そこは、海岸に近い街外れにある
薄汚れた壁に所々タイルが剥がれた床と薄暗い照明。一応清潔にしてはいるものの手入れが行き届いておらず、全体的に古ぼけた感じのする廊下である。
その閑散とした薄暗い廊下の壁際に置いてある長椅子に座る一人の少年が、脇に置いた一抱えもあるバスケットの上に被さるように体を預けていた。
閉じた目は赤く腫れぼったく、頬にも涙の痕が幾筋もある処から、泣き疲れて眠っているようだった。
紺の長ズボンに白い半袖シャツの上に水色のパーカーを羽織った、十歳くらいのアッシュブロンドの髪をした少年である。頭を乗せた組んだ両手の下にある大きめのバスケット以外、荷物らしきものは何も持っていない。
今朝倒れた両親と共にここに連れてこられ、不安と心細さで泣いていた彼を病院の者は、ここで待つように言い含めて何処かに行ってしまったのだ。
以来両親がどうなったのか教えてくれる人が誰も居ないまま、涙で目を腫らした少年は待ち疲れて眠ってしまったのである。
——と、
ピキッとバスケットの中で、何かが割れる音がした。更に続けてピキピキと。
その音に目を醒ました少年はバスケットから体を起こし、眠そうに腫れぼったい目を擦った。
最初その音が何なのか、
が、やがて聞こえてきた小さな鳴き声に、ハッとなる。
バスケットのフタに耳を当ててその音を確認すると、急いで籐製のフタを開ける。
中には二つの未使用のモンスターボールと、トレーナー登録して貰ったばかりのP★DAの他に、下半分程をふかふかとした真綿のようなもので割れないように包まれた直径二十センチ程の楕円形をした大きな二つの卵があった。
——ポケモンの卵である。
音は、その殻の先端が割れた音だった。そこから今から生まれようとしているポケモンの声が漏れ聞こえてくるのだ。
少年が見守る中で、殻の亀裂はみるみる内に卵全体に広がり、そして、パキリとまず一つの卵の殻が破れ、少し後でもう一つの卵の殻が砕け落ち、それぞれ中からひょっこりとポケモンが顔を出す。
二匹とも三十センチ程の大きさで、茶色い毛並みをしている。長い耳にふさふさとした尻尾、そして、首の周りに襟巻のようにふんわりとした白い毛が生えていた。
イーブイというノーマルタイプのポケモンだ。条件によって五種類の別タイプに進化するという、変わった性質を持った珍しいポケモンだった。
誕生したばかりの二匹のイーブイは、バスケットの縁に前足を掛け、嬉しそうに舌を出して少年に尻尾を振る。
そんなイーブイ達に、涙の痕が残る少年の顔に明るさが戻った。
カツンっと、廊下に足音が響く。
ハッとして振り返ると、男女二人の大人が少年に近づいて来る。
少年は慌ててバスケットのフタを閉めた。
「この子かね?」
眼鏡を掛けた男が、連れの巡査の制服を着た女性に確認する。
「ええ、そうです」
一瞬哀れむような
頷き返し、眼鏡の男は少年に優しく話しかける。
「レオン君だったね。私はこのシティの
「………」
「キミと同じくらいの子供も大勢居るから大丈夫だよ」
「あの——」
「なんだい?」
「パパとママは?」
少年の問いに、ホームの職員の男と女性巡査は一瞬息を呑んだ。
「キミの……ご両親はね……」
「ううん、いいんだ、もう……」
少年は首を振り、
言わなくとも、二人の態度を見れば判る。やっぱりあれは夢じゃなかった。
昨夜少し散歩してくると、疲れて眠そうにしていた自分を置いて出掛けたまま、両親は今朝になっても戻って来なかった。
そして、待ちくたびれて二人を捜しに行った砂浜で、波打ち際で冷たくなって横たわっていた、ずぶ濡れの父母を自分は見付けたのだ。
二人に取りすがり、何度も体を揺すって名を呼んだが、二人が目を醒ます事は無かった。
両親が居ない以上、昨日泊まっていたホテルにはいられない。
──それに、もう家にも戻れない。恐い男の人達がたくさんいるから……
この眼鏡の
「これは、ポケモンかね?」
男の声に、この一週間の間に起こった出来事を想い出していた少年は、ハッと我に返った。
ホームから来た男が尋ねたのは、少年が持っていたバスケットの中身だった。籐製のバスケットからカリコリと何かが引っ掻くような音と共に、鳴き声が聞こえたのだ。
「う、うん」
「そうか、仕方ないな。じゃあ、それを渡してくれないかな」
「え? どうして?」
手を差し出した男に何となく不安を覚え、少年はバスケットを抱きかかえて長椅子から立ち上がった。
「ホームではポケモンは飼えないんだ。でも大丈夫だよ。ちゃんとした飼い主を見つけてあげるから」
ホームの職員の男は、少年からポケモンの入ったバスケットを取り上げようとする。
それを振り払い、少年は
「イヤだ。イーブイ達はボクの友達なんだ」
「我儘を言うんじゃない。それが規則なんだから。さあ、寄越すんだ」
「イヤだっ。イーブイ達はパパ達がボクに
固くバスケットを抱き締め、少年は力の限り叫んだ。
耳元で叫ばれたような幼い少年の声に、ハッとレオンは目を醒ました。
うまく力の入らない体で、無意識に相棒達の姿を捜す。
レオンが目を醒ましたのが判ったのか、床にうずくまっていたブラッキーとエーフィが、伸び上がる様にして彼が横たわるベッドの縁に前足を掛け、甘えるように鳴き声を上げる。
それを見て、ホッとしたようにレオンは
何とか腕を伸ばし、二匹の頭を撫でる。
「良かったぁ、レオン、気が付いたんだ」
ドアを開けてそれを見たルナが、嬉しそうにレオンのベッドに駆け寄る。
「どう? 具合は?」
「ここは……?」
周囲に視線を向け、レオンは漸く自分が何処かの部屋のベッドに寝ている事に気付いた。
「アゲトビレッジのポケモンセンターの病室よ」
本来ポケモンセンターはポケモン専用の病院を中心とした、トレーナーの為の総合施設なのだが、このアゲトビレッジは山の中腹にあって不便であるにも関わらず、引退したトレーナーの老人が多く住んでいる。その為老人達の事を考えて人間も診れるように、人間用の最新の医療設備も完備されていた。
あの後倒れたレオンは、設備が整っている病院はバトル山からここが一番近い事もあって、このポケモンセンターに運び込まれて治療を受けたのだ。
「あれから、一週間近く
「そうか……」
それで、あんな夢を見たのか……
相棒以外の全てを失ったあの日の事を。
白い天井に視線を向け、レオンは遣る瀬無さそうに表情を
ルナはベッドの傍にあった椅子に座り、そして、改まった口調でレオンに訊いた。
「ねぇ、レオン。どうして怪我の事、黙っていたの?」
プロテクターをしていたのさえ知らなかった。
「………」
「女医さんから聞いたのよ。
多分あたしを庇ってあのマクノシタの攻撃を受けた時、既にあんな酷い怪我をしていたのだろう。それなのにあたしに隠して満足に手当てもせずに我慢して、またバトルして怪我をして——
自分の方を見ようとしないレオンに、ルナは恨みがましく言葉を連ねた。
「ずっと一緒にいたのよ。言ってくれれば怪我の手当てくらいしたし、村に着いてすぐにここに連れて来たのに」
「…——手当なら自分で出来る。おまえは、ダークポケモンを教えてくれるだけでいいんだ」
「何よ、それ」
レオンのあんまりな
「それじゃあ、それ以外は必要無いって事!?」
「ああ、そうだ」
「そんな……」
レオンにきっぱりと言われ、ルナは絶句した。
今までダークポケモンの為にお互い助け合って頑張ってきたのに、あの
心の中に言いようもない哀しみと怒りがふつふつと湧き起こり、それが抑え切れずにルナは感情を爆発させた。
「レオンの馬鹿——っ!」
思いっ切り怒鳴り付けてくるりと身を返し、病室から飛び出していく。
それを呼び止めることなく、レオンはブラッキー達と彼女の後姿を見送った。
この頃のポケモンのゲームは、大体がトレーナーとして旅に出られる歳になった主人公がその頂点を目指し、近所のポケモン博士から最初の一匹を貰ってポケモンリーグに参加する為に各地のポケモンジムを巡る旅に出る。
というストーリーが大筋で、その途中でポケモンをゲットして育成したり、色々と事件が起きるというものですが、このコロシアムのシナリオモードは違いました。
いきなり主人公がスナッチ団のアジトを爆破してスナッチマシンを奪うわ。
何故か行き掛り上助けた見ず知らずの女の子に言われるまま、ダークポケモンをスナッチしまくるわ。
挙げ句に悪の組織にケンカ売るわで、全く意味不明でした。
最初に主人公がスナッチマシンを奪った
折角のシナリオモード、主人公の行動が不可解なまま、ただオーレの各地で漫然とダークポケモンをスナッチして、リライブするというだけの話ではちょっと勿体ない。
やっぱ主人公は目的があった方がいいよね。
という事で、あれこれ考えた結果、この話が出来た次第です。
これからは主人公の追加要素——過去も交えてストーリーが展開していきます。