早い動きで再度『地震』で叩き潰す。

 バトル山とアゲトビレッジでの成果を遺憾なく発揮した、実に効果的に有効技を使った戦い方である。

「くっ、墓場に案内するどころが、自分の墓穴を掘ってしまったっ!」

 バレルは懐から煙玉を出すと、大理石の床に叩き付けた。

 玉が割れ、勢いよく白煙が噴き出てドーム一杯に充満する。

 屋外と違い、ここは密閉された空間である。待っていてもすぐに煙は晴れない。

 二人は口と鼻を手で覆いながら、慌ててさっき入って来た入り口から通路に出た。

「どうするの? 今のドーム、もう一つ別の入り口があったみたいだけど」

「今戻るのは危険だ」

 逃げたと見せかけて、白煙の中に潜んだバレルに襲われる可能性もある。

 それに無理しなくともこういったドームには必ず空調設備があるものだ。時間が経てば空気が入れ替わって自然と白煙も消えるだろう。先に進むのはそれからでも遅くはない。

「じゃあ、煙が消えるまでここで待つの?」

「いや、さっきのドームでまだ行ってない通路があっただろ。先にそっちに行ってみる」

 レオンはルナを促し、再びラルガタワーの模型のあるドームに戻った。

「ねえ、レオン。やっぱりバックレーさんに知らせた方がよくない? ここがシャドーと深い繋がりがあるって」

 確信していたものの、ここに来るまでまだはっきりとした証拠がなかったが、ミラーボに加えシャドーの戦闘員までいたのだ。もう確定といっていいだろう。

 さっきムービングボードに乗っている間に、パイラの署長にはメールを送っておいた。それならバックレーにもメールを送ってもいい筈だ。

 なにしろここからフェナスは目と鼻の先なのだ。何かあった時、それを知っているといないとでは対応も随分違って来る。

 ルナは今までずっと何か情報を掴む度に、それをフェナスの市長に知らせていた。一番最初に力になると約束してくれたバックレーに。

 それなのにレオンはアンダーから戻ってからは、情報を得るや否や飛び出して行くので、事前にそれを市長に教えるヒマがなくなったのだ。

 全てが終わった後でダークポケモンの研究所の事をバックレーに教えた時、何の力にもなれずに酷く落ち込み無念そうにしていた市長の顔を、ルナは今でもはっきりと思い出せた。

「言っただろ。バックレーには市長の仕事があるんだ。これ以上俺達の事に巻き込むのは止めろ」

 確かに今までも連絡は何時もルナが入れるだけで、バックレーの方からは仕事が忙しいのか、調査もあまり思うように進んでいないようだった。聞いても何時も調査中とだけで、一度も向こうから連絡が来たためしがなかった。

「バトル山に修行に行った時もそうだ。俺は誰にも言わずに行ったのに、おまえ市長に教えただろ」

「だって、情報を掴んだらすぐ連絡するから、居場所を把握しておきたいって、この間会った時バックレーさんが言ってたから」

 と、言い訳がましくルナが言う。

「とにかく、今あの市長に頼らなくても、協力者はたくさんいる。それにヤツは——」

「それに? バックレーさんがどうかしたの?」

 言い掛けて口を(つぐ)んだレオンに、ルナが訝しげに訊き返す。

「いや、何でもない」

 レオンは(かぶり)を振って話を続けた。

「そんな事より今回俺達が先にここに来たのは、署長達が準備を整えてここに突入して来る前に、残りのダークポケモンを一匹でも多くスナッチする事だ」

 それがここに二人が来るのを許可したヘッジとの約束だ。

 レオンの情報を元に、署長達は今度こそミラーボ達を捕まえ、その組織の全貌を吐かせる気なのだ。

 逃げられない様に先にラルガタワーの周りを固め、それから万全の態勢でもってこのタワーに乗り込むつもりらしかった。

 二人はその前に奴等が持っているダークポケモンを、できるだけ多くスナッチして戦力を削いでおくのである。

 (しょ)(ぱな)にミラーボと再戦するとは思わなかったが、これで奴が確かにここにいると確認できたし、後はとにかく人が居そうな場所を片っ端から当たり、ダークポケモンを持っている奴を捜してスナッチするだけだ。

「そうね」

 まだ少し(わだかま)りはあったものの、ルナは素直に頷いた。

 通路に射し込む陽射しを浴びながらムービングボードで移動し、次のドームへと向かう。

 が、そこは先程より小さめなドームで中には何もなく、左手の方に扉が一つあるだけだった。

 用心してドームの中を横切り、二人はその扉を開ける。

 その先はまたも通路になっていた。

 そこにあるムービングボードに乗り込むと、軽い機械音を響かせてそれは通路の中を移動し、次のドームへと二人を運んだ。

 扉を開けて中に入る。

 そこには一人の男が、ドームの中央に仁王立ちになって二人を待ち構えていた。

 赤い蓬髪(ほうはつ)に、顔には目の上から頬にかけて赤い塗料で隈取(くまど)りし、首にはモンスターボールを鎖で繋いだ首飾りをしている。

 半裸のような筋肉隆々の裸足の巨漢——シャドーの幹部の一人ダキムである。

 ミラーボはいるだろうと思ってはいたが、まさかダキムまでいるとは。

「だーっはっは! オレ様の所に来たのが運のツキだぜ。おまえ達の冒険ごっこもここまでだなっ!」

 片足を大きく振り上げて床に叩き付け、ダキムがモンスターボールを投げる。

 出てきたのは、一匹が体長二メートル程の、レオンも持っている砂漠の妖精と呼ばれるフライゴンで、地面の他にドラゴンタイプを併せ持っている。

 そしてもう一方は、ほっそりとした体のドジョッチが進化したナマズンだ。

 体長は一メートル弱で、体がでっぷりと太ってどこかとぼけた顔に、紺色の体に水色のヒレ、そして長いヒゲと腹部、額にあるギザギザ模様が黄色く、地面と水タイプを兼ね備えている。

 それに対しレオンはダキムと同じフライゴンと、ドラゴンと飛行タイプを持つチルタリスを呼びだした。

 以前の戦いで、この巨漢の男は地震など広範囲を巻き込む技を好んで使っていた。レオンがこの二匹を選んだのはその対策を兼ねている。

 生真面目なチルタリスは、出て来ると同時に相手を睨み据えて戦闘体勢を整えたが、フライゴンはバサリと羽ばたいてダキム達に背を向けると、レオンにしがみついて嬉しそうに頬をすりすりする。 

 リライブして以来、フライゴンは出すと必ずレオンにしがみつき、こうして親愛の情を示すようになっていた。

 それでエーフィとブラッキーには殊更ライバル視されている。

「フライゴン、バトルだ」

 溜息をついてレオンが言うと、名残惜しそうにしながらもフライゴンは素直にそれに従った。

「貴様は——っ」

 毎度毎度ふざけたポケモンばかり出しおってっっ。

 ブルブルと拳を握り締め、憤然とダキムが()える。

「フライゴンっ、あのふざけたヤツに『大文字』 ナマズンはふわふわ鳥に『冷凍ビーム』だっ」

 同時にレオンも淡々と指示を出す。

「チルタリス、ナマズンに『冷凍ビーム』 フライゴンは相手のフライゴンに『ドラゴンクロー』だ」

「なにっ!?」

 相手も『冷凍ビーム』を持っていた事に驚くダキムを後目(しりめ)に、チルタリスが(くちばし)を大きく開き、収斂させた冷気をナマズン目掛けて放射する。

 全身にそれを浴び、ナマズンは縮こまってぶるぶる震えながらもそれに堪える。

 ざっと勢いよく飛び出したレオンのフライゴンが、ダキムのフライゴンに龍の力の宿る前足の鋭い爪で効果抜群の痛烈な一撃を喰らわせる。

 技を出そうとしていたダキムのフライゴンは避ける間もない。

 ざっくりと急所深く体に三本線が刻まれ、そのまま床に落ちて倒れ伏す。

 そこで漸く震えの止まったナマズンが、肉厚な水色の唇をパカリと開け、先程のお返しとばかりにチルタリスに冷気を浴びせる。

 飛行、ドラゴンタイプ共に効果抜群技の技にチルタリスは大きく仰け反った。

 苦悶の表情を浮かべながらも寒さを堪え、気合いを入れるように真綿の様な翼を羽ばたかせて冷気を吹き飛ばす。

「うぬぅっ、このオレ様のポケモンが力負けするとはっ」

 ギリっと歯噛みし、ダキムは次のポケモンを出した。

 それは体長が一メートル強の、(いびつ)な鋼鉄の殻に覆われた楕円形の球体をしたフォレトスだった。

 木の皮を重ね合わせて造った殻を被って木の枝にぶら下がる虫タイプのクヌギダマが、進化した事で鋼タイプを併せ持つようになり、生半可な打撃攻撃ではビクともしなくなっている。

「ナマズン、『守る』 フォレトスは『大爆発』だ」

「フライゴン、ナマズンに『ドラゴンクロー』」

 両者同時に指示が飛ぶ。

 そして、レオンはもう一撃受けたら体力が持ちそうもないチルタリスを引っ込め、代わりのポケモンを出した。

 ナマズンと同じ水と地面タイプを併せ持つヌオーである。

「っ!?」

 ぬぼーっと現れた水色の短足胴長のポケモンに、ダキムは顔を引き()らせて目を()いた。

 悪夢がよみがえる。

 その横で素早い動きでフライゴンがナマズンに鋭い爪の一撃を浴びせるが、ぎりぎり身を守る障壁を周囲に張り巡らせたナマズンには届かなかった。

 フォレトスが全身に力を漲らせ、極限まで圧縮したそれを一気に開放する。

 そして——

 やっぱり何も起こらない。

「くっ…のぉっ、おジャマ虫が~っ!」

 一度ならず二度までも自慢の『大爆発』を防がれ、ダキムはギリギリと歯を軋らせて短足胴長のポケモンを()め付けた。

 だが、ヌオーは我関せずにぺろんと長い舌を出し、その上に乗る乳白色の爪に魅入っている。

「ぐぬぬっ、あのすっとぼけたヤツにナマズンは『冷凍ビーム』 フォレトスは『捨て身タックル』でぶちのめせっ」

 こめかみに血管を浮き上がらせ、ダキムが()える。

 すかさずレオンも指示を飛ばす。

「フライゴン、ナマズンに『ドラゴンクロー』 ヌオーは『地震』だ」

 パカリと口を開けたナマズンに、今度こそフライゴンが鋭い爪の一撃を浴びせる。

 だが、その痛みに堪え、ナマズンが収斂した冷気をヌオーに向かって放出した。

 いきなり浴びせられ強烈な冷気に押され、舌の上のお気に入りのアイテムが転げ落ちそうになる。

 慌ててくるりと舌で巻き取って口の中にしまい込むと、むっと小さな目でナマズンを睨み据えてヌオーは大きく体を伸び上がらせた。

 ドンっと地の底から響くような苛烈な一撃をみまう。

 「浮遊」の特性を持つフライゴンは大丈夫だが、ダキムのポケモン達にこれを防ぐ手立てはなかった。

 残りの体力が後僅かだったナマズンは激しい震動に突き上げられ、腹を上にしてひっくり返る。

 一方、フォレトスは体を覆う硬い鋼鉄の殻のお陰で、大したダメージを受けずに済んだ。

 またしても一匹倒され、ダキムは悔しげにギリっと奥歯を噛み締め次のポケモンを出す。

 出してきたのは体長一・五メートルの頭のてっぺんが尖った丸く黒い頭の側面にびっちりと目玉がついて前後の区別がなく、胴体部分には白で文様が描かれている。

 古代の人が作った泥人形から生まれたと()われる、ヤジロンの進化形のネンドールである。地面タイプの他にエスパータイプも併せ持っている。

「ネンドール、『日本晴れ』 フォレトスはフライゴンに『捨て身タックル』だっ」

「ヌオー、『なみのり』 フライゴンはフォレトスに『火炎放射』」

「な、なにぃっ」

 あのフライゴンも、炎タイプ技が使えるのかっ!?

 苦手な氷タイプ対策として持っていても不思議でないが、それを失念していたダキムは目を見開いた。

 進化して鋼鉄の殻を手に入れたフォレトスは、確かに打撃系の技には強くなったが、反対に兼ね備えた二つのタイプはどちらも炎タイプ技が苦手な為、その相乗効果でそれ系の技にはとことん弱くなっている。

 それなのに体の硬さに物を言わせ、防御せずに攻撃しろと命じたのだ。

 フライゴンが大きく口を開け、無防備のフォレトスに灼熱の炎を放射する。

 それを全身に浴びたフォレトスは、硬い鋼鉄の殻を半ば溶けさせて力尽きる。

「くぬぅっ……」

 ぐっと拳を握り締め、ダキムは新たなポケモンを繰り出した。

 それは体長一・四メートル程のしなやかな漆黒の体の背中と首、そして足に骨のような突起が付いている。頭部には曲がった鋭い二本の角があり、尻尾の先は矢印の様に尖っている。

 悪と炎タイプを併せ持ったヘルガーである。

 それを見て、さっとレオンは顔色を変えた。

 ヘルガーはダークポケモンとして、例のデータロムのリストに載っていたポケモンだ。しかも水タイプ技に弱い。

 その上あのヌオーが急な技の変更を素直に聞いてくれるかどうか。なにしろ何時技を繰り出すか分からない奴なのだ。

 そこへ二匹のポケモンを抱えたルナが、背後から焦るレオンに声を飛ばす。

「レオン、それは違うわ」

 あのヘルガーの体からは黒いオーラが噴き出していない。

 それを聞き、レオンはホッと息を吐いた。

 それなら、手加減は一切無用だ。

 直後体を回転させていたネンドールが、頭上に向けて技を発動する。

 カッと陽射しが強まり、更なる暑さがドーム内を覆い尽くす。

 そこへ、ヌオーが長い胴を伸び上がらせて高波を呼び出すと、フンっと前方に押し出した。

 うねりを上げて高波が、ネンドールとヘルガーに襲い掛かる。

 だが、直前に高まった暑さに水タイプ技の威力が半減され、大したダメージを与えられなかった。

 ネンドールとヘルガーが、体を揺すって水気を払う。

「どうだ、『日本晴れ』の威力は。そのすっとぼけたヤツの水技なんぞ、何の役にもたたんぞ」

 得意げにダキムが嘲笑(あざわら)い、傲然と指示を出す。

「ネンドール、フライゴンに『サイコキネシス』 ヘルガーはあのすっとぼけたヤツに『ソーラービーム』をぶちかませ」

「フライゴン、『地震』だ」

 そう指示をだすと同時にレオンはヌオーを引っ込めた。

 普通暫く光を溜めないと撃てない『ソーラービーム』だか、晴天下ではすぐに光が集まって即座に打てる。

 ヘルガーの大きく開けた口から、(まばゆ)い光の奔流がヌオー目掛けて放たれる。

 が、レオンが引っ込めてしまった事で当たらず、代わりに出てきたワタッコがそれを全身に浴びてしまう。

 出てきていきなり浴びた光の一撃に、クルクル体を回転させたワタッコは、ちょっとふらつきながらもフライゴンの背中に着地した。

 喰らったのが自分と同じ草タイプ技な上、飛行タイプも兼ね備えているワタッコにダメージは殆どない。

 フライゴンが背中の薄羽を羽ばたかせ、ふわりと宙に浮いたかと思ったら、そのまま地面に激突する勢いで技を繰り出す。

 「浮遊」の特性を持つネンドールには効かないが、炎タイプでもあるヘルガーには効果抜群だった。

 足許から突き上げられ、立っていられずにそのまま前足から(くずお)れる。

 その直後、地震の影響を受けなかったネンドールが、技を出した一瞬の隙を()いてフライゴンに凝縮したサイコパワーを叩き付ける。

 大きく仰け反ったものの、フライゴンは背中にワタッコを乗せたまま、薄羽を羽ばたかせ、ふわりと元の位置に舞い降りた。

 もう替えのポケモンがいないダキムは、ギリっと歯を軋らせて怒鳴る。

「もう一度フライゴンに『サイコキネシス』だっ」

「ワタッコ、『ギガドレイン』 フライゴンは『火炎放射』」

 ただでさえ素早いワタッコが、晴天の影響で更に元気に飛び跳ねる。

 フライゴンの頭に跳び乗って、両手を擦り合わせて綿毛を飛ばし、ネンドールから体力の殆どを奪い取る。

 ぐらりとネンドールの体が、傾きながら高度を落としていく。

 そこへ、フライゴンが晴天で威力の増した灼熱の炎を浴びせかける。

 全身を炙られ、力尽きたネンドールは床に落ちてゴロリと横たわった。

「くそ~っ、こんな小僧にまたしてもしてやられるとは~っ!」

 あっさり勝負がつき、ダキムは握り締めた拳を床に叩き付けた。

「しかも、こっちの技を利用してトドメを刺すとはな」

 嫌味以外の何ものでもない。

「これまで戦って来て、オレ様が負けたのはジャキラ様とお前だけだ。さぁ、これを持って行くがいい。地獄へのパスポートをなっ!」

 ダキムは鼻を鳴らして自分を負かした少年に緑色のⅠDバッジを放り投げると、ドームの扉まで一足飛びに飛び退いた。

「引き返すなら今のうちだぞ。ママの待っているお家に帰るがいい。だーっはっはっはっ!」

 と、笑いとばして逃げて行く。

 だが、追ってもムダと判っている二人は、今度は追わなかった。

「何よあれ、負けたクセに偉そうにっ」

「………」

 憤然とするルナの横で、レオンは緑色のⅠDバッチを握り締めながら、逃げて行ったダキムに心の中で言い返した。

 俺にはもう、待っている家族も、帰る家もない——と。

 幹部二人をもう一度負かして何に使うか分からない赤と緑のⅠDバッチを手に入れた二人は、再びカウンターのあるドームへと戻った。

 

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