未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―ラルガタワーコロシアム―(7)

 宙に浮かぶ黒点を睨むレオンの表情(かお)が、更に深刻なものとなる。

 このまま『サイコキネシス』の(せめ)ぎ合いを続けたら、二匹のサイコパワーのエネルギーを糧に更に大きくなったブラックホールは、ここにあるあらゆる物を呑み込もうと牙を剥くに違いない。

 それを止めるには、どちらか一方でもいいからサイコパワーのエネルギー供給を止めることだ。そうすれば元々疑似的なブラックホールである。すぐにその形を保てなくなり、消滅してしまうだろう。

 とはいえ、先に力の放出を止めれば、ブラックホールを生み出した膨大なサイコパワーのエネルギーを乗せた相手の攻撃をモロに受けることになり、大ダメージを被ってしまう。

 この不利な状況下では、そんな危険を犯すことはできない。

 ジャキラもそれが解っているらしく、メタグロスを止めようとはしなかった。それどころか悠然と腕を組んだまま、口許に笑みさえ浮かべている。

 この勝負、どちらか先にブラックホールに呑み込まれる恐怖に屈し、自分のポケモンを止めた方が負ける。

 絶対自分から先に手を引くわけにはいかなかった。

 双方、相手の出方を窺って睨み合う間も、二匹の発するサイコパワーが激突する空間に生み出された黒い虚無の空間は徐々に成長を続け、その大きさと力を増していく。

 レオンの頭の上に戻って来たワタッコが、相手を眠らせようと『眠り粉』を撒き散らすが、ふんわりと空中を漂う軽い粉は、全てバトルフィールドの中央に出現したブラックホールに吸い込まれ、メタグロスまで届かない。

 そして、ワタッコ自身も重力が増したそれの、吸い込む力に引き寄せられていく。

 レオンの頭に捕まって必死に抵抗するが、元々体が軽く風が吹けばフワフワと何処までも飛んで行ってしまうポケモンである。所詮無駄なあがきでしかない。

「ワタッコっ」

 自分の頭を離れ、黒い虚無の空間に引き寄せられるワタッコの体を咄嗟に掴み、しっかりと抱きかかえる。

 今やブラックホールの大きさは、スタンドの最上階からでもはっきりと判る程までとなり、そこに吹き込む風は増々激しくなって周囲にある軽い物を次々と呑み込んでいく。

 スタンドのゴロツキ達は、何が起こっているのか訳が分らなかったが、何かヤバい事になっているようだと肌で感じつつも、誰一人そこから逃げる者はいなかった。

 風で帽子やバンダナが飛ばない様に手で押さえ、固唾を呑んで眼下に繰り広げられているバトルの成り行きを見守っている。

 ルナもピカチュウ達と重力が起こす引き込む風に囚われない様に、壁の中に設置された回復マシン部屋の奥に身を寄せてレオンのバトルを見ていた。

 ずずっと、エーフィの体がバトルフィールドの中央に引き寄せられる。

 大きくなったブラックホールの重力に引きずられたのだ。

 それを見たジャキラがニヤリと口の端を吊り上げ、勝ち誇った笑みを浮かべる。

 そう、ブラックホールが出現した時点で、既に勝負はついていた。

 サイコパワーの放出を止めなければ、それを糧に力を増し続けるブラックホールは、抵抗力の少ない軽い物から吸い込んで行く。

 重量級のメタグロスより遥かに体重の軽いエーフィが、先にブラックホールに呑み込まれるのは考えるまでもない。

 となれば残ったメタグロスのサイコパワーに押され、厄介なブラックホールのエネルギーは残ったレオンのポケモンに襲い掛かかる。

 ジャキラは虚しく(あらが)い続ける小僧達を面白おかしく眺めながら、ただ待っているだけで良かったのだ。

 エーフィは地面に爪を立ててぐぐっとその場で踏ん張った。

「無駄な事を……」

 身を低くして中央に吸い寄せる風圧に抵抗するレオンのポケモンを、ジャキラは嘲笑した。

 地面に深い爪痕を残しながら、ずるずるとエーフィの体が更にブラックホールに引き寄せられて行く。

「エーフィっ!!」

 それを追い掛け、ワタッコを小脇に抱えたままレオンは地を蹴り、空いた片手で引きずられるエーフィの体をしっかりと掴んだ。

 しかし、ブラックホールは今も勢いを増し続けている。

 そして中心に近付くほどに吸い込む疾風(かぜ)は勢いを増し、レオンまでも虚無の闇に引きずり込もうとその猛威を振るった。

 長いコートの端が激しくはためき、小石混じりの土埃が飛礫(つぶて)のように背後からレオン達にぶつかっては、先を争うようにブラックホールの中に吸い込まれていく。

 このままでは全員あの中に呑み込まれてしまう。

「レオンっ!」

「来るなっ!!」

 自分を助けようと安全な場所から飛び出そうとするルナを制し、レオンはキッと目の前に迫る黒い穴の向こうを睨み据えた。

「エーフィ、メタグロスの『サイコキネシス』を止めろっ!」

 相手の力が薬によって増幅されていようが関係ない。お前ならそれが出来る筈だ。

 揺るぎない信頼の籠った力強い声。

 それに応えるべく、エーフィは自らを奮起させた。

 ダークポケモンにはない、生まれてからずっと寄り添って生きて来た相棒と共にエーフィが培ってきたレオンとの確かな絆と、その間に育まれた誰にも負けない想いの丈を思念の力に変え、額の紅玉に限界を遥かに超えたサイコパワーを凝縮させる。

 それに掛かる過大な負荷が、持っている「曲がったスプーン」に掛かり、くしゃりと真っ二つに折れ曲がった。

 歯を食いしばり、エーフィは今維持している『サイコキネシス』のパワーにそれを上乗せし、極限まで収斂させたそれを叩き付けるように一気に放出する。

 放たれたそれは、瞬間的にメタグロスのサイコパワーを凌駕し、貪欲にあらゆる物を呑み込み続けるブラックホールの重力の魔手をも振り切った。

 宙を切り裂き、メタグロスの体を鋭く刺し貫く。

 急所である自分を構成する四匹のダンバルの結合部分を貫かれ、メタグロスはくぐもった悲鳴を上げて仰け反った。

 ふっと、メタグロスのサイコパワーが途切れる。

 ほぼ同時に双方が供給していたエネルギーが失われ、両者の力の狭間に生み出された漆黒の空虚な空間がぐにゃりと歪み、そのまま自らを呑み込んで消滅した。

「なっ!?」

 あのエーフィは薬で底上げしたメタグロスのサイコパワーに対抗する為に、極限までそれを高めて放出していた筈だ。既に余力などないのに、何故それを遥かに上回る威力を出せたのか。

 理由(わけ)が分らず目を見開いたジャキラは、アッシュブロンドの少年の腕の中にいる純白のポケモンを凝視する。

 その一瞬の隙にレオンが鋭く指示を飛ばす。

「ワタッコ、『眠り粉』だっ!」

 軽やかな身のこなしでレオンの腕の中から跳び出したワタッコが、さっと眠りを誘う粉を満遍なくメタグロスの体に降り(そそ)ぐ。

 さっきの一撃で結合部分が緩み、サイコパワーだけでなく磁力も上手く生み出せないメタグロスは、重い体を浮き上がらせて動くことも出来ずにそれを浴びて眠りに落ちる。

 同時にレオンは、既にスナッチマシンで造り変えていたハイパーボールを投げ付けた。

 ボールから(まばゆ)い光が(ほとばし)り、眠りこけたメタグロスを絡め取る。

 だが、すぐにボールから出てしまう。

 二度、三度やっても結果は同じで、ボールから出て来たメタグロスが、また目を覚ました。

「メタグロス、ワタッコに『ダークラッシュ』」

 少々計算が狂ったが、さっきメタグロスを止める為の一撃を放ったエーフィは、精根尽き果てて既に戦う力は欠片も残ってはいない。

 後は殆ど攻撃技を持たない、いかにも軟弱そうなワタッコを始末すればいいだけだ。それで勝利は自分のものとなる。

 すぐに冷静に戻ったジャキラは、ダークポケモンに相応しく最後の攻撃を専用技で決めるべく傲然と命じた。

 しかし、合体した結合部分が緩んだメタグロスは、その体を維持するのに手一杯で、その命令を実行するだけの余裕がなかった。

「ワタッコ、もう一度『眠り粉』だっ」

 すかさずレオンも指示を飛ばし、再び眠りに落ちたメタグロスにスナッチボールを投げる。

 だが、またも出てきてしまう。

「無駄だ。おまえ如きにスナッチされるメタグロスではない」

「………」

 シャドーのボスの嘲弄を黙殺し、レオンはポケットから新たなボールを取り出した。

 ハイパーボールではなく、白地に腕時計を巻き付けたような模様をしたボールである。

 それはポケモンをゲットする時に掛ける時間が、長ければ長いほど捕まえる確率が高くなるという変わった機能を持つタイマーボールだった。

 しかもこれは、以前中々スナッチ出来なかったボール嫌いのライコウを見事に捕らえた実績がある。

 メタグロスもここに至るまでかなりの時間を費やしていた。ハイパーボールでスナッチが困難なら、これを試してみる価値は十分ある。

 果たしてメタグロスを納めたそれは、すぐに中から出て来たハイパーボールとは違い、激しく揺れてその場で回転し始めた。

 まるで休むことなく時を刻むかのように回転し続け、一向に止まる気配がない。

 それをレオンと回復マシン部屋から出てきたルナは硬い表情で見守り、ジャキラは悠然と腕を組んで再びメタグロスがボールから出てくるのを待っていた。

 そして、スナッチボールからメタグロスが出て来る度に、歓声と野次を飛ばしていたスタンドの大観衆も、シャドーのボス同様またバトルフィールド上にあの青光りする重厚な巨体が現れるのを今か今かと待ちわびる。

 独楽の様に回っていたボールが不意に横に揺れ、回転しながらのたうつように地を転がり出した。

 まだ十分弱らせていないからか、中でメタグロスが眠っていながらも激しく抵抗しているらしい。

 流石に最強のダークポケモンだけあって、伝説のポケモン並にしぶとい。

 レオンは再びメタグロスが出てきたら、すぐさまスナッチボールを投げられるように新たなボールを手に取った。

 その時である。

 回転しながら地を転がり出したタイマーボールは、大きく弧を描く様にレオンの周りを一回りすると、彼の目の前で赤い針の先を向けてピタリと止まった。

 フタは固く閉じられたまま、中からメタグロスが出て来る気配は——ない。

「ば、馬鹿なっ!」

「やったわっ、レオンっ!!」

 我が目を疑うジャキラと、スタンド中に上がった驚愕の声を撥ね退け、ルナが歓喜の声を上げてレオンに飛び付いた。

「ああ」

 これでやっと終わった……

 自分に抱きつき、頬を紅潮させて喜ぶルナに、レオンはずっと硬く張り詰めていた表情を和らげた。

 拾い上げた最後のダークポケモンの入ったボールを感慨深そうに見る。

 そんな二人を()め付け、怒りと屈辱に身を震わせていたジャキラが不意に()えた。

「こんな事がある筈がないっ!!」

 シャドーのボスである自分が、こんな小僧などに負けるなど決してあってはならない。これは絶対何かの間違いだ。

「え~いっ! まだ、まだだ。小僧っ、今すぐにもう一度——」

『見苦しいぞ、ジャキラ』

 自分の負けを認められずに再戦を喚き立てるシャドーのボスの声を、何処からともなく響いてきた高圧的な声が遮った。

「はっ! 申し訳ありませんっ!」

 その声にハッと我に返ったジャキラは、それと判るほど顔を青褪(あおざ)めさせ、聞こえてきた声に向かって慌てて謝罪する。

「なに、なに? ジャキラが謝っている!? あいつがボスなのに」

 ここはシャドーの施設の筈だ。ボス以上の存在などいる筈がないのに。

 理由(わけ)が分らず、ルナは目を丸めて項垂(うなだ)れる銀髪赤眼の男を見た。

 そこへ、ゆっくりとコロシアムの出入り口であるカプセル型のエレベーターが迫り上がって来る。

 その音にジャキラが振り返り、それに向かって畏まって頭を下げる。

 どうやら、そこにはさっきの声の主が乗っているようだ。

 一体、誰が乗っているのか。

 レオンはタイマーボールをパソコンに転送すると、呆気に取られるルナを自分から引き剝がし、エレベーターに注意を払いながら急いで回復マシンに向かった。

 誰が乗っているにせよ、用心するに越した事はない。下手するとまたバトルする事になるかもしれなかった。

 レオンが相棒達をマシンで回復させている間に、上がり切ったカプセルがゆっくりと開く。

 そして、中から出て来た男を見た途端、ルナは丸めた目を更に大きく見開いた。

 短いズボンと袖口にフリルの付いたピンクのシャツを着た上に、グレーのベストにエンジの上着を着込み、胸元には派手な赤いスカーフを金の留金で留めている。

 ふんだんに金を使ってあつらえた割には、余り趣味がいいとは言い難い服装をしているが、その男の服の下に無理矢理詰め込んだような恰幅の良すぎる腹と、髭もじゃの人の良さそうな丸顔には見覚えがあった。

 ——フェナスシティの市長、バックレーである。

「え? 市長さん?」

 それがシャドーのコロシアムに居るなんて。

 増々理由(わけ)が分らず、ルナは呆然となった。

 バックレーは悠然と、(こうべ)を垂れて控えるシャドーのボスの前で立ち止まり、バトルフィールドの反対側にいる少年少女を眺めやった。

「いやいや、見応えあるバトルでしたな。正直言って、貴方達がここまでやれるとは思いもしませんでしたよ」

「あ、あの、市長さん。どうしてここにいるの?」

 にこやかに声を掛けてくるフェナスの市長に、ルナは途惑った。

「おやおや、まだ気付きませんかな? 呑気なお嬢さんだ」

 バックレーは呆れたように少女を見やって揶揄(やゆ)するように呟くと、一転して横柄に言葉を返す。

「この人の良いフェナス市長バックレーは、世を欺く為の仮の姿にすぎん。

 その正体は、世界征服を企む悪の組織シャドーの影のボス——帝王ワルダックとは、わたしの事だ!!」

 と、ポンッと飛び跳ねるように体を一回転させて向き直ったフェナス市長の姿は、腹が一回り以上も大きくなって辛うじてそれを押さえていたベストとピンクのシャツのボタンが弾け飛び、もじゃもじゃだった頭部や髭は刺々しく逆立って、人の良さそうな表情(かお)は邪悪そのものに変貌していた。

「う…そ……」

 あんなに自分達の身を案じてくれていた市長さんが、シャドーの本当のボスだったなんて。

 信じていただけに、ルナの受けたショックは相当なものだった。

 そしてそれは、そこに居合わせたスタンドのゴロツキやシャドーの者達も一緒だった。目と口をあんぐりと開け、声もない。

『な、な、なんとっ。今までボスと信じてきたジャキラ様の上に、真のシャドーの支配者、帝王ワルダック様と言う方がいらしたとはっ!』

 スピーカーから流れる女性アナウンサーの声も驚きに満ちていた。

 まさにコロシアム全体が「寝耳に水」状態である。

 そんな中でただ一人、レオンだけは驚いた風もなく、回復させた相棒達の入ったボールをベルトに付け直してルナの許に戻ると、今や正体を現したシャドーの影のボスを冷ややかに見返した。

 その落ち着き払った少年の態度が気に入らないワルダックは、不快そうに顔を歪める。

「……然程、驚いてはおらんようだな」

「いや、少しは驚いているさ」

「少しだと?」

「ああ、あんたがシャドーと、何らかの関係があるんじゃないかって事は判ってたからな」

「ほう、何時から気付いていたのだ?」

 こいつらの前でバレるような真似は一切していなかった筈だ。

 今まで誰一人自分の正体を疑う者がいなかっただけに、少年の言葉は意外だった。

「フェナスで初めて善人(づら)したあんたの顔を見た後、暫く経ってからだ」

 訝しげに眉を(ひそ)める悪人面のワルダックに、レオンは教えてやった。

 市長宅でバックレーの顔を初めて見た時、レオンは妙な既視感(デジャヴ)を感じたのだ。オーレ地方のこんな所まで来たのは初めてだというのに、以前何処かで確かに見た事があると。

 だが、それが何処でだったか、その場ではどうしても想い出せなかった。

 レオンはそれがどうしても気になり、ルナに強引にフェナスのスタジアム見学に付き合わされた時も考え続け、その道中で彼女がスナッチ団の話をした時に、唐突に走馬灯のように思い出したのだ。黒服の男達がやって来て、自分達家族からイーブイを取り上げて行ったあの忌まわしい記憶と共に。

 まだ両親とイーブイ達と共に自然豊かな森の近くにあったあの家で、何の不安もなく幸せに暮らしていた幼い頃、突然訪ねてきた見知らぬ男の顔とそっくりだった事を。

 その男は、自分を珍しいポケモンを扱うポケモンブローカーだと名乗り、イーブイ達が産んだ仔を自分に預けてくれれば、高値で売り捌いてあげようと両親に商談を持ちかけたのだ。

 絶対損はさせないからと。髭もじゃの人の良さそうな顔に、善意たっぷりの表情を貼り付けて熱心に。

 その話を、レオンの両親は丁寧に断った。

 確かに自分達はポケモンブリーダーだが、イーブイ達は金儲けの道具ではなく自分達の家族だから、イーブイを大切に可愛がってくれる人だと、自分達が認めた人でなければ売る気はないので、人任せにする事は出来ないと。

 それでも男は引き下がらず、尚も好条件を餌に両親に喰い下がったが、二人の意志は固く、頑として首を縦に振ろうとはしなかった。

 そして、とうとう説得を諦めた男は「こんないい話を蹴るなんて、後で後悔しても知りませんぞ」と恨みがましい捨て科白(せりふ)を残して去っていったのだ。

 とはいえ、そんな既に記憶の底に埋もれていた筈のその男の事を、何故スナッチ団の話であの黒服達の記憶と共に思い出したのか。

 それにポケモンブローカーが、何故こんな野生ポケモンが一匹もいないような所で市長などやっているのか。

 疑問に思ったものの、その後すぐに自分を追って来たスナッチ団員に見つかってバトルをやる羽目になり、ダークポケモンをスナッチする為に必要なモンスターボールを売る店探しや、ミラーボ一派との立て続けのバトルに追い立てられ、レオンはそれに付いてゆっくり考えている暇もなく、また忘れ去っていた。

 が、バトル山のダキムとのバトルで大怪我を負って倒れ、治療してくれたアゲトビレッジのポケモンセンターを抜け出してルナに盛大に雷を落とされた後、彼女が口にしたバックレーの話を聞いてあの疑問を思い出したレオンは、その後女医に強制入院させられたベッドの上でそれを考え続け、ある事を思い出したのである。

 父親の親友の男が借金の連帯保証人を頼みに来たのは、あの男が去って暫く()ってからだった事を。

 そして、大型スナッチマシンは両親のイーブイ達を欲しがった奴の依頼を果たした報酬として貰ったのだと言った、あのミサンゴの言葉を。

 つまり、あのブローカーこそが全て裏で糸を引いていたのである。

 正攻法で両親からイーブイ達を得られなかったあの男が、両親の親友を使って罠を仕掛け、借金のカタに自分達から全てを奪ったのだ。当然シャドーと無関係であるわけがない。

「どうしてっ!? 気付いていたなら、なんですぐに教えてくれなかったのっ!?」

 アンダーからパイラに戻った時、レオンはすぐさまレンに自分の情報をコドモネットワークに書き込むのを止めさせたのは、シャドーにこちらの状況が筒抜けになるのを恐れての事だった筈なのに、そんな重大な事を教えてくれないなんて。

 その所為で、知らずに自分はどれだけバックレーに情報を流してしまった事か。

「おまえは市長(こいつ)を信用し切ってたし、証拠がなかった」

 だから言わなかった。

 非難めいた声を上げて恨みがましい目を向けるルナに、レオンは淡々と言い返す。

 市長ともなれば、それなりに人望がある。それを掴まえてシャドーの一味だと言った処で、ゴロツキの自分の言葉など誰も信じないだろう。

 それに何と言っても幼い頃の記憶だ。他人の空似や思い違いという事も十分有り得た。

 そこでルナが市長と連絡を取るのを止めなかった代わりに、まず彼女以外の情報流出を抑えた。

 次に情報を得るとすぐさま行動に移し、彼女が事前にこちらの動きを市長に伝える暇を与えない様にして、向こうに渡る情報を制限した。

 そうやって注意深く様子を窺ったのだ。それに対するバックレーの反応と、シャドーの動きが市長が得たこちらの情報を基にしているかどうかを。

 そして、自分がバトル山に籠った途端、計ったように現れた自分の偽者の一件で、バックレーとシャドーの関係を確信したレオンは、そこで初めてフェナスの市長に今回の事を知らせようとしたルナを止めたのだ。

 あの招待状がシャドーからの物ならば、わざわざ言わなくともバックレーは知っている筈だし、パイラの署長の計画を知られるわけにはいかなかったからだ。

「それにしても、下っ端がやるような情報収集役を、まさかボス自らやっていたとはな」

「市長の肩書は、あらゆる表社会(おもて)の情報を入手するには何かと便利なのでな」

 ぬけぬけとそう応えたワルダックは、憎々しげにアッシュブロンドの少年を睨んだ。

「だが、よもやおまえのような小僧に見破られておったとはな。

 まったく、よくぞここまで我らの計画を邪魔してくれたものよ。ダークポケモン計画はまた初めからやり直すとして、おまえ達だけは絶対に許さん。徹底的にぶちのめして二度と我らに刃向かえんようにしてくれるわ!!」

 怒りに満ちた声で、ワルダックは尊大に言い放った。

 




 ゲームでジャキラを倒し、やっと終わったと思った矢先の陰のボスの登場に、なんだそりゃ。と思いました。
 という事で、ボス戦はまだ続きます。
 はぁ……
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