通りを町の入り口の方へ歩きながら、目に付いた廃材の山を片っ端から探してみたが、結局それらしき物は何処にもなかった。
他を探している署長達からも、見つかったとの連絡はない。
「どうしよう……」
途方に暮れ、ルナは町の入り口の朽ちかけたゲート前から、パイラの町並みを見返した。
ふと、その一角の薄汚れた白壁の建物の入り口上にある、黒いペンキで殴り書いたような文字が目に入る。
—FORTUNE TELLING—と。
一昨日ここを通った時は暗かったので、気付かなかった。
「運勢、占います……?」
小首を傾げ、ルナはその文字を読んだ。
「あそこって、もしかして占い師の家なのかしら……」
いかにもそれっぽく、入り口の傍に魔女の帽子を模した看板が付いている。
暫しそれを眺めていたルナは、不意にいい事を思い付いたとばかり、ポンっと手を打ち鳴らした。
「そうだわ、レオン。歯車の行方、占ってもらいましょ」
「歯車をか?」
占うと書いてあるのは、人の運勢の事だろう。歯車なんてどうやって占うのか。いや、それ以前にレオンは占いなど信じない
「だって、これ以上探しようがないじゃない。だったら試しに占ってもらってもいいでしょ」
ルナは気の進まないレオンの腕を引っ張り、そのまま建物の中に入って行く。
中はこじんまりした部屋だった。奥の壁には赤いカーテンが掛けられ、その下から覗く青い壁には星が描かれていた。右側の壁際には何やら怪しげな本がびっしりと詰まった本棚が、左側奥には大小様々な壺が所狭しと置いてあった。
そして、部屋の中央に置いてある大きな半透明のガラス張りのテーブルの向こうには、大きな木製の椅子があり、そこに黒いドレスの肩に紫のケープを
二人が入って来たのも気付かずに、ぐっすりと眠りこけている。
起こしてもいいものか少し迷ったが、目覚めるのを待っていたら何時になるか分からない。
仕方なくルナは、そっと眠る老婆に声を掛けた。
「あの……おばあさん?」
「ん? あぁ……」
遠慮がちな少女の声に、ハッと老婆が目を覚ました。
「出物、失せ物、尋ね人。何でもござれのビーディ占いの館へようこそ」
居眠りしていたのを誤魔化すように、何時もの決まり文句を口にする。
それから老婆は、テーブル上の赤い台座の上に乗る水晶玉を通して二人を見、ニンマリと笑った。
「何か探し物かね、お嬢ちゃん?」
「え、えぇっ!? まだ何も言ってないのに、どうして判ったの?」
「ふぉっふぉっふぉっ、このビーディ様は、何でもお見通しだよ」
驚く少女に自慢げに応え、老婆は訊き返した。
「それで、失せ物の
「ええ、町中探しても見つからなくて、何処にあるか判りませんか? 風車小屋の歯車が」
「ふ~む……」
ビーディは水晶玉を覗き込み、何かを探る様に目を細める。
「確かにもうこの町にはないね。……ここより東北の砂漠の真ん中、天を突いてそびえる物。その下を探すんだね」
「砂漠の真ん中に、天を突いてそびえる物……?」
何の事かさっぱり判らない。
「あの、おばあさん。もうちょっと判りやすく言って欲しいんだけど……」
「おやそうかい。あたしの占いは判りやすいって評判なんだけどねぇ」
片眉を軽く吊り上げて困惑する少女を見やり、ビーディは傍らの少年を顎で示す。
「ほら、お連れさんは判ったみたいだよ」
「え? レオンが?」
「ああ、多分あそこだ」
レオンは老婆の示した場所を確信し、占いの代金をテーブルの上に放ると
ルナはまだ何が何だか判らなかったが、とにかく老婆に礼を言って慌ててレオンの後を追った。
そのまま町のゲートを抜けてサイドカーを入れた倉庫に向かう。
鍵を開けて中に入ると、一昨日置いたままのサイドカーがあり、ルナはホッと息をついた。やはりこの町に入る前にあんな事を聞かされると、大丈夫だと思っても、こうして確認すると安堵する。
レオンは倉庫から引っ張り出したサイドカーに手早く跨り、ルナが側車に乗り込むと同時にサイドカーを発進させた。
「一体、歯車は何処にあるの?」
走るサイドカーの側車の中からルナが訊く。
レオンは彼女に何の説明も無しに、サイドカーを一昨日来た道を戻る様に、フェナスシティよりやや北寄りの方角に走らせていた。
だが、やがて前方に見えてきたそれに、何処に向かっているのかレオンの返事を聞くまでもなくルナは合点がいった。
不意に、荒涼とした砂漠のど真ん中に、天にも届きそうな巨大な建築物が姿を現したのだ。
一昨日フェナスシティからパイラタウンに向かう途中、夕日の中に黒々とそびえ立っていたあの建造物だった。
話によるとそれはまだ工事中で、完成すると天辺にコロシアムのある超巨大タワーになるのだそうだ。
あの占い婆さんが言っていた、砂漠の真ん中にある天を突いてそびえる物とは、この工事中のタワーの事に違いなかった。
レオンはその工事現場手前にサイドカーを停め、中に入った。
「おいこら、そこの二人。勝手に入っちゃいかん」
黄色いヘルメットを被り、灰色の繋ぎの服を着た作業員がレオン達を見咎め、注意する。
「ったく、さっきも何処からか若造が来て、変なもの捨てて行きやがるし。ここはゴミ捨て場じゃねぇってんだよっ」
ブツブツと言う作業員のぼやきに、二人は顔を見合わせた。
「あの、そのゴミっていうか、変なもの。今何処にありますか?」
灰色の繋ぎの作業服の男は、眉根を寄せて少女を見返した。
「あんた達、アレを引き取ってくれるってのか?」
「ええ、それを取りに来たんです。あたし達」
「それなら、そこの角を曲がった奥だ。邪魔だからさっさと持ってってくれ」
そう言うと、作業員は忙しそうに作業に戻っていく。
言われた通りに角を曲がって奥に入ると、そこにはよく磨かれた一抱え程はある大きな歯車が一つ、所在無げに転がっていた。
盗まれた風車小屋の歯車である。
「凄いっ、おばあさんの占い、当たったわ」
「単なる偶然だろ」
自分はここを思い付いたが、あの占いにしても、取りようによってはどうとでも取れる。
「じゃあ、これを持ってパイラタウンに戻りましょ」
「いや、その前に町外れのスタンドに寄って行く」
「あの機関車の?」
「ああ」
ここからならパイラから行くよりも近い。
昨日スナッチしたダークポケモンは思った以上に多かった。決闘広場だけであれだけの数がいたのだ。あの緑髪のゴロツキの言葉が本当なら、まだ他にもダークポケモンを持っている奴はいるに違いない。それがどの程度なのか判らない以上、モンスターボールの補充はできる時にした方がいい。それにあそこのスタンドにあるボールが、何時無くなるとも限らない。
「そうね、おじいさんには悪いけど、もう少しだけ待ってもらいましょ」
側車に乗り込んだルナに歯車を渡すと、レオンはサイドカーを東に向けた。