未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(2)

 外にあった倉庫もかなり古ぼけていたが、夕暮れのパイラタウンの町並みは昨日ルナが昼間見た時よりも更に薄汚れて見えた。

 過去の賑わいを思わせるものは全て色褪せ、切れて途切れ途切れに光る店のネオンサインに、何時換えたのか判らない、ちらついて消えかかっている外灯。道行く人も(まば)らで、人通りの少ないメインストリート。

 そんな(さび)れ朽ち果てた町全体を夕陽が赤く染め、血塗られたような建物がより一層荒廃した空気を醸し出していた。

 そして、この町本来の住人である鉱山夫などとは明らかに違う、(すさ)んだ雰囲気を(まと)う若者が町の奥へと消えて行く。

 自分に引っ付くように歩くルナを連れ、レオンはさり気なく辺りに視線を走らせながら町の中へと足を向ける。

 ——と、

 町に入って程近い空き地脇、薄暗い外灯の下で何か揉めているような二人の声が聞こえた。共に二十代の男のようだ。

「勘弁してくれよ、ユイトの旦那」

 黒い繋ぎの服を着たゴロツキ風の緑髪の若者が、紺の帽子と上着に赤茶のズボンを履いた警官らしき青年に詰め寄られ、心底困り果てたような声で言葉を返す。

「何度も言ってるじゃねぇか、オレは何も知らねぇって」

「本当だろうな、マサ。おいらを誤魔化そうたって、そうはいかないからなっ!」

「ユイトの旦那にウソなんかつかねぇってば。信じてくれよ。な?」

 と、マサは自分を睨み付ける若い制服警官に、哀れっぽく懇願する。

 その姿に、ちょっと仏心が芽生えたユイトは、それを悟られないようにワザと尊大に肩をそびやかした。

「よし、判った。今日の処はこれで許してやろう。だが、また何かあったら聞きに来るからな」

 虚勢を張るように威張りくさって言い放ち、ユイトはその場を後にする。

 それを見送り、マサは紺の警官服の背中に思いっ切り舌を出した。

「ば~か。何度来たって、おまえに話す事なんか、何もねぇよ」

 ふてぶてしく言い捨て、くるりと仲間の(たむろ)む町の奥へと体を返し、ふと足を止める。

 町の入り口付近にいる少年少女の二人連れが、こっちを見ているのに気付いたのだ。

「なんだ、てめぇら。この辺りじゃ、見ねぇ顔だな」

 じろじろと無遠慮に二人を見回しながら近づき、マサは凄んで見せる。

「怪我したくなきゃ、とっとと出て行った方が身の為だぜ」

「なんですって」

 上から目線の見下した態度にルナはムッとしたが、何か言い返す前にレオンがそれを制し、淡々と言葉を返す。

「判った。できるだけそうする」

「ふんっ、そりゃ結構な事だ」

 自分の脅しに怯えもせず、落ち着き払って応えた少年の態度に、マサは白けたように鼻を鳴らし、興味が失せてさっさと去って行く。

 後に残ったルナは、憤然とレオンに抗議した。

「レオン、何よ今のっ」

「ああいった手合いは逆らわない方がいい。一々相手にしていたら、こっちの身が持たない」

 実感を込めてレオンが言う。

 確かに、彼にしてみれば、町に入って因縁付けられ、なし崩しにバトルなど、フェナスシティの二の舞は御免だろう。そうでなくともこのパイラタウンはゴロツキの溜まり場だ。奴等との無用ないざこざは、できるだけ避けた方がいい。

「それは、そうだけど……」

 一理あるとは思ったものの、それでもルナは不満そうだ。

 放っておくと何時までも文句を言いそうな気配に、すかさずレオンは話題を変える。

「で、おまえが襲われたのは何処ら辺なんだ?」

「えっ? えぇ、そうね……」

 急に言われ、ルナはきょろきょろと辺りを見回した。

 とはいえ、ここの町並みは何処も似たような感じで、あの時は全身から黒いオーラを出して人を襲うポケモンの異様な姿の方にばかり意識がいき、周りなんて全然見てなかったのだ。

 何処と訊かれても答えようがない。しかも今は夕闇迫る時刻である。暗いから余計判らなかった。

 でも、そんな事を言ったら、またレオンに呆れられそうだ。

 何か思い出せないかと更に考え込んだルナは、さっき見た警官っぽい制服を着た青年を思い出してポンと手を打つ。

「そうだわ、取り敢えず警察署に行ってみましょ」

 あの青年が警官なら、当然この町には警察署がある筈だ。町の中の出来事なら彼等に聞くのが一番だ。

 そう誤魔化したルナは早速通りを見渡し、家に帰ろうとしているのだろうか、通りをトボトボ歩いている杖を持った老人を見つけて声を掛ける。

「あの、警察署って何処ですか?」

「警察署なら、ほらそこじゃよ」

 尋ねてきた少女をじろじろと見やった老人は、ついと顎で目と鼻の先にある大きな赤錆だらけの鉄骨の建物を示した。

 その建物の表看板は、(かす)れて何が書いてあるのかよく判らないが、何となくそれっぽい。

「どうやら余所から来たらしいが、この町にはタチの悪い連中が多いからのう。気を付けるのじゃよ」

 老人は少女の後ろにいる少年を見て目を(すが)め、少女に忠告する。

「あ、ありがとうございます」

 顔を真っ赤にしてルナはお礼を言った。

 知らなかったとはいえ、警察署の真ん前でそれが何処にあるか尋ねるなんて、恥ずかし過ぎる。

 レオンを引っ張ってそそくさとその場を後にすると、ルナは老人の示した建物の中に入って行った。

 

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