ミラーボが去った途端、レオンは胸を押さえて
バトル中は戦いに集中していて痛みの事は忘れていたのだが、それが済んでまた激痛がぶり返したのだ。
「やったね、レオン……」
「ルナ……」
ギクリとして、レオンは咄嗟に意志の力で痛みを無理矢理押さえ込んだ。怪我をして弱った姿など、彼女に見せるわけにはいかない。
怪我などしてないフリをし、右肩を押さえて嬉しそうに目を潤ませて自分を見る少女の許へ行く。
「大丈夫か?」
「ええ、ちょっと右肩が痛いけど、大したことないわ」
「そうか……」
ホッと息をつき、レオンは顔を
「すまなかった。もっと俺が気を付けていれば……」
「ううん、貴方はちゃんと護ってくれたじゃない…って、冷たっ」
責任を感じるレオンの腕に触ったルナは、その冷たさに思わず手を引っ込めた。
よく見ると、青いロングコートのあちこちに霜が付いて白くなっている。
「バトルで冷凍ビームを浴びたからな」
自分の体を改めて見直し、レオンはそれらを払い落とす。
「えぇ!?」
何がどうしてそうなるのか。気絶していたルナはさっぱりワケが判らず、思わず驚きの声を上げた。
「だ、大丈夫なの、レオン?」
普通そんなものを浴びたら、体が凍り付いてしまうのじゃないだろうか。
どうやって温めようかとおろおろし出すルナに、レオンは事も無げに応える。
「このコートは耐熱性だ」
スナッチ団アジトに出入りするようになって、暑さ対策で作った特注品のロングコートだ。寒さにも当然耐性がある。
あの時レオンが凍らずに動けたのは、腕で庇った顔共々、このロングコートが冷気を防いでくれたからだ。
「ホントに大丈夫なの?」
「ああ。……おまえの方こそ大丈夫なのか?」
水鉄砲を喰らって、ルナは全身びしょ濡れだ。
思い出したように、くしゅんっとルナがくしゃみをする。
その音に次いで、微かな声が聞こえてきた。
悲しそうなポケモンの鳴き声だ。
「レオン、今の鳴き声聞こえた!? きっとプラスルだわっ」
ルナは辺りをキョロキョロと見回した。
「あの扉の奥から聞こえてくるみたいよ」
ホールのような広いこの洞窟の奥にある扉を見つけ、ルナが指差す。
その前まで行ってみると、確かに聴こえる。扉越しに悲しげなポケモンの鳴き声が。
二人は扉を開け、中に入る。
少し広い物置部屋の様である。その一番奥に何か小さなオリが置いてあり、声はその中から聞こえてきていた。
近寄ると、そのオリの中に赤い長い耳と手、そして尻尾の先が赤い十字になっている愛らしいポケモンが、悲しそうな
「ギンザルさんのプラスルだわ。可哀想に、こんな所に閉じ込められて」
ルナは急いでオリの扉を開けてやる。
「さあ、プラスル。もう出て来て大丈夫よ。怖いやつらは皆やっつけたから。あたしがギンザルさんの処まで連れて行ってあげるからね」
その優しい声に安心したのか、プラスルはパッと表情を輝かせ、オリの外に飛び出した。
嬉しそうに少女の周りを飛び跳ねる。
思ったより元気そうで、ルナはホッとした。
——と、
不意にプラスルは跳ねるのを止め、じっと耳を澄ますように動かなくなった。
何かを聞きつけたらしい。
二人は顔を見合わせ、身構えた。
暫くして隣のホールから、複数の足音が響いてくる。
——まさか、あいつらが引き返して来たのか?
二人は緊張して入り口を見据えたが、プラスルはさっきよりも嬉しそうにピョンピョンと入り口へと飛び跳ねて行く。
「ダメよっ、プラスルっ!」
慌ててルナが止めるが、間に合わない。
大柄な人影が飛び込んでくる。
「おお、プラスルっ。おまえ達もっ」
「無事だったんだね、キミ達っ!」
息を切らして部屋に飛び込んで来たのは、ギンザルとシルバだった。
「ギンザルさんにシルバさんっ!? どうしてここに?」
「昨日、このシルバからおまえ達が洞窟に向かったと聞いて、ずっと待っていたんだが、今朝になっても戻って来んので、心配になって来てみたんだよ」
ギンザルもこの町でコロシアムを経営する前は鉱山夫をやっていたのだ。廃鉱となった鉱山の中はかつて知ったる場所である。ここに辿り着くのは難しくはなかった。
「昨日って……。じゃあ、あたし達一晩中廃鉱の中に居たってコト?」
廃鉱の中は陽が射さないし、入ってからバトルの連続で気が張り詰めていて全然眠くもお腹も空かなかったから、そんなに時間が
「うむ、明け方近く、ミラーボのやつが町の外に出て行くのを見かけたやつがいて、もしやと思ってな」
「ええ、ミラーボには逃げられたけど……。でも、これで一安心ね」
嬉しそうにギンザルの周りを飛び跳ねるプラスルを見て、にっこりとルナが言う。
「本当に、ギンザルさんには何と言っていいのか……」
シルバがすまなそうに改めてギンザルに謝る。
「いいってことさ」
ギンザルは
「みんな無事だったんだ。それでいいじゃないか。ミラーボだって、こうしてレオン君達が追い出してくれたんだしな」
そう締め括るギンザルの足許で、何か訴えるように飛び跳ねて鳴くプラスルに気付き、ギンザルは片膝を付いた。
「ん? どうした、プラスル」
プラスルがお腹を抱え、甘えた声で鳴く。
背後からも、ぐぐ~っと大きな音がする。
その音を耳にして、ギンザルは豪快に笑った。
「わっはっは! そうか。安心して腹が空いたか?」
プラスルを抱きかかえ、立ち上がってレオン達に顔を巡らす。
「さあ、おまえ達も、こんなカビ臭い穴倉からは、さっさと退散するとしよう」
腹を押さえ、それぞれバツが悪そうな顔をする二人に、異論は全くなかった。