未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(17)

 二日連続でフラれた二人は、ギンザルに頼まれた事もあり、今日こそはと意気込んでコロシアムのドームに向かった。

「ようこそ、パイラコロシアムへ。メンテナンスも終了しましたので、今日からまたバトルの受付けを再開いたします」

 コロシアムの受付け嬢が、二人に向かってにこやかに言う。

「勝ち抜きバトルに参加されますか?」

「ああ」

「では、出場ポケモンは、今お持ちのポケモンでよろしいですか?」

「ああ」

「それでは、参加者の方はゲートを通って中に。それ以外の方は観客席へどうぞ」

「レオン、頑張ってね」

「ああ」 

 ルナの声援に見送られ、レオンは受付け嬢の案内通りに一人ゲートを通ってコロシアムに入った。

 ドームの中は、天井の鉄板が所々抜け落ち、そこから射し込む陽射しのおかげで、場内は思ったほど暗くは無かった。

 レオンは選手の控え席から、ぐるりと場内を見回した。

 やっとコロシアムが再開され、下の観客席も、ドームの壁沿いに廃材を使って段々に造られた立ち見席も、こんなにこの町に人が居たかと思う程の賑わいを見せていた。

 ゴロツキは勿論、この町本来の住人である鉱山夫やその家族なのだろうか、小さな子供の姿もちらほらと見える。

 ふと、頭上高く設置された立ち見席の一角に目を留める。

 遠くて表情(かお)まではハッキリと判らないが、ゴロツキ風の観客の中に混じって一人、パープルと白の服に、ピンクのブーツを履いた明るい栗色の髪の少女を見つけたのだ。

 自分を応援しようと、無理矢理人混みを掻き分けて前に出たのだろう。

 ふっと口の端を微かに上げると、レオンはくるりと身を返して控え席に座り、名前を呼ばれるのを待った。

 

 

 試合は順調に進み、ついにレオンの名が呼ばれる。

 同じく名を呼ばれた銀縁の黒いサングラスの男は、自称ハンターのカラムという男だった。

「ここで勝ち抜くのは、そんなに甘くないぜ」

 何度も出場しているのか、実感を込めて言うと、不敵な笑みを浮かべてカラムは自分のポケモンを呼び出す。

 細長い体に口許とヒレが水色のドジョッチと黄土色の丸い体のサンドである。

 共に体長五十センチ前後の地面タイプのポケモンで、特にドジョッチは水タイプでもあるから、地面タイプが苦手とする水タイプ技はあまり効果がないので厄介だった。

 対するレオンは体長一メートル半ほどの、ぬっとりとした水色の体に短い手足、背中からぽってりとした太い尻尾の先まで青黒いヒレが付いているヌオーと、大きな耳をもつ黄緑色の丸い体をし、頭に黄色い花を付けている赤いつぶらな瞳のポポッコである。

 ヌオーはドジョッチと同じ地面と水タイプを併せ持ち、ポポッコは草と飛行タイプで地面と水タイプにも強いポケモンだ。

 

 昨日コロシアムから出た後、レオンは町の入り口付近にある空き地で、日暮れまで一人でダークポケモンを使ったダブルバトルを繰り返した。

 最初コロシアムにはダークポケモンで出場するつもりだったが、ここで優勝した褒美がダークポケモンだとしたら、いかにもそれと判るようなポケモンで出場するのは流石に悪目立ちが過ぎる。出場は相棒達とする事にし、空いた時間を利用して少しでもダークポケモンの心を開かせようと思ったのだ。

 ところが、その最中に思いがけない事が起こったのである。バトルをやって興奮する度に、気を落ち着かせてはまたバトルする。それを繰り返している内に、少しずつ心を開いていったダークポケモンが、『ダークラッシュ』以外の本来憶えていた技も思い出して使えるようになったのだ。

 昨日までにスナッチした何匹かが、殆どの技を思い出したが、どうしてもダークポケモンの固有技である『ダークラッシュ』を忘れられずにいた。それを忘れて本来の技を思い出せれば、きっと完全に心が解放されると思うのだが、バトルを繰り返すだけでは無理だった。

 とはいえ『ダークラッシュ』以外の技が使えるならば、ダークポケモンをコロシアムに出場させたとしても、それさえ使わなければバレる心配は殆どない。

 ルナの様に黒いオーラが見える者など、ここにはいないだろうから。

 

「ドジョッチ、水色の奴に『自然の力』 サンド、黄緑のヤツに『毒針』だ」

「ポポッコ、ドジョッチに『メガドレイン』 ヌオーは『なみのり』だ」

 両者同時に指示を出す。

 パタパタと大きな耳をはためかせたポポッコが、素早い動きで大きく息を吸い込むようにドジョッチから体力を奪い取る。

 緑の光に包まれて体力を奪われたドジョッチは、地面・水タイプ共に効果抜群技に思わずよろけたものの、体をくねらせて体勢を整え『自然の力』をヌオーに振るう。

 自然の力を宿した力が、ぬぼっと立つヌオーを襲い、それを受けたヌオーは思わず仰け反った。

 ドジョッチの横ではサンドが全身から毒針を発射し、当たったポポッコは痛そうに顔を歪める。

 そこへヌオーは体を大きく伸び上がらせ、自分の前に壁の様に大量の水を呼び出し、相手に向かって押し出す。

 どっと押し寄せる大波が、ドジョッチとサンドを頭から呑み込んで行く。

 弱点ともいえる水タイプ技の攻撃にサンドは勿論、攻撃が効きにくい筈のドジョッチも、先にポポッコに奪われ少なくなった体力を根こそぎ洗い流されてしまった。

「なん……だと!?」

 余りの事に、カラムは目を剥いて呆然となった。

「勝者、レオン選手」

 アナウンスが場内に響き渡り、歓声がドーム内に湧き起こる。

 固まる自称ハンターのカラムを余所に、レオンはヌオーとポポッコをボールに戻すと、さっさと選手の控え席に戻って行く。

 大したダメージがある訳ではないが、そこにある回復マシンで一応二匹を回復させると、席に座って次の対戦を待った。

 

 

 次の対戦相手は、縞のシャツに革のベストを引っ掛けたチェイサーと称するイスラと名乗る女である。

「初顔のアンタが勝てるのは、あのカラムだけさ」

 あからさまに嘲りの表情を浮かべ、イスラが出して来たポケモンはネイティとアサナンの二匹だった。

 さっきは地面タイプ二匹だったが、今度はエスパータイプである。

 ただ、丸い緑色の小さな鳥型のネイティは飛行、常に座禅を組んだような姿勢をしている人型のアサナンは格闘タイプを併せ持っている。

 それを見て、レオンは長年の相棒達を呼び出した。

 二匹がレオンに振り返り、嬉しそうに鳴き声を上げる。昨日レオンがダークポケモンの相手ばかりしていたので、淋しかったらしい。

「ネイティは白いヤツに『つつく』 アサナンはもう一方に『目覚めるパワー』をおみまいしなっ」

「ブラッキー、ネイティに『だまし討ち』 エーフィはアサナンに『恩返し』だ」

 両者同時の指示に、まず動いたのはエーフィだった。

 素早い動きで懐き度マックスの『恩返し』を、座禅の姿勢のアサナンの体にぶち当てる。

 アサナンにとって効果抜群の技ではないが、レオン大好きっ子のエーフィが放つそれは、他の誰よりも威力が激烈だった。

 額に思念の力を集めて内なる力を目覚めさせていたアサナンは、足を組んだままものの見事にひっくり返る。

 一方ネイティは翼を羽ばたかせ、一気に鋭い(くちばし)でブラッキーの黒い体をつつこうとする。

 それをさっと横に飛び退いて躱したブラッキーが、更に薄暗がりに溶け込んでネイティの隙を()いて避けようもない攻撃をしかける。

 その衝撃に、軽いネイティの体が宙を舞い、バトルフィールドを囲む壁に叩き付けられた。

 そして、ネイティもアサナンも、二度と立ち上がる事はなかった。

「勝者、レオン選手」

「え? あたし負けたの? まだ一撃もくれてないのに?」

 手も足も出ずにあっさりと負け、イスラは茫然自失の態でその場に立ち尽くす。

「よくやった、ブラッキー、エーフィ」

 レオンは相棒達を優しく(ねぎら)い、ボールに戻して選手の控え席へと返って行った。

 

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