未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―フェナスシティ―(3)

 機嫌を良くしたルナは、ふと周りを見回し、石壁の中に広がる風景に唖然となった。

「え? ここは……? 

 一体あたし、何処に連れてこられちゃったの?」

 全然見覚えのない景色に途惑う。

 自分は確か、もっと薄汚れた荒んだ雰囲気の町にいた筈だ。それが、こんな水に溢れた綺麗な街の前にいるなんて。余りのギャップに一瞬夢でも見ているのかと目を疑った。

 それに答えてくれたのは、傍に居たスーツの女性だった。

「ここは水の都フェナスシティよ」

「フェナスシティ……ここが——」

 茫然と呟いたルナは、思わず頭を抱え込んだ。

「やっぱり、あの別れ道で間違ったんだわ。変だと思ってたのよね。あの町薄汚れてて、水なんて何処にも流れて無かったし」

 あの道しるべが悪いのよと、道に迷った言い訳を誰にともなく言い募る。

 どうもここに来るつもりで、違う町に行ってしまったようだ。そうすると、さらわれてここに連れて来られたのは、むしろ手間が省けて丁度良かったのかもしれない。

「ところで君、なんでこんな麻袋に詰め込まれていたんだい?」

 麻袋を拾い上げ、若者がもっともな質問をする。

 それに、ルナはハッと我に返った。

「そうだっ! あいつらバトルで変なポケモン使っていなかった」

「いや」

 問い掛けられ、レオンは怪訝そうに少女を見た。

 バトルした感じでは、二匹とも変な技も覚えていない普通のゴニョニョだったと思う。

「そう、それならいいの」

 ルナは安堵しながらも、何処となく表情が冴えない。

「あたし、薄汚れた町の中を歩いていたら、いきなりあいつらに捕まったの。あいつらは多分——」

「多分?」

「ううん、なんでもないわ」

 もし自分の考えが当たっていたら、それを聞いたこの人達も狙われてしまうかもしれない。

 そう思うと、ルナは言うに言えなかった。

「何か理由(わけ)がありそうね」

 浮かない顔の少女に、女性は一つ提案してみた。

「だったら、この街の市長さんに相談してみたらどうかしら」

「市長さんに?」

「ええ、とっても親切な人だから、きっと貴女の力になってくれる筈だわ」

 と、女性は少女に請け合う。

 オーレに住む人々の為に、荒れ地の中に造られた水と緑に溢れるこのフェナスシティを、先代と同じに先々代の意志を守り発展させてきた今の市長なら、困っている人を放ってはおけないだろう。

「……そうね、市長さんに聞けば、何か判るかも」

 一人で悩むよりもその方がいいかもしれない。市長なら色々な事を知っていそうだし、それに偉い立場の人ならあのゴロツキ達も手出しできないだろうから。

 乗り気になってルナはスーツの女性に訊いた。

「それで、市長さんは何処にいますか?」

「市長さんのお宅は、この先の噴水広場の階段を上がった左側よ」

「ありがとう」

 ルナは親切なスーツの女性に礼を言うと、もう用は済んだと歩き出した少年を掴まえる。

「ねえ、レオン。いきなりで悪いんだけど、できれば暫くあたしと一緒にいてくれない? またあいつらが来たら怖いし……」

 胸の前で両手を組み、不安そうに青い瞳を揺らして頼み込む。

 初めての場所で、ルナが今頼れるのはゴロツキから助けてくれた彼だけだった。

 だが、レオンは素っ気なかった。

「悪いが、他を当たってくれ」

「そんなぁ……」

 即行で断られ、ルナはがっくり肩を落とした。

 そんな少女を見かね、スーツの女性が少年を言い諭す。

「貴方そんなこと言わないで。昔はそうでもなかったんだけど、最近はこの街もちょっと物騒になっちゃって、女の子の一人旅は危険なのよ」

「そうだよ、折角女の子が頼ってるのに、それを断るなんて男じゃないぞ」

 半袖短パンの若者もそれに加勢する。

「それに、君ならまたあいつらがやって来てもへっちゃらだろう」

「ね、お願いっ。あたしには貴方しかいないのっ」

 周りの応援を得て、ルナはもう一度少年に頼み込んだ。

 嫌そうにレオンは顔を(しか)めるが、ルナの方も必死だ。

「ね、いいでしょ。貴方だけが頼りなのよっ」

「………」

 早くここを立ち去りたいレオンは、ぐっと眉間に(しわ)を寄せて思案した。

 普段の自分を知っているいないに関わらず、自分を見れば誰でも距離を取って関わり合いになりたがらないのに、いくら他にいないとはいえ、こんな自分に頼ろうなどと、この少女、どういう神経をしているのか理解に苦しむ。

 他の連中もだ。おそらくさっきのバトルで、ゴロツキから少女を助けたいい人認定してしまったんだろう。今更違うと言っても、照れていると更に勘違いされそうだった。

 とは言え、このままだといくら断った処で、この少女はとても諦めそうにない。自分が受けるまで何時までも粘りそうだ。

 こんなことなら、やっぱりさっき二人を無視して行ってしまえばよかった。と激しく後悔したが、既に後の祭りである。

 三人が見守る中、レオンは深く溜息をつくと、観念したようにぼそりと呟いた。

「…——判った……」

「やったぁ。ありがとうっ!」

 憮然とするレオンとは対照的に、ルナは嬉しさに小躍りして喜ぶ。

「じゃあ、暫くの間お願いね、レオン」

「………」

 不本意この上ない顔をし、レオンは喜ぶ少女を無言で見返した。

 

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