何もない荒涼とした黄土色の砂漠の中に、場違いなほど白く輝く石壁が見える。
漸くモンスターボールを手に入れ、レオンとルナは何か情報を掴んだか市長のバックレーに話を聞くために、再びフェナスシティに戻ってきた。
それを聞いてから、昨日ルナがさらわれたというパイラタウンに行くつもりだった。逃げて行った人さらいの男達が向かう先はそこしかないだろう。
そして、そこに彼女の言っていた黒いオーラのポケモンを持つ男がいる筈だった。
街の白壁の外にある駐車場にサイドカーを滑り込ませると、その付近でおろおろしていたピンクのスーツの見知った女性が、二人に気付いて走り寄って来る。
「大変よ、貴方達。また変な男が大勢でやって来たのよっ。トラックで逃げたあの男達も一緒みたいだったわ」
「えっ? それ本当ですか!?」
ルナは驚いた。
逃げた彼らがまた戻って来るなんて。しかも仲間を大勢引き連れてだ。
「そうよ、さっきこの街も最近物騒になってきたって言ったでしょう。隣町のパイラタウンに住み着いているゴロツキ連中が、よく来るようになったからなのよ。でも、こんなに沢山来たのは初めてだわ」
「やっぱり、あたしを捕まえに……」
きゅっと唇を噛みしめ、不安そうにルナは傍らに立つ少年を見る。
表情を硬くし、レオンはスーツの女性に訊いた。
「やつらは大体何人くらいだったんだ?」
「えっと……、六、七人位かしら」
「六、七人か……」
決して多くはないが、連戦するとなるとかなりきつい。
レオンが眉を
「おおいっ、君達っ」
大声を上げながら噴水広場を横切って来て、早口でまくし立てる。
「大変なんだ。さっきのやつらが仲間を引き連れて市長の家に行ったらしい」
彼らは脇目も振らず真っ直ぐに噴水広場を突っ切り、階段を上がり切った所で左の方に向かって行ったのだ。その先にはバックレーの家しかない。
「市長さんの家にっ!?」
ルナは真っ青になった。
自分があんなことを頼んだから、その所為で市長さんの所へあいつらが押し掛けたのかも……
「ど、どうしよう、レオン」
「行ってみるしかないだろう」
動揺するルナに、レオンは淡々と言葉を返す。
「そ、そうね」
自分の所為で酷い目に合わされているかもしれない市長を、見捨てる訳にはいかない。
「僕も一緒にと言いたい処だけど、僕の手持ちのポケモンはポワルンだけなんだ」
余り戦闘向きでない上、ジョギングはしてもバトルは殆どしていない自分達では、却って足手まといになってしまう。
「気にしないで、大丈夫だから」
「誰だろうと、何人いようとレオンは負けないわ」
「……ああ、そうだな。そうだよな」
正門前のバトルを思い出し、半袖短パンの若者は少年に絶対の信頼を寄せる少女に頷いた。
「じゃあ、危ないといけないから、二人はここで待っていて」
そう言うと、ルナはレオンと共に広場を抜けて市長の家へと急いだ。
不穏な空気を感じ取ってか、街を行き交う人達の表情も何時もと違い、何処となく不安そうで、足早に通り過ぎていく。
市長の家の傍まで来ると、見た事のある老婆が市長宅を窺うようにうろうろしていた。
「おばあさん、何しているの?」
「ひっ」
急に後ろから声を掛けられ、老婆は文字通り飛び上がった。
「お、脅かさないでおくれ。心臓が止まったらどうしてくれるんだいっ」
相手がさっきの少女と知ると、胸を押さえて文句を言う。
「ご、ごめんなさい」
そんなに驚くとは思っていなかったルナは、素直に謝った。
「いやまぁ、判ればいいんだよ」
少女の殊勝な態度に落ち着きを取り戻した老婆は、傍らで市長宅に鋭い視線を向ける少年を見てハッとする。
「そうだ、大変だよっ。さっき市長さんの家に、怪しげな男達が大勢入って行ったんだよ」
「っ!?」
思わずルナは表情を険しくしたレオンを見た。
やっぱり連中は、ここに来ていたのだ。
「判ったわ、あたし達が中の様子を見て来るから、おばあさんはここで待っていて。
——レオン、行きましょ」
「ああ」
小さく頷き、レオンは市長の家に足を向けた。その後にルナが続く。
静かに扉を開け、そっと中に入る。
——と、
部屋の中央に、金色の棒の上に巨大なモンスターボールが乗っかっていた。
いや、よく見るとそれは人だった。アフロヘアの頭が紅白に染め分けられ、特大モンスターボールのように丸くまとめ上げられている。そして、下はそのボリュームとは裏腹に骨と皮だけのような細長い肢体が
前にここから出て来た男も異様だったが、こいつはそれに輪をかけて怪しげである。
——なんだ、こいつは……?
二人が呆気に取られ、声もなくその巨大モンスターボール頭の男を凝視していると、その背後から、何処かで聞いたような声が飛び出してきた。
「ミラーボさんっ! こ、こいつです。小娘を奪っていったのはっ!」
見ると、奥で例の二人組が自分達を指差している。
ゴロツキの一人、ヘボイの言葉に、こちらに背を向けていた巨大モンスターボール頭の男が、二人に振り返った。
後ろ姿だけでも十分怪しげだったが、前を見ても大差なかった。モンスターボールに奇妙なサングラスを付けた顔が貼り付いている。
「おやまぁ、情けない。お前達、こ~んなチビッ子にやられたって言うのかい?」
変な色眼鏡の奥からじろじろと、アッシュブロンドの少年の頭からつま先まで見回したミラーボは、気色の悪いオネエ言葉で二人組に声を掛ける。
レオンは標準的な身長より高い方なのだが、超高身長のこの男にかかると全部小さな子供に見えるのだろう。
その妙に耳に
思わず腰が引ける。
「おい、あの小僧、ビビッてるぜ」
その様子をミラーボの後ろから窺い見て、ぼそっとヘボイが相棒に囁く。
「そりゃそうだろ。オレ達ちゃもう慣れたけど、最初にミラーボさんに会った時、オレ思わず逃げ出したくなったもんな」
気持ちは判ると、トロイは二人に同情した。
「そうか? オレは未だに慣れないんだけどな」
「そこ、何しゃべってんの~」
「い、いえっ、何でもないっすっ」
肩越しに飛んできたミラーボの声に、ヘボイとトロイは慌てふためいて応える。
「そォ~?」
不審そうにチラリと二人を見やったが、それ以上は追及せずにミラーボは目の前の少年に声を掛けた。
「ちょっとキミ、悪いけどォ、その
ミラーボはかったるそうに、オネエ言葉で一方的に話し続ける。
「だからァ、多少バトルできるみたいだけどォ、さっさとその
少女を庇うように身構える少年にそう言いたいことを言うと、後ろに控える二人組に声を飛ばした。
「お前達~!」
「へいっ!」
直立不動になってヘボイとトロイが応える。
「ボクは一足先に戻るから、今度こそその
と、ミラーボは脳天から突き抜けるような声で高笑いした。
「レッツ、ミュージックスタートっ!!」
弾んだ声を上げ、片手を挙げて指を鳴らす。
それを合図に、何処からともなく軽快なサンバの曲が流れてくる。
呆然とするレオンとルナを放って、ミラーボはそのリズムに乗ってルンルン気分で外に出て行った。
そして、それを追うように、脇に控えていた赤青緑の色違いのフルフェイスを被った戦闘服姿の男達も出て行ってしまう。