「オレ様のダーク・エアームドを、たったの一投でスナッチするとは……」
あまりにも見事にしてやられ、ヘルゴンザは茫然と呟いた。
レオンは床に転がるスナッチボールを拾い上げ、冷然とスナッチ団のボスを見やる。
その視線に我に返ったヘルゴンザは、尊大に胸を反らせて口の端を吊り上げた。
「更に腕を挙げたな、レオン。流石オレが見込んだだけの事はあるぜ」
ポケモンのいなくなったボールを捨て、自分を負かした少年に横柄に話しかける。
「どうだ、もう一度オレと手を組んでやり直さねえか? オレ達二人とそのスナッチマシンさえあれば、全ては思いのままだ」
「なっ、何言ってんのよっ。レオンがそんな話に乗るわけないでしょっ」
「すっこんでなっ。オレはこいつと話をしてるんだっ」
憤然と声を上げた少女を恫喝して黙らせ、ヘルゴンザは尚も少年を誘った。
「な? 悪い話じゃないだろ。そうすりゃ、
「…——あのアジトも、こいつも、元はと言えば俺の物だ」
黙然とヘルゴンザの話を聞いていたレオンは、体に装着したスナッチマシンを示して静かに言い放つ。
「自分の物をどう扱おうと、俺の勝手だ」
「なんだとォっ!?」
レオンの耳を疑うような言葉に、ヘルゴンザが目を剥く。
それはルナも同じだった。前もそんな事を言っていたが、スナッチマシンだけでなくスナッチ団の物全てが彼の物だなんて、どういう事なのかさっぱり
「てめぇ、なに寝言ほざいていやがるっ。アジトもマシンも、全部オレ様のモンだっ」
「シャドーが数ある窃盗団の中で、殆ど無名に過ぎなかったあんた達に、何故あのスナッチマシンをやったのか」
いきり立って
「それは、別にあんた達の腕を見込んだからじゃない。頼んだ仕事を上手くやってくれた事に対する報酬だからだ。
——八年前、あんた達はシャドーに依頼され、あるブリーダー夫婦の友人を
「ああ、それがどうした」
「レオン、それってもしかして——…」
何処かで聞いたことのある話に、ルナはゴクリと唾を飲み込み、悪びれもせずにふんぞり返っているスナッチ団のボスからレオンに視線を向けた。
それにレオンは小さく頷く。
「ああ、そのブリーダー夫婦っていうのが、俺の両親だ」
「なっ……!?」
これには流石のヘルゴンザも唖然となった。
そう言えば、自分達がポケモン共々全財産を騙し取った若いブリーダー夫婦には確かに息子がいた。
友人に裏切られたと気付かず、肩代わりさせられた借金を返済できなかったその夫婦を家から追い出した時、何が何だか分からず、ポケモンを連れて行こうとする部下に「連れて行かないで」と泣いて取り
たった一度チラッと見ただけだが、いかにも軟弱そうなツラをした世間知らずの甘ったれたガキだった。
それが、まさかこんなに捻くれまくったふてぶてしい奴になって、再び自分の目の前に現れるとは。
あの時のガキと目の前の小僧が同一人物だとは
「驚いただろ? 俺も驚いたさ」
レオンは自嘲気味に皮肉な笑みを口許に閃かせる。
「知らなかったとはいえ、生きる為に、まさか親父達を
あの時、女性巡査と別れて霊園を後にしたレオンは、サイドカーを駆って真っ直ぐにあのエクロ峡谷にあるスナッチ団アジトに向かった。
もうあの街に固執する理由がなくなった以上、奴等に手を貸す意味もない。きっぱりと手を切るつもりだった。
何時もはスナッチしたポケモンを金と交換した後、アジトには寄らずにすぐ帰るレオンだったが、後腐れなく縁を切る為にはヘルゴンザに直接話を付ける必要がある。
ここの出入りは自由だとボスにお墨付きをもらっていたレオンは、アジトに着くと初めてそのまま奥に入って行った。
そこで酒に酔ったミサンゴが団に入ったばかりの三下に、この団がどうやってあんな凄いスナッチマシンを手に入れ、ここまで大きくなったのかを得意げに話していたのを聞いたのだ。
あるブリーダーの持っている
そしてここまで大きくなったのは、自分のスナッチの腕のお陰だと自慢していた。
それを聞いたレオンがどれほど驚いた事か。すぐに奴等を全員叩きのめしてやりたかった。
だが、ミサンゴは依頼されたと言っていたのだ。こいつらだけでなくその依頼した奴にも思い知らせてやらなければ意味がない。
湧き上る憎悪を押し殺し、レオンはその依頼主の事を訊いたが、ミサンゴも団の連中も誰一人知らなかった。依頼を受けて来たヘルゴンザも「あの方」としか教えてくれなかった。
ただボスの口振りからして、今でもかなり関係が深そうだと感じたくらいだ。
それでレオンは縁を切るのを一旦止め、その依頼主が何処の誰なのか探る事にしたのである。
とはいえ、その為には怪しまれない様に、今まで通りスナッチの依頼を受けなければならない。自分が必要以上のスナッチを引き受けない事は既に周知の事実だが、それでも全く受けないわけにはいかないだろう。
そこでレオンはスナッチする代わりに丁度完成間近になっていた、小型スナッチマシンの開発に手を貸す事にしたのだ。
五年程前、ヘルゴンザはボールさえあれば、何処でもお手軽にスナッチボールに造り変えられる小型スナッチマシンが出来ないかと考えた。
シャドーから貰った大型マシンでは、一度に大量のスナッチボールを造れるが、持っていったボールが無くなる度に、アジトにスナッチボールを造りに戻らなくてはならず、面倒だったのだ。
それを解決する為にヘルゴンザは、シャドーの研究室からこの大型スナッチマシンを開発した技術者を高額で引き抜き、新たに持ち運びができるスナッチマシンを開発させる事にした。
そして試行錯誤の末、漸くスナッチマシンの小型化に成功したその技術者は、更に使いやすくする為にそれを体に装着するような形に改良しようと、その
そうやって小型スナッチマシンの改良に協力したレオンは、依頼主の正体はまだはっきりとは掴めなかったものの、それが完成したのを機に全てを終わらせる為に事を起こしたのである。
「な~るほど、全部オレ達に復讐する為だったってわけかい」
「復讐?」
皮肉げに言うヘルゴンザを、レオンは
「今更そんな事をしたところで、親父達は生き還ってこない。俺はただ、返してもらっただけだ。あんた達が俺から奪ったものを」
団が手に入れた大型スナッチマシンも、それによって稼いだ金をつぎ込んで作ったアジトやこの小型化したスナッチマシンも、みんな元を正せば自分達家族から奪ったものによって手に入れたのだ。
だから返してもらう。失われてしまったものは、もうどうやっても取り戻せないから、その代わりとなるものを一つ残らず。
それで当然の権利として、小型スナッチマシンの完成祝いの宴でヘルゴンザ達が油断している隙に、自分には必要ない大型スナッチマシン共々アジトを爆破した。
そして、奪った小型スナッチマシンを使って、正体不明だった依頼主の自慢のダークポケモンをスナッチしていたのも理由は同じだ。両親のイーブイを欲しがったシャドーこそが全ての元凶なのだから。
レオンにとって、自分達の幸せを踏みにじり、その上に築き上げられた全てのものがその対象だった。
奪われたのだから奪い返す。ただそれだけの事だ。
「ふんっ、それならあいつはどうなんだ。おまえの親父を裏切ったあいつは」
自分の口車に簡単に乗って、あっさりと親友を自分達に売った。
「あいつなら、真っ先に捜し出して会いに行ったよ」
嘲りを込めてレオンが吐き捨てる。
「俺と気付いた途端、幽霊でも見たような
レオンの両親が旅先で死んだと聞いたその男は、イーブイを全て取り上げられ、もうブリーダーとしてやっていけなくて心中でもしたのだろうと思っていたらしい。当然その息子も一緒に。だからレオンの出現に心底驚いたのだ。
「あんたは、あいつも騙していたらしいな」
ヘルゴンザから貰える筈の報酬も貰えず、レオンの父親を嵌めた事を同じブリーダー仲間に暴露されたその男は全ての信用を失い、レオンが手を下す必要もない程にすっかり落ちぶれていた。
妻子には愛想を尽かされ、独り日雇い労働で僅かな
「あんたへの恨み言を嫌という程聞かされたよ」
「ああ、そうかい。そりゃ悪かったな」
鼻を鳴らし、ヘルゴンザは嫌味たっぷりにアッシュブロンドの少年に言葉を返す。
「まっ、どうせおまえは、もう後戻りはできやしねぇんだ。何時までそんな寝言が通用するかどうか、上に行ったら精々足掻いてみせるんだな」
と、ふんぞり返って二人の脇を通り、下に行くエレベーターに向う。
その後ろ姿を、レオンは睨み付けるように黙然と見送った。