未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―フェナスシティ―(4)

「よし、じゃあ僕はジョギングの続きに戻るとするかな」

「そうね、私も仕事に戻らなくちゃ」

 話がまとまった処で、半袖短パンの若者は陽気に手を振って戻って行き、スーツの女性もこの付近まで来た本来の用事を思い出して急いで去って行く。

 そして、それらを見送るルナを残し、レオンもさっさと歩き出す。

「あ、待って」

 慌ててその後を追ったルナは、中央に噴水のある円形の広場を横目に、水路沿いに歩いて行くレオンを不審に思い、声を掛けた。

「ねえ、市長さんの家は、あの広場を突っ切って行くんじゃ——」

「ポケモンセンターが先だ」

「あっ、そっか」

 自分を助ける為にバトルしてくれたんだっけ……

 そのバトルで傷付いたポケモンの回復を先にするのは当然の事だった。

 もっともさっきのバトルは、ゴロツキが勝手に因縁付けてきたのに応じただけで、相手を一方的に叩き伏せたブラッキー達に殆ど傷らしい傷は無かった。回復するのはここまでの道中の疲れなどである。

 広場脇にあるポケモンセンターに着くと、レオンはすぐさま二匹をセンターの女医に預け、それから後ろを付いてきた少女に声を掛けた。

「お前もここで休んだらどうだ。今まで袋詰めにされてたんだ。腹も空いてるんじゃないか?」

「レオン……」

 自分を気遣う少年にルナは感動して瞳を潤ませたが、実のところレオンはここで彼女を追っ払おうと考えていたのである。

 ルナがポケモンセンターに併設されている、トレーナーなら誰でも利用できる無料の食堂と宿泊兼用の休憩室で休んでいる隙に、回復を済ませた相棒共々とんずらする気だった。

 だからさっき、気が進まないながらも彼女が一緒に来る事を了承したのだ。

 ところがルナは、自分一人で休む気はなかった。

「じゃあ、ポケモン達が戻ってくるまでの間、レオンも一緒に休みましょ」

「いや、俺はここで——」

「大丈夫よ。心配しなくても、女医さんがちゃんと治してくれるから」

 センターのロビーから離れようとしない少年を、傷付いた相棒達が心配だからと勘違いしたルナは、大丈夫と請け合って強引にレオンを併設されている食堂へと引っ張って行く。

「ここのメニューって、種類が豊富で美味しいのよね」

 ポケモンセンターの食堂のメニューは、地域ごとに特色はあるものの基本同じだ。そしてそれを作るシェフの腕も確かで、何処のセンターでも美味しい料理が食べられる。

 何度もポケモンセンターの食堂を利用したことのある口ぶりで、ルナはトレーナーになる時登録した自分のIDナンバーを提示すると、やはり相当お腹が空いていたのか、次々と注文していく。

 仕方なくレオンもそれに倣い、すぐ出来て食べやすいサンドイッチと飲み物を頼んだ。

 席に着いて二人で待っていると、程無く注文したものが運ばれてくる。

 手早くそれを食べ終え、レオンはまだ食事中のルナを残して、一人センターのロビーへ戻って来きた。

「さっきポケモンを預けたんだが」

「少々お待ちください」

 にこやかに受付の女医は対応したが、すぐにすまなそうな顔になった。

「すみませんが、もう少し時間が掛かりそうです。このところバトルで傷付いたポケモンが多く運ばれて来る様になってしまって」

 ロビーには殆ど人が居ないように見えるが、それは順番待ちで長く待つため、一旦センターの休憩室か自宅に帰って貰い、治療ができ次第連絡を入れて取りに来てもらう様にしていたのだ。

 そうレオンに説明している間にも、傷付いたポケモンを腕に抱えてトレーナーが駆け込んで来る。

「女医さんっ、お願いしますっ。僕のポケモンを助けてくださいっ!」

「はい、お預かりします」

 女医は助手のポケモンがカウンターの脇に出して来たストレッチャーの上に、傷付いたポケモンを乗せた。かなり酷い怪我だ。治療にも相当時間が掛かりそうだった。

 これでは早くしてくれとは言えない。邪魔になるのでレオンがカウンターから離れると、背後から今のトレーナーと女医のやり取りが聞こえてきた。

「場所はパイラタウンですか?」

「ええ、ちょっと立ち寄っただけなのに、あいつらいきなりバトルを仕掛けて来て……」

 そこにはポケモンセンターがないので、一番近いフェナスシティのここまでバトルで怪我したポケモンを連れて来たのだ。

 ——パイラタウンか……

 なんとなくそれを聞きながら、レオンはロビーの中を見て回る。

 中は広く、地下にはポケモンの通信交換用の機械まであったが、今は調整中だとかで使用できないようだった。

 ロビーの一角にこのフェナスシティだろうか。立体映像で造られたこの街の全体図が浮かび上がっていた。

「あ、レオンっ」

 食事を終えたルナが、立体映像を見ていたレオンに駆け寄って来る。

 ——もっとゆっくりしてくればいいものを。

 レオンは内心で盛大に舌打ちした。

 彼女が来る前にとんずらする予定だったに、逃げ損ねてしまった。

「ねぇ、何を見てるの?」

 ひょいと、レオンの背後から覗き込むようにルナはそれを見る。

「これって、フェナスシティの立体映像?」

「ああ」

「って事は、ここが今あたし達がいるポケモンセンターで、ここが市長さんの家ね」

 立体映像の建物を指差しながら、ルナはそれぞれの位置関係を確認する。

 そこへ、女医が声を掛けてきた。

「お待ちどうさま。お預かりしたポケモンは、みんな元気になりましたよ」

 カウンターの上にモンスターボールを二個トレーに乗せ、やって来たレオンに差し出す。

「ブラッキーもエーフィも、ちょっと疲れが溜まっていただけで、大した怪我はなかったわ」

「へぇ、レオンのポケモン、ブラッキーとエーフィなんだ」

「……ああ」

 素っ気なく応え、レオンはモンスターボールを受け取ると(きびす)を返した。

 

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