未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(18)

 次々と快勝を重ね、レオンはセミファイナルへと駒を進めた。

 今までと違って、バトルに使えるポケモン数が一体増えて三匹になる。

 次の対戦相手はヘラートという名の、赤いバンダナを頭に被りゴーグルをした男だった。

「ここまで来るってことは、お前もあのスゲーポケモン狙ってるんだろ。だが、そうは簡単にいかないぜっ!」

 ニヤリと笑い、ヘラートは手持ちのポケモンを出してくる。

 やはりあのダークポケモンが優勝の褒美なのは、間違いないようだ。

 バトルフィールド上に現れたのは、尻尾と鼻から頬にかけて黄色い線で縁どられた、頭でっかちの犬のような電気タイプのラクライと、頭に黄色い王冠のような花を付けた丸い体に手足を付け、棘を生やした草タイプのサボネアだ。共に体色が緑色の五十センチ前後と小柄なポケモンである。

 それに対し、レオンはマグマラシとヨルノズクを呼び出した。

「ラクライはヨルノズクに『電光石火』 サボネアはマグマラシに『毒針』だ。やつらにおまえらの実力見せてやれっ」

「マグマラシ、ラクライに『穴を掘る』 ヨルノズク、サボネアに『空を飛ぶ』」

 レオンが淡々と指示を出すと同時に、マグマラシは勢いよく地面を掘って潜り、ヨルノズクは茶色い翼を羽ばたかせて頭上高く飛びあがる。

「へ?」

 赤いバンダナ男のヘラートは、思わず間の抜けた声を上げた。

 折角カッコよくポケモン達に指示を飛ばしたのに、実力を見せる前にバトルフィールド上に相手が一匹もいなくなってしまったのである。

 見ていた観客も呆気に取られ、目を丸めている。

 こうなると相手がフィールドに戻って来なければ手も足もでない。

 ラクライもサボネアも、どうすればいいか判らず、困惑して自分達のトレーナーを窺い見る。

「と、とにかく避けろっ」

 ヘラートにはそれ以外に言いようが無い。

 キョロキョロとラクライが、音を立てないように辺りを警戒して見回し、サボネアは丸い体をひっくり返さんばかりに頭上を見上げ、悠然と飛ぶヨルノズクの姿を目で追う。

 だが、マグマラシは姿を見せず、ヨルノズクは頭上を旋回して飛んだままだ。

 そこに確かに居るのに、何時仕掛けてくるか判らないものほど嫌なものはない。

 レオンはフェナスシティでの一件で、身を持ってそれを体験している。

 ドームの中は、観客ともども緊迫した静けさに包まれた。

 手に汗握り、誰かがゴクリと喉を鳴らす。

 緊張が最高潮に達した。

 そして、限界まで張り詰めたそれは、やがて堪え切れなくなる。

 意識にも上らぬようなほんの僅かな一瞬、気が緩む。

 その時を、レオンは待っていた。

 相手の隙を逃さず捉え、レオンはチラリと頭上に視線を走らせる。

 ドームの薄暗がりの中、ヨルノズクの双眸がギラリと光り、琥珀色の瞳と交差した。

 直後、獲物を捉えた鋭い瞳に丸い緑の体を映したまま、ヨルノズクが急降下する。

 弾丸の如く一直線に。

 突如高度を下げたヨルノズクに、慌ててサボネアは体を返してその攻撃から逃れようとする。

 だが、その動きは相手にとってのろ過ぎた。

 その背を狙い違わず鋭い爪で鷲掴みにし、ヨルノズクは全体重を加えた威力抜群の攻撃でサボネアの丸い体をバトルフィールドに減り込ませる。

 一瞬の出来事に、傍に居たラクライが驚きに目を見開き、目を回したサボネアを見る。

 思わず仲間の上に乗るヨルノズクから、距離を取ろうと後退(あとずさ)った。

 その途端、マグマラシがその音目掛けて地面から飛び出して来る。

 足許からの不意打ちをモロに喰らい、ラクライが吹っ飛んだ。

 同時にマグマラシの体に電気が走り、動きが止まる。

 ラクライの体に纏わりついていた静電気にやられ、麻痺したのだ。

 マグマラシが苦しげな唸り声を上げ、目の色が変わる。

「な、なんだ?」

 マグマラシの異様な雰囲気に、倒れた二匹をボールに戻したヘラートは腰が引け、慌てて次のポケモンを出す。

 頭と尻尾を激しく燃え上がらせて唸るマグマラシは、体が麻痺してなければ、今にも誰かれ構わず跳び掛かりそうだ。

 ——まずいっ。

「落ち着け、マグマラシっ」

 レオンは興奮したマグマラシに声を掛ける。

 だが、麻痺した体では興奮は治まらない。このままではマグマラシがダークポケモンだと気付かれてしまう。それは流石にマズイ。

「ヨルノズク、『催眠術』だ」

 レオンはヨルノズクに指示を出し、マグマラシをボールに戻す。

 バトル中ポケモンを入れ替えると、新たに出したポケモンが無防備のまま攻撃を受けやすい。『催眠術』はそれを阻止する為だ。

 ヘラートが最後に出して来たポケモンは、六本の尻尾を持つ炎タイプのロコンだった。

「へ? あっ。よ、避けろっ、ロコンっ!」

 マグマラシの異様さに気を呑まれていたヘラートが、ハッと我に返り大声を上げる。

 だが、遅かった。

 相手を捕えるヨルノズクの鋭い双眸が妖しく光り、避ける間もなくロコンを眠りへと落とし込む。

 その隙にヌオーを出したレオンは、すかさず指示を飛ばす。

「ヌオー、『なみのり』だ」

「起きろっ、ロコン!」

 焦って叫ぶトレーナーの声に、パチリとロコンがつぶらな瞳を開く。

 ホッとする間もなく、ヘラートは指示を出す。

「ロコン、『電光石火』だっ」

 電光のような鋭い動きで、既に技を出そうとしているヌオーより先にロコンが技を決める。

 しかし、よろけながらもヌオーは止まらなかった。

 大量の水が呼び出され、ロコン目掛けて押し寄せる。

 効果抜群の大波に、ロコンは逃げる間もなく呑み込まれた。

「勝者、レオン選手」

「こんなんアリかよ。実力違い過ぎだろ……」

 頭からバンダナをむしり取り、ヘラートはがっくりと項垂(うなだ)れる。

 レオンはすぐさまヌオーとヨルノズクをボールに戻すと、早足で控え席に戻った。

 そこにある回復マシンで皆を回復させ、マグマラシをボールから出してみる。

 麻痺が取れた事で興奮が治まったのか、目の色も正常に戻っていた。

 それを確認し、ホッとレオンは安堵の息をついた。

 マグマラシは後ろ足で立ち、ダークポケモンらしい直立不動の体勢ながら、感情の現れ出した瞳をレオンに向ける。

「よく頑張ったな、マグマラシ」

 優しく体を撫でてマグマラシをボールに戻すと、レオンは次に呼ばれるのを待った。

 

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