未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―パイラタウン―(28)

 ウソッキーはルンパッパに比べ、何処となく固くぎこちない動きをしながら、自分なりにサンバのリズムに合わせて体を揺すり、珍妙なダンスを披露する。

 トレーナーに似て、皆ダンス好きなポケモン達である。

 ——あれは確か……

 レオンは目を(すが)めた。

 ウソッキーは一見したところ草タイプに見えるが、それは所謂(いわゆる)擬態というヤツで、実は岩タイプという奇妙なポケモンだ。

 ——格闘技に弱いこいつなら、楽に倒せる。

「マクノシタ、ウソッキーに『クロス——」

「まっ…て……」

 指示を出そうとしたレオンの言葉を、か細い少女の声が遮った。

 ハッとして声の方に振り返ると、ルナがびしょ濡れの床から痛む体を引き起こそうとしていた。

 やっと気が付いたのだ。見たところ酷い傷もないようだ。

 ホッとレオンが安堵の息をつく。

 そこへ、弱々しい声でルナが告げる。

「そのウソッキー、ダークポケモンよ」

「なにっ!?」

「ルンパッパ、あのずんぐりの体力吸い取っちゃってェ~、ウソッキーは『岩なだれ』よォ~」

 ルナの言葉に一瞬気を取られたレオンの隙を()き、ちゃっかりとミラーボが指示を出す。

 ——しまったっ。

「マクノシタ——」

 慌ててレオンが指示を出そうとするが、もう遅い。

 ルンパッパは麻痺した体でリズムを取って口をすぼめ、緑の光に包まれたマクノシタから思いっ切り体力を吸い取っていく。

 寄生された木の芽に体力を奪われ続けている上に、今の『吸い取る』は流石に効いた。

 ぐらりとマクノシタの体が揺れる。

 そこへ、頭上に現れた岩の塊が、次々とマクノシタとブラッキー目掛けて雪崩のように落ちて来る。

 ブラッキーは咄嗟にそれらを躱していったが、体力の尽き掛けたマクノシタには無理だった。

 次々と降ってくる岩に押し潰されていく。

「くっ……」

 残るはブラッキーだけである。

 一匹だけで、あのルンパッパとダークポケモンのウソッキーの相手をするのは、圧倒的に不利だ。

「レオン、どうしたの? 何故次のポケモンを出さないの?」

 気が付いたばかりのルナは、レオンの手持ちがもういない事を知らない。

 エーフィが物悲しい声を上げ、ルナにすり寄る。

「え? どうしてエーフィがここに居るの?」

「そのチビッ子がねェ、キミのお()りにそこに出したのよォ~」

 黙っているレオンに代わり、ミラーボが親切に教えてやった。

「そのコが居なくとも、ボクに勝てるってェ、身の程知らずよねェ。ふっほほほ~っ」

「あたしを護る為に、エーフィを……」

 その所為で、戦えるポケモンがブラッキーだけになってしまったの?

 驚くルナに構わず、レオンはブラッキー一匹でバトルを続けた。

「ブラッキー、ルンパッパに『あやしい光』」

 黒い体の随所で明滅する光が怪しく輝き、ルンパッパを混乱に陥れる。

「ウソッキー、『けたぐり』をおみまいしなさい」

「躱せっ、ブラッキー!」

 ウソッキーは岩タイプなのに、自力で格闘技の『けたぐり』を覚える。悪タイプのブラッキーには効果抜群の技だ。一匹で二匹の相手をしているこの状況で、一番喰らいたくない攻撃だ。

 ととっと床を蹴り、ウソッキーが突っ込んで来た。

 その動きを見極めてさっと身を翻し、間一髪でブラッキーはそれを躱す。

 ホッと息をつくが、一難去っただけのことだ。

 ウソッキーをスナッチしない限り、この綱渡りのような状況は続くのだ。

「ほぉら、ちゃんとステップ踏んで。ワンツーワンツー、ハイッ、『甘い香り』」

 手拍子を打ち、ミラーボが痺れた上に混乱したルンパッパにリズムを取らせ技を出させる。

 それに合わせてルンパッパは一瞬乱れたステップが直り、フーっといい匂いのする香りをブラッキーに吹きかける。

 その匂いに、ふっとブラッキーの集中が途切れた。

「さぁ、ウソッキー、黒っコに『けたぐり』よォ。今度こそ当てなさいね」

「匂いに惑わされるなっ、ブラッキー!」

 叱咤し、レオンが指示を飛ばす。

「けたぐって来たウソッキーの足に、思いっ切り噛み付け!」

 その声にハッと我に返ったブラッキーは、刹那けたぐって来るウソッキーの股を掻い潜り、後ろからその足に噛み付いた。

 ウソッと驚きの声を上げ、ウソッキーが怯む。

「おやまぁ、往生際が悪いこと。でも、何時まで持つかねェ」

 意地悪くそう言い、ミラーボは高らかに手を打ち鳴らした。

「さぁオマエ達、正しいステップはリズムからよォ。ワンツー、ワンツー、ワンツー、ハイッ、『宿り木の種』と『けたぐり』、ワンツーツー」

 と、軽快に掛け声を掛けてリズムを整えながら、技の合の手を入れてくる。

 何処からともなく流れるサンバの曲と手拍子に、混乱が解けたルンパッパが痺れた体でぎこちなくステップを踏んで、くるりと体を返しながらすぼめた口から種を飛ばす。

 余りにもさり気なく指示を出すミラーボに、一瞬レオンの対応が遅れた。

 避けろと言う間もなく、ブラッキーの体に取り着いた種が根を張って芽を出し、吸い出した体力をルンパッパに放出する。

 そこへ、奇妙なステップを踏みながら、ウソッキーがけたぐって来る。

 寸前で横に飛び退き、ブラッキーはそれを回避した。

 だが、これでもう時間は掛けられなくなった。

 いくらウソッキーの攻撃を避けた処で、勝手に体力が奪われていくのだ。

「レオンっ、あたしは大丈夫だから、エーフィを使ってっ」

 とても見ていられず、ルナが叫ぶ。

 そして、自分の傍に居て相棒の窮地に何もできず、そわそわしているエーフィを優しく促した。

「さあ、行くのよ、エーフィ。レオンを助けてあげて」

 だが、トレーナーであるレオンの指示がないエーフィは、その場を動くに動けない。

 訴えるようにレオンを見、鳴き声を上げる。

 共に戦いたいのだと。

 一瞬の逡巡(しゅんじゅん)の後、レオンは決然と指示を飛ばした。

「来いっ、エーフィ! おまえはルンパッパに『サイケ光線』 ブラッキーはウソッキーに『あやしい光』だ」

 嬉しそうに一声鳴き、エーフィは喜び勇んで何時もの自分の場所に収まると、額の紅玉に思念を収斂させて一気に解き放つ。

 麻痺してまだ時たましかリズムが取れないルンパッパは、避ける事が出来なかった。

 「曲がったスプーン」で数段威力の増したそれを急所に受け、くるくると回転する。

 一方あやしい光を受けたウソッキーは、混乱して更に奇妙に体をくねらせ、へんてこな踊りを踊り出す。

 そこへ、レオンが更に畳みかける。

「エーフィ、『手助け』 ブラッキー、ルンパッパに『騙し打ち』」

 相棒から力を得たブラッキーは、すかさずふらつくルンパッパに襲い掛かる。

 たたらを踏んでルンパッパはウソッキーに激突し、くるりと体を返してひっくり返る。

「くーっ、テンポが狂って、ダメダメだあ~っ」

 絶叫し、ミラーボは巨大モンスターボール頭を掻きむしった。

 何時の間にか雨も止んでいる。

 ウソッキーの方は倒れはしなかったものの、腰を引いて体をくねらせ、器用に混乱したまま自分自身の頭を攻撃している。

 ——今だっ。

 レオンはモンスターボールを左手に取ると、腕に装着しているマシンでスナッチボールに造り変え、へんてこりんな踊りを続けるウソッキーに投げ付けた。

 ウソッキーを呑み込み、床に落ちたボールは流れるサンバの曲に合わせて二度、三度と揺れ、そして、ころころとレオンの足許にまで転がって止まった。

 レオンはそれを拾い上げると、ボールの転送スイッチを押す。その直後ウソッキーのモンスターボールは消え、パソコンに転送されていった。

「おのれ、おのれ、おのれ、おのれェ~っ!!」

 ぎりぎりと歯を軋らせ、泡を吹かんばかりにミラーボは喚き散らした。

「このままで済むとおもうなよォっ。いつかきっと、オレの華麗なステップでケリ飛ばしてやるからな~っ!!」

 がらっと口調まで変えて憎々しげに捨て科白(せりふ)を吐き、くるっと身を返す。

 そして、ミラーボはサンバのリズムを刻みながら逃げて行った。

 だが、レオンにはそれを追う気力も体力も、既に残っていなかった。

 




 やっと終わった。
 ルンパッパと戦う(バトル)のはもう嫌じゃ。
 四匹も多過ぎだろ。
 既に気力体力果てました。
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