未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(4)

「早速手掛かりが手に入ったわね」

 苦し紛れの思い付きで行ってみた警察署だったが、思った以上の収穫に、ルナはほくほく顔だ。

 明日その決闘広場に行けば、もっと詳しい情報が得られるかもしれない。

 今日はもう、さっさと宿に行って明日の為に早く休むに限る。

 署長の言葉に従い、二人が町の奥へ行こうとした時だった。

「ちょっと、待ったぁ」

 警察署からさっきの若い警官が飛び出して、慌てて二人を呼び止める。

「これ、もしかしてキミのじゃないっスか?」

 斜めに白と水色のラインの入った、一抱えもある大きめのピンクのショルダーバックを少女に差し出して見せる。

 それを見て、ルナは目を大きく見開いた。

「それ、あたしのっ」

「ああ、やっぱり。さっき昨日ここに来たって言ってたっスから。これ、ゴロツキの一人が持ってたんスよ」

 そいつはこれは人を脅して奪ったのではなく、落ちていたから拾ったのだと言ったのだが、余りにも胡散臭いのでユイトはそれを没収し、署内に落とし物として置いておいたのである。

「ありがとうっ、取っておいてくれて」

「いやぁ、当然の事をしたまでっスよ」

 若い女の子に礼を言われた事など殆ど無いのだろう。ユイトは照れて頭の後ろに手を回した。

「あ、でも、お財布がないわ」

 一通り中を確認したルナが、ガッカリした顔になる。

 他は一応あるのに、それだけが無かった。

「それは仕方ないっス。拾ったのがゴロツキっスからね」

 自分がこのバッグを見つけたのも偶然だったのだ。出なければ、今頃売っ払われてしまっていた。

「けど、ギンザルさんが顔を利かせていた頃は、まだマシだったんスけどね」

「ギンザル?」

「この町のコロシアムの経営者っスよ」

 ぽつりと少年が漏らした疑問の声に、ユイトは何故か得意げに応える。

「ゴロツキもギンザルさんには頭が上がらなかったっス」

 何しろゴロツキはみんなコロシアム好きだ。ギンザルの機嫌を損ねてコロシアムを出禁にされたくないゴロツキ達は、彼の顔色を窺ってある程度大人しくしていたのだ。

 拾い物もちゃんと警察署に届けてくれたのである。もっとも財布などは中身が多少減ってはいるだろうが。

 しかし、最近になって、ゴロツキ達の態度が一変したのだ。

 『ギンザルさんに言いつけるぞ』と言っても、『ギンザルさんはオレ達のやる事に文句は言わないさ』と、ニヤニヤと笑って相手にしないのである。

 その話に、レオンは何か考えるような表情(かお)になる。

「じゃ、おいらはこれで」

「ええ、本当にありがとう。もう戻って来ないと思ってたから、見つけてくれてすっごく嬉しいわ」

「いやぁ~」

 もう一度改めて少女に感謝されたユイトは、テレテレと照れながら回れ右をし、署に入ろうとして扉の端に思いっ切り顔面を打ち付けた。

 そそっかしい上にドジである。

 真っ赤に腫れた顔面を押さえ、ユイトはよろけるように署内に戻っていく。

「行くぞ」

 それを後目(しりめ)に、レオンは歩き出した。

 辺りは随分と夕闇が濃くなってきている。治安は無きに等しいと聞いた以上、何時までも外にいるのは危険でしかない。

「あ、待って」

 慌ててルナが後を追う。こんな所に置いて行かれては堪らない。

 二人はちらつく外灯の薄暗い(あか)りの下を、町の奥の方へと歩いて行く。

 その二人の目の前を、いきなり藍色の服を着た若い男が一人血相を変えて横切った。

 すぐそこの家に駆け込み、同時に開け放された戸口から男の怒鳴り声が、戸外に響き渡る。

「ギンザルさんっ! あんた何時まであんなやつらをのさばらせておくんだっ!」

 道まで聞こえてきた声に、二人はお互いに顔を見合わせた。

「今、ギンザルって聞こえなかった?」

「ああ」

 さっき聞いたばかりの名だ。その男の家が、どうやらあそこらしかった。

 興味に駆られ、二人はギンザルの家に足を向ける。

 その間も、ギンザルを(なじ)る若い男の怒声は止まらない。

「やつらはコロシアムを利用して好き勝手してるんだぜっ! あんただってそのくらい判ってんだろ。なのに、一体どうしちまったんだよっ。魂でも抜かれちまったのかいっ!?」

 だが、それに対する返事は返ってこない。

 バムっと激しく何かが叩き付けられる。

「ちっ、見損なったぜっ!」

 と言い捨て、戸口まで来た二人の鼻先を掠めるように、先程の若者が飛び出して行く。

 それを見送ってそっと中を覗き込むと、白い半袖Tシャツを着た浮かない顔の筋骨逞しい男が、机の前に座ってモンスターボールを磨いているのが見えた。

 多分、この黒髪に見事な口髭の男がギンザルなのだろう。

 はーっと深い溜息をつき、心ここにあらずといった感じでボールを磨いている。

「何かあったのかしら?」

「さあな」

 こそっと二人は小さな声で話していたのだが、それを聞き付けたのか、男はふと顔を上げ、隠れるようにして戸口に居る二人に気付いた。

「誰だ、そこに居るのは?」

 見付かってしまった二人は、気まずそうに戸口に立つ。

「あ、あの——」

「キミ達は旅行者か?」

 ここいらでは見かけた事のない少年少女に、黒髪の男は太い眉を(ひそ)める。

「もしかしてコロシアムで試合をしたいのかね?」

「いえ、その……」

「それなら、明日直接コロシアムの受付けに行ってくれたまえ。私は今忙しくてね。悪いがキミ達の相手をしてるヒマはないんだ」

 言い掛けた少女の言葉を遮り、男は一方的に話を打ち切って二人を追い払った。全く取り付く島もない。

「どうなってんのかしら、この町」

「俺達は余所者だからな」

 旅行客商売で潤っているような所ならまだしも、こういった閉鎖的な町では大抵余所者は風当たりが強く、煙たがられるものだ。文句を言っても始まらない。

 二人はまたさっきの道に戻って行った。

 

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