未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―スナッチ団アジト―(2)

 スナッチ団アジトのあったエクロ峡谷はオーレ地方の東の端に位置し、隣の地方と目と鼻の先にあった。

 ここから彼等は隣の地方に出向き、良さそうなポケモンを見繕ってはトレーナーにバトルを吹っかけ、スナッチして戻って来るのである。

 その所為で警察は、何時もすぐ担当地方から逃げてしまうスナッチ団を最後まで追えず、捕えられなかったのだ。

 当然警察は彼等が逃げたオーレ地方の警察に協力要請を出してはいたが、実際被害に遭っていないオーレの警察の腰は重く、殆ど申し訳程度の協力しかしていなかった。

 もっとも捜索しようにも、荒涼とした不毛の地の中にあるエクロ峡谷は、長い年月に渡り吹きすさぶ風と時折降る雨により岩肌が削られ、風化して細長く切り立った岩山は、深く複雑に入り組んで中は迷路と化していたのだ。

 そのような天然の要害の最深部に造られたスナッチ団アジトは外からは勿論、空からも見つける事は不可能だろう。

 爆発で煙が立ち上らなかったら、きっと今でも警察はここを突き止める事は出来なかったに違いない。

 そんな峡谷の中を、レオンは迷うことなくアジトのある谷間へとサイドカーを滑り込ませた。

「うわぁ、ひどっ……」

 レオンについてアジトの中に一歩足を踏み入れたルナは、目を(みは)って思わず声を上げた。

 外の方も爆発の酷さを物語るように瓦礫などが散乱していたが、中も負けず劣らずの有様である。

 元々ここは一からスナッチ団が造ったアジトではなく、何処かの組織が用済みとして放棄した建物だった。それをスナッチ団が見つけて住み着いたのである。

 長く放って置かれたらしく、中は多少手を入れたボスの部屋以外は内装など全くない。所々崩れ薄汚れたコンクリートの壁と、錆びた鉄骨が剥き出しになった廃屋一歩手前の殺風景な造りのまま、アジトとして使っていたのだ。

 そこに運び込んだ物資の木箱やドラム缶が乱雑にあちこちに放置され、ただでさえ狭い通路が余計通りにくくなっていた。

 それが爆発によって通路のそこかしこで壁や天井が更に崩れ落ち、今や完全に塞がっている。大型スナッチマシンの置いてあった研究室に通じる通路も同じである。

 あの時レオンがアジトに侵入する為に開けた外の穴も、やはり最後のあの大爆発で瓦礫に埋もれて通れなくなっていた。

 これでは大型スナッチマシンを直したという、あの求人広告の真偽を確かめるには、かなり骨が折れそうだ。

「こっちだ」

 レオンは入り口脇の通路の壁の崩れた所を通り抜け、瓦礫を前に立ち尽くすルナを呼んだ。

 その先は別の通路に繋がっていた。右側は崩れた壁の塊や爆風で吹っ飛んできたドラム缶などによって塞がれていたが、左の廃屋にはそぐわないポケモン専用のパソコンが設置されている脇にある扉の方は何とか行けそうだった。開けばの話だが。

 レオンが扉の前に立つと、まだアジトの電力が生きているのか、扉が自動的に開く。

 そこからさっきの通路の塞がった反対側に出、更にその先にある壊れた壁の隙間を通って部屋らしき所へ出る。

 爆破した所為で崩れた箇所が増え、以前このアジトに出入りしていた時憶えた内部構造がかなり変わってしまっていたが、何とか行けそうだ。

 入って来た所とは別の壁の穴から出ようとした時だった。

 いきなり二人の目の前に、天井から人が降って来た。

 フェナスシティから今まであちこちでバトルしてきた、あのダークポケモンを使う謎の組織の黒いフルフェイスを被った戦闘服の男だ。

 スナッチ団とは別の組織の筈が、どうしてこのスナッチ団アジトの廃墟になどいるのか。まさか、あの求人広告に釣られて来たわけではないだろう。

 フルフェイスの男は、壁の穴の前に立ち塞がって二人に言い放った。

「久しぶりだなっ。この前はいいようにやられたが、今度はそうは行かないぜ!」

 どうも前に一度バトルした事があるようだが、何時何処でだかレオン達の記憶にはない。

「誰だ?」

「なんだと? おまえ、オレを憶えてないのかっ!?」

 訝しげな表情(かお)をして問う少年に、男は心外だと言わんばかりの声を上げた。

「パイラでバトルしただろうがっ」

「パイラで……?」

 二人は更に眉根を寄せる。

 あの時はとにかくバトルに次ぐバトルで、相手の事など一々憶えていない。

「おまえら、ホントーに憶えてないのか?」

 折角待ち伏せまでしてカッコよく登場したのに、これでは台無しである。

「だから、誰よ」

 しつこい男に、ルナはウンザリして言い返す。

「大体貴方達って、みんな同じ怪しい格好して顔は隠しているし、名乗りもしないじゃない。それで判れって言う方が無理なのよ」

「なんだと、この格好の何処が怪しいっ!?」

 憤然とフルフェイスをして戦闘服を着た男は反駁(はんばく)した。

「これは組織に認められたメンバーしか着ることのできない、シャドーの戦闘員の正式装備だぞ」

「シャドー? 貴方達の組織の名って『シャドー』って言うの?」

「おまえら、そんな事も知らないで、今まで我々に楯突いてたのか」

 少女のモノの知らなさぶりに、男は心底呆れ果てる。

 その言種(いいぐさ)に、ルナはカチンときた。

「なによ。そっちが何時も問答無用でバトル仕掛けて来るんでしょ。覚えて欲しかったら、ちゃんと名乗りなさいよっ」

「そうか、こいつ」

 フルフェイスの男に噛み付くルナの横で、レオンはぼそりと呟く。

「俺達を廃ビルに連れて行ったヤツだ」

 二人が言い合っている間に、律儀にも思い出していたらしい。

「ああ、あのダークポケモンのヤンヤンマだったっけ」

 ルナもようやく思い出し、ポンと手を打つ。

「レオンにスナッチされて、あっさり負けて逃げてった虫ポケモン使いの」

「ああ、そうだよっ」

 あの時の屈辱が(よみがえ)ったのか、男は拳を握り締めて青いロングコートの少年を()め付ける。

「折角組織に認められ、これからだったってのに、おまえにダークポケモンを奪われた所為で、オレのシャドーでの評価はガタ落ちだ。その落とし前、ここできっちりつけさせてもらうぜっ!」

 そう言うなり、シャドーの戦闘員はポケモンを繰り出した。

 前に戦ったツチニンが進化したテッカニンと、同じくクヌギダマが進化したフォレトスである。

 前者は進化し脱皮して体に羽根が生えた結果、地面が飛行タイプに変化し、四枚の薄翅(うすばね)を高速で動かして飛ぶので、進化前とは比べものにならないくらい素早くなっている。

 そして、後者は赤く変色した体を、多少の攻撃ではビクともしない硬い鋼鉄の殻で覆い、虫の他に鋼タイプを併せ持つようになった。

 対するレオンは、マグマラシとモココがリライブした際に進化してしまったデンリュウである。

 モココの時にあった頭と首回りの綿毛が取れ、額にある大きな赤い玉が見えるようになった他に、体の色もピンクから黄色に変化していた。

「テッカニン、『剣の舞い』 フォレトスは『高速スピン』を黒いヤツにぶちかませっ」

「マグマラシ、フォレトスに『火炎車』 デンリュウ、テッカニンに『電磁波』だ」

 両者ほぼ同時に出した指示に、最初に応えたのは格段に素早さが上がったテッカニンだった。

 テッカニンの体の周囲に剣の幻影が舞い、攻撃力を高める。

 次いで、おどおどしていたマグマラシが指示を聞いた途端、機敏な動きで頭と尻に炎を吹き上げた体を輪の形に丸め、高速に回転させて火炎を纏い、体を独楽のように回し始めたフォレトスの、鋼鉄の殻に覆われた体にぶつかって行く。

 元々虫タイプは炎タイプ技に弱いが、鋼タイプもそれは同じだった。その二つのタイプを併せ持つフォレトスは、確かに打たれ強くはなったが、反面極端に炎タイプ技に弱くなってしまっていた。

 激しく燃える火炎に体を焼き尽くされ、フォレトスは苦悶の表情のまま横倒しになった。

「くぅっ、ならば、これならどうだっ」

 悔しげに呻き、シャドーの戦闘員は次のポケモンを出した。

 アメタマの進化形のアメモースである。前は虫の他に水タイプを併せ持っていた為、水面の上を滑るように移動していたが、それが飛行タイプに変わって空を飛べるようになったのだ。足の代わりに生えた四枚の薄羽を使って、ヘリコプターのように空中で前後左右自由に方向転換する変則的な動きが出来るようになっていた。

 アメモースの頭の両脇から生えた、幅広の触覚に描かれている目玉模様に威嚇され、怯んだレオンの二匹のポケモンの攻撃力が下がる。

 呑気に構えてビビッてしまったデンリュウが、気力を奮い立たせて『電磁波』をテッカニンに放つ。

 剣の舞いを舞い終わった一瞬の隙を()かれたテッカニンは、躱す事が出来ずにそれを喰らい、麻痺してしまった。

 特性の「加速」で素早さが上がるものの、麻痺した体では思うように動けない。

「おのれっ、テッカニンは『連続斬り』 アメモースは『バブル光線』を黒いヤツに叩き付けろっ」

 先に虫ポケモンの最大の弱点である炎タイプを潰す。

「マグマラシ、アメモースに『煙幕』 デンリュウはテッカニンに『雷パンチ』だ」

 すぐさま指示を飛ばしたレオンは、更に二匹に注意した。

「マグマラシ、アメモースは変則的な動きをする。デンリュウも相手が麻痺して動きが鈍くなったとはいえ油断するな。確実に当てるんだ」

 アメモースは飛びながら次々方向を変え、口から勢いよく無数の泡を撒き散らす。

 それを迎撃するようにマグマラシが、口から勢い良く黒煙の塊を吐きだす。

 中空で泡と黒煙がぶつかり合い、弾けて辺りを黒く染める。

 そこへすかさずテッカニンが、黒い霧と化した煙幕の中に突っ込んで行く。

 それを隠れ蓑に、『連続斬り』をマグマラシに仕掛ける気だ。

 デンリュウも電気を帯びた拳を振り上げ、猛然と煙幕の中に飛び込んだ。

 直後、一瞬黒霧の色が白ける。

 次の瞬間。

 バリバリっと、黒い霧の中から電気の筋が四方に放たれた。

 暫くして煙幕が拡散して消えたそこに、マグマラシの鼻先で前足の鋭利な爪を振り上げたテッカニンの横っ腹に、デンリュウの拳が突き刺さった姿が現れる。

 全身を痺れさせ、テッカニンは硬直したその姿のままポテリと床に落ちる。

「なんでだ~っ」

 シャドーの戦闘員は頭を抱えて喚いた。

 あの何も見えない煙幕の中で、ああも見事にパンチを決めるなど信じられない。

 だが、デンリュウの尻尾の先にある赤い電気玉は、灯台の光の代わりに使われるくらい強力で明るい光が出せるのだ。デンリュウはそれを発光させて、煙幕の中に浮かんだテッカニンの影に思いっ切り『雷パンチ』を叩き込んだのである。

「アメモースにマグマラシは『火炎車』 デンリュウは『雷パンチ』だ」

「避けろっ、アメモース!」

 レオンの指示に、慌てて黒いフルフェイスの男は叫んだ。

 ぎりぎりまでマグマラシの攻撃を引き付け、それが当たる寸前でアメモースはすっと上に急上昇する。

 体を回転させて作った火炎の輪が、その下を虚しくすり抜けていく。

 次いで電気を帯びた拳が襲い来る。

 それもアメモースは、紙一重の差で横に移動して躱した。

 が、躱された瞬間、デンリュウは拳の電気を一気に放出した。

 不発に終わった以上、何時までも一ヶ所に大量の電気を溜めておけなかったのだ。

 パンチをぎりぎりで躱したアメモースは、その放電をモロに全身に浴びてしまった。

 直接パンチを受けた程ではないにしろ、思いもよらない不意打ちに、薄羽の動きが変調を来たし床に落ちかける。

 そこへレオンは追い打ちをかけ、マグマラシに再度『火炎車』を指示する。

 回転する烈火の炎が、今度こそアメモースの薄水色の体を絡め取る様に焼き尽くす。

「今なら倒せると思ったのに。これじゃ、恥の上塗りだ~っ」

 頭を抱え、シャドーの戦闘員は嘆いた。

「くそっ、やっぱ、バトらなきゃ良かったぜっ」

 アッシュブロンドの少年を()め付けて吐き捨てると、身を翻して逃げて行く。

「馬鹿みたい。ポケモンを進化させたくらいで、レオンに勝てると思ったのかしら」

 ルナは呆れ顔で呟いた。

 だが、本当にあれは、ポケモンを進化させた「今なら」の意味だったのだろうか。

 同じ言葉を他のヤツも口にしていた。別の意味で。

 レオンには、それが気になった。

 とはいえ、今はあの求人広告の真偽を確かめる方が先だ。

「行くぞ。こっちだ」

 崩れた壁を(また)いで通路に出ると、レオンは突き当りの壊れた自動販売機の脇にある階段を駆け上がって二階に出た。

 

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