未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―フェナスシティ―(11)

「なっ!? オレ様のポケモンがっ」

「スナッチだと!?」

 トロイとヘボイは愕然となった。

「てめぇは、やっぱりスナッチ団の。——やい、一体どういうつもりだっ!?」

 やはり自分の記憶は間違っていなかった。こいつは前にスナッチ団の奴等と一緒にいた小僧だ。

 ヘボイは相棒のポケモンを奪った少年を()め付ける。

 それには答えず、レオンはたった今スナッチしたマクノシタをボールから出した。

 ぬぼっとそこに立ち、トロイ達を見返すマクノシタには何の感情も窺えない。

「な、何をする気だ?」

「今度はおまえ達が、こいつの技の威力を味わってみるか?」

 レオンに「まひなおし」を与えられたマクノシタは、命じれば何時でも技は繰り出せる。

「くっ」

 トロイとヘボイは唇を噛みしめた。

 普通のポケモンなら、元のトレーナーを攻撃しろと言われたら躊躇(ためら)うだろうが、心のないこいつらは平気でそれに従う。

 そして、それを防いでくれるポケモンは、今手持ちに一匹もいない。全部目の前の少年に叩きのめされてしまっていた。

 動くに動けない二人を冷ややかに見やり、レオンは口を開いた。

「おまえ達に聞きたいことがある。マクノシタ(こいつ)は何処で手に入れた?」

「そ、それは——」

「ヘボイ、余計なこと言うんじゃねぇっ」

 言い掛けた相棒を、トロイが黙らせる。

 また負けてしまったのだ。それを知ったらミラーボが自分達をただで済ます筈がない。その上更に怒りを買うようなことは言えない。

「言わなければ、こいつをけしかける」

 淡々と告げるレオンの表情に、迷いは一切なかった。

「く、くそっ」

 こいつは普通のトレーナーとは違う。自分達と同じに、言わなければ平然とマクノシタに攻撃させるだろう。

 ——こうなったら……

「逃げるぞっ! ヘボイっ」

 空になったマクノシタのモンスターボールを少年に投げ付け、トロイは相棒を促す。

 そうはさせるかと、レオンはボールを払い除け、マクノシタに命ずる。

「マクノシタっ、やつに——」

 と、叫んだ途端、体に激痛が走る。

 急に大声を出した所為で、さっき受けた怪我に響いたのだ。

「——っ」

 胸を押さえ、苦痛に顔が歪む。

「レオンっ」

 慌ててルナが駆け寄った。

 その隙にゴロツキ二人は脱兎の如く外へ出て行く。

「大丈夫?」

「ああ、追うぞ」

 これしきの怪我で取り逃がすとは。

 自分の不甲斐なさに舌打ちし、レオンはマクノシタをボールに戻して二人の後を追う。

 市長の家から飛び出すと、中の様子を窺うように家の前をうろうろしていた老婆と顔見知りのスーツの女性が、わっと駆け寄って来た。

 やっぱり心配で来てしまったのだろう。

「無事でよかった」

「ホントに。なかなか出て来ないから心配したのよ」

 出て来たレオン達の顔を見て、二人は安堵の息をつく。

 そして、同じく気にして来てくれたのか、半袖短パンの若者までそこにいた。

「さっき飛び出して行ったやつら、例の二人組だろ」

「ええ、レオンがまたやっつけてくれたの」

「そうか、やっぱり君は強いねぇ」

 感心して若者は少年を褒め称える。

 そんな住人達の思わぬ足止めに、レオンは苛立った。

 そうと気付かず、スーツ姿の女性が頬に手を当て、不安そうに呟く。

「でも、平和だったこの街に、とうとうこんな騒ぎが起こってしまうなんて……」

 老婆もしわくちゃな顔を曇らせる。

「これで終わりだといいんだけどねぇ」

「そうね……」

 気まずそうにルナは二人に相槌を打つ。今回の事は自分の所為で起こったのだ。自分がいる限り、またこんなことが起こるかもしれないと思うと、すまない気持ちで一杯になる。

「それより、あの二人はどっちに逃げた?」

 ルナの気持ちなど頓着せず、レオンは逃げた二人組の行方を訊く。

 あの二人を捕まえ、何処であのマクノシタを手に入れたのか吐かせる必要がある。今後の為にも。

「確か、あっちの方だったけど」

「向こうか」

 若者の指差す方を確かめ、レオンはゴロツキ達の後を追おうとした。

 そこへ、のんびりとした足取りでバックレーがやって来る。

 さっき家の中に姿が見えなかったのは、何処かに出かけていたらしい。お陰であの怪しい連中に会わずに済んだのは、不幸中の幸いだった。

 バックレーは自宅前の人集(ひとだか)りに驚き、水路の狭い橋の上に立ち止まった。

 そこを渡らなければ二人組を追えないのに、そのずんぐりした体が邪魔で、レオンは行くに行けない。だが、今後の事を考えると、市長を押し退けて強引に渡るのは流石にマズい。

 バックレーは橋の中央に立ち止まったまま、不思議そうにそこにいる一同を見回した。

「みなさん、どうしたんですかな? こんな所に皆集まって」

「ああ、市長さん、実は大変だったんですよっ」

 ジョギング姿の若者が、皆を代表してこれまでの事を掻い摘んで話す。

 それを聞いて、バックレーは驚きに大きく目を見開いた。

「私が留守にしている間に、隣町のゴロツキどもがやって来たとは。絶対に許せません! これは調査を急がなければなりませんなっ」

 憤然と声を上げ、ルナに近寄って決意も新たに約束する。

「ええ。でも、あまり無理しないでくださいね」

 もしまた、今度みたいなことが起こったら申し訳ない。

 そう言い残し、ルナはバックレーが橋から退いた途端、その脇をすり抜けて一人で二人組の後を追ったレオンを追い掛けた。

 

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