未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―ラルガタワーコロシアム―(5)

 大観衆が見守る中、ジャキラの手より宙に放たれた二個のモンスターボールから(まばゆ)い光が(ほとばし)る。

 そして光が消えた後、バトルフィールドに現れたのは腹に炎袋を持ち温かな暖色の羽毛をした炎タイプのアチャモの最終進化形であるバシャーモと、それより体長が幾分低く顔の中央にある大きな赤い目玉以外は、全身包帯に覆われているゴーストタイプのサマヨールだ。

 前者は進化した事で体長が二メートル近くにもなり、羽根が鋭い鉤爪を持つ長い腕に変化し、すらりと伸びた強靭な足と共に格闘技を使うに適した人型体形になった事で、格闘タイプを併せ持つようになった。

 そして後者はどんな厚い壁でも通り抜けるヨマワルの進化した姿で、中身は空洞で何もなく、体の中に吸い込まれると二度と戻って来られないと()われている。

 それらを見据えてベルトに手を回したレオンは、チラリと自分の斜め後ろに視線を向けた。

 そこにはプラスルとピカチュウと共に自分を見守るルナの姿があった。

 シャドーのボスを前にして、表情(かお)を強張らせてはいるが怯えてはいなかった。レオンを信じているのだ。

 かつてレオンは、ストリートで同じような眼差(まなざ)しを仲間から向けられて挑んだバトルに負け、見捨てられた。保身に走った仲間に。

 だが、ルナは喩えここでレオンが負けたとしても、決して彼を見捨てる事はないだろう。むしろ自分のことなど顧みずレオンを護ろうとするに違いない。

 それが(わか)るからこそ、今度は何があっても絶対に負けられない。

 そう、ルナが自分に寄せる揺るぎない信頼(おもい)に応える為にも——

 ——俺は、必ず勝つっ!

 決意を宿した琥珀色の双眸でジャキラのポケモンを鋭く見据え、レオンは二個のモンスターボールを選び取って放り投げた。

 空中でパカリとボールが割れ、(ほとばし)る光と共にバトルフィールドに二匹のポケモンが姿を現わす。

 一匹は「先制のツメ」をこよなく愛する何処かすっとぼけた表情(かお)をした地面と水タイプを兼ね備えたヌオーで、相も変わらず出て来た途端舌を出し、お気に入りのアイテムを様々な角度から眺めては頬を染めている。

 そしてもう一匹はふよふよと自由気ままに宙を漂い、好奇心旺盛で悪戯好きのゴーストタイプのムウマである。今もこの相棒の宝物にちょっかいを出すと後が怖いので、別の悪戯できそうなモノを探してキョロキョロと辺りを見回していた。

 頼もしいというか、二匹ともシャドーのボス相手に、いつも通りのマイペースぶりである。

「伝説のポケモンではないとは、随分と舐められたものだな……」

 不機嫌そうにジャキラが呟く。

 だが、別にレオンは舐めているわけではなかった。確かに伝説のポケモンは個々の力は申し分なく強い。

 ただシャドーのボス相手となると今までの相手とは違い、力で押し通すという事は出来ないだろう。どんなタイプのポケモンが出てきても対応できるように、多様な技が使えるようにしておきたいとレオンは考えたのだ。

 となると、伝説のポケモンを入れた場合、代わりにどれを外すかとなると悩ましく、結局最後のダークポケモンをスナッチして勝つには、使い慣れたポケモン達が最良だと判断したに過ぎない。

「まあ、いい。どんなポケモンを出してこようと、結果は変わらぬのだからな」

 そう言いながら、ジャキラは自分達の事など気にもせず、舌の上に乗るお気に入りのアイテムに魅入っている青い体躯のポケモンに鋭い視線を向ける。

 上がって来た幹部達からの報告によれば、この愚鈍そうに見えるポケモンの行動は、予測不能で何をしでかすか分からないと、特に危険視されていた。

 ならばさっさと退場してもらうに限る。

「サマヨール、ヌオーに『あやしい光』」

 尊大に命じながら、ジャキラは相手のどちらにも効果のある技を持たないバシャーモを引っ込める。

「ヌオー、『地震』 ムウマはサマヨールに『シャドーボール』だ」

 すかさずレオンも指示を飛ばすが、ヌオーが『地震』を出す前にバシャーモをボールに戻され、折角炎タイプに効果抜群の技も出し損である。

 その上代わりに出て来たエスパータイプのネイティオは、飛行タイプでもあるので全く効果はなく、結局この全体技でダメージを受けたのはサマヨールだけだった。

 体勢を崩しサマヨールがよろけた処へ、ムウマが闇に染まった漆黒の球を投げ付ける。

 見事に当たったものの、効果抜群であっても呻き声一つ上げず、サマヨールは一つしかない目玉をヌオーに向けた。

 技を出し終わり、ベロンと舌を出したヌオーを捉えた一つ目が、異様な光を帯びて怪しく輝く。

 それを真正面から見てしまったヌオーは思いっ切り混乱した。

 目の焦点が合わず、ゆらゆら揺れる体に合わせ舌の上のお宝が、落ちそうで落ちない絶妙なバランスが怖い。

 もし落として何処かにやってしまったら……

 その後の事を考えると、とてもじゃないがこのままヌオーを出してはおけない。

「ムウマ、サマヨールに『シャドーボール』だっ」

 そう言い放ち、レオンはヌオーのボールを手に取った。

「ネイティオ、ヌオーに『ギガドレイン』 サマヨールは『道連れ』だ」

 ジャキラも同時に命を飛ばす。

 ——『ギガドレイン』だとっ!?

 草タイプでもないネイティオがそんな技を持っているのにも驚いたが、それよりもそんな効果絶大な技など浴びたら、幾らヌオーでもただでは済まない。「先制のツメ」を落とすよりもマズい。

 驚き焦り、レオンはヌオーにボールを向けた。

 鳥型から人に近くなった体の前に、進化前には未発達だった翼が大きく成長して手の様に体の前に添えて立つネイティオは、『ギガオレイン』を放つべく、バッサバッサと手旗信号の様に両羽根を動かす。

 そして、進化しても変わらない無表情な顔の中で未来と過去を見ていると()われ、今現在は何も映していないように(うつ)ろに正面を見据えた瞳を、フラフラと体を揺らすヌオーに向けた。

 双眸から相手の体力を奪う光が放たれる。

 その寸前、レオンはヌオーをボールに戻していた。

 間一髪である。

 『あやしい光』を浴びた時点でボールを手に取ってなければ危なかった。

 ネイティオの放った光は一瞬前までヌオーがいた空間を貫き、何も奪えずに虚空へと消える。

 そこへレオンは代わりに、ふんわりとした綿毛の様な翼を持つドラゴンと飛行タイプを併せ持つチルタリスを呼び出した。

 一方ムウマは頭上に生み出した漆黒の塊を、ふわりと浮いた体をくるりと一回転させ、ゆっくりと動き出したサマヨールに勢いよくぶち当てる。

 技を出そうとしていたサマヨールはそれをモロに喰らい、今度は苦悶するように体を震わせ、地の底から響く様な呻き声を上げると、全身を覆う包帯が支えを失ったように一塊になって地に落ちた。

 それを見たスタンドからどよめきの声が上がる。

 両者一歩も引かずに繰り広げる攻防の中で、最初に倒れたポケモンがジャキラの方だった事に観客は驚いたのだ。

「………」

 不快げにチラリとざわつくスタンドの方に視線を走らせ、ジャキラは忌々しげに相手のポケモン達を見返す。

 意表を()けたもののヌオーを始末できず、サマヨールにしても動きが遅い分相手の技を受けて攻撃を仕掛ける前提で防御力を高くしてあるのに、ムウマの効果抜群技の前では全く役に立たなかった。

 ——リライブした後、相当鍛え上げたようだな……

 一匹も道連れに出来ずに倒れたサマヨールの代わりに、ジャキラは次のポケモンを出した。

 水と氷タイプを兼ね備えたタマザラシの最終進化形であるトドゼルガである。

 進化した事で肉厚の真ん丸だった海獣体型の体が一・四メートル程まで縦長に逞しく成長し、頭から頬に掛けて生える白い立派な毛がトドゼルガに貫録を与えている。

 口から大きくはみ出た鋭い二本の牙は、十トンもある氷山を一撃で粉砕する威力があった。

「トドゼルガ、チルタリスに『冷凍ビーム』 ネイティオ、ムウマに『あやしい光』」

「チルタリス、トドゼルガに『火炎放射』 ムウマは『十万ボルト』だ」

 両者ともポケモンが二匹揃った処で、再び同時に指示が飛び交う。

 レオンは『あやしい光』でこちらを混乱に陥れるネイティオよりも、チルタリスに効果絶大技を持つトドゼルガを倒す事を優先した。

 さっきの攻防で、ジャキラが混乱させてから仕留める作戦だと気付いた以上、それを防ぐ『神秘の守り』を持つチルタリスをやられる訳にはいかない。

 ムウマが体をくるりと一回転させ、頭上に生み出したプラズマの塊をトドゼルガに弾き飛ばす。

 体に厚い脂肪を持っているトドゼルガは、炎と氷タイプ技には強い耐性を持っているが、電気にはその限りではない。

 全身にそれを浴び、トドゼルガは体を硬直させてそれに堪える。

 その横でネイティオは(うつ)ろな瞳を怪しく輝かせ、技を放った直後のムウマを混乱に陥れる。

 次いでチルタリスが白い綿毛のような翼を大きく広げ、口を開けて電撃を浴びて体力を消耗したトドゼルガに紅蓮の炎を放射する。

 気力を振り絞り、それに応戦するようにトドゼルガが鋭い牙のはみ出た口を大きく開け、肺に溜め込んだ凍える冷気を帯びた息をチルタリスに向かって一気に吐き出す。

 バトルフィールドの中央で、灼熱の炎と極寒の息吹が真っ向から激突する。

 凍える息吹に混じる無数の氷の粒が高温の炎に炙られ、一瞬にして蒸発する。

 その半分以上が蒸発し切れず、水蒸気となって四方八方に四散した。

 熱気と共に水蒸気がもうもうと湧き上り、辺り一面を白一色に塗り潰していく。

 観客達が慌てて巨大スクリーンを見上げるが、真っ白な画面には何も映っていない。

「トドゼルガ、チルタリスに『冷凍ビーム』 ネイティオ、ムウマに『サイコキネシス』」

「ムウマ、サイコキネシスを躱してトドゼルガに『十万ボルト』 チルタリスは『火炎放射』だ」

 何も見えない中、コロシアム内にトレーナーの指示を出す声が響き渡る。

 突如白濁したバトルフィールに眩い閃光が走り、()えるような絶叫とバサバサという羽音、そして絹を裂く様な叫び声が大気を震わす。

 一体、あの白い霧の中で何が起こっているのか。

 スタンドの観衆は身を乗り出し、又はスタンド上の画面が真っ白に塗り潰された巨大スクリーンを見上げ、バトルの行方を見極めようと必死になって目を凝らす。

 そして、白い霧が紅く染まる。

 更なる高熱に(さら)され、バトルフィールドを覆っていた霧が晴れて行く。

 そこには、頭から頬に掛けて生える白い毛をチリチリにさせたトドゼルガが大きく口を開け、天を仰ぎ見るような姿勢で白目を剥いていた。

 その横に、全身を煤けさせながら底知れぬ不気味さを漂わせてネイティオが静かに佇む。

 そして、白い綿毛のような翼を畳み、心配そうにチルタリスが窺い見る自分の背に、もはや浮き上がることも出来なくなってぐってりしているムウマがいた。

 あの白濁した大気の中、ムウマは混乱しながらも見事にトドゼルガに『十万ボルト』を決めて倒したものの、ネイティオの放った『サイコキネシス』は躱せなかったのだ。

 チルタリスはムウマの攻撃で上げたトドゼルガの絶叫が絶えた後、それを阻止しようとすぐさま『火炎放射』の標的をネイティオに変更したのだが、間に合わなかったのである。

 トドゼルガとムウマが倒れ、霧の中のバトルでは両者痛み分けといったところか。

「ムウマ、よくやった。もう休んでていいぞ」

 レオンの(ねぎら)いに、ムウマは弱々しく微笑んでバラリと赤い首飾りの珠を散らして姿を消す。

 ジャキラが倒れたトドゼルガの代わりに再びバシャーモを出すのを見て、レオンは長年の相棒の片割れを出した。

「エーフィにネイティオは『あやしい光』 バシャーモは『ブレイズキック』」

「チルタリス、『神秘の守り』 エーフィはバシャーモに『サイコキネシス』だ」

 仕切り直しで両者同時に指示が飛ぶ。

 それに最初に応えたのは抜群の素早さを誇るエーフィだった。

 フルリと首を大きく振り、額の紅玉に込めたサイコパワーを一気にバシャーモに叩き付ける。

 技を出そうとした瞬間を狙われたバシャーモは咄嗟に避ける事が出来ず、それに急所を貫かれた。

 苦しみ悶えるように鋭いカギ爪で胸を掻きむしり、バシャーモはそのままバトルフィールドに前のめりに倒れ込む。

「なにっ!?」

 思わずジャキラが目を()く。

 確かに報告にもエーフィの『サイコキネシス』の威力は脅威だと書かれていたが、まさか一撃でバシャーモがやられてしまうとは思わなかった。

 だが、元々強力な上今までのバトルで更に鍛え上げられ、アイテムの「曲がったスプーン」で底上げされたエーフィのサイコパワーである。効果抜群の相手にそれが堪えられるわけがない。

 スタンドの方も、あまりの事に皆息を呑んで唖然としている。

 そこへ、相棒が倒れてもまるで動揺する事も無く、不気味なほど静かに佇むネイティオの虚ろな瞳が怪しく輝き、鮮烈な光を放つ。

 それに目が(くら)み、エーフィは何がなんだか分からなくなってしまった。

 慌ててチルタリスが『神秘の守り』を放つが、後の祭りである。

 ジャキラが倒れたバシャーモを引っ込め、次のポケモンを出す。

 体長は一・六メートル程のほっそりとした体に、胸の下辺りに赤いアクセントを付けた白と緑を基調としたドレスを纏っている。

 (みどり)の前髪で片目を隠し、一見人間の女性のように見えるが、エスパータイプのラルトスの最終進化形のサーナイトである。

 それを見てレオンも混乱したエーフィを引っ込めてもう一方の相棒を繰り出した。

 ジャキラの表情(かお)が苦々しいものになる。

 レオンが出したのが、エスパータイプが最も苦手とする悪タイプのブラッキーだからだ。悪タイプにはエスパー技が全く効かない。

「ネイティオ、サーナイト、チルタリスに『サイコキネシス』」

 舌打ちし、ジャキラは先に邪魔な『神秘の守り』を持つチルタリスを倒すべく命を下す。

「ネイティオにブラッキーは『かみつく』 チルタリスは『冷凍ビーム』だ」

 レオンもネイティオに攻撃を集中させる。

 『ギガドレイン』持ちのネイティオがいる限り、主力の一角であるヌオーを出す事が出来ないからだ。

 不動の姿勢でいたネイティオが、バサっバサっと体の前に添えていた両羽根を高々と掲げ、今だけ現在を見据えた両の瞳に宿るサイコパワーを一気にチルタリスに叩き付ける。

 両の翼を大きく広げて構えていたチルタリスはそれを浴びて仰け反った。

 苦しげな表情を見せながらも、大きく開いた口から凍える冷気を纏った息吹をネイティオ目掛け放出する。

 効果抜群の攻撃に、初めてネイティオの表情に変化が現れた。

 顔を歪め、グラリと体を傾ける。

 それを横目に捉えながら、傍らに立つサーナイトがチルタリスに再度『サイコキネシス』を放つ。

 強力なサイコパワーを浴びせられ、流石にチルタリスもこれが限界だった。

 大きく両翼を広げて長い首を仰け反らせ、哀しそうにレオンを見やると、チルタリスは全身から力が抜けてその場に倒れ伏す。

 同時にブラッキーが、体を傾けさせたネイティオに思いっ切り噛み付く。

 僅かに残っていた体力も底を尽き、ネイティオはそのままコロリと地に転がった。

「チルタリス、後は任せてゆっくり休め」

 声を掛けてボールにチルタリスを戻し、レオンは次のポケモンを出す。

 厄介な奴が倒れて漸く出せたヌオーである。

 ボールに戻った処で混乱が解けたヌオーは、呑気に舌の上で「先制のツメ」を転がした。

 一方自分の予想外の展開に苛立ちを隠せないジャキラも、倒れたネイティオをボールに戻し、最後のポケモンを呼び出した。

 体長は一・六メートル程だが、幅広の青黒い鋼鉄の体の中では、血液の代わりに強力な磁力が巡っていると言われている。鋼とエスパータイプを併せ持ったダンバルの最終進化形であるメタグロスだ。

 体は四匹のダンバルが合体してできており、円盤状の体からは鋭い爪を持った四本の腕が重い巨体を支え、体の中央には両眼の間をクロスするように、銀色に輝く板がついていた。その重力級の巨体から繰り出される物理攻撃は断トツの破壊力を持っている。

 ——メタグロス……

 ハッと息を呑み、レオンはルナに視線を走らせた。

 緊張した面持(おもも)ちで、ルナが頷いてそれに応える。

 レオンは握り締めた拳にぐっと力を込め、メタリックに青黒く輝く鋼の巨体を持つポケモンを睨み据えた。

 最後にして最強のダークポケモンを。

 




 前座と違って、ボス戦ともなるとなかなか簡単に決着はつきません。
 前座のバトル以上に長くなってしまって、一度に全部上げるのはちょっと無理っぽいので、今回切りのいい所で一先ず上げさせてもらいました。
 続きもなるべく早く上げたいと思います。
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