未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―フェナスシティ―(2)

「くっ……、なかなかやるじゃねぇか」

 倒れたゴニョニョの入ったモンスターボールを手に、ヘボイは悔しげに呻いた。

 ——オレ様の相棒を倒すとは、こいつ只(もん)じゃねぇ……

 一体何者だとじろじろと自分を負かした少年を見返し、ふと何処かで見た事があるような気がして眉根を寄せる。

 自分達と同じはみだし者特有のニオイのするこの少年、さっき立ち寄った町外れのスタンドでも見かけた気がするが、それよりも前に確か何処かで見た事があるような……

「お前、ひょっとしてスナッチ団の——」

 そう言い掛けたヘボイの声を、街の中からの声が遮った。

「おい、何があったんだ? 大丈夫なのか?」

 突然街の正門前で始まったバトルを見て、一人の若者がやって来たのだ。

 そこへ、バトルの間トロイが押さえていた麻袋の中から、少女がまたも大声を張り上げる。

「きゃーっ! 誰かーっ! ドロボーよ、ドロボーっ!!」

「や、やかましいっ!」

 人聞きの悪い少女の声に、トロイは狼狽(うろた)え焦って訂正した。

「オレたちゃ、泥棒なんかじゃねぇ。人さらいだ、人さらいっ!」

 なお悪い。

「バッカ野郎っ! 余計な事言ってんじゃねぇっ!」

 慌てて相棒を黙らせたが、この騒ぎを聞きつけて他にも走り寄ってくる者の姿を見て舌打ちした。こうなってしまっては、もはや麻袋を運ぶどころではない。

「覚えてろっ、次は容赦しないからなっ!」

 そう捨て台詞を残し、ゴロツキの二人は何も持たずにオンボロのトラックに乗り込んで逃げて行く。

 しかし、少年にとってはどうでもいい事だった。

「よくやった、ブラッキー、エーフィ」

 自分の為に戦ってくれた相棒達を(ねぎら)い、モンスターボールに戻す。

 それをベルトの後ろに付けると、少年はサイドカーの許に戻った。

 街の中に入る前に防砂シートを掛けないと、戻って来た時にはサイドカーが砂埃まみれになってしまう。あのゴロツキ達に因縁付けられて、それをするヒマがなかったのだ。

 脇に付いた車のトランクから灰色の防砂シートを取り出し、サイドカーに掛ける少年の後ろで、やって来た青い半袖の上着に黄色い短パンのジョギング姿の若者が、ゴロツキが置いて行った麻袋から少女を助けようと奮闘している。

 麻袋の口を縛っている紐を解こうとするが、うまくいかない。

「くっ、どうやって縛ってあるんだ? 固くて解けないぞ。ったく、とんでもない事をする奴等だっ!」

 若者は紐解きに悪戦苦闘しながら憤慨した。

 サイドカーに防砂シートを掛け終わった少年は、そんな若者に見向きもせずに街の中に入ろうとする。

「待って、貴方も手伝ってちょうだい」

 後から来て若者の様子を見守っていたピンクのスーツを着た女性が、立ち去ろうとする少年を呼び止めた。

「私じゃ、手伝えそうもないの。それに早く中の人を出して上げないと」

 若者の脇で中の少女に声を掛けていたのだが、声が段々弱々しくなってきているのだ。

「僕からも頼む。この紐をそっちから引っ張ってくれないか」

 紐の一方を指して若者も声を掛ける。

 少年はこれ以上関わりたくないと全身で訴えていたが、早く麻袋の口を開けなければと焦る二人には通用しなかった。

 一瞬物凄く迷惑そうな顔をしたものの、これも乗りかかった船というものだろう。少年は仕方なくそれに従った。

 麻袋の前にしゃがみ込み、半袖短パンの若者の指示に従い、固く締められていた紐の一方を引っ張ってみる。

「よし、いいぞ。もう一回だ」

 若者と共に何度かそれを繰り返すと、紐が段々と緩み出し、漸く袋の口を縛っていた紐が解けた。

「おい、大丈夫か?」

 麻袋の口を大きく開き、若者は中の少女に声を掛けた。

 もぞもぞと麻袋が(うごめ)き、中から少女が這い出して来る。

 丈の短いパープルのTシャツの上にデニム風の長袖ジャケットを羽織り、白いミニスカートにピンクのブーツと活動的な服装の、快活そうな明るい栗色の髪の少女である。

「はぁ~っ、助かったーっ!」

 息苦しさから解放されて安堵の息をつくと、少女は若者にお礼を言う。

「ありがとう、助けてくれて」

「いや、お礼は僕よりも、あの少年に言うんだな。彼はポケモンバトルでゴロツキから君を助けたんだ」

 と、半袖短パンの若者は、紐が解けたので立ち上がった少年を示して言った。

「いやぁ、彼の戦いっぷりは実に見事だったよ。君にも見せたかったなぁ」

 ジョギングで近くを通りかかり、そのバトルを見掛けてここに駆け付けた若者は、手放しで少年を褒め称える。

「そうだったのっ」

「いや、俺は別に——」

 向こうが勝手に挑んで来たから叩き潰しただけで、助ける気など全くなかったのだと言おうとしたが、目をキラキラさせて感激している少女は、そこまで少年に言わせなかった。

「ありがとうっ! 貴方のお陰で本当に助かったわ。あたしの名前はルナって言うの」

 少年の言葉を遮り、有無言わせずに畳みかける。

「ねぇ、貴方名前は? なんていうの?」

 これがさっきまで麻袋に閉じ込められ、弱っていた少女とは思えない元気さだ。

「レ、レオン」

 少女の勢いに押され、答えるつもりのなかった少年は、思わずぽろりと答えてしまった。

 パァッと喜び一杯にルナは顔を輝かせる。

「そう、レオンって言うの。よろしくねっ!」

「………」

 元気一杯よろしくされてしまったレオンは、なんとも応えようがなかった。

 

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