未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(8)

 翌朝ルナが目を覚ました時、レオンは既に起きていた。

 食事を終えたブラッキーとエーフィが傍でくつろぎ、レオンは相棒同様に食事を与え終わったマクノシタとマグマラシをボールに戻す処だった。

「あたし、もしかして寝坊しちゃった!?」

「いや、丁度朝食が来たところだ」

 ここは基本食事無しの素泊まりホテルだが、頼めば朝食だけなら用意してくれる。

 昨日警察署長に治安の悪さを聞かされたレオンは、念の為部屋を取るついでに、朝食も頼んでおいたのだ。

 このホテルから一歩出たら、何時バトルになるか分からない。そんな町中に空きっ腹抱えて行くなど御免だ。挙げ句に連戦にでもなったら目も当てられない。それに料金も昨日フェナスで買い込んだ物と同じくらいで、特に高くは無かったという事もある。

 テーブルの上に置かれたランチボックスの中には、トーストとゆで卵にソーセージとちょっと(しな)びた野菜のサラダが入っている。そして、缶コーヒーだ。

「これであの値段って、絶対ぼってるわよね」

「まぁ、こんなもんだろ」

 確かに同じ値段でも昨日の夕食とは雲泥の差だ。とはいえ水が豊かだったフェナスと違い、岩だらけの荒れ地で殆ど作物が育たないここでは野菜は貴重だし、肉類が入っているだけでも良心的だろう。

 文句を言うルナに素っ気なく応じ、レオンは早速それを口にする。味はまぁ、言わずもがなである。ルナはこれにも不満たらたらだった。

 朝食を済ませると、ホテルのフロントに金を払って貴重品以外の荷物を預け、昨日聞いた広場の場所を確認して、二人はホテルを後にした。

 更に町の奥を目指す。

 古びて朽ちかけた建物が立ち並ぶメインストリートを暫く歩いて行くと、急に道幅が広くなり、そのまま中央に白いペンキで二重の円を描いた広場のような場所に出た。

 ここが恐らく昨日ゴロツキ達が言っていた決闘広場だろう。

「ここは……」

 見覚えのある場所に出て、思わずルナの足が止まる。

「どうした?」

「レオン……。ここよ。あたし、この広場であのマクノシタを見たの」

 そして、その後であいつ等に捕まったのだ。

 確かめるように辺りを見渡し、ルナは不安そうにレオンの腕にしがみついた。

 あのゴロツキ達が言ったように、広場には何処となく胡散臭そうな若者達が暇そうに(たむろ)している。

「気を付けて。ただでさえこの町、普通じゃないんだから」

「ああ……」

 レオンもさり気なく辺りに視線を巡らせる。

 そんな二人に、入り口付近にいたくすんだ金髪の女が近寄って来た。

「あ~ら、なかなかイカした坊やじゃない」

 体の曲線を際立たせる赤いセーターに黒ズボンを履いた、すらりとしたプロポーションの二十代の色っぽい女である。

「そんなダッサ~い()より、あたいと付き合わない?」

「ちょっと、いきなり何よ、失礼ね。一体あたしの何処がダサいって言うのよ」

 ダサいと言われ、ルナはムッとなる。

「やだねぇ、ムキになっちゃって」

 少女のむくれた姿に、くすんだ金髪の女がケラケラと嘲笑(わら)う。

「そういう処がダサいっての。退屈凌ぎにちょっと揶揄(からか)っただけなのにさ。大体そんな坊や、あたしのシュミじゃないよ」

 完全に馬鹿にされている。

 ルナは顔を真っ赤にしてレオンの腕を引っ張った。

「レオンっ、こんなやつ、やっつけちゃってっ!」

 突然始まった二人の舌戦をやや唖然として見ていたレオンを、失礼な女の前に突き出す。

「お、おい……」

 元々ここにいる連中とはバトルする気だったが、女の口喧嘩からなし崩しにというのは、流石に想定外である。

「貴方も男なら、ここまで馬鹿にされて黙ってらんないでしょっ!」

「へぇ、この坊やがあたいをやっつけるって?」

 色っぽいくすんだ金髪の女は大げさに驚いた表情(かお)をし、そして、腹を抱えて爆笑した。

「何そのジョーダン。できるもんならやってみな。軽~く遊んであげるからさ」

 と、モンスターボールを取り出して放り投げる。

 それに応じてレオンも相棒達を出してはみたものの、今一気が乗らない。

 そんなレオンに、ルナは相手の女の出したポケモンを見るなり叫んだ。

「レオンっ。そのヨルノズク、黒いオーラのポケモンよっ」

「なにっ!?」

「ヨルノズク、あの黒いのに『空を飛ぶ』 レディバ、お前は白いのに『連続パンチ』だよ」

 驚くレオンを後目(しりめ)に、くすんだ金髪の女が余裕の笑みを浮かべて指示を出す。

 ——しまったっ、先手を取られた!

 まさかこんな何処にでもいるようなゴロツキまでもが、黒いオーラのポケモンを持っているとは、油断した。

 大きな茶色い翼を羽ばたかせ、ヨルノズクが空高く舞い上がる。

 こうなると相手が攻撃しに降りて来るまで、こちらには打つ手がまるでなくなってしまう。

「レディバにブラッキーは『かみつく』 エーフィは『リフレクター』だ」

 取り敢えず、相手の攻撃に備えて物理防御を強化する。

 指示を出すのは遅れたが、すぐさまエーフィはそれに応えた。

 キラキラと蒼く煌めく光がエーフィとブラッキーを取り囲み、物理攻撃を半減させる光の壁を形成する。

 直後、艶やかな赤色の中に黒い斑点のある硬い鞘翅(しょうし)を広げ、レディバは四本の拳を構えて突っ込んで来た。

 光の壁に威力を削がれながらも、技を出したばかりのエーフィに、連続してパンチを浴びせる。

 避けそびれたエーフィは身を縮こまらせ、じっとその猛攻に堪えた。

 威力が半減しているとはいえ、手数の多い攻撃は地味に痛い。

 相棒を護るべくブラッキーが、レディバに跳び掛かって思いっ切り噛み付いた。

 だが、硬い鞘翅(しょうし)に阻まれ、さほどダメージを与える事ができない。

 体を振ってブラッキーを振り落とすと、レディバはすっと後退する。

 そこへ、空高く舞い上がっていたヨルノズクが急降下し、ブラッキーの黒い体に鋭い(くちばし)を突き立てる。

 たまらずブラッキーが悲鳴を上げた。

 こちらも威力が弱められているとはいえ、ダメージは軽くはない。

「エーフィ、レディバに『念力』 ブラッキーはヨルノズクに『秘密の力』だ」

「ヨルノズク、黒いのに『催眠術』 レディバ、眠ったら『連続パンチ』でボコボコにしてやりな」

 両者から同時に指示が飛び交う。

 最初に技を繰り出したのは、エーフィだった。

 大きく首を振って、不可視の力をレディバに炸裂させる。

 中空で大きく仰け反ったレディバは、くるりと中空で一回転して何とか体勢を立て直す。

 ブラッキーを見据えていたヨルノズクの双眸が、(まばゆ)く光る。

 その光を見た途端、ブラッキーの意識が遠のき、ドサリとその場に倒れ伏した。

 『催眠術』に掛かって眠ってしまったのだ。

 このままでは、次の相手の攻撃でブラッキーは格好の的である。

「起きろ、ブラッキーっ!」

 レオンが大声で呼びかける。

 眠りが浅かったのか、ハッとブラッキーは目を覚ました。

 しかし、レディバはすぐそこまで迫っていた。

 拳を振り上げ、起きたばかりのブラッキーに襲い掛かる。

「エーフィ、レディバに『念力』だ」

 すかさずレオンが指示を出し、それに素早くエーフィが応える。

 横手から硬い鞘翅(しょうし)の間から垣間見える背中に、額の紅玉に収斂した思念の力を叩き込む。

 弱い背中の部分に強烈な攻撃を受けてはじけ飛んだレディバは、流石に今度は堪え切れずにそのままポトリと地に落ちる。

「ちっ」

 くすんだ金髪の女が忌々しげに舌打ちする。

 ——これからだってのに、あれくらいの攻撃でネを上げちゃって使えないヤツ。

「ズバット、出番だよ」

 女が代わりのポケモンを呼び出す。

 体長一メートル弱の、大きな耳を持つ暗青色の体をした、毒と飛行タイプを併せ持つポケモンだ。

 耳障りな鳴き声を上げ、ズバットは(せわ)しなく暗青色の羽根をばたつかせる。

「ヨルノズク、も一度黒いのに『空を飛ぶ』 ズバット、あの白いのに思いっ切り噛み付いてやりなっ」

くすんだ金髪の女が指示を出す。

 即座にレオンも指示を飛ばす。

「エーフィ、ズバットに『念力』 ブラッキーはヨルノズクの攻撃を躱して『かみつく』だ」

 指示を受け、エーフィとズバットが同時に動いた。

 エスパータイプのエーフィは悪タイプ技の『かみつく』に弱い。毒タイプでもあるズバットは、エスパー技に弱かった。

 どちらかが、先に技を喰らった方が倒れる。

 だが、先に届いたのは思念の力を相手に飛ばす『念力』の方だった。

 不可視の力に自ら飛び込むように喰らい、ズバットはつんざく様な悲鳴を上げ、力なく地に落ちる。

「ウッソォ~っ」

 相手が倒れると信じて疑わなかった女は目を剥いた。

 一方空高く飛び上がったヨルノズクが、再びブラッキー目掛けて急降下する。

 それを待ち構えていたブラッキーは、軽やかに横っ飛びに跳んで躱す。

 同時に身を翻し、地面に降り立ったヨルノズクの翼に思いっ切り噛み付いた。

 甲高い悲鳴を上げ、ヨルノズクは片方の翼を力なくだらりと垂れ下げる。

 これでもう飛べなくなった。

「くっ、ヨルノズク、『ダークラッシュ』だよ。どっちでもいいからやっちゃいなっ!」

 しかし、翼が傷付いた所為でさっきより動きが鈍い。

「攻撃を躱してエーフィは『手助け』 ブラッキーは『秘密の力』だ」

 レオンの指示に、片方の翼を羽ばたかせて突っ込んで来たヨルノズクを、二匹はひらりと左右に躱す。

 次いで相棒の助けを借りて威力の増した攻撃を、ブラッキーが叩き込む。

 悲痛な声を上げてヨルノズクが崩折れ、弱々しく翼をばたつかせた。

 今がチャンスだ。

 間髪を()れず、レオンは肩のマシンでスナッチボールに変化させたモンスターボールをヨルノズクに投げ付ける。

 黒いオーラのポケモンを呑み込んだボールは、二度三度揺れて静かに止まった。

「何よこれっ、どうなっちゃってんのっ!?」

 自分のボール以外にポケモンが入ってしまうなんて信じられない。

「やったわっ、レオン!」

 小躍りして喜ぶルナは、呆然とする色っぽい女に大威張りで胸を張る。

「どう、人を馬鹿にすると、こーゆー目に合うのよ」

 どうもルナは、黒いオーラのポケモンをスナッチできた事より、自分達を馬鹿にした色っぽいくすんだ金髪の女の鼻を明かせた事の方が嬉しかったようだ。

 レオンは我関せずに、ヨルノズクのボールを拾い上げた。

 

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