未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(14)

 コロシアムの中に入ると、二人はすぐに受付けのカウンターに向かい、出場の手続きを頼んだ。

 だが、カウンターの水色の制服を着た受付け嬢から返ってきた返事は、それができないとのことだった。

「え~っ、受付けできない!?」

 コロシアムの受付けカウンターに身を乗り出し、ルナは思わず声を張り上げる。

「はい、只今風車小屋からの電気の供給がストップして、コロシアムが停電していますので、それが復旧しない限り、バトルできないんです」

 申し訳なさそうに受付け嬢が説明する。

「そんな~」

 今日こそはと意気込んで来たのに、これでは肩透かしもいいところだ。

「その風車小屋は何処にあるんだ?」

 ガックリするルナを放って、レオンが受付け嬢に訊く。

「コロシアム前の橋を渡って右手にある、大きな風車を付けた鉄柱が脇にある建物がそうです」

「橋を渡って右か……」

「どうするの?」

「行ってみる」

 風車小屋で何かあったからこそ、電気の供給がストップしたのだ。だったら、ここでうだうだ言っているより、そこへ行って電気が途絶えた原因を突き止めた方が、遥かに建設的だ。

 コロシアムを出ると、探すまでもなく風車小屋が見えた。橋の向こう側の、あの地面の裂け目のすぐ脇にそれは建っていた。

 そして、受付け嬢の言った通り、建物の脇には太い鉄柱が高くそびえ立ち、その先端に止まって動かない巨大な錆びた鉄製の風車がついている。

 二人が橋を渡って風車小屋に行くと、いきなり小屋の扉が開いた。

「だ、誰か……。大変なんだ。誰か、来てくれ……」

 中から黒縁眼鏡を掛けた男が、助けを求めてヨロヨロと飛び出して来て二人の目の前に倒れる。

「どうした?」

 レオンが抱き起こして訊くと、男は血の滲む額を押さえて二人に訴えた。

「な、中におやっさんが……。シルバさんに——」

「判った、待っていろ」

 男の途切れ途切れの言葉と姿に大体の事情を察し、レオンは男をその場に残し、扉の開いた風車小屋の中を窺った。

 人の動く気配がないのを確かめ、慎重に中に入ってみる。

 その後にルナも続いた。

 中は止まっている巨大な幾つもの歯車と、古ぼけたメーターや装置が所狭しと並んでいたが、人らしき姿は見当たらない。

 二人が小屋の中を油断なく隅々まで見て回ると、歯車の間を縫うようにあるメンテナンス用の通路の奥、その突き当り付近に茶色のオーバーオールを着た白髪の老人が、うつ伏せに倒れていた。

 さっきの男が言っていた「おやっさん」だろう。

 二人は老人に駆け寄り、ルナが声を掛ける。

「大丈夫ですか、おじいさんっ」

「……うっ。あ、ああ……、大…丈夫だ。いたたっ」

 今まで気を失っていたらしく、ルナの声に老人は気が付いて声を上げた。

 だが、起き上がろうとして、後頭部を押さえて痛そうに顔を歪める。

 どうやら何かに打ち付けたらしい。

 二人の手を借り、後頭部を押さえてゆっくりと立ち上がった老人は、周りにある歯車をぐるりと見やり、その一角に目を留めた。

 噛みあうように幾つもの巨大な歯車ある中で、そこだけ不自然にぽっかりと空間が空いている。

「シルバの奴め、歯車を一つ抜き取って行きやがった。これじゃ、コロシアムに電気を送れん」

 深刻な表情(かお)をして老人が呻く。

 どうやらコロシアムの停電はこれが原因らしい。

 そこへ、知らせを受けたのか、一昨日行った警察署の署長と若い警官が駆け込んで来た。その後によろけながらさっきの黒縁眼鏡の男が付いて来る。

「おやっさんっ! どうした、大丈夫かっ!?」

「おやっさん……」

「ああ、俺は大丈夫だ」

 署長に応えた老人は、心配そうに黒縁眼鏡の男をみやる。

「お前も額の傷は大丈夫か?」

「はい、なんとか……」

「それで、一体何があったんだ?」

「歯車を一個盗られちまったんだよ」

「歯車を?」

 一瞬眉根を寄せたヘッジは、ハッとなった。

「今朝からのコロシアムの停電はその所為か」

「いやはや面目ない。相手がシルバだったから油断しちまったさ」

 心配して駆け付けた署長に、老人がすまなそうに応える。

 それを聞いた若い警官が、驚きの声を上げた。

「えっ!? シルバって、ギンザルさんの弟分だろ? 何故こんな事を……」

「それは、こっちが聞きてぇよ」

 渋面を作り、顎鬚に手を添えて暫し考え込んで老人は、思い出したようにポツリと呟いた。

「そういやぁ……コロシアムなんかなくなればいいっ! とか叫んでたな」

「コロシアムが……」

 レオンとルナは思わず顔を見合わせた。

 一昨日のギンザルの所に怒鳴り込んだあの若者の事を思い出す。

 やはり、あそこには何かあるのだ。

「心配かけたな、若いの。ありがとよ、俺はもう大丈夫だ」

「おや、キミ達は一昨日の。まだこの町に居たのか」

 老人が止まっている歯車の奥の方に声を掛けた事で、ヘッジは漸く二人に気付いた。

「ええ、コロシアムに出場しようかと思って」

 歯車の陰から出て、ルナが応える。

「でも、停電しちゃって、今コロシアムやってないんです」

「ああ、このままコロシアムが停電しちまったままじゃ、皆がっかりする」

 なにしろ、この町には娯楽らしい娯楽がないのだ。その上コロシアムが営業できないとなると、皆何の楽しみもなくなってしまう。

「それでモノは相談なんだが、すまんが持ち去られた歯車を、見つけて来ちゃくれないか?」

 老人がレオン達に声を掛け、並んでいる巨大な歯車の中の不自然に空いた空間を示す。

「それがないと風車が動かず、電気が作れん。それじゃ、おまえさん達も困るだろ?」

「ああ」

「ユイト、ワシ達も歯車探しをするぞ」

 余所者にだけに任せておくわけにはいかない。

 ヘッジは部下の若い警官を引き連れて、すぐさま風車小屋を出て行き、二人もその後に続いた。

 しかし、探そうにも、至る所に廃材や壊れた機械などが投げ捨てられ、町全体が巨大なガラクタ置き場と化しているこの中で、たった一つの歯車を探すのは容易ではない。

 唯一の救いは問題の歯車が、ある程度大きいということだろう。小さかったら絶対見つけるのは無理である。とにかく片っ端から当たっていくしかない。

 二人は署長達が向かった町の奥とは反対方向の、町の出口に向かうように歯車を探して行った。

「ねぇ、レオン。ちょっとあの(ひと)に訊いてみない? シルバって人がここを通ったかどうか」

 ルナは通りを歩いてこっちに来る黄土色のトレーナーに青いオーバーオールを着た鉱山夫らしき男を示した。

 何処にあるか判らない歯車を闇雲に探すより、それを盗って行ったシルバを捜した方が早そうだ。

「あの、すいません。少し前にここをシルバって人が通って——」

 ルナは鉱山夫の男を呼び止めて訊いてみたが、男は最後まで言わせなかった。

 最初彼女を見た時は普通だったのだが、その後ろにいるレオンを見るなり、形相を変えて睨み付けてきたのだ。

「おまえら、ミラーボの雇った新しいゴロツキだなっ!?」

「ミラーボ? ここにあのミラーボって人が居るの?」

「ふんっ、そう言って誤魔化そうたって無駄だ。こいつのその(すさ)んだ目は、あいつらと一緒だ」

 鉱山夫の男は青いロングコートの少年を()め付け、追っ払うように手を振る。

「とっととどっかへ行ってしまえっ、おまえらにやる金なんぞないわっ!」

 そう怒鳴り散らして去って行く。

 その決め付けた言い方に、ルナは憤然となった。

「何よ今のっ! 酷いわっ、レオンは——」

「よせ」

 鉱山夫に追いすがって抗議しようとするルナを引き留め、レオンは歩き出す。

「でもレオン。あんな事言われて平気なのっ!?」

「本当の事だからな」

 ずっとストリートバトルで生計を立てていた自分は、そこいらのゴロツキと大差ない。それに少し前には、スナッチ団というならず者どもに手を貸していた。

「でも、今は違うでしょ。ポケモンに酷い事するやつらから、あの子達を救ってあげてるじゃない」

「だが、やってる事は前と一緒だ」

 あいつらに雇われていた時と同じ、言われるがまま人のポケモンをスナッチしている。

「レオン……」

 自嘲気味に言うレオンを、ルナは茫然と見やった。

「本当はイヤだったの? 黒いオーラの——ダークポケモンをスナッチするの」

 何も言わないから、自分と同じ気持ちでいるのだと思って、彼の気持ちなど考えた事もなかった。

「あたしが無理に頼んだから、仕方なくスナッチしていたの?」

「違う。俺は元々その為に、このスナッチマシンを手に入れたんだ」

「それって、どういう事? レオン、もしかして貴方、最初からあのポケモンの事知っていて——」

「そんな事より、早く歯車を探すぞ」

 驚いて訊き返してきたルナの言葉を強引に遮り、レオンはふいっと顔を(そむ)けた。

 目に留まった廃材置き場に足を向け、歯車がないか調べ始める。

 いかにものわざとらしいその態度は、それ以上の詮索を拒んでいた。

「レオン……」

 ——まただわ。また何も言ってくれない……

 廃材置き場を調べるレオンの後姿を見詰め、ルナは淋しくなった。

 一緒にいるのだし、二人で協力して頑張っているんだから、お互いもっと分かり合う為に、少しでもいいからもっと色々と話して欲しかった。でもあんな頑なな態度を見ると、無理矢理聞き出そうとしたら、レオンは自分の前から姿を消してしまうのじゃないかと思えて、ルナはどうしてもそれ以上踏み込めなかった。

「ここには無いみたいだ」

 一通り廃材置き場を調べ終わったレオンが、戻って来て言う。

 その態度はさっきの事などまるで無かったかのように、何時もと変わらない。

「そ、そう……」

「ああ」

 気まずそうにするルナに頓着せず、レオンは歩き出す。

「ま、待って、レオンっ」

 このまま一人でレオンが何処かへ行ってしまいそうで、慌ててルナは後を追った。

 

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