未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―ラルガタワーコロシアム―(6)

 レオン達の表情が強張(こわば)るのを見たジャキラは、先程までの苛立ちが嘘のように気を良くした。

「ふむ、おまえ達にはもう判っているようだな。このメタグロスがダークポケモンである事を」

「………」

「こいつは、おまえがこれまでスナッチしてきたダークポケモンどもとは訳が違う。全ての能力値を最大限に上げてからダークポケモンにした、いわばダークポケモンの完成版だ」

 得意げに滔々とジャキラは言葉を連ねる。

「おまえは今まで幹部を含め数々の組織の戦闘員を倒し、ダークポケモンをスナッチしてきた。その腕、どれ程のものか試させてもらったが、成程小僧の割にはそこそこ使えるようだな」

「………」

「だが、多少使えるといっても、所詮は井の中の蛙。自分より弱いヤツを甚振(いたぶ)っていい気になっていたにすぎん。その程度の腕で、このダーク・メタグロスをスナッチできるとは思わぬことだ」

「そんな事は——っ」

 今までずっとすぐ傍でレオンの戦いを見てきたルナは、ジャキラの言い分に納得できずに思わず声を上げたが、ジロリと血のような赤い瞳を向けられて息を呑む。

 レオンがルナを庇うように、シャドーのボスの威圧的な視線の前に出た。

 目を逸らさず、昂然と自分を見返すアッシュブロンドの少年に、ジャキラはつまらなそうに鼻を鳴らす。

「——今まではおまえに華をもたせてやったが、それもここまでだ」

 まるでずっと手加減してやっていたかのように、余裕の笑みさえ浮かべる。

 その言葉にスタンドから歓喜の声が上がった。

 流石シャドーのボス。場を盛り上げる為に、今までやられている様に見せていただけなのかと。

「さて、そろそろ本気を出させてもらおうか」

 と、ジャキラは懐から取り出した薬の小瓶を生意気な小僧に見せる。

 それはポケモンの栄養ドリンクの一種である「スペシャルアップ」だった。ポケモンに飲ませると『サイコキネシス』などの特殊攻撃の威力が上がる効果がある。

 それをジャキラはサーナイトとメタグロスに与える。

 ただでさえ特殊攻撃に特化したサーナイトと、物理攻撃程ではないにしろ同じように高いメタグロスだ。そんな物を与えた二匹の技の威力は更に凄まじいものになるだろう。

 サッとレオンの顔に緊張が走る。

 スタンドの方からは、おおっと一際大きな感嘆の声が上がった。

 その声に増々気を良くしたジャキラは、手を挙げて観衆達に応えようとして、ふとスタンドの彼等の顔の向きが気になった。

 気の所為か、微妙に自分の方を見ていない。

 その観客席の後ろにある巨大スクリーンの一つに、自分ではなくずんぐりとしたポケモンの姿が大映しになっていた。

 ヌオーである。

 眉を(ひそ)め、バトルフィールドに視線を戻すと、こめかみを押さえて嘆息するレオンの斜め前で口をすぼめ、ふっとお気に入りのアイテムである「先制のツメ」を頭上に向けて吹き出すヌオーがいた。

 そして落ちてくるそれを、口から噴水の様に水を噴き出して綺麗に受け止め、満足そうにニマリと笑う。

 出て来たものの、ジャキラの長話にバトルが中断してほっとかれたヌオーは、暇潰しに下で見たウソッキーの噴水を見て思い付いた遊びをやり出したのだ。宙に飛ばしたお宝を、口から水を噴き上げて受け止めるという(あそび)を。

 ジャキラの話を聞きながら、スタンドのゴロツキ達は何かやり出したヌオーを見るともなしに見ていたのだ。

 それがたまたま巨大スクリーンに大映しになり、それを目にした彼等は口から噴き出した水の上にお宝を乗せようとして何度も失敗するヌオーの姿を、ついハラハラドキドキして見入ってしまっていたのである。

 そして、さっきやっと成功させたその大道芸人張りの(げい)に、思わず歓声を上げたというわけだ。

 別にジャキラの話に感動して上げたわけではなかった。

「………」

 折角ボスとしての威厳を示した最高の見せ場をすっとぼけたポケモンに掻っ攫われ、ジャキラは握った拳をブルブル震わせ、射殺さんばかりにヌオーを()め付けた。

 ——即刻叩き潰すっ。

「サーナイト、メタグロス。ヌオーに『サイコキネシス』!」

 傲然とジャキラが二匹に命じる。

 すかさずレオンも指示を飛ばす。

「メタグロスにヌオーは『あくび』 ブラッキーは『かみつく』」

 サーナイトが優雅な仕種(しぐさ)で高めたサイコパワーを、ヌオー目掛けて解き放つ。

 ずんぐりとしたヌオーの体が、コロシアムの壁際まで吹っ飛んだ。

 口にしまい込んでいたお宝が、その衝撃に口から飛び出す程の凄まじい威力である。

 よろよろとよろけながらも大切なお気に入りのアイテムを舌で拾い上げ、のたのたとバトルフィールドに戻って来たヌオーが大きく口を開けて欠伸をする。

 釣られたようにメタグロスも欠伸をするが、全身に磁力と共にサイコパワーを漲らせていく。

 そこへブラッキーが勢いよく噛み付き、その痛みにメタグロスは折角溜めたサイコパワーを散らしてしまった。

「おまえら、ヌオーにもう一度『サイコキネシス』だ!」

 仕留め損ね、ジャキラは苛立って鋭く命を下す。

「ブラッキー、サーナイトに『かみつく』 ヌオーは『なみのり(・・・・)』だ」

 そうはさせまいと指示を飛ばしたレオンは、円らな瞳を怒らせるヌオーに厳命する。

 そうしないとヌオーは『地震』をぶちかましかねない。

 むすっとしながらもヌオーが大きく伸び上がり、特大の高波をさっきのお返しとばかりメタグロスを巻き込んでサーナイトに叩き付ける。

 ザブリと高波を全身に浴び、ジャキラのポケモン二匹はずぶ濡れになった。

 全身から水を滴らせながらも、サーナイトが素早くサイコパワーを高め、再びヌオーにおみまいする。

 決して軽くはないヌオーの体がまたもや吹っ飛び、今度は勢いよくコロシアムの壁に激突した。

 その衝撃で、上で見ていたゴロツキ達がスタンドから危うく転げ落ちそうになる。

 手酷くやり返して微笑むサーナイトに、横手からブラッキーが襲い掛かる。

 声にならない悲鳴を上げ、効果抜群の技を急所に受けたサーナイトはその場に(くずお)れた。

 ヌオーが背中に走る激痛を(こら)え、壁に()り込んだ体を引き抜こうとする。

 そこへ今度はメタグロスの一撃が、大気を裂いてヌオーの胴体を押し潰す。

 サイコパワーの圧力に、肺に溜まった空気どころか、大切なお気に入りのアイテムまで吐き出してしまう。

 壁に減り込んだ体を引き抜く事が出来ず、ヌオーは最後の力を振り絞って落とした「先制のツメ」に舌を伸ばすが、届かずに悲痛な表情(かお)をして力尽きる。

「ヌオーっ!?」

 薬で技の威力を増したとはいえ、お気に入りのアイテムに関しては異常なまでの執着を見せるヌオーが、それを手放したまま力尽きるとは。

 ヌオーの執念をも上回るジャキラのポケモン達のサイコパワーを目の当たりにして、レオンもルナも呆然となった。

 だが、その直後メタグロスが寝てしまう。

 呆けている場合じゃない。

 レオンは左肩のスナッチマシンを起動させ、スナッチボールに造り変えたボールを眠るメタグロスに投げ付けた。

 同時に力尽きたヌオーをボールに戻し、ルナが地面に落ちた「先制のツメ」を拾う。

 メタグロスを取り込んだスナッチボールは、カタカタと音を立て(せわ)しなく揺れ、一向に止まる気配がない。

 レオンはヌオーの代わりにワタッコを出しながら、もう一度スナッチボールを造り出す。

 そして、再びボールから閃光が(ほとばし)る。

 メタグロスが出てくるや否や、レオンは用意しておいた次のスナッチボールを投げた。

 だが、今度はカタリとも揺れずにすぐ出てきてしまう。

 閉じていたメタグロスの瞳が赤く輝く。

「ブラッキーに『ダークラッシュ』」

 尊大にジャキラが目覚めたメタグロスに命じる。

 メタグロスが磁力の力でふわりと浮き上がり、鋭い爪を持った腕を体の前後に畳み込んで猛然とブラッキーに突っ込んで来る。

「ブラッキー、躱せっ。ワタッコ、『眠り粉』だっ!」

 レオンの指示にブラッキーが跳び退(すさ)る。

 とはいえ標的がいなくなっても、勢いの付いたメタグロスは止まれない。

 そのままブラッキーの脇を物凄い勢いですり抜けていく。後ろのトレーナーの立ち位置にいるレオンに向かって。

 それを見たワタッコが、慌ててレオンの頭から跳び下りる。

 メタグロスがレオンに激突する直前、透明な障壁が行く手を阻んだ。

 ルナのプラスルの『手助け』を受けたピカチュウの『守る』である。

 それに弾かれ、メタグロスの巨体が地面に激突する。

 メタグロスの攻撃を躱したブラッキーを巻き込んで。

 重量級の巨体に押し潰され、ブラッキーは悲鳴を上げた。

「ブラッキーっ!?」

 レオンとルナは大きく目を見開いた。

 障壁に阻まれたメタグロスが、まさか偶然ブラッキーのいる方に弾かれるとは。

 驚く二人に、ニヤリとジャキラが(わら)う。

 それを見てレオンはギリっと奥歯を噛み締めた。

 今のは偶然なんかじゃない。レオンを狙えばピカチュウ達が『守る』を使って、攻撃から彼を護る事は今までのバトルを見ていれば判る。

 それはつまり、『守る』の障壁で技の威力が()がれなければ、それを逆手に取る事もできるのだ。

 ジャキラはそれらを全て計算に入れ、メタグロスに指示を出したのだ。どうやってもブラッキーに攻撃が当たるように。

「ゴ、ゴメン。レオン、あたし——」

「気にするな。ブラッキー、大丈夫か?」

 おろおろと謝罪するルナに言葉を返し、レオンはまた自分の頭に跳び乗ったワタッコによって、再び眠らされたメタグロスの下から何とか抜け出たブラッキーに声を掛ける。

 がくがくと膝を震えさせながらもブラッキーはそれに応える。

「よし、ブラッキー、辛いだろうがもう一息だ」

 相棒を(いたわ)り、昂然とレオンは指示を飛ばす。

「ブラッキー、『かみつく』 ワタッコは『ギガオレイン』」

 スナッチしやすいように、もう少し体力を削る。

 それぞれの技を受ける度、メタグロスはグラリと体を揺らし、その反動で目を覚ます。

「メタグロス、ブラッキーに『ダークラッシュ』」

 すぐさまジャキラが傲然と命じる。

「避けろ、ブラッキーっ」

 だが、傷付き立っているのもやっとのブラッキーに、先程の様な機敏な動きは出来なかった。

 体を巡る磁力の力でふわりと浮き上がったメタグロスは、宙を滑るように加速して一気に動きの鈍ったブラッキーに肉薄し、その黒いしなやかな体を弾き飛ばす。

 そしてそのままの勢いで、更にその先に立つ頭からワタッコを逃がしたレオンに迫る。

 さっきの事が脳裡を過ぎり、ルナは一瞬ピカチュウ達に『守る』の指示を出すのを躊躇(ためら)った。けれど、出さなければレオンがやられてしまう。

 もう迷ってる暇はない。

「プラスルっ、ピカチュウっ!」

 慌ててルナが叫ぶ。

 だが、遅かった。

 ピカチュウ達が技を出す前に、猛然と突っ込んで来たメタグロスのメタリックブルーの鋼の体が、レオンのそれと交差する。

 その瞬間、衝撃で土埃が盛大に舞い上がった。

 それに呑み込まれ、レオンの姿が見えなくなる。

 そして、暫くしてそれが収まったトレーナーの立ち位置には、地面に伏して倒れた少年の姿があった。

「レオンっ!?」

 絶対護ってみせるって言ったのに、自分が技を出すのを躊躇(ためら)ったから……

 顔に絶望の色を浮かべ、よろりとルナはよろけるようにレオンの許に足を向けた。

 ——と、

 むっくりとレオンが起き上がった。

 何事も無かったように平然と立ち上がり、口に入った土埃を唾と共に吐き捨てる。

「レ、レオン……!?」

 どうして……?

 思わず足を止め、呆然とルナはその場に立ち尽くした。

 それは、ついにやったと喜び勇んだスタンドの観衆も同様だった。

 あのメタグロスに体当たりされて無事で済む筈がないのに、レオンは何処にも怪我をしたようには見えなかったのだ。

 実はあの時ルナの性格からして、さっきの二の舞を恐れた彼女が『守る』を使うか半信半疑だったレオンは、それを当てにしないでメタグロスが体当たりして来る刹那、地に身を投げ出していたのである。

 メタグロスは技を出す時、その重い体を磁力によって浮かせて移動する。その浮き上がった体と地面との僅かな隙間に自ら飛び込む事で、メタグロスの攻撃をやり過ごしたのだ。

 ——まさか、あんな()であの攻撃を躱すとはな……

 レオンが無傷と知って、ジャキラは憎々しげに舌打ちした。

 だが、厄介な悪タイプは始末した。

「ブラッキーっ」

 全身を強く地に叩き付け、もはや満身創痍のブラッキーは、レオンの呼び掛けに弱々しく声を上げたが、それが精一杯のようだった。

「無理をするな。ゆっくり休め」

 それでも起き上がろうともがくブラッキーに優しく声を掛け、ボールに戻す。

 そして最後のポケモン——もう一方の長年の相棒であるエーフィを出す。

「ワタッコ、『眠り粉』 眠ったところでエーフィは『恩返し』だ」

「メタグロス、『鉄壁』」

 両者の指示に、それぞれのポケモンが一斉に応える。

 レオンの頭の上に戻ったワタッコが、軽快にとび跳ねながら左右に体を揺らし、両手の丸い綿毛を擦り合わせて眠りを誘う粉を大量に撒き散らす。

 鋼の重い体の所為で、体内を巡る磁力を使わなければ動く事もままならないメタグロスは、咄嗟にそれを避けることもできない。

 が、それを浴びる直前、メタリックブルーの体が光を弾くように輝いた。

 眠りに落ちる寸前に『鉄壁』を決め、高い防御を誇る体を更に強化したのだ。

 その所為か、エーフィの『恩返し』を受けても、殆どダメージはない。

 元々鋼タイプには余り効果のないノーマルタイプ技である。それも仕方ないとはいえ、ただでさえエーフィもワタッコも鋼とエスパータイプを併せ持つメタグロス相手では、効果抜群どころか普通に効く技すら持たない。そこへ更に防御を上げられてしまったのだ。確実にスナッチする為もう少し弱らせようにも、かなり苦労しそうである。

 とにかく相手が眠っている間に、できるだけ体力を削って弱らせなければ、スナッチボールを投げてもさっきの二の舞だ。

 レオンは二匹に攻撃を繰り返させながら、何時でもスナッチ出来るようにボールを手に取った。

 しかし、大して弱らせない内にメタグロスが目を覚ます。

「フルパワーでワタッコに『サイコキネシス』」

 すかさずジャキラが冷然と命じる。

「ワタッコ、『眠り粉』 その後でエーフィは『恩返し』だ」

 レオンも指示を飛ばす。

 技を出す為に体内のサイコパワーを最大限までに高めているメタグロスに向かって、素早い動きでワタッコが眠りに誘う粉を撒き散らす。

 ——が、

 ワタッコが撒いた粉は、メタグロスの体の周りに薄っすらと張り巡らされた不可視の膜に弾かれた。

 最大限に高めたサイコパワーの所為だ。

 それが全身をすっぽりと覆い、何ものも寄せ付けなくしているのだ。

 このままでは眠らせる事が出来ない。

 エーフィが意を決して一撃を加えるが、先程よりも更に効いてないように見える。

 ——さっき『眠り粉』を喰らったのは(わざ)とか……

 まず『鉄壁』で体を硬くした上で体にサイコパワーを張り巡らせ、こちらの攻撃が通らないようにしてから、じわじわと(なぶ)るつもりなのだろう。

 何をやっても勝てないと骨の髄まで絶望を味合わせる為に。

 メタグロスがカッと目を見開き、顔の中央でクロスする銀板の中央が虹色に輝く。

 最大限にまで高めたサイコパワーが、(くう)を切り裂く。

「くっ、逃げろワタッコっ!」

 咄嗟にワタッコがレオンの頭を思いっ切り蹴る。

 そこへ間髪を容れず透明な障壁がレオンをすっぽりと覆い、向かって来た強力なサイコパワーの奔流を弾き返す。

 同時に悲鳴が上がった。

「エーフィっ!」

 弾かれたメタグロスの攻撃が、エーフィの体を貫いたのだ。

 薬で威力が増したとはいえ、同じエスパータイプであまり効果がない筈のそれを受け、エーフィはかなり痛そうに顔を歪めている。

 やはりジャキラはルナの『守る』の障壁まで計算に入れて攻撃している。

 どう転んでも、確実にこちらにダメージを与える為に。

「レ、レオン……」

「こっちはもういい。おまえは自分を守る事に専念しろ」

 自分の所為でまたも味方にダメージを負わせてしまい、泣きそうな声を上げるルナに言い含め、レオンはメタグロスを睨み据えた。

 ——こうなったら……

 琥珀色の双眸が鋭さを増す。

 その様子に、ジャキラは微かに眉根を寄せた。

 ——この期に及んで、何を仕掛けるつもりだ?

 しかし、今更何をしたところで、自分の勝利は揺るぎない。

「メタグロス、ワタッコに『サイコキネシス』」

 勝利を確信し、余裕を持ってジャキラが命を下す。

 あくまで『サイコキネシス』に拘るのは、バシャーモを一撃で倒したエーフィよりもメタグロスの方が上だとスタンドのゴロツキ達に見せつける為だろう。

 それに対し、レオンも昂然と指示を飛ばした。

「エーフィ、『サイコキネシス』で撥ね返せっ。ワタッコは直後に『眠り粉』だ」

 サイコパワーとて常時最大限にして身に纏えるものじゃない。技を出して再度そこまでそれを高める前に眠らせる。

 エーフィの額に輝く紅玉がキラリと光り、そこに収斂させたサイコパワーがメタグロスのそれを正面から迎え撃つ。

 激しく激突する強力な不可視の力が発するエネルギーで、バトルフィールド内の大気が歪む。

 両者は一歩も引かず、互いに相手の力を押し返そうと更に念を凝らしてパワーを上げた。

 その度に大気の歪みは大きくなり、拮抗する膨大なサイコパワーのぶつかり合いに耐え切れずに悲鳴を上げ、渦を巻いて一点に集束していく。

 大観衆の見守る中、それは何もない空間に空虚な黒い染みのような点を産み出した。

 その周りに土埃が舞い上がり、その黒い点に向かって吸い込まれて行く。

 ——これは、まさか……

 それを凝視していたレオンは、それが何なのか思い当たり、愕然となった。

 それはあらゆる物を、光さえも貪欲に呑み込み、そして一度そこに入ったら最後、二度と抜け出す事の叶わぬ超重力の檻——二匹の強力なサイコパワーのエネルギーによって大気だけでなく空間そのものが歪められ、重力異常を引き起こして造り出されてしまった疑似的なブラックホールだった。

 

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