未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

70 / 134
―スナッチ団アジト―(4)

 片耳ピアスの男が出て来た部屋の中を覗くと、隅に赤錆びたドラム缶や古ぼけた木箱が積まれ、左右の壁の一部に穴が開いている。あそこからなら行きたい通路に行けそうだ。

「よし、こっちだ」

 ルナに声を掛け、レオンは左の方に向かった。

「おいおい、こっちは無視かよ」

 それを引き留めるような声が、唐突に部屋の中に響く。

 その声に二人が振り返ると、反対の壁の穴からのっそりと男が姿を現した。

 黒いズボンに、背中に「盗」の一字が掛かれた赤い袖なしベストを素肌に着た男だ。頭は中央を剃り上げ、逆モヒカンへアになっている。

 この格好はフェナスで一度見た事がある。レオンを裏切り者と言ったスナッチ団の連中と全く同じだ。

「何やら騒がしいから来てみれば、また派手にやってるじゃねぇか。え? レオン」

 スナッチ団の男は斜に構え、裏切り者の少年を()め付ける。

「その上女連れとはいい気なもんだ。だが、調子に乗るのもここまでだっ」

 と、問答無用でバトルを仕掛けて来る。

 男が出したのは、水と飛行タイプを併せ持つキャモメが進化して、口の下に大きな袋のような物ができたペリッパーと、同じく水タイプのタッツーの進化形であるシードラだった。

 レオンはデンリュウとエーフィを出し、ペリッパーを効果抜群の『雷パンチ』で下し、体に毒の棘を持つシードラは、効果抜群ではないが、エーフィの『サイコキネシス』でねじ伏せた。

 そして次にスナッチ団員が繰り出した水と電気タイプを兼ね備えたチョンチーの進化形であるランターンにはエーフィを、水の他にエスパータイプでもあるヒトデマンの進化形のスターミーにはデンリュウの得意技をそれぞれぶつけて叩き伏せる。

「くぅっ、これでも勝てないのかーっ」

 調子に乗って仕掛けたものの呆気なくやられ、悔しげに逆モヒカンの男が呻く。

「大型スナッチマシンを修理したというのは本当か?」

「へっ、知りたきゃ、研究室に行って自分の目で確かめるんだな」

 ツバを吐き捨て、スナッチ団員は口の端を吊り上げて嘲笑(わら)った。

「もっとも、無事辿り着ければ、の話だがな」

 そう言うなり、身を翻して後ろの崩れた壁の中へ逃げ込む。

 その先は通路になっているのか、階段を駆け下りる足音が響いて来る。

 レオンはその音が遠ざかるのを確認し、身を返して目の前の崩れた壁の穴を覗き込む。

「ねぇ、さっきの(ひと)が逃げてった方はどうなの? 階段があるみたいだけど」

 下に降りられるなら一階にあるという研究室に行けるかもしれない。

「あそこは駄目だ。研究室には行けない」

 このアジトは中央の大きな通路を挟んで左右独立した構造になっていた。それぞれの側にある階段は上下の移動は出来ても、左右の移動はその中央の通路を通らなければ出来ないのだ。

 そして、レオンが目指しているスナッチマシンのある研究室は、左側の一階部分にあった。

 だが、その中央通路の一階部分が瓦礫などで塞がれ、通れずにレオン達が今うろついているのは右側の方だった。さっきの男が逃げた階段も同じである。それを降りても左側には行けない。

 研究所に行きたければ、まずアジトの左側部分に出なければならないのだ。

 覗いた先は、残念な事に途中瓦礫に埋もれていた。

 仕方なくレオンは部屋を出て、他の場所を探した。

 あちこち探す先で会ったアンダーのゴロツキらしき奴を二人程叩き潰し、二階を(くま)なく見て回ったが、二階も左側に行ける所はなかった。

 代わりに見つけたのが、行き止まりの通路脇の崩れた壁の向こうにあった階段だ。このアジトの最上階である三階に上がれる。

 二階からも行けない以上、残るは三階だけだ。

 一縷の望みを託して、レオン達は階段を駆け上がった。

 崩れた壁の間を通って三階の通路に出る。

 そこにオールバックの男がいた。アンダーのゴロツキだ。

「え~、まだいんのかよ」

 男はうんざりしたような顔をし、ポケモンを繰り出してくる。

 レオンもそれに応え、相棒達を呼び出した。

 効果抜群の技で的確に急所を突き、倒していく。見事と言っていい程の全く無駄のない戦い方だ。

 そして、バトルが終わると同時に、負けてガックリしている相手を無視して先を急ぐ。

 うろついていたアンダーのゴロツキを三人程あっさりと下し、漸くアジトの左側に行ける場所を見つけた。

 ほっと安堵の息をつき、二人は崩れた壁の間を潜り抜けた。

 途端に嬉々とした女の声が上がる。

「これで終わりだね。やっと凄いポケモンが貰えるよ」

 マゼンタ色のウルフカットの女が満面の笑みを浮かべ、モンスターボールを放る。

 すかさずレオンも応じる。

 今までと同様、女だからといって一切の手加減はナシで叩き潰すが、さっきの言葉が気になった。

「俺で終わりと言うのは、潰し合いはもう終わりという事か?」

「そうさ、あと一人こっちに来たヤツを潰せば、広告のポケモンが手に入った筈なのにさ」

 ぎっと恨みの籠った目をレオンに向け、ウルフカットの女は鼻を鳴らして行ってしまう。

 後何人いるか判らないが、これから先はバトルで勝ち残ったそこそこ強い奴がいるらしい。二人は気を引き締めてそこを抜けた。

 左側は、右側をうろついていた以上にゴロツキがいた。

 何度かバトルを繰り返し、やっと下に降りる階段を見つけて駆け下りる。

 だが、そこにもやはりゴロツキ達が待ち構えていた。

 それらを蹴散らし、レオンは更に階段を降りて何とか一階に辿り着く。

 そして、研究室のある方へ向かう先に、男が一人立ち塞がった。

「とうとうここまで来ちまったのかよ」

 やれやれと肩を(すく)める。その前にやられていた方がお前の為だとでも言うように。

 皮肉っぽくそう声を掛けてきた男は、またもや逆モヒカン頭に、背中に「盗」の一字が書かれた赤いベストを素肌の上に着ていた。スナッチ団員である。妙なこだわりでもあるのか、どうやらこの髪型を含めたこれが、スナッチ団員の正式スタイルのようだ。

 ——確かレオンって、スナッチ団員だった訳じゃなかったのよね……

 何処がいいのか分からない男の恰好に、顔を引き()らせていたルナは、チラリと隣に立つ少年を見てホッとする。レオンがこんな姿にならなくて本当に良かったと。

「レオン、随分とあちこちでご活躍のようじゃないか。だが、それもここで最後だ。おまえが爆破したあの研究室の無残な姿と同じようにしてやるっ」

 そう言い放つとスナッチ団員の男は、ポケモンを繰り出した。

 二匹とも体長は一メートル程で、腹から喉にかけて朱色である以外全身緑色で、腕と頭、そして尻尾に葉っぱを生やし、手足に鋭い爪を持つ草タイプのキモリの進化形であるジュプトルと、全身硬い鎧の様な皮膚で覆われている地面と岩タイプを併せ持つサイホーンだった。

 対してレオンは、マグマラシとヌオーを呼び出した。

「ジュプトル、青いヤツに『リーフブレード』 サイホーン、黒いヤツに『突進』しろ」

「マグマラシ、ジュプトルに『火炎車』 ヌオーは『なみのり』だ」

 即座に両者から、相棒達に指示が飛ぶ。

 俊敏な動きで一足飛びにジュプトルが、ヌオーの頭上に腕に生える鋭利な葉を振り上げる。

 気合いを入れるように頭と尻尾の部分に炎を吹き上がらせ、くるりと体を丸めて高速移動するマグマラシは、ヌオーののっぺりとした頭に緑の刃が触れる寸前、緑色の脇腹にぶち当たった。

 脇腹を焼かれ、苦痛の叫び声を上げてジュプトルが吹っ飛ぶ。

 間一髪仲間に助けられたヌオーは、のんびりとした動作でバトルフィールドに頭上高く大量の水を湧き上らせる。

 次いで、地面を掻いて突進する動作に入るサイホーンと、脇腹を焦がして起き上がれないジュプトルに、ヌオーはザバリとその全てを叩き付けた。

 効果抜群の技を喰らったサイホーンはもとより、大ダメージを受けたジュプトルも堪える事が出来ずに力尽きる。

「くぅっ、何時ものヤツじゃねぇのに、なんでこんなに強いんだよっ」

 喚きながらスナッチ団員の男は、新たに二匹のポケモンを呼び出した。

 今度は共に一・五メートル弱の白い毛並みのノーマルタイプが二匹だ。

 一方は額から頭に向かって伸びる一房が赤いナマケロの進化形のヤルキモノで、常にうつ伏せ状態のやる気のなさが一転して、やたらと張り切り、一時もじっとしていられない騒々しいポケモンだ。

 もう一方は鋭い双眸のザングースで、両腕や体の随所の毛が血塗られたように赤く、何でも切り裂く太く鋭利な黒い爪が特徴的だった。

「ヤルキモノ、ザングース、青いヤツに『切り裂く』に『ブレイククロー』を叩き込めっ」

「ヌオーは『なみのり』 マグマラシは『スピードスター』」

 いきり立って命ずる男に対し、レオンは冷静に指示を出す。

 丁度その時、舌の上に上手く「先制のツメ」を立たせたヌオーは、それを舌で弾くと気分良さそうに大きく伸び上がり、パクンと口で受け止める。

 両手を振り回して迫るヤルキモノと、一気に距離を詰めて太く鋭い爪を振り被るザングースの目と鼻の先に、突如高波がそびえ立つ。

 さっきのヌオーのあれがただ遊んでいたのではなく、『なみのり』の動作だとスナッチ団員の男が気付いた時には、二匹は避ける間もなく大波に呑み込まれていった。

 大量の水が消えたバトルフィールドに、全身ずぶ濡れになったヤルキモノとザングースがいた。

 そこへ、マグマラシが生み出した星型の礫が容赦なく叩き付けられる。

 大量の水を吸った毛の所為で、体が重くなった二匹は素早く躱せずにモロに喰らって仰け反った。

 更にトドメとばかり、レオンが再度ヌオーに『なみのり』を命じる。

 ご機嫌なヌオーは即座にそれに応じて、特大の波をヘロヘロの二匹にぶち当てた。

 なす術もなく、ヤルキモノとザングースは白い毛に水を滴らせながら力尽きた。

「どうなってんだ~!?」

 怪我の痛みでバトルに集中できず、満足に指示が出せないと聞いていたのに。

 一撃も与えられずに惨敗し、男は驚愕の声を上げる。

「余計強くなってんじゃねぇか。けど、このままで済むと思うなよっ」

 そう捨て科白(せりふ)を吐いて逃げて行く。相変わらず、逃げ足だけは速い。

 今の男はスナッチ団員の中でも、そこそこ使える奴だった。ここまで来るのに、アンダーのゴロツキの他に何人かスナッチ団の連中ともバトルしたが、広告を出して人を集めておきながら、団員の数が思った以上に少ない。

 大型スナッチマシンのある研究室まで後僅かだ。おそらくこの先に、それより腕の立つ奴が待ち構えていると考えたほうがいい。

 特に酷い怪我などはしてはいないが、用心の為ここでポケモン達の体調を完全に回復しておいた方がいいだろう。

 そう思って、レオンが他のポケモン達も出そうとボールを手に取った時だった。

 バトルが終わった後はおどおどしてその場に(うずくま)り、辺りを窺っていたマグマラシが不意に苦しげな唸り声を上げたかと思ったら、頭と尻の辺りから吹き上げる紅蓮の炎の勢いが増し、あっという間に全身を包み込んだのだ。

「マグマラシ!?」

 驚いて駆け寄ろうとしたルナを制し、レオンは無言でじっとそれを見据える。

 まるで繭のようにマグマラシの体を包み込んだ炎は、次第に膨れ上がっていく。

 そして、それ以上大きくならなくなった途端、勢いよく炎が弾けて四散した。

 その跡に現れたのはマグマラシではなかった。背中が艶やかな黒炭のような色をしているのは同じだが、マグマラシと違い、バトル以外でも危なげなく後ろ足だけで立ち、体長も倍近く大きく、顔立ちが一段と精悍になっている。進化してバクフーンになったのだ。ヒノアラシの最終進化形の。

 ただ、性格は相変わらずで、バトル以外では何処となくビクついたように落ち着かない。

「マグマラシ、とうとう進化したのねっ」

「ああ、よかったな。バクフーン」

 リライブ後は皆進化しているのに、一匹だけなかなか進化しないのでずっと気に掛かっていたのだが、これで一安心である。

 レオンは手早くポケモン達を全回復させ、準備を整えると先を急いだ。

 




 主人公がスナッチ団員ではなく、手を貸していただけとの設定になったのは、主人公の恰好が原因です。 
 背中に「盗」の文字のあるベストを素肌に着、逆モヒカンヘアがスナッチ団員の正式スタイルなら、主人公のこの格好は違うだろうと。
 実際そんな恰好を主人公がしていたら、ヒロインじゃなくてもイヤだと思う。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。