未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(16)

 視界を遮るものが殆どない広々とした砂漠の中、西を目指してサイドカーを駆るレオン達二人は、パイラに戻るついでに道中にあるフェナスシティに寄った。

 バックレーにあの黒いオーラのポケモンが「ダークポケモン」と言うのだと教え、その後進展があって何か情報を掴んだか聞くために。

 だが、生憎と市長は留守で会えなかった。代わりに円形広場の噴水の周りでジョギングしていた若者に、あれからパイラのゴロツキはぱったり来なくなったと教えて貰った。

 

 パイラタウンに着くと、またサイドカーを倉庫に入れて鍵をしっかりかけ、二人は見つけた歯車を持って町の奥にある風車小屋へと急いだ。

 風車小屋の前では、額に包帯を巻いた黒縁眼鏡の男が、浮かない顔をしてウロウロしていたが、歯車を持った二人の姿を見ると、パッと表情を明るくして駆け寄って来た。

「歯車見つかったんですね。良かった。署長さん達も中々戻って来ないんで、心配してたんですよ」

 安堵の息をつき、黒縁眼鏡の男は嬉しそうに言う。

「さぁ、早く中のおやっさんの所へ持って行きましょう」

 足取りも軽やかに、歯車を持つ二人を連れて風車小屋の中に入る。

 そこには先客がいた。

 黒髪に見事な口髭を生やした筋骨逞しい、いかにも鉱山町に相応しい風体の男である。一昨日力なく溜息をついてモンスターボールを磨いていた、あのコロシアムの経営者のギンザルだ。

「すまなかったな、おやっさん。本当に大丈夫か?」

 逞しい体を丸め、眉尻を下げてギンザルは白髪の老人に詫びを入れる。

 そんな彼の背を力強く叩き、茶色のオーバーオールを着た老人はぐっと腰を伸ばした。

「ほれ、この通り、わしは大丈夫だ。心配しなくていいさ」

「そうか、それならいいんだが……」

 ホッと息をつきつつも、ギンザルは沈痛な面持ちのままだ。

「しかし、シルバの奴、どうしてこんな事を……」

「あいつなりに悩み抜いてやった事だろう。別に責めたりしねぇさ」

 ギンザルの呟きに、老人は彼を(いた)わる様に優しく言う。

「それよか最近、おまえさんが可愛がっていたポケモンを見かけないが、病気にでもなったのか?」

「い、いや、それはその……」

 途端にギンザルは何故が狼狽(うろた)えて口籠る。

「何かあったのか?」

「おやっさんっ、歯車が見つかりましたよっ」

 ギンザルの態度を不審に思って問い掛ける老人の声に、喜び勇んで中に入って来た黒縁眼鏡の男の声が被さる。

 老人とギンザルが振り返ると、そこに眼鏡の男に連れられて、歯車を持った少年少女が立っていた。

「お、おまえ達は、一昨日の……」

 二人を見て、ギンザルは目を見開いた。

「まさか、おまえ達が歯車を見つけて来てくれたのか?」

「ほれ、礼を言ってやりな」

 ギンザルにそう言うと、老人は二人を自分の許に招き、所狭しと小屋の中に並ぶ歯車の一角、ぽっかりと歯車一つ分の空間が空いている場所を示す。

「ほれ、そこに歯車を嵌め込んでくれや」

 老人に言われた通りにレオンがそこに歯車を嵌め込むと、歯車はぴったりとそこに収まった。

 その後老人は慣れた手つきでその歯車だけでなく、全ての歯車を点検していく。

 手早くそれを済ませると、老人は満足そうに頷いた。

「よっしゃっ、いくぞ~っ、歯車回して三十年っとくらぁ~っ」

 軽快に叫びながら、脇にあった始動レバーを思いっ切り下ろす。

 ガタンッという鈍い音と震動が床を揺らし、端から順に一つまた一つと歯車がゆっくりと動き出す。

 やがて、全ての歯車がそれぞれの回転に合わせて滑らかに回り出し、外の風車も回転し始める。

「わっはっは、やっぱり歯車はこうでなくちゃいけねぇや」

「これでもう大丈夫です。ありがとうございました」

 豪快に笑う老人と共に黒縁眼鏡の男も喜び一杯に礼を言う。

「これでコロシアムの方にも電気が送れます」

「そんな、当然の事をしたまでだから」

「いや、本当にありがとう。助かった」

 黙然と佇む少年と照れる少女に礼を言いながら、ギンザルは二人を見定めるように鋭い眼光を向ける。

 後ろめたい事のある町のゴロツキはこれで大概怯むのだが、目の前の二人は臆することなくそれを受け止めていた。

「どうやらおまえ達は、町に居座るゴロツキどもとは違うようだ」

 ふっと顔を綻ばせたギンザルは、再び表情を引き締めて二人を見る。

「実は頼みたい事があるのだ。再開したコロシアムに出場してもらいたい。そして、バトルで勝ち抜いた後、そこで何が起きているか確かめて欲しいのだ」

「確かめるって、どういう事ですか?」

 確かギンザルはコロシアムの経営者の筈だ。自分が経営するコロシアムでの事は普通把握しているものだろう。

「わしは理由(わけ)があって、今はコロシアムには近づけなくてな。何が起こっているのか、知る(すべ)がないんだ」

 疑問に思う少女にギンザルは力なく(かぶり)を振り、そして、その傍らに立つ少年に視線を向ける。

「おまえが只のトレーナーじゃない事は一目見れば判る。おまえならきっと優勝できるだろう。だから、すまんが引き受けてくれないか?」

「引き受けるもなにも、元々出場するつもりだったのよ。ね、レオン」

「ああ」

「そうか、引き受けてくれるか」

「ええ、優勝して、そこで何が行われているのか、バッチリ見て来るわ」

 安堵するギンザルに、ルナは胸を張って請け合った。出場するのはレオンだが。

 

 

 風車小屋が直った事で電気が戻ったコロシアムに二人は戻り、いざ出場の手続きをしようとしたら、またも受付けの女性にとてもすまなそうに頭を下げられた。

「申し訳ありません。本日はメンテナンスの為終日コロシアムは使用できません」

「えぇ~っ、停電直ったんでしょ。それなのになんで!?」

「ええ、そうなんですが、何しろここはドーム自体がボロいものですから、安全面を考えると一度止まった物が正常に動くかどうか確認しなければならないんです」

 理路整然と説明され、ルナはそれ以上何も言えなくなった。

「じゃあ、明日ならいいんだな?」

「はい、明日ならメンテナンスも終わっていますので」

「判った」

 となれば、ここにはもう用はない。

 レオンはさっさと見切りを付けて(きびす)を返す。

「あ、待ってよ、レオンっ」

 相変わらず相談も無しに一人で決め、返事も待たずに一人でさっさと行ってしまう。

 ルナは置いて行かれないように、慌ててレオンの後を追った。

 

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