未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―バ ト ル 山―(1)

 トレーナーの修行場として、特に過酷で厳しいことで知られているバトル山は、オーレ地方の最北にある峻険とした山々の中で、一際高く天を()くようにそびえ立っている活火山と、その周りを囲むように連なる山々の総称だった。

 修行しに来たトレーナー達は、その山々の手前にある低い山の山頂に建てられたゲートハウスから、今もなお火口から溶岩が流れ落ちる火山へと、その周辺の山々の間の谷間上空に架かった通路を通り、修行場である浮遊ブースで待ち構えるバトル山の凄腕トレーナーに稽古をつけてもらうのである。

 通路で繋がれた浮遊ブースは十個で一エリアと数えられ、レベルごとに全部で十のエリアに分けられていた。

 挑戦者であるトレーナーは、その各ブースにいる担当トレーナーとバトルをして順々に勝ち抜いていき、一エリアの最後の一人であるエリアリーダーを倒すと、その先に設けられているブレイクルームで漸く一息つけるのだ。

 つまりそれは、それまで休み無しに手持ちのポケモンだけで、バトルをし続けなければならないということだ。バトル山が過酷で厳しいと言われる所以(ゆえん)である。

しかし、それだからこそ、火山の頂上まで百ある各ブースの凄腕トレーナーとバトルすれば、トレーナーとしての腕は格段に上がるのだ。

 実際、強豪と知られる有名なトレーナーの中で、このバトル山に挑戦して制覇した者は少なくなかった。ルナの祖父であるローガンも、その内の一人である。

 だが、オーレ地方だけでなく他の地方からも、修行に訪れる者が後を絶たないこのバトル山は、今謎の一団の急襲を受けて危機に直面していた。

 

 

 パイラタウンのギンザルから知らせを受け、直ちにバトル山に向かったレオンとルナは、アゲトビレッジから制限速度を無視した猛スピードで山路と荒れ地を駆け抜け、通常の半分程度の時間で、夕陽を浴びて赤く染まるバトル山のゲートハウス下にある駐車場に、轟然とサイドカーを乗り入れた。

 謎の一団は既にゲートハウス内に押し入ってしまった後らしく、駐車場の辺りは閑散としている。

 サイドカーから飛び降りた二人は、すぐさま駐車場を抜けてゲートハウスに続く階段を駆け上がろうとした。

 そこへ、駐車場脇にある泊まり込みで修行しに来たトレーナー達の為に設けられた宿舎から、男が飛び出して来た。サイドカーの爆音に驚いて様子を見に来て二人を見つけたらしい。

「おい、バトル山に挑戦しに来たのか?」

 男は二人を呼び止めて忠告した。

「だとしたら、止めといた方がいい。今バトル山は、いきなり押しかけて来たおかしな連中に乗っ取られてしまってるんだ」

「乗っ取られたって。それで、やつらはまだいるの?」

 ()き込んでルナが尋ねると、男は苦い顔をする。

「ああ、ブースからトレーナーを次々に追い出して、そこに陣取っているらしいけど、一体何をするつもりなのか……」

「じゃあ、セネティさんは? 無事なの?」

「エリアリーダーのセネティさんか? そう言えば、追い出されて来たトレーナー達の中には居なかったみたいだけど……」

 バトルに負けて、ブースからゲートハウスに逃げ込んで来たトレーナー達の顔を思い出しながら男が呟く。

「やつらが使っていたポケモンのタイプは判るか?」

 レオンが一番肝心な事を訊く。

「やつらのポケモンのタイプ?」

 唐突な質問に、男は目を瞬かせて少し考え込んで言う。

「そう言えば、地面タイプが多いと言ってたかな。なんなら宿舎に来てみるかい? そこで今追い出されたトレーナー達が手当てを受けているんだ」

「いや、いい」

 今は時間が惜しい。

 レオンはそのままゲートハウスへと向かう。

「お、おい、待てよ。どうなっても知らないぞっ」

「大丈夫よ。あたし達、そいつらをバトル山から追っ払いに来たんだから」

 慌てて呼び止める男にそう言って、ルナもレオンの後を追った。

 ゲートハウス前の花壇の並ぶちょっとした広場を抜け、入り口前の階段を駆け上がって中に入る。

 ロビーはがらんとしていて、誰も居ない。

 レオンはロビーのゲート近くに設置してあるポケモン専用のパソコンに足を向けた。

 自分のⅠD番号を打ち込んでからそれを使い、手持ちのポケモンを何匹が取り換える。

 そして、二人はロビー中央奥にあるバトル山に通じるゲートに向かった。

 ——と、

「ダメよっ! 今ここを通す訳にはいかないわ」

 いきなりゲートの受付けカウンターの陰から、金髪のショートヘアの女性が姿を現わして二人を止めた。

「今、危険なやつらが中に居るの」

 紺の上下の制服からして、このバトル山のゲートの受付け嬢のようだ。危険を顧みずにここに留まって、知らずに来たトレーナーに危険を知らせているらしかった。

「知ってるわ。あたし達、ギンザルさんに聞いて来たの」

「えっ、ギンザルさんに聞いて?」

 受付け嬢は驚きと安堵の入り混じった表情(かお)をして二人を見返した。

「ああ、助けに来てくれたのねっ。ギンザルさんに連絡したのはわたしなの。こんなに早く来てくれるなんてっ」

 感激して思わず涙ぐんだ女性は、涙を(ぬぐ)いながら言葉を継ぐ。

「でも気を付けてね。ブースを追い出されたトレーナー達の話だと、あいつらのポケモンの強さは普通じゃないらしいわ」

「判っているわ」

 頷いてルナはレオンと共にゲートを通り、バトル山に通じる扉の向こうへと足を踏み入れた。

 眼下に広がる光景に、一瞬息を呑む。

 中空の通路に出た途端、谷間から吹き上げる強い風が二人の全身を(なぶ)り、夕暮れの闇に染まった谷底は、二人を呑み込もうとするかのように、ぱっくりと口を開けて待ち構えていたのだ。

 もし落ちたら命はないだろう。そう思うと、足がすくんでしまう。

 夕闇の中、ブースの縁にぐるりと設置されたライトによって、足許からライトアップされた一番目の浮遊ブースを見据え、レオンは下に気を取られるルナに声を掛ける。

「プラスルを出せ」

「え、ええ」

 ハッとして、ルナは慌ててプラスルをボールから出す。

 久しぶりに外に出たプラスルは、嬉しそうにルナの周りをピョンピョン元気に跳ねる。

 落ちたら大変と、そんなプラスルをルナはしっかりと抱え込んだ。

「おまえはどんな事があっても、こいつを護り通せ。いいな、プラスル」

 ルナの腕の中のプラスルに念を押し、レオンは中空の通路を渡り切り、下に巨大なプロペラを付け、ライトアップされた円形の浮遊ブースの上に立った。

 そこにはシャツの上に革のチョッキを着た男が一人、退屈そうに立っていた。ミラーボに雇われていたあのゴロツキ連中によく似た奴である。おそらくはこの男は見張りだろう。事が済むまで、誰もここを通さない為の。

 だが、レオンは無造作にその前を通り過ぎる。

「ちょっ、ちょっと待てよ。今修行はお休み中だぜ」

 自分を無視して行こうとする少年に、慌てて男が立ち塞がった。

 そして、ニヤリと笑う。

「だが、どうしてもバトルがしたいのなら、この俺が相手をしてやろうっ!」

 余程暇だったのか、そう言うと革チョッキの男は嬉々としてバトルを仕掛けて来る。

 男が出したポケモンは、小さい体ながらも岩をも砕く威力を持つ大きな顎を持った茶色い体のナックラーと、目の周りが隈取りされたとぼけた顔の、小山のように盛り上がった背中の天辺が若草色以外は黄土色のずんぐりとした体のドンメルだった。

 どちらも体長七十センチ程の地面タイプのポケモンだが、後者は炎タイプも併せ持っている。

 さっき聞いた情報通りに、レオンは水と地面タイプを併せ持っているヌオーと、ポポッコから進化した事で体の色が青く変わり、手足と花があった頭に丸いボンボンのような真っ白い綿毛を付けて軽やかに跳ね飛ぶ、体長一メートル弱の草と飛行タイプを併せ持ったワタッコを繰り出した。

 二匹ともリライブを完了して初めてのバトルである。

 ボールから出てきた途端、ピョンピョン跳ね飛んだワタッコが、そのまま大きく飛び上がって嬉しそうにレオンの頭の上に乗った。

 リライブが進むにつれて、よく跳ねるようになっていたが、完全にリライブして進化が終わった後、跳ね飛んでまず最初にしたのがこれだった。

 だが、何故ここで、また人の頭に乗るのか。しかも至極ご満悦の(てい)だ。

「ワタッコ、おまえの立ち位置はあそこだ」

 嘆息し、レオンはヌオーの横を示す。

 ピョンっとワタッコは跳ねてレオンの頭から飛び降りると、今度はヌオーの頭に飛び乗った。

 どうも高い所が好きらしい。しかもヌオーの湿(しめ)りけのある頭の上が気に入ったらしく、そこが自分の定位置と勝手に決め込んで降りようとしない。

 ワタッコを頭に乗せたヌオーは、我関せずにぬぼーっとしている。

 少し頭が痛くなってきたレオンだったが、この際バトルに支障なければどうでもいいと無理矢理割り切る事にした。

「ヌオーは『なみのり』、ワタッコはナックラーに『メガドレイン』だ」

 縦並びにも構わず淡々と指示を出す。

「へ?」

 変則的なポケモン並びに呆気に取られていた男も、慌てて指示を飛ばす。

「ナックラーっ、下に『穴を掘る』 ドンメルは『噴煙』だっ」

 出た指示に一番早く反応したワタッコが、両手のまん丸い真っ白な綿毛をすり合わせ、パッと飛ばした綿毛にナックラーの体力を吸わせて自分のものとする。その効果はポポッコの時よりも強力だった。

 ただでさえ動きが鈍い上指示が遅かったナックラーは、効果抜群の一撃で、穴を掘る間もなく体力を全て吸われてひっくり返った。

 一方、ヌオーは反応が鈍い上、動きもノロかった。

 革チョッキの男が次のポケモンである地面タイプのサンドを呼び出しても、ゆっくりと伸び上がってまだ技を繰り出す体勢にもなっていない。

 ドンメルが背中の穴から火柱混じりの噴煙を立ち上げ、火の粉を撒き散らす。

「ワタッコ、躱せっ」

 慌ててレオンが叫んだが、ドンメルの撒き散らす火の粉を完全に避け切れず、頭の綿毛を焼かれて悲鳴を上げる。

 下にいたヌオーも多少当たったが、効果はそれほどでもない。

「よし、サンド下のやつに『砂地獄』だ」

 革チョッキの男が指示を出した丁度その時、漸くヌオーが技を繰り出した。

 ヌオーの目の前に立ち上がった大量の水がうねり、高波となってサンドとドンメルに押し寄せる。

 効果抜群の避けることも出来ない大波に押し流され、全身ずぶ濡れになった二匹は、目を回してその場に倒れ伏した。

「なんだよ。おまえ修行の必要ねぇだろ」

 暇を潰す間もなく手持ちのポケモンをあっさりと潰され、革チョッキの男は頭を抱えて呻いた。

「ううっ、ダキム様にお仕置きされちまうっ」

「ダキム?」

 男の漏らした名に、レオンは眉を(ひそ)める。

 ギンザルはこいつらを、ミラーボと同じ謎の組織の連中だと言っていたが、どうやら今回はダキムというのが、こいつ等を率いてきた奴らしい。

 ゲートの方に男が逃げて行くが、レオンは構わずワタッコの怪我の手当てをする。

 幸い火傷はしていないようだが、真っ白な綿毛のあちこちが黒く焦げ付いている。

 そこにレオンはいい傷薬を吹きかけた。

 ヌオーが脇でそれをぽやんとした顔で見ている。

「レオン、ワタッコは大丈夫?」

「ああ」

 プラスルを抱きかかえて心配そうに様子を見るルナに応え、レオンはヌオーにもいい傷薬を使い、回復し終えた二匹をモンスターボールに戻した。

 




 今回からやっとリライブしたダークポケモン達が活躍します。主人公の相棒達と一緒に元気にバトる姿を愉しんでくだい。
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