未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―フェナスシティ―(10)

 後に残されたゴロツキ二人組が、ずいっと二人の前に出る。

 二人の姿を見て、ルナは表情(かお)を強張らせた。

 昨日拉致された時の事が蘇る。

 あの時ルナは、この二人が人にポケモンを(けしか)けていたのを見て、思わず驚きの声を上げたのだ。

『なに、あのポケモン。黒いオーラを出して人を襲ってる』

『黒いオーラだと!?』

 耳ざとくその声を聞きつけた二人が、素早くルナを取り囲む。

『おい、おまえ。こいつが何を出してるって?』

『く、黒いオーラよ。貴方達、その子に一体何をしたの!?』

 凄んで訊いてきた二人に、ルナは詰め寄った。

『何をしただってぇ』

 チラリと相棒に目配せした黒い帽子のゴロツキは、ニヤリと笑った。

『それを知りたいんなら、連れてってやるよ。それを教えてくれるヤツの所になっ』

 その直後ルナは二人に捕まり、麻袋の住人になったのだ。

 だが、ゴロツキ達は既に少女の事は眼中になく、ぎっとアッシュブロンドの少年を()め付ける。

「やい、てめぇ、あん時よくもやってくれたな。だが。今度はそうはいかないぜっ!」

 鼻息も荒く、ヘボイは手持ちのポケモンを呼び出す。

 奇っ怪な巨大モンスターボール頭の男の毒気に当てられ、一気に気力が萎えていたレオンだったが、ポケモンを出して来たゴロツキに反応し、すぐさまモンスターボールを手に取った。

 投げたボールが割れ、中から(ほとばし)る光の中から相棒達が姿を現わす。

 ヘボイの繰り出したポケモンは、一匹は前と同じゴニョニョだったが、もう一匹は頭に平たい葉っぱを乗せた青い体の水と草タイプを兼ね備えたハスボーだった。

 この二匹に対して効果的な技を持っていないブラッキーとエーフィだったが、今は前回と違ってポケモンセンターでバッチリ体力気力共に回復させてある。不安要素はどこにもない。

 二撃まで与えず、二匹は無傷でゴニョニョとハスボーを撃破する。

「くそーっ! また負けちまったい!」

 ヘボイは頭を抱えて呻いた。

「今度はオレの番だっ!」

 悔しがる相棒を押し退け、トロイがレオンの前に進み出る。

「このオレ様は、ヘボイのようにはいかないぜっ!」

 と、勢いよくモンスターボールを投げた。

 現れたのは薄汚れたボロ布を被り、顔に骸骨の面を付けてぷかぷかと宙に浮くゴーストタイプのヨマワルと、虫と毒タイプを兼ね備えた黄緑の体に黒と黄色の六本脚の、口と額に赤い牙と角を持つ蜘蛛のような姿をしたイトマルだった。

 さっきの二匹と違い、どちらもレオンにとっては有利なポケモンである。

 ニヤリと口の端を上げ、レオンは指示を発した。

「ブラッキー、ヨマワルに『かみつく』 エーフィはイトマルに『念力』だ」

 その指示に応え、二匹の技がそれぞれに炸裂する。

 どちらも効果抜群である。

 ヨマワルもイトマルもそれをモロに受け、悲しげな声を上げて倒れ伏した。

 大口叩いた割には、結果は相棒と一緒である。

「く、くそっ、これならどーだっ!」

 やけくそ気味にトロイが呼び出したのは、体長一メートル程のずんぐりとした体格のマクノシタだった。人と同じような肢体を持つ、格闘タイプのポケモンである。

 悪タイプのブラッキーとは相性が悪いが、エーフィの持つエスパータイプの技に弱い。

 余裕を持ってレオンはエーフィに指示を出そうとした。

 それを慌ててルナが止める。

「待って、レオン! あれよ、あのポケモンっ! あのポケモンを見たから、あたし、あいつらに捕まったのっ!」

 じっと、トロイの出してきたマクノシタを見詰め、ルナが言葉を継ぐ。

「あたしには見えるの。マクノシタの体から黒いオーラのようなモノが噴き出しているのが。きっとあれの所為で、ポケモンが戦闘マシンみたいになってしまったのよ」

「黒いオーラ?」

 確か市長に話をした時もそんなことを言っていた。

 だが、レオンには幾ら目を凝らしてマクノシタを見ても、そんなモノは何処にも見えない。

 どういうことか、思わずレオンはルナに振り返る。

 その一瞬の隙を()き、マクノシタが手を振り回して攻撃を仕掛けて来た。トレーナーが指示を出していないのにだ。

 凄まじい衝撃がレオンを襲う。

「ぐぅっ」

 モロにそれを喰らい、レオンは胸を押さえて呻いた。

「レオンっ、大丈夫!?」

「ああ……」

 よろけながらも足に力を入れてその場に踏ん張り、レオンは立ち位置に戻ったマクノシタを見据える。

 それを見てルナはホッと息をついた。

「気を付けて、レオン。やっぱりこのポケモンは人を襲ってくるわ」

「だからいいんじゃねえか」

 少女の忠告をせせら笑い、トロイが言い放つ。

「こいつに心なんかねぇ。凶暴で、どんな命令でも嫌がらない、絶対服従の戦闘マシンなんだ。ナメて掛かると痛い目見るぜ」

「そんな、酷い……」

 ポケモンを道具のようにしか思っていない。こんな奴がトレーナーだなんて絶対間違っているし、ポケモンをパートナーにする資格なんてない。

「お願い、レオン。マクノシタをあいつから解放してあげて!」

 キッとルナは黒い帽子を被ったゴロツキを睨む。

「あんなヤツに、ポケモントレーナーを名乗る資格なんてないわっ!」

「ああ」

 とはいえ、今回は何時ものスナッチと勝手が違う。目的のポケモンは黒いオーラによって戦闘マシンにされてしまっているのだ。今のところ判っているのは攻撃力が非常に高い事ぐらいだ。それ以外、特に体力が普通のポケモンとどう違うのか、分からないのが厄介だった。

 体力の削りが甘くても駄目だし、下手に攻撃して倒してしまったら、ポケモンが持ち主のボールに戻ってしまう。それではスナッチできなくなる。

 何時もの様に倒さずに弱らせる、その見極めが今まで以上に難しかった。

「やいやいっ、オレ様にトレーナーを名乗る資格がないだとっ!」

 トロイが自分を悪し様に言う少女を怒鳴り付ける。

「ないかどうか、その身で確かめてみろっ。マクノシタ、あいつに『ダークラッシュ』をおみまいしてやれっ」

「エーフィ、ルナに『リフレクター』だっ!」

 同時にレオンも叫び、床を蹴った。

 キラキラと、蒼く(きら)めく光が少女を包み込む。

 その中に飛び込み、レオンはルナを庇うように抱き締めた。

 直後マクノシタが技を放つ。

「っ!!」

 それが無防備にさらされた背中に直撃し、レオンは声にならない悲鳴を上げた。

 ルナの体からずり落ちるようにガクリと両膝を床に付き、倒れ込みそうな体を床に両手を付いて何とか(こら)える。

 だが、さっきと違い、トレーナーの指示による技の威力は痛烈だった。受けたダメージもかなりのものである。

「レオンっ!?」

「はっはっは、馬鹿だぜ、こいつ。自分から攻撃を喰らいやがった」

 トロイが床に()いつくばる少年を指差し、相棒と共に腹を抱えて(わら)う。

「しっかりして、レオンっ」

「大…丈夫だ」

 痛みに顔を歪めながらもレオンは上半身を起こし、立てた片膝に手をついて渾身(こんしん)の力を振り絞ってよろりと立ち上がった。

 エーフィの『リフレクター』の効果で、ある程度技の威力を()いだ筈なのに、それでもこの威力である。戦闘マシンと言うだけあって、攻撃力が半端じゃない。

「いいざまだな。バトルで一番楽に勝てる方法って知ってるか?」

 立っているのがやっとの少年を嘲り、トロイが得意満面に言う。

「それはな、先にトレーナーを潰すんだよ。そうすりゃ、トレーナーのいないポケモンなんぞ、やるのは簡単だ」

 現にブラッキーとエーフィは、ヘボイのポケモンをあっさりと倒した時とは違い、レオンを心配して傍をうろうろしながら、どうしていいか分からず落ち着かなく不安そうに鼻を鳴らしている。

「そんなの、ルール違反じゃないっ」

「ルールがなんだ。要は、勝ちゃいいんだよ」

 少女の抗議を、トロイは軽く鼻であしらった。

「そんな——」

「さがってろ」

 更に抗議しようとしたルナを押し退け、レオンが前に出る。

 その逆らい難い雰囲気にルナは息を呑み、思わずそれに従った。

 真正面からレオンはマクノシタを睨み付ける。

 苛烈なまでに鋭さを増した琥珀色の瞳は、まるで狙った獲物は絶対に逃さない猛禽のそれのようだった。

 そのトレーナーの気迫を感じ取ったブラッキーとエーフィは、すぐさまレオンの足許に走り寄り、何時でも攻撃できる体勢で指示を待つ。

 その姿には先程の迷いは微塵も感じられない。トレーナーへの信頼と自信に満ち溢れていた。

 マクノシタを見据え、レオンは淡々と指示を出す。

「エーフィ、ブラッキーに『手助け』 ブラッキーは『秘密の力』でマクノシタに攻撃だ」

 エーフィの『手助け』を受け、威力の増したブラッキーの『秘密の力』がマクノシタの分厚い脂肪に突き刺さる。

「へっ、そんなチャチな攻撃効くかよ」

 トロイが嘲弄する。

 ——と、

 技を受けた直後、マクノシタの全身に電気が走り、痺れて動けなくなった。

『秘密の力』の追加効果である。

「なっ!?」

「エーフィ、『手助け』 ブラッキー、『かみつく』だ」

 驚くトロイをよそに、レオンは更に指示を飛ばす。

 取り敢えず動きは封じた。次は体力の番だ。

 悪タイプ技は格闘タイプのマクノシタには効きにくいが、様子を見ながら体力を削るには丁度いい。

 エーフィによって増幅された力で、ブラッキーは思いっ切りマクノシタに噛み付く。

 痛みに顔を歪ませ、細い目を赤く吊り上げてマクノシタが唸り声を上げる。

 どうやら立て続けに受けた攻撃と、痺れて動けない体に苛立ち、興奮しているようだ。

 体が動けば、トレーナーの指示が無くともすぐに攻撃してきそうな感じである。

 まだ、気力も体力も十分ありそうだ。

 レオンはもう一度相棒達に同じ指示を出した。

 ぐらりと、マクノシタの体が揺れる。

「くそっ。動け、マクノシタっ! 『ダークラッシュ』だっ」

「ブラッキー、『かみつく』 エーフィは『リフレクター』」

 (きら)めく蒼い光の障壁が二匹を包み込む。

 同時に一瞬痺れから解放されたマクノシタが、腕を振り回して猛然と襲い来る。

 狙いはエーフィだ。

 寸前、ブラッキーが横手からマクノシタの足に噛み付いた。

 ガクリと、マクノシタが噛まれた足の膝を落とす。

 ——今だっ

 刹那、レオンの左腕の肩当てから腕に巻きつくように手甲に延びるコードに赤い光が走り、手にしたモンスターボールを包み込む。

 そして、普通のモンスターボールからスナッチボールへと変貌したそれを、レオンはマクノシタに投げ付けた。

 パカリと口の開いたボールから(ほとばし)った光が、マクノシタのずんぐりとした体を絡め取ってボールに戻る。

 マクノシタを呑み込んで閉じたボールは、床の上で二度三度揺れると、そのまま静かに動きを止めた。

 

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