未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―アゲトビレッジ Ⅰ―(2)

 家の中ではローガンとその妻のセツマが、居間で食後のお茶を楽しみながら、テレビのニュースを見ていた。

 テレビではお馴染みの女性キャスターが、少々興奮気味に手元のレポートを読んでいる。

『当局の調べによりますと、世界征服を企む悪の組織の存在が明らかになりました。最近各地で報告されている凶暴なポケモンも、何らかの関連があると見られています。詳しい事は、情報が入り次第お伝えしてまいります』

 何時の間にかスナッチ団の話は過去のものとなり、今はじわじわと注目を浴び始めた凶暴なポケモンの、その背後にあると思われる組織に関するニュースに話題が変わっていた。

 セツマはニュースを見て、不安そうに頬に手を当てる。

「まあ、何だか物騒な話ですねぇ」

「うむ……」

 ローガンも片手で長い顎鬚を撫でながら、気難しげな表情(かお)でテレビ画面を見ていた。

 そこへルナが駆け込んで来る。

「お祖父ちゃんっ、お祖母ちゃんっ。会いたかったよ~っ!」

「まぁ、ルナ。よく来たねぇ」

 飛びついてきた孫を抱き返し、セツマは安心したように顔を綻ばせた。

「おまえがこっちに来ると連絡があってから、何時になっても顔を見せないから心配したよ」

「やっと来たのう。しかし一体何処で寄り道しておったんじゃ?」

 再会を喜び合う妻と孫を優しく見やり、ローガンは肝心な処を訊いた。

 途中フェナスシティ辺りを観光してから来ると思っていたので、最初それ程心配していなかったのだが、それにしてはあまりにも来るのが遅いので、今日にでも警察に捜索を依頼しようかと思っていた処だ。

「そうよっ、大変だったんだから」

 祖父に問われたルナは、力を込めて言う。

「道を間違えて変な町に出て、そこで怪しい連中に誘拐されかけて——」

 と、そこまで言って、キョロキョロと連れの姿を捜す。

 一緒に入って来たとばかり思っていた少年は、何処にもいなかった。

 慌ててルナが玄関まで戻ると、レオンは中に入らず扉の所に立っていた。

「レオン、そんな所にいないで、中に入って」

 ルナはレオンを家の中に引っ張り込んで、居間にいる祖父母の許へ連れて行く。

「危ない処だったのを、偶然このレオンに助けてもらったの」

 二人に彼を紹介し、祖母が出してくれた昼食をレオンと一緒に食べながら、今まで彼が自分にしてくれた事を掻い摘んで話す。

「何度もあたしを護ってくれて、レオンはとっても頼もしい優秀なトレーナーなのよ」

「ほう……」

 眉根を寄せて話を聞いていたローガンは、元の穏やかな好々爺の表情(かお)に戻り、孫が連れて来た少年に礼を言う。

「何度も孫を救ってくれてありがとう」

「本当に、孫を助けていただいてありがとうございますね」

「別に、礼を言われる事はしていない」

 丁寧に礼を言うルナの祖父母に、レオンは素っ気なく返す。

 最初は行きがかり上やむなくだったが、その後は自分の為に護っていたに過ぎない。礼を言われる筋合いはなかった。

「いやいや、君が居なければ孫は無事ここまで来れなかったじゃろう」

 ローガンは(かぶり)を振ると、訝しげな表情になった。

「しかし、何故ルナがそんな危ない目に……」

「全身から黒いオーラを放つ変なポケモンを見ちゃったからなの。心を持たない、戦闘マシンみたいなダークポケモンを……」

「ダークポケモンじゃと? 一体なんじゃ、それは?」

「それはね——」

 と、ルナが説明しようとした時だった。

「た、た、大変だあ~っ!!」

 大声を上げて、黄色いトレーナーに青いサロペットを着た男が、息を切らして駆け込んで来た。

「ローガンさん大変なんだっ、聖なる森に変なやつらがっ!」

「なんじゃとっ」

 顔色を変えたローガンが、更に詳しく訊き返す。

「アイク、そいつらは一体何処の何者なのじゃっ!?」

「そ、それが、いきなり突き飛ばされて……。その後やつら、ポケモンを使って森を封鎖してしまって……」

 森の中に入れなくなったアイクは、急いでそれを知らせに来ただけなのだ。

「よし、話は後じゃっ。行くぞっ!!」

 埒が明かないと思ったローガンは、すまなそうにするアイクを押し退け、着ている長いローブの裾を蹴散らして外へ駆け出して行く。とても高齢のご老体とは思えない素早さだ。

 アイクも慌ててその後を追う。

「レオン、あたし達も行ってみましょ」

「ああ」

「気を付けて行くんだよ」

 すぐさま続いて行く二人に、セツマが心配そうに声を掛けた。

 レオンとルナは外に出てローガン達を捜すが、既にその姿はなかった。

 そこへ、まだ近くにいたダグが、驚いた顔をして二人に話し掛けて来る。

「いやぁ、ローガンさんがあんなに早く走るの、初めて見たよ。一体何があったんだ?」

「聖なる森に、変なやつらが押し入ったのよ」

「なんだって!? それにローガンさんが向かったのかっ」

 驚き且つ呆れてダグは目を丸めた。

「ったく、自分を幾つだと思っているんだ、ローガンさんは。無茶しなければいいけど……」

「ええ、だからあたし達も行こうと思って。ダグ小父さんは、この事を村の皆に伝えて。危ないから来ないように」

 村には祖父のように現役を引退して、ここで隠居生活をしている元トレーナーが結構いるのだ。ローガンのように血気に(はや)って加勢に来て、怪我でもされたら大変だ。

 心配するダグにそう頼むと、ルナはさっき登って来た坂と反対方向に走った。

 下に川が流れる崖上に架かる橋を渡り、その先にある急な坂を下る。

 そこに、先程グラエナを連れた老婆が、居ても立ってもいられない様子でうろうろしていた。

「サイラお婆ちゃんっ」

「ああ、ルナちゃんっ」

 サイラは駆け寄って来る少女に、()き込むように訊く。

「さっきローガンさんが、血相を変えてこの坂を駆け下りて行くのを見たんじゃが、聖なる森に怪しい連中が押し入ったんだって!?」

「ええ、そうなの」

「悔しいねぇ、私ももうちょっと若けりゃ、グラエナと一緒に戦うんじゃが」

 心底悔しそうにサイラは持っている杖をギュッと握り締める。

 グラエナも無念そうに尻尾を垂らして項垂(うなだ)れた。

「大丈夫よ。ここはあたし達に任せて、サイラお婆ちゃんはお祖母ちゃんの傍にいてくれないかな」

 慰めるように言うと、ルナはサイラに後の事を頼む。

「お祖母ちゃん独りで心細がっているかもしれないから」

「ああ、そうするよ。何者か知らないけど、気を付けていくんだよ」

「ええ、判っているわ。レオン、こっちよ」

 サイラに応え、ルナは再び駆け出した。

 それに付いて行きながら、レオンがぼそりと声を掛ける。

「一つ、訊いていいか?」

「何?」

「『聖なる森』ってなんだ?」

 さっきから頻繁に話に出て来るが、レオンには何の事か全く分らない。

「そっか、レオンはここは初めてだもんね」

 分からないのも無理はない。

「聖なる森って言うのは、ポケモンの聖地って()われている所なの。なんでもセレビィっていう、時を渡る能力を持ったポケモンが訪れる、たった一つの場所らしいわ」

 走りながらルナはレオンに簡単に説明する。

 橋を渡り、ポケモンセンターの前を通り過ぎてまた坂を下る。

 そして、小さな小川が流れる先に、ぽっかりと開いた洞穴があった。

 そこが聖なる森に通じる、唯一の入り口だった。

 




来週は休みます。
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