未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―スナッチ団アジト―(1)

 鉱山町としてはすっかり(さび)れ、今ではゴロツキ達の吹き溜まりと化したパイラタウンだったが、最近この鉱山の廃鉱跡を根城に、ゴロツキを使って暗躍していた謎の組織の一員であるミラーボが出て行ったことで、無法地帯となっていたこの町にも、再び以前のような治安が戻りつつあった。

 町の入り口付近の空き地で、一人のゴロツキがバトルに負け、目の前に立つ少年少女を睨み付けて悔しそうに吐き捨てる。

「くそっ、あのトレーナーのやつ。今ならおまえは怪我をしてるから、簡単に倒せるって言ってたのに、全然話が違うじゃんかよっ」

「何だと?」

 バトルが終わり、相棒達をモンスターボールに戻したアッシュブロンドの少年は、今の言葉に思わず緑髪のゴロツキを見返した。

 レンからのメールを読んだ後、レオンはすぐにパイラの向かおうとした。

 どうもパイラで何かあったらしく、目が()めたらすぐにこっちに来て欲しいと言ってきたからだ。

 だが、それは出来なかった。

 聖なる森を出て小川沿いにある坂を上がり、サイドカーの置いてある村の入り口に向かおうとポケモンセンターの前まで戻って来た処で、彼を待ち構えていた女医に捕まってしまったのだ。

 彼女はローガンの家に電話を入れた後、センターの外に捜しに出て聖なる森の番人のアイクに尋ねた処で、あっさりとレオンの居場所を突き止めたのである。

 すぐにセンターに連れ戻す事もできたが、アイクにレオンの様子を聞いた女医は暫くそっとしておく事にした。体の方は一般病室に移れるくらい回復しているし、そこから何処に行くにしても、必ずポケモンセンターの前を通らなければならない。捕まえるならその時で十分と考えたのだ。

 その後すぐに女医はレオンが見付かった事をローガンに電話したが、家に帰らずに村の中をずっとレオンを捜し回っていたルナは、その事を知らなかった。

 女医に捕まったレオンは散々小言を喰らった挙げ句、怪我の経緯を診ながら体力が回復するまで強制入院させられてしまったのである。

 実際、怪我はだいぶ良くなってはいたが、ずっと眠りっ放しだった所為で体力がかなり落ち、歩くのがやっとの今の状態であのサイドカーを運転するのは難しかった。

 それで仕方なくレオンは、パイラに行く代わりにレンにテレビ電話で詳しい話を聞き、体力が回復次第そちらに行く事にしたのだ。

 電話に出たレンは、レオンの意識が回復した事を凄く喜び、メールで書き切れなった事を詳しく教えてくれた。

 コドモネットワークにパイラタウンで怪しいポケモンを見たという情報が入り、それの真偽を調べていたら、マサというゴロツキが最近ダークポケモンを使うトレーナーとバトルしたらしかった。そして、その噂を流したのも彼らしい。

 それで聞きに行くと、マサはその詳しい情報を教えて欲しかったら、バトルで自分を負かしてみろとレンに言ったのである。お前がダメなら、あのミラーボを倒した奴でもいいと。

 それは明らかにレオンを挑発したものだった。前に一度戦って負けたにも関わらずにだ。

 その自信の源が、今レオンは怪我をして満足にバトルできない状態にあるという、ダークポケモンを使うトレーナーからもたらされた情報だったとは。

 しかし、怪我の事はこっちで知り合ったごく一部の人間しか知らない筈なのに、何故そいつが知っていたのか。

「そいつの名は? 何処へ行った?」

「名前は……う~ん、何て言ったっけな……」

 マサは暫し考え込み、そしてあっけらかんと言う。

「忘れちまった。けど、確かスナッチ団アジトに行くとか言ってたな」

「スナッチ団の……?」

 既に廃墟と化したあんな所に、一体何の用があるというのか。

 ダークポケモンのトレーナーの不可解な行動に、レオンは怪訝な表情になった。

 そこへ、十歳前後くらいの少年が駆けて来た。レンである。

 今朝連絡を貰い、そろそろ来る頃だと思って迎えに来たのだ。

「お兄ちゃん達、もう来てたんだ」

 息を弾ませて二人に駆け寄ったレンは、緑髪のゴロツキとレオンを交互に見やった。

「ひょっとして、もうバトル終わっちゃったの?」

「ああ」

「ちぇっ、見たかったのになぁ、お兄ちゃんが勝つところ」

 残念そうにぼやいたレンだったが、ギロリとマサに睨まれて慌てて口を(つぐ)む。

 そして、ぐいっとレオンの手を引っ張り、声を潜めて言った。

「お兄ちゃん達ちょっと来て。また、新しい情報が入ったんだ」

「ダークポケモンの事?」

「ううん、それとは違うんだけど、とにかく来て」

 訊いてきたルナに首を横に振り、レンは二人を自分達が秘密基地に使っている、ギンザルの事務所の地下にある物置き場に連れて行った。

「お姉ちゃんっ」

 入って来たルナに、レイラが嬉しそうに声を掛ける。

「プラスルは元気?」

「ええ、とっても元気よ」

 にっこりと笑って、ルナがプラスルをボールから出してやる。

 レイラは自分を見て飛び跳ねるプラスルとも挨拶を交わした。

「お兄ちゃん。ほら、これ見てよ」

 女の子二人がほんわりと挨拶をしている横で、レンは電源を入れたままのパソコン画面をレオンに見せる。

「最近コドモネットワークにアクセスしてくるようになった、アンダーのスレッドって子から送られて来たんだ。これってスナッチ団の求人広告だよね」

 それは赤地に黒い大きな「盗」の文字が書かれたスナッチ団のトレードマークの上に、殴り書いたような白抜きの文字が書かれてあった。

「求む、腕自慢のスナッチトレーナー。大型マシン修理完了祝いに、新たに団員を募集。今入団すると最強無比なポケモンをプレゼントするぞ。但し、数に限りがある為、欲しいヤツはすぐにスナッチ団アジト跡に来い!」——と。

「馬鹿なっ」

 あれはもう修理できない筈だ。ありったけの爆弾を仕掛け、吹っ飛ばしたのだ。研究室もろとも。

「お兄ちゃん?」

「いや、何でもない」

 この少年は自分がスナッチ団と関係があった事を知らない。

 ハッとして、レオンは思わず声を荒げてしまった自分を訝しむ少年を誤魔化し、画面を食い入るように見る。

「これは、何時頃出た広告だ?」

「スレッドからこの情報が送られて来たのは、今朝お兄ちゃん達から連絡もらった後すぐだよ。でも、この広告はもっと前に出てたみたいで、アンダーのゴロツキ達の間では結構噂になっているって話なんだ。だけど、他でこんな変な広告の話なんか聞かないし、それにこの『最強無比なポケモン』ってのが気になるんだ。何だかダークポケモンぽくてさ」

「ああ……」

 その可能性は十分ある。しかし、別々の処から出た情報の示す場所が同じなのが気になる。

「ねぇ、さっきマサが言っていたダークポケモンのトレーナー、もしかしてこれを見て、スナッチ団アジトに行ったんじゃないの?」

 レオンの上げた声に驚いて見に来たルナが、考え込む彼の脇からひょいと画面を覗き込んで言う。

「でも、こんな広告を堂々と出しちゃえるアンダーって、一体どういう所なのかしら」

パイラ(ここ)より更にガラの悪い人が一杯いるって話だけど、この広告は堂々とじゃないよ。誰かがゴロツキ達だけに、この求人広告のビラをばら撒いたみたいなんだ」

 だからスレッドもこの情報を掴んだのが、それがばら撒かれてからかなり()って噂が相当広まってからだった。

 町にゴロツキ達の姿が少なくなったのを不審に思い、調べてみて初めて知ったのである。

「この事は、ギンザルさんやシルバさんは知ってるの?」

「おじさん達は、バトル山の事件辺りから忙しそうで、全然相手にしてくれないんだ。子供のネット遊びに付き合っているヒマは無いって」

「そっか……」

 そういえば、さっきも上にはいなかった。レオンが怪我して倒れた事を随分気にしていたから、少しでもその負担を少なくしようと動き回ってくれてるんだ。

「とにかく、スナッチ団のアジト跡へ行ってみましょ……って、レオン?」

 ハッと辺りを見回すが、何処にもいない。

「お兄ちゃんなら、もう行っちゃったよ」

 プラスルを抱えたレイラが、階段の方を指差した。

「もうっ、また独りで勝手に行っちゃうし」

 あの時確かに「仲間」だって言ってくれたのに。これじゃあ前と全然変わらないじゃない。

 ぷうっとむくれて、ルナはプラスルをボールに戻すと、慌てて後を追う。

 外に飛び出し、街の入り口に向かって走って行くと、丁度レオンがあのマサというゴロツキに捕まっていた。

「おい、思い出したぜ。ベルデって言うんだ。さっきのダーク・ベイリーフを使ってたトレーナーの名前」

「ベルデ……」

「ああ、だからとっとと行って、さっさとそいつにボコられてしまいな」

 そう言い放ち、マサはすぐさま町の奥へと行ってしまう。

 その去って行く後ろ姿を、ルナは憤然と見やった。

「何よあれ、やっぱりいけ好かないやつね」

「そうか?」

「そうよ、さっさとやられてしまえなんてっ」

「けどあいつ。思い出した名前を俺に言う為に、わざわざずっとここで待ってたみたいだけどな」

「そんなの当然じゃない。それがバトルであいつに勝った時の条件なんだから」

 忘れる方が悪い。

 マサを庇うようなレオンの言葉を一蹴し、ルナはきっぱりと言い切った。

 ヤな奴には、何処までも手厳しいルナだった。

 レオンは苦笑して、貸し倉庫から出したサイドカーのシートに(また)がった。

 




 スナッチ団アジトまで辿り着けなかった……
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