家の中ではローガンとその妻のセツマが、居間で食後のお茶を楽しみながら、テレビのニュースを見ていた。
テレビではお馴染みの女性キャスターが、少々興奮気味に手元のレポートを読んでいる。
『当局の調べによりますと、世界征服を企む悪の組織の存在が明らかになりました。最近各地で報告されている凶暴なポケモンも、何らかの関連があると見られています。詳しい事は、情報が入り次第お伝えしてまいります』
何時の間にかスナッチ団の話は過去のものとなり、今はじわじわと注目を浴び始めた凶暴なポケモンの、その背後にあると思われる組織に関するニュースに話題が変わっていた。
セツマはニュースを見て、不安そうに頬に手を当てる。
「まあ、何だか物騒な話ですねぇ」
「うむ……」
ローガンも片手で長い顎鬚を撫でながら、気難しげな
そこへルナが駆け込んで来る。
「お祖父ちゃんっ、お祖母ちゃんっ。会いたかったよ~っ!」
「まぁ、ルナ。よく来たねぇ」
飛びついてきた孫を抱き返し、セツマは安心したように顔を綻ばせた。
「おまえがこっちに来ると連絡があってから、何時になっても顔を見せないから心配したよ」
「やっと来たのう。しかし一体何処で寄り道しておったんじゃ?」
再会を喜び合う妻と孫を優しく見やり、ローガンは肝心な処を訊いた。
途中フェナスシティ辺りを観光してから来ると思っていたので、最初それ程心配していなかったのだが、それにしてはあまりにも来るのが遅いので、今日にでも警察に捜索を依頼しようかと思っていた処だ。
「そうよっ、大変だったんだから」
祖父に問われたルナは、力を込めて言う。
「道を間違えて変な町に出て、そこで怪しい連中に誘拐されかけて——」
と、そこまで言って、キョロキョロと連れの姿を捜す。
一緒に入って来たとばかり思っていた少年は、何処にもいなかった。
慌ててルナが玄関まで戻ると、レオンは中に入らず扉の所に立っていた。
「レオン、そんな所にいないで、中に入って」
ルナはレオンを家の中に引っ張り込んで、居間にいる祖父母の許へ連れて行く。
「危ない処だったのを、偶然このレオンに助けてもらったの」
二人に彼を紹介し、祖母が出してくれた昼食をレオンと一緒に食べながら、今まで彼が自分にしてくれた事を掻い摘んで話す。
「何度もあたしを護ってくれて、レオンはとっても頼もしい優秀なトレーナーなのよ」
「ほう……」
眉根を寄せて話を聞いていたローガンは、元の穏やかな好々爺の
「何度も孫を救ってくれてありがとう」
「本当に、孫を助けていただいてありがとうございますね」
「別に、礼を言われる事はしていない」
丁寧に礼を言うルナの祖父母に、レオンは素っ気なく返す。
最初は行きがかり上やむなくだったが、その後は自分の為に護っていたに過ぎない。礼を言われる筋合いはなかった。
「いやいや、君が居なければ孫は無事ここまで来れなかったじゃろう」
ローガンは
「しかし、何故ルナがそんな危ない目に……」
「全身から黒いオーラを放つ変なポケモンを見ちゃったからなの。心を持たない、戦闘マシンみたいなダークポケモンを……」
「ダークポケモンじゃと? 一体なんじゃ、それは?」
「それはね——」
と、ルナが説明しようとした時だった。
「た、た、大変だあ~っ!!」
大声を上げて、黄色いトレーナーに青いサロペットを着た男が、息を切らして駆け込んで来た。
「ローガンさん大変なんだっ、聖なる森に変なやつらがっ!」
「なんじゃとっ」
顔色を変えたローガンが、更に詳しく訊き返す。
「アイク、そいつらは一体何処の何者なのじゃっ!?」
「そ、それが、いきなり突き飛ばされて……。その後やつら、ポケモンを使って森を封鎖してしまって……」
森の中に入れなくなったアイクは、急いでそれを知らせに来ただけなのだ。
「よし、話は後じゃっ。行くぞっ!!」
埒が明かないと思ったローガンは、すまなそうにするアイクを押し退け、着ている長いローブの裾を蹴散らして外へ駆け出して行く。とても高齢のご老体とは思えない素早さだ。
アイクも慌ててその後を追う。
「レオン、あたし達も行ってみましょ」
「ああ」
「気を付けて行くんだよ」
すぐさま続いて行く二人に、セツマが心配そうに声を掛けた。
レオンとルナは外に出てローガン達を捜すが、既にその姿はなかった。
そこへ、まだ近くにいたダグが、驚いた顔をして二人に話し掛けて来る。
「いやぁ、ローガンさんがあんなに早く走るの、初めて見たよ。一体何があったんだ?」
「聖なる森に、変なやつらが押し入ったのよ」
「なんだって!? それにローガンさんが向かったのかっ」
驚き且つ呆れてダグは目を丸めた。
「ったく、自分を幾つだと思っているんだ、ローガンさんは。無茶しなければいいけど……」
「ええ、だからあたし達も行こうと思って。ダグ小父さんは、この事を村の皆に伝えて。危ないから来ないように」
村には祖父のように現役を引退して、ここで隠居生活をしている元トレーナーが結構いるのだ。ローガンのように血気に
心配するダグにそう頼むと、ルナはさっき登って来た坂と反対方向に走った。
下に川が流れる崖上に架かる橋を渡り、その先にある急な坂を下る。
そこに、先程グラエナを連れた老婆が、居ても立ってもいられない様子でうろうろしていた。
「サイラお婆ちゃんっ」
「ああ、ルナちゃんっ」
サイラは駆け寄って来る少女に、
「さっきローガンさんが、血相を変えてこの坂を駆け下りて行くのを見たんじゃが、聖なる森に怪しい連中が押し入ったんだって!?」
「ええ、そうなの」
「悔しいねぇ、私ももうちょっと若けりゃ、グラエナと一緒に戦うんじゃが」
心底悔しそうにサイラは持っている杖をギュッと握り締める。
グラエナも無念そうに尻尾を垂らして
「大丈夫よ。ここはあたし達に任せて、サイラお婆ちゃんはお祖母ちゃんの傍にいてくれないかな」
慰めるように言うと、ルナはサイラに後の事を頼む。
「お祖母ちゃん独りで心細がっているかもしれないから」
「ああ、そうするよ。何者か知らないけど、気を付けていくんだよ」
「ええ、判っているわ。レオン、こっちよ」
サイラに応え、ルナは再び駆け出した。
それに付いて行きながら、レオンがぼそりと声を掛ける。
「一つ、訊いていいか?」
「何?」
「『聖なる森』ってなんだ?」
さっきから頻繁に話に出て来るが、レオンには何の事か全く分らない。
「そっか、レオンはここは初めてだもんね」
分からないのも無理はない。
「聖なる森って言うのは、ポケモンの聖地って
走りながらルナはレオンに簡単に説明する。
橋を渡り、ポケモンセンターの前を通り過ぎてまた坂を下る。
そして、小さな小川が流れる先に、ぽっかりと開いた洞穴があった。
そこが聖なる森に通じる、唯一の入り口だった。
来週は休みます。