未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(24)

 何とかシルバは立ち上がったものの、とても一人では階段を降りる事が出来ず、結局レオン達の手を借りて廃ビルの外に出ていった。

 その分時間をロスしたが、一階入り口まで降りて来たのは無駄ではなかった。既にこの廃ビルで十人以上ものトレーナーとバトルしている。連戦で手持ちのポケモンは皆疲弊していた。

 いよいよミラーボの本拠地である廃鉱へと向かうのだ。その前に皆を全回復させて連れて行くポケモンの交換や、パソコンから必要なアイテムを取り出しておいた方がいい。

 それを全て済ませ、改めて二人は誰も居なくなった廃ビルの屋上に戻った。

「ん? なんだ、おまえ達。ひょっとして新入りじゃなく、おまえ達も侵入者だったのか?」

 戻って来た二人を見やり、廃ビルの屋上、廃鉱の入り口に陣取っていた茶色いポンチョの男は身構えた。

 その男の前に、レオンはいきなりルナの腕を掴んで突き出す。

「いや、こいつをミラーボ様の所へ連れて行けと言われたんだ」

「なに?」

「聞いた事があるだろう。ダークポケモンを見分ける能力があるヤツがいるという話。こいつがそうだ」

 眉間に(しわ)を寄せる男に、レオンは誰でも知っているものとして話す。

「あ、ああ……。そうだな、確かそんな話があったけな」

 あまりよく覚えていないポンチョ男は曖昧に応え、胡散臭げにじろじろと少女を見る。

「けど、こいつが本当にそれだってのか?」

 どう見てもただの小娘である。

 その男の態度にムッときたルナが、何か言い返そうとする前に、すかさずレオンはポンチョ男に提案する。

「疑うなら、貴様のダークポケモンで試してみてもいい」

「いや、俺はまだ持っちゃいねぇんだ。ホントは非番の昨日コロシアムに出て貰う予定だったんだけどよ、停電したとかで中止になっちまって、またお預けさ」

 ついてねぇよと、茶色いポンチョの男は肩を竦めた。

「そうか」

 男がダークポケモンを持ってないと知ると、レオンは更に言葉を継ぐ。

「とにかく、こいつを偶然見つけて捕まえてきたら、中にいたブレスさんにミラーボ様の所へ連れて行くように言われたんだ。大至急」

 と、さっき負かした女の名前も出し、さももっともらしく言う。

 ミラーボにも来るのを待っていると言われたのだから、一応嘘は言っていない。

「成程……。ホントは誰も通すなと言われてたんだが、そういう理由(わけ)ならいいぜ。通っても」

 納得してポンチョ男はあっさりと道を開けた。

 レオンは礼を言うと、ルナを引き連れて堂々と廃鉱内に入る。

 廃鉱になって久しい坑道内は、意外としっかりした造りになっていた。全く使っていない坑道は、流石に崩れて道が塞がっている所もあるが、それ以外は天井や壁が崩れないように随所に補強がしてあった。電気も通っていて壁沿いに吊るされたランタン型の照明が坑道内を照らし、普通の電灯に比べれば幾らか薄暗いものの、歩くに殆ど不便はなかった。

 入るとすぐ下に降りる階段があり、階段下の脇にはまた見張りがいた。

 どのくらいでミラーボのいる洞窟に行けるか分からない以上、余計なバトルは極力やりたくない。

 レオンはそこもさっきと同じ手口でダークポケモンの有無を確認し、持ってなければそのままやり過ごす。

 やはりあのファイルの写真は、まだ全員が見たわけじゃないらしい。また薄暗がりで顔をよく見ないと判らない事も二人に幸いした。

「レオンって全く違和感ないから、皆簡単に騙されるわね」

 余計なバトルもせずに順調に坑道を進めて、少し余裕が出たルナが感心して言う。

 その言葉に思わず足を止めて振り返ったレオンだが、何も言わずにまた歩き出した。

 だが、その歩調はさっきより早く、気の所為かなんだか不機嫌そうである。

「レオン……?」

 どうしたのかと思ってルナが声を掛けるが、振り向きもしない。

 ただ黙々と廃鉱の奥に向かって歩く。

「ちょっと、レオンってば」

 自分を無視してずんずん進んで行く少年に、ルナはもう一度大きな声で呼びかける。

 しかし、やはりレオンは応えない。

 代わりに前方の角の向こうから声が返ってきた。

「なんだ? 誰かいるのか?」

 男の声である。

 ひょいっと角から顔を出し、はっと立ち止まった二人を見て、揉み上げの濃い男はニヤリと笑った。

「見掛けねー顔だな。何(もん)か知らねーが、オレの目に留まったら先には進めないぜ。知らねー奴は通すなと言われてるんでなっ」

 余程退屈していたのか、揉み上げ男は今までのヤツと違ってここにいる理由も聞かず、問答無用でバトルを仕掛けてくる。

 それにレオンは無言で応えた。

 淡々と情け容赦なく、完膚無きまでに叩きのめす。

 その戦いぶりを見て、ルナはゴクリと唾を飲み込んだ。

 なんだか知らないが、レオンが物凄く怒っているように見えたのだ。

「レオン、何を怒っているの?」

 その後二人程、言いつけに忠実というより、暇を持て余して絡んで来たゴロツキどもを同様に負かしたレオンに、更に奥に進みながらルナは様子を窺うように訊いた。

 一瞬言葉を詰まらせながらも、レオンがぶっきらぼうに応える。

「……別に」

「うそ、怒ってるわよ。絶対」

 何時も以上に素っ気ないレオンにきっぱりと言い返し、ちょっとルナは考え込んだ。

「でも、なんで……。あ、もしかして、さっきあたしが言った事気にしてるの?」

 自分と違ってレオンの身に(まと)う雰囲気が、ここの連中とよく似ていて全然違和感が無く、ゴロツキ達がすんなり仲間と勘違いしてくれると言ったあの言葉を。

「………」

 それに答えず、レオンはそっぽを向いた。

 図星だったらしい。

「でもあれは、褒めて言ったのよ」

 慌ててルナは弁解したが、レオンもそれは自覚していた事だ。

 だから自分も相棒達に無駄なバトルをさせない為に、積極的にそれを利用してきたのだ。とはいえ、そういう事は喩え事実だとしても、自分で言うならまだしも、他人に指摘されるのは面白くないものである。

 大体自ら好き好んでこうなったわけじゃない。相棒達と生きる為にはこうなるしかなかったのだ。だがルナのあの褒め言葉は、レオンにそれを再認識させるものだった。所詮お前は連中と同じ穴のムジナなのだと。

 レオンはそう思えた自分に嫌悪し、そんな自分自身に苛立っていたのである。

 なのに、それを言い当てられてしまっては、彼としても恰好がつかない。

 思わず嘆息し、レオンはぼそりと応えた。

「判ってる。ちょっと虫の居所が悪かっただけだ。それより先を急ごう。早くプラスルを助けてやらないとな」

「ええ、そうね」

 やっとレオンが機嫌を直してくれたのにホッとしたルナは、笑みを浮かべて頷いた。

 

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