「ポケモンの一番楽しかった頃の想い出かぁ……」
それをあの子達の心に蘇らせることが出来れば、あの黒いオーラの呪縛から解放されるかもしれない。そうすればきっと元の普通のポケモンに戻れる。
問題は、その想い出がどんなものか、自分達には分からない事だ。それでは手の打ちようがない。リライブについて色々と判ったものの、結局振り出しに戻ったようなものだった。
「どうしよう……」
「もう一度、あの祠を調べる」
あの祠がリライブの鍵なのは確かなのだ。さっきはよく判らずに闇雲に探っていたが、祠に宿る力の正体が判った今なら、別の観点から調べることが出来るだろう。
ルナもそれに賛成し、二人はそのまま聖なる森に向かった。
静寂に包まれ、祠は変わらずにそこに佇んでいた。
ただ大小の様々な大きさの扇形の石を、円形に組み合わせただけの祠に見えるが、こうやって傍に寄ると、確かに何か不思議な力が伝わってくるように感じられる。
森の中に静かに佇む祠を見上げ、レオンはそっとそれに手を触れてみた。
その途端、パアッと祠から緑の柔らかな光が溢れ出た。
同時に、レオンの胸の辺りからも同じような光が漏れ出る。
「っ!?」
思わず祠から手を離すと、胸の辺りの光も消えた。
ロングコートの前を開いて、レオンが光った辺りの胸の内ポケットから取り出したのは、坂で転びそうになったルナから預かっていた石板だった。おそらくさっき胸の辺りが光ったのはこの石板の所為だろう。
「レオン。これって、もしかして……」
前に来た時とは違う祠の反応に、ルナは期待に胸を膨らませる。
レオンは石板を片手で持ち、もう一方の手で祠に触れた。
石板が緑色に輝くと同時に、祠からほんわりと緑色の光が溢れ出てくる。
この二つは反応し合っているのだ。
レオンは祠から手を離し、ベルトのモンスターボールを取ると、中のポケモンを出した。スナッチしたダークポケモンを。
「マグマラシ、ここへ来い」
レオンの指示に、マグマラシは素直に従って祠のすぐ脇に立った。
今手持ちのダークポケモンの中で一番心を開いてくれていたが、それでも普通のポケモンに比べれば感情が乏しく、動きも何処かぎこちなくて機械的だった。
ルナがゴクリと唾を飲み込んで見守る中、レオンは再び祠に手を触れる。
石板が輝き、祠から溢れ出した緑色の温かな光が、傍らに立つマグマラシから吹き上げる黒いオーラを覆うようにその体を包み込んでいく。
そして、次の瞬間——
一際
「すごぉ~いっ。マグマラシの黒いオーラが消えたわ!」
「本当か!?」
ルナの上げた驚嘆の声に、それが見えないレオンが思わず訊き返す。
「ええ、あの緑色の光が弾ける時に、一緒に黒いオーラを吹き飛ばしてしまったの」
そのルナの言葉を証明するように、マグマラシは体を丸めてビクビクと怯えたように周囲を見回し出した。頭と尻の炎も今の気持ち表すように不安定に揺れている。
レオンが片膝を立ててしゃがむと、マグマラシは後ろ足で立ち上がり、前足をちょこんとその立てた膝の上に乗せて見上げ、
さっきとは明らかに違う自然な動きだ。完全に元に戻ったのだ。
「良かったな、マグマラシ」
ふっと柔らかな笑みを浮かべ、レオンがマグマラシの体を撫でる。
マグマラシは気持ちよさそうに目を細め、安心したのか体から噴き出す炎も安定した。
——レオンが
ブラッキーやエーフィにもよくあんな優しい顔をするけど、それは長年一緒にいて気心の知れた相棒だからだと思っていたのに、知り合って自分と同じくらいのマグマラシにも、そんな温かな笑みを向けるなんて。
——あんな顔、あたしには一度だってしてくれたことがないのに……
マグマラシが元に戻って嬉しかったのは同じだが、ルナはなんとなくマグマラシに負けたような気分になった。
そんな気持ちを振り払い、ルナは自分に甘え出したマグマラシを微笑ましく見る少年に声を掛ける。
「良かったね、レオン」
「ああ」
途端に何時もの何処か冷めたような無愛想な表情に戻ってルナを一瞥すると、レオンはマグマラシをモンスターボールに戻した。
そして、別のダークポケモンを呼び出し、祠から湧き出る緑の光を浴びせて完全にリライブさせる。
それを繰り返し、手持ちのダークポケモンを全てリライブさせると、レオンはルナに石板を預け、ポケモンセンターからパソコンに預けてある他のダークポケモンを連れて来ては同じ事を繰り返した。
しかし、皆を完全にリライブさせる事はできなかった。
どうやらこの祠の力は、リライブ寸前まで心が開いてないと効果がないようで、今日スナッチしたカポエラーなどは祠の光を浴びても、全く変化が無かったのだ。
「みんな元に戻せると思ってたのに、残念だったね」
「いや、そのやり方が判っただけでも十分だ」
バトルさせてリライブ寸前まで心を開きさすれば、ここで何時でも元に戻せる。
それにしても、リライブしたポケモンが、あんな風になるとは驚きだった。
ダークポケモン特有の技である『ダークラッシュ』を忘れ、代わりに自分が本来覚えていた技を思い出すのはまだ判るが、心を閉ざしていた事で今まで止まっていた成長が、リライブした途端急激に進んで、新しい技を覚えたり、進化までしたポケモンがいたのだ。ポポッコやモココなどがそれで、ワタッコやデンリュウに進化してしまった。
全てのダークポケモンを試し終えてローガンの家に戻ったレオンは、ついでに貰った技マシンで使えそうなものを調べ、有用なものを早速手持ちのポケモンに覚えさせていく。
その最中に、軽やかな電子音がレオンのコートのポケットから聞こえてきた。
それを聞き付け、一緒にいたルナが訊く。
「今の貴方のP★DAじゃない?」
「ああ……」
自分のアドレスを教えたのは今の処パイラの二人だけだ。何か進展があったのだろうか。
レオンはP★DAを取り出し、画面を切り替えて見ると、ギンザルからメールが来ていた。
「そっか、ギンザルさんにアドレス教えたんだっけ。なんだろう。早く見てみようよ」
画面を覗き込んだルナに
『レオン君大変だっ! 仲間からの情報によると、謎の一団が現在バトル山を襲撃しているとの事だ。すぐに助けに行ってやって欲しい。おそらくミラーボと同じ、謎の組織の仲間だろう。よろしく頼むっ!』
と、メールは緊迫した内容になっていた。
「何ですってっ!? あいつら今度はバトル山を襲っているのっ」
「そのようだな」
だが、この内容では詳しい状況まで判らない。
それを知る為に、レオンはテレビ電話を借りてギンザルに掛けた。詳しく事情を聞くなら、メールより直接話を聞いた方が早い。
何度か呼び出し音が鳴った後、画面に十歳前後の愛らしい少女の顔が映し出された。ギンザルの娘のレイラだ。
「はい…、あっ、お兄ちゃん、お姉ちゃんっ」
レオンとルナの顔を見て、レイラは嬉しそうに声を上げる。
その声を聞き付けてか、その背後からぬっと少女と同年代の少年が姿を現す。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。あれからネットワーク作りが上手くいってね。まだ少しずつだけど、あちこちから情報が集まり始めたんだよ。もう少しまとまったらお兄ちゃんに連絡するからね」
「もうっ、レンったら割り込まないでよ」
「いいじゃないか」
むくれるレイラと押し合いながら画面の前に陣取ったレンは、憮然として黙って自分達を見ているレオンに訊いた。
「ところで何か用なの?」
「ああ、ギンザルさんを頼む」
「オッケー、
と、素早く画面の外に出て行く。
漸く少年が居なくなって清々したレイラは、にっこりと笑ってレオンの傍に立つルナに訊いた。
「お姉ちゃん、プラスルは元気?」
「ええ、元気よ」
「じゃあ、一杯バトルして、プラスルを強くしてあげてね」
「え、ええ……」
ちょっと困ったような
少年に呼ばれて急いで来たギンザルが、娘に覆い被さるように画面に現れた。
「おお、レオン君。P★DAに出したメールを読んでくれたんだなっ!」
「ああ、それでやつらは何時頃、どの程度の人数でそのバトル山を襲撃したんだ? それとやつらの持つポケモンの種類など判るか?」
開口一番、レオンは詳しい情報を要求した。それが判らない事には行った処で対処できないかもしれない。こちらは一人なのだ。少しでも有利にバトルをする為にも、少しでも情報は必要だった。
「詳しい事は判らんが、やつらがバトル山に現れたのは、今から一時間程前らしい。人数はそれほど多くはないようだ。ポケモンの種類については現地に行って、そいつらと実際バトルしたトレーナーに訊いた方がいいだろう。とにかく強いということだ。
どうやらやつらはエリアリーダーのセネティを狙っているらしい。噂によると彼はセレビィという珍しいポケモンを呼ぶことが出来るのだそうだ」
「セレビィですって!?」
思わずルナは声を上げ、レオンを押し退けて画面の前に出た。
「ギンザルさん、そいつらの仲間なら、このアゲトビレッジにも来たのよ。セレビィを捕まえて、それを祀る祠を壊そうと」
「なんだと、そっちにも行ったのかっ」
ギンザルは表情を険しくした。
「おそらくやつらはセレビィを捕まえて、その力を何かに利用しようというのだろう。今の処バトル山にいるトレーナー達が必死になって応戦して、何とか防いでいるらしいが、何時まで持つか分らん。一刻も早く助けに向かってくれ、頼んだぞっ!」
「判ったわ」
「代わりに、こっちに人を寄越してくれ」
頷いて電話を切ろうとするルナを止め、レオンが画面のギンザルに言う。
「誰かバトルで腕の立つヤツをだ。そいつらの仲間がまたこっちに来るかもしれないからな」
自分がここを出た隙に、あの祠を壊されたのでは堪らない。
「判った。すぐに手配しよう」
力強く頷き、ギンザルは請け合って画面から姿を消した。
「じゃあ、早速行きましょ……って、バトル山って何処?」
「知らないのか?」
レオンは眉根を寄せた。
てっきりルナが知っていると思っていたのだ。知らないと判っていれば、さっきギンザルに場所を訊いたものを。
「バトル山はここより更に北じゃ。ここの山を下りた荒れ地の向こうに見える高い山じゃよ」
電話でのやり取りが聞こえていたのか、居間から出て来たローガンが答える。
「何やら大変な事になっているようじゃな」
「ええ、あいつらはダークポケモンをリライブさせる力を持つセレビィが邪魔なのよ。黒いオーラが見えるあたしと同じに。だから絶対やつらの好きにはさせないわっ」
「でも、大丈夫なのかい? 悪者達は強いって話なんだろう」
「大丈夫よ、お祖母ちゃん。レオンはあんなやつらよりも、ずっと強いんだから」
孫の身を案じる祖母に、ルナはレオンと相棒達に全幅の信頼を寄せて請け合う。
「おお、そうじゃ。ルナ、これを持って行くがいい」
何か思い付いて、ローガンは居間に戻って小さな箱を持って戻ってきた。
「きっと、バトルの時に役に立つじゃろう」
「ありがとう、お祖父ちゃん」
それを受け取り、ルナは先に行ってしまったレオンの後を追って外に飛び出した。