未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(20)

 控え席の後ろにある回復マシンで全員を回復すると、レオンは相棒達を戻したボール共々ゲートを抜けて受付けに戻った。

 そこに、急いで立ち見席から降りて来たルナが待っていた。

「レオン、やったねっ!」

「ああ。だが、これからが本番だ」

 話では、この後ダークポケモンが褒美として貰えるらしい。

 二人が油断なく周囲を窺っていると、受付けのカウンターの向こうから、受付け嬢がレオンに声を掛けてくる。

「優勝おめでとうございます。素晴らしいバトルでしたっ!」

 彼女も何処かで見ていたのか、興奮気味にお祝いの言葉を言うが、そこでハッと我に返ってコホンと一つ咳払いをし、仕切り直して言葉を継いだ。

「それでは優勝賞金をお受け取り下さいね。そして、更に優勝賞品として技マシンも差し上げます」

 受付け嬢はお金の入った封筒と、技マシンを乗せたトレーを差し出す。

 それを受け取り、レオンは中を改めたが、封筒の中は賞金以外何も入っていなかったし、技マシンも特に変わったところはなかった。

「あの、他にはないんですか?」

「はい、これで全てです。では、またの参加をお待ちしています」

 尋ねるルナに、受付け嬢はにこやかにそう答える。

 どうやら褒美のダークポケモンは、受付けでは貰えないらしい。

 もっとも、ここでそんな物が配られているとしたら、このコロシアムを運営するギンザルが、この件に一枚嚙んでいることになってしまう。

 それは流石にないだろう。第一ギンザルは今ここには理由(わけ)があって近づけないと自分で言っていたではないか。おそらくこの件はその理由と何か関係があるに違いない。

 ギンザルもそれが知りたくて、この後ここで何が起こるか確かめて欲しいと言ったのだ。

 二人は暫し、受付けカウンター近くで待っていたが、バトルが終わったコロシアムは閑散として、誰かが近寄って来ることも、何かが起こる気配すらもない。

「何もなさそうね……」

 さり気なく辺りを見回していたルナは、拍子抜けしたように呟く。

 今回は何もないのかもしれない。

 仕方なく、二人は今後の事をギンザルに相談する為にコロシアムを後にした。

 裂け目の吊り橋を渡る。

 それを渡り切った時、待ち構えていたように一人の男が姿を現した。

 何処となく見覚えのあるような、黒いフルフェイスを被った男である。

「やあやあ、今回のバトルを勝ち抜いた優秀なトレーナーくん」

 男は両手を広げ、芝居がかった身振りと口調でレオンに声を掛けてくる。

「この町の真の支配者から、素敵なプレゼントがあるぞ。さあ、私の後に付いて来るがいい」

 勿体ぶってそう言うと、男はくるりと身を返してスタスタと歩いて行く。

 レオンが後から付いて来るものと信じて、丸っきり疑っていない。

 ——これがそうか。

 顔を見合わせた二人は、気を引き締めて男の後に付いて行く。

 男は地面の裂け目沿いに歩いて行き、その先にある壁がひび割れて何時崩れてもおかしくない、もう使われなくなって久しい廃ビルへと二人を連れて行った。

 固く閉まっているシャッターを開け、中に入る。

 入ると正面に扉があり、その脇にある受付け用のカウンターの向こうに、一人の女が立っていた。

 男同様灰青色のフルフェイスを被った長い茶髪の女である。

 その前に男は二人を連れて行き、女に声を掛ける。

「さあ、今回の優勝者を連れて来たぞ。こいつに渡すダークポケモンは何処だ?」

 こいつは今までの奴よりも見どころあるから、それを使って精々大暴れしてもらおう。そうすればダークポケモンの知名度が更に上がり、欲しがるゴロツキがもっと増える。

 それを想像し、男はレオンを見てニヤニヤと笑う。

 カウンターの女も渡すダークポケモンを準備しながら、男の連れて来たアッシュブロンドの少年を見やり、赤い口紅を塗った唇に笑みを浮かべた。

「あら、今回はなかなかカッコいい少年じゃないの。何時もはごつい男ばっかりだから、なんだか嬉しくなっちゃう…………って、うっそーっ!?」

 言いながら、少年の顔をまじまじと見ていた女が、突然悲鳴を上げる。

「こいつはミラーボ様の言ってたレオンとかいう奴じゃんっ!」

「な、なにっ。フェナスシティで我々の邪魔をしたという、あいつかっ!?」

「って事は、コロシアムの優勝者にダークポケモンを配っていたのは、あのミラーボって事!?」

 慌てふためくフルフェイスの男女の言葉に、ルナは驚愕の声を上げる。

 道理で何処かで見たような服装だと思った。色は違うが、こいつ等の恰好はミラーボと一緒にいた赤青緑の戦闘服の男達と同じだ。それにフェナスシティで戦ったミラーボの手下は、皆ダークポケモンを持っていた。

 とはいえ、あれからまだ数日しか()ってない。フェナスシティでの事が既に連絡されていてもおかしくないが、顔まで知れ渡っているとは思ってもみなかった。

「くそっ! 知らずに中に入れちまったぜ。叩き出してやるっ!」

 憤然と黒い戦闘服の男は自分のポケモンを呼び出した。

 頭の天辺が黄色くとんがり、水色の丸い顔に四本の足が付いていて水の上を滑るように移動するアメタマに、全身が固い蓑のようなものに覆われているクヌギダマだ。共に体長五十センチ程の大きさの虫タイプのポケモンで、アメタマは水タイプも併せ持っている。

 それを見て、レオンもマグマラシとヨルノズクを繰り出した。

「アメタマはマグマラシに『あわ』だ。クヌギダマはヨルノズクに『高速スピン』っ」

「マグマラシ、クヌギダマに『火炎車』 ヨルノズクはアメタマに『催眠術』だ」

 互いのトレーナーから指示が飛ぶ。

 それに応えて、それぞれのポケモンが戦闘態勢を取る。

 ヨルノズクの鋭い瞳が、左右に小刻みに移動を繰り返すアメタマを捉え、深い眠りに陥らせる。

 ゆっくりと横に回転し出したクヌギダマに、素早く炎を(まと)って縦回転しながらマグマラシが勢いよくぶち当たる。

 炎に焼かれて弾き飛ばされたクヌギダマは、廃ビルのぼろい壁に激突してコロリと床に転がった。

「くそぉっ」

 男は悔しげに次のポケモンをモンスターボールから呼び出した。

 体長五十センチほどの、背に小さい(はね)を生やした白い体のツチニンだ。鼻の脇に床に付く程の長い触手を持つ、虫の他に地面タイプを併せ持ったポケモンである。

「ツチニン、マグマラシに『穴を掘る』だ。起きろ、アメタマっ」

「マグマラシ、こっちもツチニンに『穴を掘る』 ヨルノズクはアメタマに『空を飛ぶ』」

 バッと茶色い翼を広げ、ヨルノズクが天井高く飛び上がる。

 ツチニンが地に潜り込むのとほぼ同時にマグマラシも穴を掘って潜り込む。

 その場に残されたアメタマは、まだ呑気に眠っている。

「アメタマ、起きろと言ってるだろっ!」

 男の怒りの声に、ぐうぐう寝ているアメタマの小さな目がパチリと開いた。

「よし、じゃあアメタマ、お前は——」

 と、指示を出す男の声を、風切る音が遮った。

 目を覚ましたばかりのアメタマに、ヨルノズクが全体重に加速を加えた一撃を浴びせる。

 効果抜群の攻撃に、アメタマはコテリとその場にひっくり返った。

 地に潜ったマグマラシとツチニンは、お互いを目指して進んだ結果、仲良く地中で頭をぶつけ、そのまま地上に飛び出て来る。

「なっ」

「マグマラシ、ツチニンを捕まえたまま『火炎車』だ」

 予想外の所で同時に飛び出して来た二匹に驚く男を余所に、レオンは冷静に指示を出す。

 即座にそれに従い、マグマラシは覆いかぶさるようにツチニンを捕まえると、そのまま炎を撒き散らして縦回転し出す。

 逃げる間もなくその炎に巻き込まれ、ツチニンは苦悶の声を上げた。

 そして、そのまま炎に呑まれて動かなくなる。

「くっ、流石コロシアムで優勝するだけのことはあるなっ!」

 瞬く間に手持ちのポケモン三匹を倒され、男は悔しげに歯噛みして最後の一匹を呼び出した。

 それは体長一メートル強の細長い赤い体に薄い四枚の(はね)を持ち、頭に黄緑の大きな複眼のあるヤンヤンマだった。虫の他に飛行タイプを併せ持つ。

 最後もまた虫タイプのポケモンに、レオンは余裕を持って指示を出そうとした。

 それを、今まで黙って見ていたルナが慌てて止める。

「レオンっ、そのヤンヤンマ、ダークポケモンよっ」

 その声に応じ、レオンはすぐさま指示を変更する。

「ヨルノズク、ヤンヤンマに『催眠術』」

「避けろっ、ヤンヤンマ!」

 また眠らされてはたまらない。

 ヤンヤンマは(せわ)しなく(はね)を動かして小刻みに位置を変え、ヨルノズクに狙いを定めさせない。

「マグマラシ、ヤンヤンマに『煙幕』」

 ヨルノズクの催眠術が不発と見るや、すかさずレオンは片割れに指示を出す。

 マグマラシが頬を膨らませ、ヨルノズクの動きに集中していたヤンヤンマを見事に捉えた。

 中空でヤンヤンマが位置を変えようと、一瞬動きが止まったその瞬間、吐き出した黒煙の塊を複眼にぶつける。

 複眼が見えにくくなり、ヤンヤンマが中空でよろける。

 その隙に、レオンはマグマラシとヨルノズクを呼び戻し、相棒達と入れ替えた。

 あの二匹では、ヤンヤンマを倒せはしても、スナッチ出来ない。

「エーフィは『スピードスター』 ブラッキーは『秘密の力』だ」

 体の周りに浮かせた無数の星型の礫を、エーフィは見据えるヤンヤンマ目掛けて放つ。

 ヤンヤンマは中空で小刻みに位置を変え、それらを避けて横へ移動する。

 そこに、ブラッキーが待ち構えていた。

 慌ててヤンヤンマはとんぼを切ったが、遅かった。

 ブラッキーは間髪を容れずに跳び掛かり、秘した力を赤い体に叩き付ける。

 その攻撃に、ヤンヤンマの体に電気が走った。

 高速でせわしく動かしていたヤンヤンマの(はね)のリズムが変調をきたす。

 それを見逃さず、レオンはすかさずスナッチボールへと造り変えたモンスターボールを投げ付けた。

 ボールが見事ヤンヤンマを捕え、地に転がる。

 そして、さしたる抵抗もなく、ヤンヤンマはスナッチされた。

「駄目だっ、オレには勝てそうもないぞっ!」

 相手の隙のない流れるような連携攻撃について行けず、ヤンヤンマに的確な指示が出せなかった男は、あれよあれよという間にダークポケモンをスナッチされて頭を抱えた。

 

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