未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―アゲトビレッジ Ⅰ―(4)

 男が繰り出したポケモンは、体長六十センチ程の頭にコブのような出っ張りと垂れた長い耳を持った青い体に、先端に目玉のような模様のある黒い尻尾のエスパータイプのソーナノに、さっきローガンと戦ったカポエラーだった。

 それに対し、レオンはエーフィとヨルノズクを出す。

「レオン、そのカポエラーはダークポケモンよっ」

「ああ、判っている」

 さっきピカチュウにダークポケモン専用技を使っていた。

「あのカポエラーが、ダークポケモンじゃと?」

 アイクが来る前にルナが話していた、全身から黒いオーラを放つというポケモン。それがこれだというのか?

「そうよ。お祖父ちゃんには見えない? あのカポエラーの体から噴き出している黒いオーラが」

「黒いオーラじゃと?」

 孫の言葉に、ローガンは目を凝らしてカポエラーを見るが、そんなものは見えず、普通のポケモンとしか思えない。

 やはり、それが見えるのはルナだけのようだ。

 ポケモンを出すと同時にカポエラーの威嚇によって、少し攻撃力が下がってしまったが、レオンは一瞬の隙を()いてヨルノズクの『催眠術』でカポエラーを眠らせ、エーフィには『リフレクター』を張らせた。

 キラキラと蒼く煌めく光がヨルノズクとエーフィを取り囲み、物理攻撃を半減させる光の壁を形成する。

「なに!?」

 上がってきた報告によれば、例の少女と一緒に行動する少年は、自分達の持つダークポケモンを(ことごと)くスナッチしているという事だった。

 まず邪魔な他のポケモンを速攻で叩き潰し、残ったダークポケモンの体力をある程度削ってから確実にスナッチしていく。それがこの少年のバトルスタイルだった筈だ。

 だから少年の攻撃を予測してソーナノにはカウンターを狙らわせたのに、攻撃より先に防御を上げるとは。これでは物理攻撃の返し技であるそれは、なんの効力もない。

 これならソーナノには状態異常技を効かなくする『神秘のまもり』を使わせればよかった。

 ツノ付きフルフェイスの男は(ほぞ)()んだが、既に後の祭りだ。カポエラーは眠ってしまった。

 そこへ、すかさずレオンが次の指示を飛ばす。

「ヨルノズク、ソーナノに『催眠術』を掛けたら『ダークラッシュ』 エーフィはソーナノが眠ったら『恩返し』」

「なっ、ソーナノ『神秘の——」

 慌ててツノ付きフルフェイスの男が指示を出そうとするが、遅かった。

 ソーナノを真正面から捉えたヨルノズクの双眸が光を発し、ソーナノを深い眠りに落とす。

 次いでエーフィの懐き最大威力の恩返しの力が炸裂し、そこにヨルノズクの苛烈な一撃が畳みかける。

 ソーナノは攻撃技を持たないが、反撃技は豊富に持つ。受けた攻撃を増幅して返してくるのだ。一度の攻撃で確実に仕留めなければ、こっちが大ダメージを受ける事になる。

 効果抜群ではないが、眠って無防備な状態で立て続けに威力のある攻撃を急所に喰らい、ソーナノは起きる間もなく完全に力尽きた。

 その横で、逆さまになった状態で、器用にバランスを保ってカポエラーはぐうぐう眠っている。

「くっ、なかなかやりますね……」

 まだまだ余裕を見せて、男は次のポケモンを呼び出す。

 次に出して来たのは、灰色のごつごつと丸い岩の体に二本の腕を生やしたイシツブテである。岩と地面タイプを兼ね備えているだけあって、体が頑丈に出来ている。

「イシツブテにエーフィは『サイケ光線』 ヨルノズクは『空を飛ぶ』」

「イシツブテ、ヨルノズクに『岩落とし』 カポエラー、そろそろ起きなさいっ」

 両者の指示に、ポケモン達が一斉に反応する。

 エーフィがふるりと鋭く首を振り、額の紅玉に「曲がったスプーン」で威力を増幅させた思念の力を収斂させ、イシツブテに閃光のように叩き付ける。

 技を出そうと両のごつい腕に力を込めていたイシツブテは、それを真正面から受けてひっくり返った。

「そんな、馬鹿な事が……」

 あの頑丈なイシツブテが、効果抜群でもない技の一撃でやられてしまうとは。

 白銀のツノ付きフルフェイスの男は信じられない思いで、次のポケモンを出した。

 今度のポケモンは、青い二枚貝の殻の中に柔らかな身に包まれて鎮座しているピンク色の珠に顔がある、水タイプのパールルだ。

 それにヨルノズクが上空から急降下して一撃を加える。

 だが、流石に固い殻を持ったパールルである。その程度では倒れはしなかった。

 そして、カポエラーが目を覚ます。

「ヨルノズク、カポエラーにもう一度『催眠術』 エーフィはパールルに『サイケ光線』だ」

「同じ()は通用しませんよ。カポエラー、躱してエーフィに『ダークラッシュ』 パールルは『うずしお』です」

 男の指示に、カポエラーはクルクルと逆さになった体を回転させて、ヨルノズクの視線上から逃れ、そのまま石畳に弧を描いてエーフィに痛烈な一撃を浴びせる。

 その衝撃に、パールルに攻撃を仕掛けようとしていたエーフィは、悲鳴を上げて大きく身を仰け反らせた。

「エーフィ!?」

 心配するレオンの声に、後ろ足を踏ん張って持ち堪えたエーフィは、すぐさま攻撃に出た。

 首を振り、思念のありったけを込めてパールルに叩き付ける。

 虹色に輝く軌跡を描いて額の紅玉から放出された強力な思念の力は、パールルが呼び出した水が渦を作る前に固い殻共々粉砕した。

「馬鹿な……」

 多少体力が削られていたとはいえ、効果抜群でもないのに、また一撃で……

 その凄まじい威力に、ツノ付きフルフェイスの男は声もなく、次の指示も出せずに呆然となった。

 ローガンも感嘆してバトルの行方を見守った。

 残るはエスパー技に弱いカポエラーだけである。

 あと一撃で勝負は決まる。

 そうローガンが思った時だった。

「ヨルノズク、『リフレクター』 戻れ、エーフィ」

 何を思ったのか、レオンはエーフィを引っ込めてしまった。

 そして、代わりに出して来たポケモンは、事もあろうに格闘技に弱い悪タイプのブラッキーだった。

「なんと……」

 勝利を目の前にして、何故そのような愚を犯すのか。

 ローガンは、少年の不可解な行動が理解できなかった。

「ブラッキー、カポエラーに思いっ切り噛み付け。そいつが怯んだらヨルノズクは『催眠術』だ」

 そう指示を出し、レオンはロングコートのポケットからモンスターボールを取り出す。

「モンスターボールなど手に持って、あの少年は何をするつもりなんじゃ?」

 まだバトルは終わっていない。しかもあの少年が持っているボールは、まだポケモンをゲットしていない未使用の物のようである。

「ダークポケモンをスナッチするのよ」

「あのカポエラーを、スナッチするじゃと?」

「ええ、ほら見て」

 自分の疑問に答えた孫に思わず振り返ったローガンは、促されて慌ててバトルを続ける少年に視線を戻した。

 ブラッキーに噛み付かれ、怯んで一瞬動きを止めたカポエラーにヨルノズクが見事に『催眠術』を決める。

「ブラッキー、『秘密の力』 ヨルノズクは『ダークラッシュ』」

 眠っている状態でもスナッチできるが、レオンは念には念を入れた。

 畳みかけるように二匹の攻撃が、眠っているカポエラーの体に炸裂する。

 逆さの姿勢のままなす術もなくそれをまともに喰らい、カポエラーはぐらりと倒れかける。

 その瞬間、

 レオンはカポエラーにスナッチボールと化したボールを投げ付けた。

 石畳の上で二度三度揺れて、カポエラーを呑み込んだモンスターボールが動きを止める。

「これは……」

 トレーナーのいるポケモンをゲットしてしまうとは……

 ——あの少年は一体……

 驚きに目を見開き、ローガンは石畳に転がるモンスターボールと少年を見た。

「まさか、この私を負かすとは。あの報告は古かったようですね」

 少年の予想外の強さに、男はミシリと空になったカポエラーのボールを握り締める。

「おまえはミラーボの手下か? 今やつは何処に居る?」

「さあ、何処でしょうね」

 ツノ付きフルフェイスの男は、少年の問いをはぐらかして肩を竦めると、何時の間に手にしたのか、モンスターボールとは違う白い拳大のボールをレオンの足許に叩き付けた。

 割れたボールから大量の白煙が湧き出、辺りを白く覆う。

「っ!?」

 思わずレオンは片手で鼻と口許を覆い、跳び退(すさ)る。

「まあ、今回はこのまま引きましょう。ですが、これで全てが終わったと思わない事ですね」

 白煙の向こうから男の声が響き、足音が遠ざかる。

 慌ててレオンがその後を追うが、白煙の向こうに男の姿は既になかった。

 一方ルナは、心配そうに祖父に抱き抱えられているピカチュウを見ていた。

「大丈夫? ピカチュウ……」

 まだ弱々しいながらも声を上げ、もぞもぞと動いてピカチュウはローガンの腕の中に身を起こす。

「まだ横になっていてもよいぞ。すぐにポケモンセンターに連れてってやるからのう」

 バトルに負けて、すまなそうに長い耳をたらして自分を見上げるピカチュウに、ローガンは優しく語り掛ける。

「相手が普通のポケモンだったなら、おまえが勝っていただろう」

 先程戦ったカポエラーを思い出し、ローガンは眉を(ひそ)めた。

「あれがダークポケモンか……。ルナ、それから…レオン君といったかな。助けてくれてありがとう」

 二人に礼を言うと、ローガンは森の入り口の番人である男に目をやった。

「アイク、今ここであった事は、一先ず誰にも言わんでおいてくれ。皆にはわしから説明しておくのでな」

「はい、判りました。もし聞かれたら、怪しいやつらはローガンさんが皆追っ払ったと言っておきます」

 口が固く約束は必ず守るアイクである。後の事は彼に任せておけば大丈夫だろう。

「うむ。それじゃ、ルナ、レオン君。取り敢えず家に戻るとしよう」

「ええ、お祖母ちゃんが心配してるものね」

 聖なる森の入り口にアイクを残し、三人はポケモンセンターでピカチュウ達を回復した後で、家に戻った。

 

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