二人はすぐさまメインゲートのあるドームに戻り、まずバトルで戦ってくれたポケモン達を、パソコンを使った裏技で回復させる。
そして、壁に埋め込まれた大きな黄色いモンスターボールの開閉ボタン中央の窪みに、さっき手に入れた黄色いⅠDバッジを嵌め込んだ。
モンスターボールの上部がうねる様に光り輝く。
同時に、メインゲートの扉の前で交差していた太い白銀の棒が、交差した所から割れ、音を立てて壁の中に引っ込んでいく。
「やったわ、レオンっ」
これで先に進める。
だが、この扉を開けて中に入ったら、おそらく後戻りはできないだろう。それでも行くしかない。
意を決し、二人は金銀の装飾が施された豪華な扉の前に立った。
中央の黄金のモンスターボール型の開閉装置がくるりと回り、シュッという音と共に扉が中央から三つに分かれて壁に収納されていく。
レオンとルナはそこを抜けて通路に出ると、ムービングボードに乗った。
通路を進むにつれ、透明な天井から見えるラルガタワーが頭上に覆い被さってくるように二人に迫る。その下をレオン達を乗せたムービングボードは、吸い込まれるようにタワー下にあるドームへと入って行った。
ボードを降り、メインゲートと同じ造りの豪奢な扉を抜けてドームの中に入る。
そこは今まで渡り歩いてきたドームの数倍の広さがあり、奥には左右に一つずつ部屋まである。その上壁沿いには清水を湛えた水路まであった。
何故こんなものがドームの中にと思うが、乾燥して荒れ果てた土地や砂漠しかないこの辺りでは、ドーム内にこんな風に水路を造って水を流すのも、ある意味贅沢と言えるだろう。
目の前にはその水路に架けられた小さな橋があり、そこを通らないと先には進めないようになっていた。
橋の袂の両側には
しかし、噴水の像が数多くいるポケモンの中で何故ウソッキーなのか。ここの所有者は余程そのポケモンに愛着があるに違いない。
橋を渡った先のドームの中央には受付けだろうか、シックな造りのカウンターと椅子が置かれ、他にも広いフロア内にはカードやルーレットなどが遊べるテーブルや、ダーツの的にビリヤード台などが設置されている。
そしてその更に奥の中央には、左右の部屋に挟まれた形で扇形の階段があり、そこを上がり切った所にカプセル型の乗物を閉じ込めた透明なパイプが天井まで伸びていた。
おそらくそれがタワーの上に通じるエレベーターなのだろう。その入り口の前には黒メガネをした黒服の男が立ち塞がっている。
全体的に白と金を基調にしたドームの造りは、豪華ながらもシックな落ち着いた雰囲気を演出し、高級リゾートカジノというに相応しかった。
しかし、その中に
ドーム内をざっと見やると、レオンはルナを連れてゆっくりと橋を渡った。
「パンパカパ~ンっ。おめでとうございますっ! このタワーがオープンしてから、貴女が丁度千人目のお客様ですっ!!」
二人が渡り切った途端、フロアライトの下に居た頭に赤いバンダナをした二人と同年代位の少年が、クラッカーを鳴らして高らかに言う。
「えっ? ホント?」
「なわけないだろ。ここオープンしたの、今さっきなんだぜ」
赤いバンダナの少年は、思わず訊き返してきた少女におどけた口調で言い返す。
「だけど、千人目とか言われて、ちょっとは嬉しかっただろ?」
「べ、別に、嬉しくなんかないわよっ」
半分以上本気にしてしまったルナは、図星を指されてムキになって言い返す。
「あっ、そ。じゃあさ、これなんかどうだい?」
と、赤いバンダナの少年は、手にしていたモンスターボールを放り投げた。
——いきなりバトル!?
ルナは息を呑み、硬直する。
練習程度の軽いバトルならまだしも、本格的なものはまだやれる自信がない。
「どいてろ」
立ち竦むルナを押し退け、レオンは少年とその相棒達と対峙した。
「へえ、おまえが代わりにやっちゃうわけ?」
「ああ」
折角目を付けた可愛い
「まあ、いっか。先におまえを倒せばいいだけだからな」
そう言って、赤いバンダナの少年はそのままバトルを開始した。
彼が出して来たポケモンは、共に体長一メートル程のコノハナとゴローンだった。
前者はタネボーの進化形で草タイプに悪タイプが追加され、鼻が長く頭に葉っぱを一枚生やして木のような茶色い人型の体躯をしている。
そして後者は岩と地面タイプを兼ね備えたイシツブテの進化形で、岩塊に手が四本と二本の足が生えたような形をしていた。
それに対しレオンが出したのは、地面と水タイプを併せ持つヌオーと炎タイプのバクフーンだ。
『火炎放射』でコノハナを焼き払い、『なみのり』で二匹を洗い流すつもりだった。
ところが、バクフーンにコノハナの『猫だまし』が決まった上に、ヌオーがバトルそっちのけでウソッキーの噴水に興味を示し、相手に先手を取られてしまう。
だが、すぐに効果抜群技をおみまいして叩き潰す。
次に赤いバンダナの少年が出して来た格闘タイプのハリテヤマと水と草タイプを併せ持ったハスブレロも、先制攻撃技である『猫だまし』を使ってきたが、この技が上手く決められるのは最初の一撃のみだ。
初手を決められ相手の技に怯みはしたものの、すぐさま反撃に出たバクフーン達の敵ではなかった。
他の奴等もルナにちょっかいを出さないよう、見せしめとして完膚なきまでに叩き潰す。
「うへぇ、ちょっとウソついたくらいで、そんなにムキになるなよ~っ」
『猫だまし』以外は満足に技を決められずに返り討ちにあい、赤いバンダナの少年は冗談の通じない少年を恨みがましそうに見る。
それを無視し、レオンはフロアの奥へと進んだ。
——と、
「はぁ~い」
大道芸人風の黒いシルクハットにふんわりとしたピンクの薄衣を纏い、片手に黒いステッキを持った女が、ヒラヒラと手を振って二人に寄って来た。
「ねぇ、知ってる? ここにはその内世界中からお客さんがやって来るらしいわ。世界一面白いショーバトルを見に。
わたしはそれに出て世界的に有名になるのよ。カリスマトレーナー『チャリス』って……」
そう言いながら大道芸人風の女は、コロシアムの中央で称賛を浴びる自分の姿を思い浮かべ、うっとりとなった。
「何、この人?」
いきなり話しかけて来て自己陶酔する変な女を指し、ルナは小声でレオンに訊いたが、彼も知るわけがない。
ただ一つ言えることは、関わり合いにならない方が身の為だということだ。
二人は自分の世界に浸っている女を避けて先に行こうとした。
が、それより早くハッと我に返ったチャリスは、慌てて二人の前に飛び出した。
「ちょ、ちょっと、まだ話は終わってないわよ」
「一体、何が言いたいワケ?」
別に聞きたくも無かったが、それが終わらない事にはしつこく付きまとわれそうなので、うんざりしながらもルナが訊く。
「だからぁ、ここのショーバトルに出るには、ある条件をクリアしないといけないのよ」
やっと本題に入ったチャリスは、にっこりと笑って意味ありげにレオンを見た。
「その条件っていうのが、多分貴方なの。ここにやって来る二人連れの男の子の方を倒せば、即ここのショーバトル専属のトレーナーになれるってワケ」
「成程……」
チラリとレオンは周囲を一瞥した。
ここにいる連中は、この目の前の大道芸人風の女と同じ目的でここに居るのだろう。何気なさそうにしながら、皆こちらを
ということは、こいつとバトルしてそれで終わりとはいかない筈だ。次々とバトルを申し込まれるに違いない。
レオンがコロシアムに辿り着く前に少しでも消耗させようと、シャドーが用意した当て馬どもというわけだ。実に悪の組織らしいやり口だ。
「——と言うわけでぇ、条件クリアの為に協力してね。その代わり、誰よりも先にわたしの得意なポケモンバトルを見せてあげちゃう」
「金は?」
「え?」
早速自分の可愛いポケモン達を呼び出そうとしたチャリスは、すかさず少年が口に出した問いに、何の事か分らず動きを止めた。
「金はあるのかと訊いている」
もう一度、レオンは口にした。
それに周りの連中も疑問符を浮かべる。
「お金って、どういうこと?」
「俺は今日のオープンセレモニーで行われる、コロシアムのエキジビションバトルのメインゲストとして招待されて来たんだ。このオーレ最強のトレーナーとしてな」
懐から出した招待状を見せ、レオンは言葉を継ぐ。
「その俺に協力しろというなら、それに対する報酬があってしかるべきだろう」
レオンは近くにあったルーレット用のテーブルからチップを一つ手に取り、大道芸人風の女に投げる。
思わずそれ受け止めたチャリスは、目を瞬いてチップとアッシュブロンドの少年を交互に見た。
まだよく分かっていない大道芸人風の女に、レオンがぞんざいに告げる。
「せめて先にそのチップと同額の金を出せ。それなら考えてやってもいい」
「で、でもこれって……」
チップの中でも最高額のものだ。そんな金場末のショーバトルで稼いでいる彼女が出せる金額じゃなかった。
「おまえ等もだ。オーレで最強であるこの俺相手に、タダでバトルできると思うなよ」
オーレ最強を強調して言うその言葉に、さっき見た情け容赦ないバトルを思い出し、思わず周りの連中の腰が引ける。
「じゃ、じゃあ、さっきのガキはどうなんだよ」
ごくりと唾を呑み込みながら、男の一人が文句を言う。
あの赤いバンダナの少年は、そんな金は持っていなかったのにバトルに応じたではないかと。
「あいつがバトルを申し込んだのは
傍らの少女を示し、レオンは平然と言い返す。自分が申し込まれたバトルでない以上、今の条件には当てはまらない。
それを聞いてホッと赤いバンダナの少年は胸を撫で下ろした。今更あの金額の金を要求されても無理である。
「それじゃ、その女にバトル申し込めば——」
なし崩しにタダで目的の少年とバトル出来る。
舌なめずりしてそう言い掛けた茶髪の男に、レオンは冷然と言い放つ。
「その場合は倍だ。こいつと俺の分で」
男も周りの連中も目を剥いた。
茶髪の男がアッシュブロンドの少年に喰って掛かる。
「は? なんでだよ。さっきはタダって言っただろ」
「さっきのやつは元々俺とバトルする気はなかった。だが、おまえは違う」
魂胆丸見えの男に、レオンは冷然と言い返す。
「こいつをダシに俺とバトルする気だろ? だったらダシに使うこいつの分も金を出すのが筋というものだ」
ジロリと周りの連中を見回して更に言葉を継ぐ。
「いいか、俺とバトルしたいなら、まずはバトルに賭ける金を用意しろ」
うっと息を呑む連中にそう言い放ち、レオンは彼等に背を向ける。
それを引き留める者は誰もいなかった。