未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(19)

 いよいよファイナルである。

 今回もバトルに使えるポケモンの数が更に増え、四匹まで使用可能になる。

 相手は筋肉もりもりの肉体派のワチャという名の男だ。コロシアムの入り口付近で一度会ったことがある。不運な男で何時もいい処まで行きながら、優勝を逃しているらしかった。前回も腹が不調でダメだったと、ルナに(こぼ)して慰めて貰っていた。

 どうやら今回は無事ここまで勝ち抜けてこられたらしい。

「初挑戦でここまで来るとは、オレ様と違って運のいいやつだな。おまえならこの試合に勝ったら、ミラーボ様からお声が掛かるかもな。だが、勝つのはオレ様だっ」

 ワチャの言葉に、レオンは眉を(ひそ)めた。

 そう言えば、町の鉱山夫が俺を見て奴の雇ったゴロツキと言っていたが、あの巨大モンスターボール頭はここで優勝した奴を雇っていたという事か?

 いや、今はそんな事はどうでもいい。

 レオンは気を引き締め直して対戦相手の筋肉男を見返す。

「行くぞっ!」

 ワチャは気合いを入れ、モンスターボールを放つ。

 中から現れたのは、左右にU字型の磁石を取り付け、ネジの付いた鉄製の丸い珠の中央に一つ目を持つ電気と鋼タイプを併せ持つコイルと、純白な体の随所を朱に染めたレースのような大きな尾ビレが美しい、額に角を持つ水タイプのトサキントだった。

 レオンはポポッコとヌオーを出す。

「ポポッコにトサキントは『つつく』 コイルは『電気ショック』だ」

 ワチャは自分のポケモンにヌオーに対する有効技がないとみると、先にポポッコに攻撃を集中させた。

 それにレオンも応じて指示を出す。

「ポポッコ、攻撃を避けてトサキントに『眠り粉』 ヌオーは『叩き付ける』だ」

 ポンっと元気よく飛び跳ね、素早い動きでポポッコが頭の黄色い花から、眠りを誘う花粉をトサキントに向けて撒き散らす。

 ポポッコをつつこうとしていたトサキントは、モロにそれを浴びて眠りにつく。

 そこへコイルの全身から放電された電気が、飛び上がったポポッコの黄緑色の体に突き刺さる。

 流石に技を出した後の一瞬の隙を()かれては、避けることもままならない。

 ポポッコは受けたショックで、痛そうにパタパタと大きな耳を動かした。

 どたどたとヌオーが突っ込み、寝ているトサキントの手前で体を捻り、ぶっとい尻尾をその横っ面に叩き付ける。

 優雅に寝ていたトサキントが、その衝撃にバトルフィールドの端まで吹っ飛び、ついでに目を覚ました。

「ポポッコ、トサキントに『メガドレイン』したらヌオーの後ろに回れ。ヌオーはコイルに『叩き付ける』」

 すかさずレオンが指示を出し、負けじとワチャも指示を飛ばす。

「トサキント、コイル。ポポッコにさっきと同じ攻撃だ」

 かなりのダメージを負ってよろけるトサキントに、ポポッコはコイルから受けたダメージを回復するように、トサキントから残りの体力を全て奪い取る。

 すっと滑る様に中空を移動し、コイルはヌオーの陰に隠れるポポッコに狙いを定めた。

 が、わざわざ寄って来てくれたコイルに、ヌオーは体を捻って尻尾の一打をおみまいする。

 快音を響かせ、すっ飛んでいったコイルはバトルフィールドを通り抜け、観客席手前の壁に体を減り込ませた。

「やるなっ。だが、これならどうだっ」

 筋肉男のワチャは目を回す二匹をボールに戻し、代わりのポケモンを出した。

 出てきたのは頭に白いヘルメットを被ったような青い体のドラゴンタイプのタツベイと、赤い体に顔全体が白い羽毛に覆われて長い顎髭をはやしたように見え、袋のような白い尻尾を持つ鳥型、いや、ペンギン型のポケモンだった。

 レオンが微かに目を細める。

 タツベイは見た事あるが、ペンギン型の方は初めて見るポケモンだ。姿からして飛行タイプであることは間違いないだろう。

「ポポッコにタツベイは『火の粉』 デリバードは『プレゼント』だ」

 ワチャはやはり、回復技を持つポポッコを先に倒すことに(こだわ)った。

「ポポッコ、タツベイに『眠り粉』 ヌオーは『なみのり』だ」

 両者の指示に、一番に応えたのはポポッコだった。

 素早くポンっと弾むように跳ねると、火の粉を出そうと構えたタツベイに眠りの粉を振り撒く。

 そこへ、デリバードが左手で持った尻尾の袋の口に右手を突っ込み、何やらもそもそと引っ張り出してポポッコに放った。

 それは白い箱に赤いリボンを巻いた四角いプレゼント用の箱だった。

 文字通りのプレゼントに、レオンは唖然となった。そんな技見た事ない。

 ポポッコが思わずそれを受け取ってしまう。

 それを見たワチャが、ニヤリと笑う。

「それを捨てろっ、ポポッコ!」

 嫌な予感にレオンが叫ぶが、遅かった。

 いきなりプレゼントの箱が大爆発し、ポポッコが宙高く吹っ飛ぶ。

「どうだ、デリバードの『プレゼント』は」

「………」

 得意げに言うワチャに、レオンは唇を噛みしめた。

 初見ポケモンの見知らぬ技は、もっと警戒すべきだった。

 しかも横に居たヌオーにまでダメージが及んでいる。

 傷を負ったヌオーの鼻息が急に荒くなり、点のような目が吊り上がる。

 今ので興奮してしまったのだ。

 そのままのっし、のっしと前に出る。

 自分にダメージを与えたデリバードに攻撃する気だ。レオンの指示を待たずに。

「落ち着け、ヌオーっ」

 レオンが声を掛けるが、聞いてない。

 仕方なくレオンは目を回してもう戦えないポポッコと共にヌオーをボールに戻す。

 そして、代わりに出したのは、もっとも信頼する長年の相棒達だった。

 肉体派のワチャはここが正念場と、気合を入れて指示を出す。

「デリバード、エーフィに『プレゼント』 起きろ、タツベイっ!」

「エーフィ、デリバードに『サイケ光線』 ブラッキーは『だまし討ち』だ」

 レオンも一気に畳みかける。

 出てくると同時に、断トツの素早さを誇るエーフィが、デリバードが技を出す直前に虹色の思念の力を放つ。

 尻尾の袋からプレゼントの箱を取り出していたデリバードは、モロにそれを受けて仰け反った拍子に、手にした箱をコロリと落としてしまう。

 手酷い攻撃によろけながらも、慌ててプレゼントの箱を拾い上げるデリバードに、チャンスとばかりブラッキーが薄暗がりの闇に紛れて避けようもない一撃を加える。

 立て続けの痛烈な攻撃に、デリバードは堪えられなかった。

 拾ったプレゼントの箱を手に、ばたりと仰向けにひっくり返る。

 その途端、プレゼントが爆発した。

 その音に、漸くタツベイが目を覚ます。

「よし、タツベイっ。エーフィに『かみつく』」

「ブラッキー、エーフィ、タツベイにさっきと同じ攻撃だ」

 昂然と指示を出すレオンに応え、二匹が次々と寝起きのタツベイが避ける間もなく猛攻を浴びせる。

 地上最強のドラゴン種と(うた)われるタツベイも、立て続けに急所を貫く苛烈な攻撃に堪え切る事は出来なかった。

 よろりとよろけて宙に体を泳がせると、そのままうつ伏せに倒れ込む。

 レオンの最も信頼する相棒達の前に立つポケモンは、もはや一匹もいなかった。

「またなのかぁっ」

 あと一歩の処で優勝を逃したワチャは、天を仰いで嘆きの声を張り上げる。

 それを背に、レオンはボールに戻した相棒達を連れてバトルフィールドから出て行った。

 

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