未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―バ ト ル 山―(2)

 次に向かう通路の階段を駆け上がる。

「ん? なんだあの野郎、さぼってんじゃねぇよ」

 やって来たレオン達に気付き、ぼさぼさ頭の不精ヒゲの男はぼやいたものの、すぐに気を取り直してニヤリと笑う。

「まあ、オレの楽しみが増えたと思えばいいか。行くぜっ!」

 男は茶色い体に焦げ茶色の縦縞模様のある体のウリムーと、閉じた目と腹に赤い模様があり、両手を広げて一本足で立つ土色の体をしたヤジロンを繰り出して来た。

 二匹とも体長五十センチ程の地面タイプだが、前者は氷、後者はエスパータイプが混じっている。

 それに対し、レオンはヌオーとムウマを呼び出した。

 ムウマは体長七十センチ程の漆黒の髪をたなびかせてふわふわと宙を浮く、全身真っ黒な体の中で首に掛けた深紅の珠のネックレスが目を引く、ぱっちりとした瞳のゴーストタイプのポケモンである。

 ムウマはボールから出てくると、ふわふわとレオンの周りを漂った後はフラフラと自由気ままにブースの上を飛び回る。どうもじっとしているのが苦手らしい。

「ムウマ、ヌオーの傍にいろ」

 溜息をついて言うレオンをチラッと見ると、ムウマは嬉々としてぬぼっと立っているヌオーの頭の周りを漂い出す。

「ヌオーは『なみのり』 ムウマはヤジロンに『シャドーボール』だ」

 すかさず二匹の指示を出す。

「ヤジロン、黒いやつに『サイケ光線』 ウリムーは『粉雪』っ」

 不精ヒゲの男も負けじと指示を飛ばす。

 レオンの指示に、ヌオーの頭の上で漂うムウマの頭上に、瞬時に漆黒の闇を集めたような球が出現した。

 それをムウマはくるりと宙で体を一回転させて弾き飛ばし、狙い違わず思念の力を溜めていたヤジロンにぶつける。

 その衝撃にクルクルと体を回転させて、何とかバランスを保とうとしたヤジロンだったが、やはり効果抜群の技には耐え切れず、コテリと床の上に転がった。

「あちゃ~」

 男はがくっと肩を落として倒れたヤジロンを回収し、次のポケモンを出す。

 黄緑色の頭の上が尖った体長六十センチ程の、地面と岩タイプを併せ持ったヨーギラスだ。体の脇に黒いひし形の斑点があり、腹が赤くぽってりとしている。

 出て来たヨーギラスの横でウリムーが全身を震わせ、大気の水分から造り出した細かな雪の粒を、ふよふよと宙を漂うムウマと技を出そうと構えたヌオーに浴びせる。

 雪の粉粒が宙を舞い吹き付ける寒さに、ムウマはくるりと中空で一回転した後ブルブルと体を震わせる。

 氷タイプの技が苦手な地面タイプだが、同時にそれに強い水タイプでもあるヌオーは、全身に粉雪を浴びても大して効いていなさそうにぽけっとした顔をしていた。

 ——と、

 体に貼り付いた粉の粒が全身を覆った途端、ヌオーは技を出そうとしたその姿勢のまま凍り付いてしまった。

「なにっ!?」

「やったぜっ」

 驚きに目を見開くレオンに対し、ぼさぼさ頭の男は指を鳴らして歓喜した。

「ヨーギラスもヤジロンの仇打ちだ。その黒いやつに思いっ切り噛み付いてやれ」

 男は調子付いて指示を出す。

 粉雪を浴び、凍えて体がうまく動かない処へ、効果抜群の悪タイプの技など喰らったら、ムウマは一溜りもない。

「くっ」

 レオンは二匹を引っ込め、代わりにマグマラシとワタッコを繰り出した。

 途中交代は先制されて技を受けることになるが、この後の事を考えると完全にやられてしまうよりはマシだ。

 ムウマの代わりにヨーギラスに噛み付かれたのはマグマラシだったが、何とか怯むことなくそれに堪え切った。

「ワタッコ、マグマラシ、バトルだっ」

 ピョンと自分の頭の上に乗ったワタッコと、痛みに背中を丸めてビクつくマグマラシに喝を入れ、レオンは相手のポケモン達を見据える。

「ワタッコ、ヨーギラスに『メガドレイン』 マグマラシ、ウリムーに『火炎車』」

 レオンが指示を出すや否や、二匹は素早くそれに応えた。

 軽快に頭上で跳ねたワタッコが両手の綿毛玉を擦り合わせ、バトルの一言に目付きを変えてビシッと立ち上がったマグマラシが、頭と尻尾の炎を激しく燃え上がらせる。

 慌てて男が新たに指示を出そうとするが、間に合わない。

 地面と岩タイプを併せ持つヨーギラスは草タイプ技に極端に弱い。一気に全体力をワタッコに奪われ、一瞬でヨーギラスは力尽きる。

 一方ウリムーも苦手な炎技を喰らい、全身黒焦げになってその場にへたり込んだ。

「く~っ、楽しむ処か、オレまでお仕置きされちまう」

 ヌオーを凍らせて優位に立ったのも束の間、レオンの思い切りの良さに、あっさり逆転されて不精ヒゲの男は思わずぼやいてその場を逃げ去った。

「レオンっ」

 心配してルナが走り寄る。

 レオンは頭にワタッコを乗せたままボールに戻したムウマとヌオーを出し、まず凍ったヌオーを解凍する。全身の氷が溶けたヌオーは、まだ完全に体が温まらないのか、ボーっとしたままである。もっとも、何時もと大差ないように見えなくもないが。

 そこへワタッコがレオンの頭から跳び下り、ヌオーの頭に跳び乗ってまったりとする。

 次いでレオンはダメージを受けたマグマラシとムウマを回復させた。

 バトルが終わって怪我を治してもらったマグマラシは、嬉しそうにレオンの足に擦り寄り、ムウマはブースの端にあるライトを一つ一つ興味深そうに見て廻る。

 ダークポケモンでなくなったポケモン達は以前と違い、個性があって結構自由気ままだ。

 そんな彼等を好きにさせたまま、レオンは頭にワタッコを乗せてボーっとするヌオーを見て考え込んだ。

 一体どういう事なのだろうか。さっきのバトルもそうだが、ヌオーが余りにもノロすぎる。地面タイプで重量もあるから、他のタイプのポケモンより動きが多少鈍いのは判るが、相手が同じ地面タイプのポケモンにすら遅れを取るようでは致命的だ。これではとてもバトルで使えない。

 だが、今回の奴等は地面タイプのポケモンを好んで使って来ている。この先待ち構えている連中もおそらくそうだろう。

 地面タイプに最も有効な技はワタッコも持っているが、より強力で、二匹一度に攻撃できる水タイプ技を持つヌオーはどうしても外せない。

 勿論今までスナッチした中で水タイプのポケモンがいない訳ではない。ただヌオー以外はまだ殆どリライブが進んでおらず、本来持っている筈の水タイプ技も思い出していない状態なのだ。

 しかし、完全にリライブする前はこれ程ノロくなかったのに、どうしてこんなにとろくなってしまったのか。

 不意にレオンは何かに思い当たり、P★DAを取り出してヌオーのステータスデータを確認する。

 リライブした時一応見てはいたが、それは能力値や使える技などを確認しただけだったのだ。そして今、それを見直して分かったのは、心を閉ざしていた時判らなかったヌオーの性格が「呑気」だったという事だ。

 ただでさえノロいのに呑気な性格とは。反応が鈍くて遅いわけである。これならダークポケモンのままでいた方が、まだマシだった。とはいえ、今更ダークポケモンに戻す訳にもいかないし、戻す気もない。

 だが、ワタッコにしてもマグマラシにしても、先にヌオーの『なみのり』が決まっていれば、怪我をしなくて済んだのだ。

 相手は硬い上に体力があって、有効技がないとなかなか倒れてくれない地面タイプのポケモンばかりなのである。このヌオーのとろさを何とかしないと、(いたずら)に仲間の被害を増やすだけだ。

 奴等が目指していると思われる、エリアリーダーのセネティがいるブースまで後八つ。まだ先は長い上、ダキムという連中を率いて来た奴まで相手をするとなると、この問題を残したまま突き進むのは余りにも無謀過ぎる。下手をすると命取りになりかねなかった。

 ——だが、どうすれば……

 先を急がなければならないのに、いい方法が思いつかず、レオンは途方に暮れた。

 解凍されてまた楽しそうに軽快に跳ねるワタッコを頭上に乗せたヌオーを前に、解決策を見出せずに焦るレオンを、プラスルを抱えて見ていたルナは、ふと思い出して声を上げた。

「そうだ、レオン。これ家を出る時、お祖父ちゃんから預かったの。バトルの時に役に立つかもって」

 ルナは上着のポケットから祖父から手渡された小箱を出す。

 それを受け取り、レオンはフタを開けてみた。

 中に入っていたのは、乳白色の三日月っぽい形をした爪のような物だった。

「これは……」

「『先制のツメ』だわ」

 箱の中を覗き込み、ルナが呟く。

 「先制のツメ」はポケモンに持たせると、たまにだが先制攻撃する事が出来るアイテムである。

 なんとも心ともない気休め程度の効果でしかないが、それでも強力な技を持っていながら、致命的にとろいヌオーにとって、たまに効くだけでも有難いかもしれない。

 他に方法はないし、これ以上もたもたしている時間もない。

「ヌオー、おまえにこれをやる。無くすんじゃないぞ」

 ボーっとするヌオーの目の前にレオンが「先制のツメ」を差し出すと、暫くそれを小さな目でじっと見ていたヌオーは、やおらパカリと口を開け、長い舌でそれを絡め取って口の中にしまい込んでしまった。

「借り物だから、飲み込んだりするなよ」

 ヌオーに念を押して他の連中と一緒にボールに戻すと、レオンはルナを連れて先を急いだ。

 次のブースに居たのは、ピッタリと体にフィットしたエンジのライダースーツを着た長髪の女だった。

「なんだい、あいつら。こんな小僧にやられちまったのかい。だらしないねぇ」

 女は呆れたように仲間を(けな)し、斜に構えて二人を見やった。

「だけど、私は前の二人と違って、簡単には倒せないよっ!」

 そう言って女が繰り出して来たのは、やはりどちらも地面タイプのポケモンだった。

 体長が一メートルにも届かない、背中が砂色の硬い鎧のような甲羅に覆われたサンドと、岩タイプも併せ持つイシツブテである。

 レオンは「先制のツメ」を持たせたヌオーと、ワタッコを出す。

「ヌオーは『なみのり』 ワタッコはイシツブテに『メガドレイン』だ」

 それを受け、ピョンとレオンの頭から自分の定位置であるヌオーの頭に跳び乗ったワタッコが、両手の真ん丸な綿毛を擦り合わせた時だった。

 いきなりヌオーが大きく伸び上がり、技を繰り出した。

 ヌオーの周りに逆巻く水が迫上(せりあ)がり、高波となって二匹の地面タイプのポケモンに覆い被さるように襲い掛かる。

 そして、波が消えた後には、全身びしょ濡れになって目を回しているサンドとイシツブテを前に、ヌオーが「先制のツメ」を舌の上に乗せて(もてあそ)んでいる。

 一方、ヌオーに先を越されて相手を倒されてしまったワタッコは、技を出すに出せないで両手を擦り合わせたまま困惑し、レオンも先にヌオーの技が決まると思っていなかっただけに、呆気に取られていた。

 が、すぐに我に返り、同じく鈍重そうなヌオーの余りにも素早い攻撃に唖然としていた女に声を掛ける。

「これで、(しま)いか?」

「ま、まだに決まってんだろっ」

 頬をヒクつかせ、ライダースーツの女は次のポケモンを出す。

 地面タイプだが、炎タイプも併せ持っているドンメルだ。

 やっと攻撃を仕掛ける相手が出来て、ワタッコが技を繰り出す。

 しかし、岩タイプを併せ持ったイシツブテと違って、草タイプ技に強いドンメルには効き目はそれ程でもない。

「ドンメルっ、お返しに『火の粉』だよっ」

 体力を吸われて少しよろけたドンメルに、ライダースーツの女が命じる。

 短い首を振って気力を奮い立たせたドンメルは、フンっと背中に開いている穴から特大の火の粉を打ち出した。

「避けろ、ワタッコっ。ヌオーは『なみのり』だ」

 レオンが声を飛ばしたが、微妙な角度で勢いよく飛んで来た火の粉を避けることはできなかった。

 真っ白な美しい綿毛が、またチリチリと焼け焦げる。

 そんなワタッコを頭に乗せたまま、ヌオーは舌の上に「先制のツメ」を乗せて口の中に出したり引っ込めたりに忙しい。よほどそれが気に入ったのか、技を出す素振りさえない。

 仕方なくレオンは、ワタッコに再度指示を出す。

「もう一度、ドンメルに『メガドレイン』だ」

 ところが、ワタッコが技を放とうとした途端、口の中に「先制のツメ」をしまい込んだヌオーが思い出したように技を繰り出した。

 炎タイプを併せ持っている所為で、草タイプ技は普通にしか効かないドンメルだが、水タイプ技はその逆に相乗効果抜群の威力だった。

「くっ……。今日の処はこれで引き下がってやるわっ!」

 倒れたドンメルをボールに戻し、女は負け惜しみの捨て科白(せりふ)を吐いて逃げてった。

「なんか『先制のツメ』を持たせたら、性格まで変わっちゃったみたいね」

 レオンがワタッコの傷の手当てをしている横で、飽きずに「先制のツメ」で遊んでいるヌオーを見て、ルナは溜息混じりに呟く。

 確かに、今のバトルのヌオーの態度は「呑気」というよりも「能天気」、もしくは「気紛れ」と言った方がピッタリくる。それも技を早く出したのは「先制のツメ」の効果というより、どう見てもヌオーの気分次第だったように思えた。

 しかも今の場合、ワタッコがイシツブテを倒した後で、ヌオーの『なみのり』が決まっていれば、こちらの被害はゼロで済んだのだ。技を早く出したら出したで、やはり問題ありの頭の痛いヌオーであった。

 そんなマイペースなヌオーの気紛れに手を焼きながらも、レオンは次々に立ち塞がる敵を撃破し、空に星が輝き出した中、とうとうこのエリアの最後のブースに辿り着いた。

 

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