未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(25)

 廃鉱内はレオン達が思っていた以上に複雑に入り込み、勝手が判らない二人には迷路の様だった。

 その上廃ビル同様、ミラーボはここにも数多くのゴロツキや手下を配置しているらしく、奥に進めば進むほど奴等と鉢合わせする事が多くなってきた。

 ずっと廃鉱の中で(くすぶ)っていたその連中は、二人が手配中の者と知らなくても見かけない顔と見るや、暇潰しに嬉々として問答無用でバトルを仕掛けてきたり、たまにダークポケモンを持っている奴もいたりするので、レオンもポケモン達も休む暇がない。

「レオン。そのチルット、ダークポケモンだわっ」

 オレンジのダメージニットを着た女が、最後に出して来た白い真綿のような羽を持つ、青い鳥型のチルットを見て、ルナが声を上げる。

「ムウマ、ダンバルに『シャドーボール』 ポポッコ、チルットに『眠り粉』だ」

 それを受け、すかさずレオンが指示を飛ばす。

 波打つ黒髪の上に漆黒の闇を集めたようなボールを出現させたムウマが、宙に浮く先端に赤い一つ目を持つ青い鉱物のようなポケモンに闇のボールをぶち当てる。

 ダンバルは仰け反り、痙攣するように小刻みに体を震わせ、力尽きて地面に落ちる。

 その向こうで、ポポッコが白い粉を撒き散らし、出て来たばかりのチルットを眠らせていた。

 そこへ、レオンがスナッチボールを投げ付ける。

 眠っていたチルットは難なくボールに収まった。

「やっと手に入れたダークポケモンを使えると思ったのにっ」

 ダメージニットの女は地団駄踏んで悔しがったが、後の祭りである。

 また一匹ダークポケモンをスナッチして、二人は更に廃鉱の奥へと進んだ。

 金になる鉱石を求めて無節操に掘り進めた坑道は、果てしなく続いているようだった。

「また別れ道だわ」

 うんざりしたようにルナが呟く。

 今度は右と左である。どちらに進むか迷った二人は、よく使われていると思われる地面が固く踏み固められた左に行ってみることにした。

 暫く進むと、行き止まりになっている代わりに下に降りる階段がある。

 二人がそこを降りてみると、岩壁からごうごうと大量の地下水が流れ落ちるため池の上に、幾本ものコンクリートで造られた通路が延びていた。だが、どれも途中で崩れ、これ以上どこにも行けなかった。

 また引き返すしかない。

 溜息をついて体を返す。

 そこへ、見回りでもしていたのか、階段から降りて来た赤紫のフルフェイスの女が、見覚えのない二人を見つけて立ち塞がった。

「おやまぁ、何処の誰か知らないけど、こんな地の果てまでやって来るとは。まったく道中の連中は一体何をしてたのかね」

 愚痴りながら、面倒臭そうにモンスターボールを取り出す。

「だけど、それもここまでだよっ」

 出して来たのはエスパーと飛行タイプを兼ね備えたネイティと、頭の両脇と額に赤い珠を持ち、青い体の下から伸びる二本の触手を合わせると体長一メートル程になる、毒と水タイプを併せ持つメノクラゲだった。

 それに対しレオンが出したのは長年の相棒達だった。

「ネイティは悪いヤツに『あやしい光』 メノクラゲは白いのに『毒突き』を決めな」

「ブラッキー、ネイティに『かみつく』 エーフィ、メノクラゲに『サイケ光線』だ」

 チラリとルナに視線を走らせて反応を見ると、レオンは相棒達に指示を出す。

 ここまでの道中、連戦を重ねて来て鍛えられた二匹は、更に速さや体力などの全ての能力が上がっていた。

 ブラッキーはネイティが技を繰り出す前に跳び掛かり、思いっ切りその頭に噛み付く。

 エーフィが更に威力の増した思念の力を、触手を自分に向けようとするメノクラゲに一気に浴びせる。

 相手のポケモンは、それぞれ技を出す前に効果抜群の一撃で撃沈した。

「流石、こんな所まで来るほどの事はあるわね」

 唇を噛みしめ、フルフェイスの女はもう一匹、額に白い大きな三日月のマークのある、体長六十センチ程のノーマルタイプのヒメグマを出して来た。

「ヒメグマ『甘い香り』」

 愛らしいしぐさといい匂いで、ブラッキー達の油断を誘おうというのだろう。

 だが、レオンはルナが可愛いヒメグマに頬を緩めるのを見て、お構いなしに指示を出す。

「ブラッキー『かみつく』 エーフィ『サイケ光線』」

 淡々と出された指示に、二匹はヒメグマに惑わされることなく忠実に従う。

 効果抜群ではないが、立て続けに喰らった威力のある攻撃に、ヒメグマは悲しい鳴き声を上げて力尽きた。

 ヒメグマへの情け容赦ない攻撃に顔を引き()らせたルナは、レオンが相棒達をボールに戻すのを見てハッとなり、勢い込んで負けたフルフェイスの女に詰め寄った。

「プラスルは何処なのっ!?」

「あんた達、ギンザルのポケモン捜しに来たのかい?」

 赤紫のフルフェイスの奥で目を瞬かせた女は、ニンマリと口の端を歪める。

「こっちは残念ながらハズレもハズレ、大ハズレさ。無駄に時間を使ってる間に、大事なポケモンちゃんはどうなってるかしらね」

 と、二人を嘲り、高笑いする。

「どっちにしろ、あんたらなんかミラーボ様に勝てるわけがないのさ」

「そう思うなら、ミラーボの居場所を教えろ。それとも——」

 と言葉を継ぎながら、レオンは女を見下すように口許に不敵な笑みを浮かべる。

「やっぱり自信がないか?」

「なんだってっ!?」

 フルフェイスの女は自分を負かした少年の言種(いいぐさ)と態度にいきり立った。

「もういっぺん言ってみなっ!」

「本当はミラーボが俺に負けると思ってるんだろ。だから、居場所が教えられないのも無理ないなと言ったんだ」

「大した自信だね……」

 女はフルフェイスの奥から生意気な少年を()め付け、鼻を鳴らす。

「あたしを倒したくらいでいい気になって。そんなにミラーボ様にやられたいなら、教えてやるよ。ほら、その奥さ」

 そう言って女が指差したのは、このため池の一番奥の通路の先だった。そこにぽっかりと洞窟の入り口らしきものが見える。

 しかし、その間の通路は崩れ落ち、ここからでは行くことが出来ない。

 目指す相手が目と鼻の先に居るのに、別の道を探さなければならないとは。何とも歯痒い事だ。

「まだまだ仲間はたくさんいるんだ。あそこまで無事辿り着けるといいけどね。仮に辿り着けたとしても、ミラーボ様はあんたなんかに負けないよ」

「レオンだって、あんな変態モンスターボール頭になんか負けないわっ」

 ルナは女がたじろぐ程の迫力で言い返すと、くるりと身を翻してレオンの後に付いて階段を駆け上がった。

 あそこに通じる通路を探す。

 何度か別のルートからため池の通路へと出たものの、どうしてもミラーボのいる所へ行ける通路には辿り着けない。

 忌々(いまいま)しげに途中で崩れた通路を睨み、二人はまた元来た階段を駆け上がった。

「あっ、レオン。あれを見て」

 それから更に幾人かのゴロツキとバトルを終えた後の事である。

 ルナがその先にある階段の陰に、珍しい物を見つけた。

 ポケモンの回復マシンとパソコンだ。

 おそらく廃鉱内にいるゴロツキ達が、わざわざ外に出なくともここで用を足せるようにと設置されたものだろう。

 もしかするとここに至るまでの坑道にもあったかも知れないが、今までそんなものがあるとは気付かなかった。

 何にせよ、念の為に多量に持ってきた回復アイテムも、ここまでの間に殆ど使い尽くしていたレオンに取って、これ以上有難いものはない。

 すぐさまポケモン達を回復マシンで全回復させる。

 そして、パソコンから足りなくなった回復アイテムの補充と、ついでに今までスナッチしたダークポケモンのステータスを確認する。

「これは……」

 その内の一匹、この洞窟内で新たにスナッチしたアサナンのデーターに目を留める。

 「曲がったスプーン」を持っていたのだ。エスパータイプの技の威力がアップするアイテムを。

 レオンはそれをエーフィに持たせ、更に使えそうなアイテムを持っているポケモンがいないか調べた。そして、手持ちのポケモンの最終確認をする。

「よし、行くぞ」

 二人は階段を駆け上がり、一気に坑道を駆け抜けた。

 その先はまた行き止まりで、ぽつんと一つ下りの階段があった。

 全てを調べ尽くし、ここが最後である。

 慎重に階段を降り、またため池の通路に出る。

 三方が崩れている中で、たった一本だけ崩れずに岩壁の方に延びる通路があった。

 あの赤紫のフルフェイスを被った女が指差した洞窟へと通じる、唯一の通路である。

 ——やっと、辿り着いた……

 二人は顔を見合わせて頷き合うと、意を決して目の前の通路に足を踏み出した。

 

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