ルナと入れ違いにシャワールームに入ったレオンは、しっかりとドアに鍵を掛け、濡れないように壁のフックにザックとロングコートを掛けた。
セーターを脱ぎ、壁に据え付けられた鏡を見て、微かに顔を
そこには鍛えられて逞しいとまではいかないが、すっきりと無駄のない引き締まった少年らしい上半身が映っていた。
そして、その胸から腹にかけて肌が青紫に変色している。あのマクノシタとのバトルで怪我を負った処だ。背中の方になるともっと酷い。
痛みもかなり酷かったが、肋や背骨が折れなかっただけでも喜ぶべきだろう。
けれどレオンはあの後、ルナの前では痛がる素振りは見せなかった。だから彼女も彼の怪我は大したことがないと思い込んでいる。
鏡に映る怪我を眺め、レオンはうっすらと口許に自嘲じみた笑みを浮かべた。
あのゴロツキが言ったように、馬鹿な真似をしたものだと思う。だが、後悔はしていない。エーフィの『リフレクター』では、あの攻撃を完全に防げない以上、これが最善だった。
ルナはあの戦闘マシンと化したポケモンを見分ける事ができる。黒いオーラというものが彼女には見えるらしい。
でも、自分にはそんなものは見えなかった。
元より疑わしきポケモンは全てスナッチしていく気だったのだ。けれどルナがいれば、無関係なポケモンをスナッチしなくて済み、その分相棒達の負担も減る。
だから彼女が怪我などして、その能力が使えなくなったら困るのは自分だ。
最初はウザいだけの存在だったが、利用価値があると判った以上、今後もたとえどんな事をしてもルナを護らなければならないだろう。面倒だが、これも自分の目的とブラッキー達の為だ。
——それにしても……
あの「王子様」発言には参った。あの時自分は余程マヌケた顔をしていたに違いない。
その時の事を想い出すと自分でも可笑しく、自然と笑いが込み上げてくる。
「っう………」
笑った拍子に胸と背中に激痛が走り、レオンは思わず呻いた。
それを何とか堪えると、服を全部脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。
手早く体を洗い、シャワーは壁に向かって出したままにしておく。
こうすれば、まだ体を洗っているようにみえるだろう。
そうやっておいてレオンは体を拭くと、怪我の手当をし、そろそろ切れ始めた痛み止めの薬を飲んだ。
これらはフェナスでルナが買い物をしている隙に、こっそり買い込んでおいたものだ。
この怪我の事はルナに知られたくなかった。自分の思いも寄らない突飛な言動をする彼女がこれを知ったら、どういう行動に出るか見当もつかないからだ。余計な事でこれ以上煩わされるのは御免だ。
手当てを終えて着替えの服を着込み、レオンはタオルで濡れた髪を拭きながら外に出た。
途端にエーフィとブラッキーが、甘えるような声を上げて足にすり寄って来る。
そんな二匹に笑みを浮かべ、レオンはタオルを肩に掛けてザックとコートを足許に置き、相棒達をまとめて抱き上げた。
エーフィとブラッキーが嬉しそうにレオンの顔を舐める。
レオンはくすぐったそうに
さっきの事を話そうと意気込んでいたルナは、そんな彼を思わず
——こんな
あの時ルナは他に頼る人がおらず、迷惑そうにするレオンに強引に
その後遭遇したスナッチ団員に裏切り者と言われ、何やら訳ありっぽい感じでもあった。だからだろうか、いつも気難しいというか不愛想な顔しかルナは見た事が無かったのだ。こんな風にレオンが笑えるなんて思いもしなかった。
「ねぇ、レオン。さっき想い出したんだけど」
と、自分もその仲間に加わろうとルナが声を掛ける。
途端に笑みを消し、レオンは彼女に視線を向けた。
「なんだ?」
冷ややかな視線と
「えっと…ね、前に、聞いた事が…あったの」
そこにあった筈の温かくも和やかな雰囲気が一瞬にして霧散し、ルナは途惑った。
気後れしたように、たどたどしく言葉を継ぐ。
「心を閉ざしたポケモンも、一緒にバトルしていると、だんだん心が開くって」
「そんな事でか?」
「ええ、普通のポケモンだってそうでしょ。一緒にバトルする事で、心を通い合わせていくんじゃない」
懐疑的なレオンに、ルナは調子を取り戻して力説する。
「あの黒いオーラのポケモンだって、きっとそうよ」
「………」
ルナの言葉に思案顔になったレオンは、相棒達を床に下ろすとベルトから二個のモンスターボールを手に取った。
ボールの開閉ボタンを押す。
パカリと開いたボールから
二匹は直立不動の姿勢を保ったまま、ピクリとも動かない。
ブラッキーとエーフィが声を掛けるが、それにも全く反応しない。まるで置物のようだ。
人によって無理矢理心を閉ざされ、自我を失った二匹は、トレーナーの指示がない限り、何時までもそうしているに違いない。
バトルするだけの戦闘マシン。こんなになってしまったポケモンが、ただ一緒にバトルするだけで、本当にルナの言うように心を開いて元に戻るんだろうか……
溜息をつきながら軽く