未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(10)

 突然決闘広場に現れた余所(よそ)者の少年が、ここで幅を利かせていたゴロツキ二人と連戦して撃破した上に、彼等自慢のポケモンをバトルで奪っ(スナッチし)たのだ。

 そこに居合わせた連中はもとより、バトルを聞きつけてやって来た他のゴロツキ達もそれを見て興奮のあまり沸きに沸いた。

「すげーっ、まただぜ」

「とんでもねぇーやつだな」

 ゴロツキ達は目を丸め、口々に驚きの声を上げる。

 だが、それにビビるような奴はここにはいなかった。

「次はオレだ」

「いや、オレの方が先だぜっ」

 我先にと勝った条件をライダースジャケットの若者と同じにして、レオンにバトルを申し込む。

 手持ちの殆どのポケモンが満身創痍の今、たとえあの凄いポケモンを持っていたとしても、この少年を倒すのはそう難しくない。あのポケモンは攻撃力が強い分、技の反動で自らを傷付けるのは周知の事実だ。回復させなければ、勝手に自滅してくれる。その時に自分の手持ちポケモンが、一匹でも残っていればいいのだ。

 それで名を上げられると共に、あの凄いポケモンも手に入る。こんな美味(おい)しい話に乗らないテはないだろう。

 ゴロツキ連中の思惑など知らないルナは、予想外の展開に困惑の色を浮かべてレオンに目を向ける。

 とても断れる雰囲気ではない。それにまだ何一つ肝心な話を聞いてもいなかった。

「——判った。だが、その前に回復マシンは何処だ?」

 返事を返すと、レオンは自分にポケモンを取られた二人に向かって訊いた。

 常日頃ここでバトルしているなら、アイテムで傷を治すのは金が掛かり過ぎる。ポケモンを回復する為の機械か何かあるはずだ。

「誰がオマエなんかに——」

「おまえらだって、あのポケモンは苦労して手に入れたんだろ?」

 反駁する茶髪の若者の声を遮り、レオンは周りのゴロツキを顎で示す。

「それをこいつらは、楽して手に入れようとしてるんだ。おまえら我慢できるか?」

「っ!?」

 確かにそうだ。このまま手持ちのポケモンを回復せずに連戦すれば、いずれこの小僧は負けるだろう。

 そうなれば、あのポケモンを手に入れた事で、こいつ等にデカい顔していた自分達が、今度はされる側になるのだ。

 現に小僧にバトルを申し込んでいる連中は、バトルする前までは自分達に媚びへつらっていたのに、今では無言で自分達を睨み付けている。

 負け犬が余計な事を言うんじゃねぇ。と——

 自分達を負かした小僧の言いなりになるのは業腹だが、これから先楽してあのポケモンをゲットした格下の奴等にデカい顔されるのは、もっと我慢ならない。

「……こっちだ」

 チラリと互いに視線を交わすと、茶髪の男が握り締めていた空になったモンスターボールを投げ捨て、案内する。

 背後で立て続けに盛大に舌打ちする音がした。

 その音に溜飲(りゅういん)を下げ、ライダースジャケットの若者は、自分を負かした少年を広場脇の朽ちた倉庫に連れて行った。

 その中に上部に六つの窪みのある古びた機械が一つ置いてあった。

 ポケモンの回復マシンだ。簡易的な治療ができる医療機械で、大怪我でもない限り、ボールに入れたままポケモンを全回復させられる。

 レオンはそこに相棒達やスナッチしたポケモンのボールを置き、全てを回復させた。

 広場に戻ると、苦虫を嚙み潰したような顔をするゴロツキ達を見回し、最後に赤いセーターを着たくすんだ金髪の女に目を留める。

「じゃあ、まず先におまえからバトルの報酬を貰おうか」

「報酬だって?」

 くすんだ金髪の女が思いっ切り眉根を寄せる。

 確かにストリートバトルでは、お互い何かを賭けて勝負する。普通は手持ちの金だが、さっきバトルした茶髪の奴はヨルノズクを条件に出してきた。

「あたしはあんたにポケモン取られたんだから、もうそれで十分だろ」

「あれは俺が勝手に奪ったんだ。報酬とは違う」

 それではもしスナッチしなかったら、報酬は無しという事になる。

「成り行きでしたバトルとはいえ、バトルはバトルだ。ルールには従ってもらう。——おまえもだ」

 と、茶髪の若者にも言う。

「おまえは条件にヨルノズクを出したが、俺はまだ出してないからな」

「じゃあ、オマエの条件はなんだよ」

「有り金全部」

「はぁ!?」

 バトルした二人は元より、そこにいるゴロツキ全員が目を剥いた。

「ぜ、全部って、ぼり過ぎだろっ!」

「バトルで負けたら全てを失う。ストリートでは常識だろ」

「いや、そんな常識知らねーし」

 何処の鬼ルールだよ。それ。

 当たり前のような顔をして言う少年に、負けた二人は声を揃えてツッコんだ。

「そうだそうだ。負けたら出すにしても手持ちの半分くらいだろ」

「オレらだって、そこまでしねーぞ」

「どこまでがめついんだよ」

「ゲオルの親父のラーメン食えなくなるだろ」

「パオラ亭の牛丼食うの、オレ楽しみにしてんだからな」

 と、かなり私的な処も交えて周りの連中も口々に文句を言う。

 幾ら何でもそんな条件でバトルなど、絶対にやりたくない。と——

「へぇ、俺のいた所と違って、パイラは随分と優しいんだな」

 レオンは驚いた様に目を軽く瞬かせた。

 あまりの文句の多さに、一考するように顎に手を添えて思案顔になる。

 それを見て、ゴロツキ達は互いに目配せし合った。

 ——よし、このままパイラの常識を押し通して、こっちの都合のいいような条件を呑ませてやる。

 そうこそこそと相談し合うゴロツキ達に、暫くしてレオンは考えをまとめて口にする。

「じゃあ、手持ちの八割で許してやろう」

「レ、レオン。それもちょっと——」

 取り過ぎなのではと、ルナがこそっと声を掛けると、レオンは真顔で言い返した。

「金が要るんだ。おまえの分を入れると余計にな」

 何をするにも金は必要だ。これ以外稼ぐ手立てがない以上、情けは無用。稼げる時に取れる所から取れるだけ搾り取るのは当たり前の事だ。

「そ、そうね。お金は必要よね」

 暗にこんな所で野宿したいのかと言われれば、全面的にレオンの財布の世話になっているルナは、口を(つぐ)むしかない。

「ただし、俺が使うのはこいつらだけだ」

 レオンは自分の足許に相棒達を出して示す。

 そして、次にスナッチしたポケモンを出し、広場の出入り口——自分達が来た道と更に奥へと続く道の手前に二体づつ立たせ、周りのゴロツキ達に見せびらかす。

「俺に勝てば、それに加えてこいつら全部自分の物になるんだ。条件としては悪くないだろ?」

 レオンの手持ちの金八割発言に、また文句を言い掛けたゴロツキ達がそれを見てゴクリと喉を鳴らし、仲間内でお互いの顔を窺い合う。

 アッシュブロンドの少年の言うように、どんな条件だろうと要は勝てばいいのだ。しかも攻撃力の高いあの凄いポケモンは使わないと言う。

 今ではあのポケモンは、ゴロツキ達の間では一種のステータスになっていた。あれを持っているだけで、他のゴロツキより一段格上に見られるのだ。それが一匹ではなく一気に四匹も手に入るかもしれないとなると、これ以上の好条件はない。

「わ、判った。その条件でいい」

 パイラの常識とか、こっちの都合のいい条件などと言ってる場合じゃない。

 欲に目が眩んだゴロツキ達は、乗り遅れては大変とばかりに、我先にとレオンが出した条件を呑んでいった。

 

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