未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―スナッチ団アジト―(5)

 レオンはさっきのスナッチ団員が、塞ぐように立っていた扉を開けた。

 そこは最初に見た、瓦礫で埋もれて通れなかった研究室に通じる通路だった。

 二人はそこを駆け抜け、奥にある扉の壊れた部屋に足を踏み入れる。

 中は今まで見てきた部屋の中で、一番酷い有り様だった。

 部屋に置かれた備品やプラントは全て吹き飛ばされ、使用不可能な程に破壊されている。その周りに壊れたモンスターボールが散乱し、奥の方にぽつんと上半身だけの裸のマネキンが立っていた。

「っ……」

 余りの酷さに、ルナは声もなかった。

 レオンはその中の一つ、部屋の中央付近で横倒しになっている二台のアームを付けた機械に近寄った。モンスターボールをスナッチボールに造り変える、大型スナッチマシンである。

 それは他の物よりも損傷が酷く、修理不能のスクラップ同然の代物だった。

 ——やっぱり……

 となると、あの広告の本当の目的(ねらい)は——

「やっぱ、あの広告に釣られてのこのこ来やがったな」

 レオンの考えを肯定するように、嘲るような濁声(だみごえ)が研究室一杯に響き渡る。

 ハッとして振り返ると、奥にある壊れたプラントの陰から、青髪のスナッチ団特有の恰好をした筋肉質の背の高い男が一人、姿を現した。

「しかもガキの癖に女連れで来るとはな。一匹狼を気取ってた割には、ちょっと見ない間に随分色気付いたじゃねぇか」

 男の皮肉りを無視し、レオンは一応確認してみる。

「ミサンゴ、修理したという大型スナッチマシンは何処だ?」

 分かり切った事を聞く少年に、ミサンゴは鼻を鳴らした。

「そんなモンあるかよ。おまえが修理できないように爆破したんだろうが」

「じゃあ、あの広告はレオンを誘き寄せる為のウソだったのね」

「嘘じゃねえぜ。こいつが何もかも全部ぶっ壊してくれた所為で、新しくアジトを造らなきゃならなくなったんだ。腕の立つスナッチャーが一人でも多く居た方が、そン為の資金も早く稼げるってもんだろ」

 少女の決めつけに軽く肩を竦め、ミサンゴはニヤリと笑う。

「広告にスナッチマシンが修理できたって書いたのは、ヘルゴンザ様のお考えだ。おまえの事だ、それを見たら絶対自分で確かめに来るに決まってるってな。

 そうすりゃ、集まったやつらの腕を見つつ、おまえへの制裁もでき、ついでにそのスナッチマシンも奪い返せるって寸法だ」

 一石二鳥、いや三鳥といったところか。成程流石スナッチ団のボスだけあって、なかなか抜け目ない計画だ。

「じゃあ、何故アンダーのゴロツキに広告をばら撒いた。ゴロツキならパイラでもいい筈だ。しかも、あれにはここまでの地図がなかった」

「パイラなんぞ、おまえにやられたクズどもじゃ話にならねぇだろうが。地図が無いのは、おまえが動けるようになるのを待つ為だよ」

 あらかじめゴロツキ達をこの付近まで呼んでおいて、レオンがこっちに向かった処でアジトに集めたのだ。

 どうやって知ったのか。余りにもこちらの状況を把握し過ぎている。

「おまえ、バトルで怪我をした挙げ句、ぶっ倒れたんだってな」

「誰にそれを聞いた?」

 疑念の表情を浮かべる自分を(あざけ)る男に、レオンは冷ややかに訊く。

「裏切り者のおまえに教えられるかよ」

「俺は別に裏切った覚えはない。力を貸すのをやめただけだ」

「同じだろーがよっ」

 憎々しげに吐き捨て、ミサンゴは裏切り者の少年を睨め付ける。

「大体おまえは最初から気に入らなかったんだ。ガキの癖にちょっと腕が立つくらいでいい気になりやがって。何が『仲間になる気はないが、腕を高く買うと言うなら売ってやってもいい』だ。

 二度とその生意気な口を利けなくしてやるぜっ」

 傲然と言い放ち、ミサンゴはモンスターボールを放った。

 中空で割れたボールから光が(ほとばし)り、二匹のポケモンが姿を現す。

 体長七十センチ程の水色の体にオレンジの頬と腹、そして頭と尻の両脇に大きなヒレを付け、全身を粘膜で覆ったミズゴロウの進化形であるヌマクローと、鍛え上げた筋肉質の灰色の肉体を持つ、ワンリキーが進化して倍の大きさになったゴーリキーである。

 前者は進化した事で水タイプの他に地面タイプを併せ持つようになり、後者は格闘タイプで進化前と違い、筋肉が張り出た腕に三本の赤い筋がある他に腰にベルトをしている。

 レオンはそれに対し、ヌマクローと同タイプのヌオーと、格闘タイプに強いエスパータイプのエーフィを出した。

 ヌオーはベロンと舌を出し、その上にお気に入りの宝物があるのを確認してくるりと舌を丸めて口の中にしまい込み、それを繰り返して実にのんびりとしている。

 一方エーフィは、対戦相手のスナッチ団の男を見て目付きを険しくし、毛を逆立てて何時でもレオンの指示に応えられるよう、臨戦態勢を整えて待っている。

 どうやらエーフィは、相手の男が何者だか分かっているようだ。

「もうちょい消耗してるかと思ったが、結構元気そうだな」

 レオンの出したポケモンを見やり、ミサンゴはつまらなそうに独り言ちる。

「まぁ、呼び集めたやつらが、おまえに(かな)うわけがないのは判り切っていたがな。

 それにしてもベイク達もだらしねぇ。少しは役に立つかと思ったんだが、とんだ期待外れだぜ」

 ったく、使えない奴等だと、ミサンゴはここまでの間に配した仲間を蔑んだ。

 彼にとって仲間さえも自分の引き立て役に過ぎない。それがこいつらの常識だった。

「あいつらは捨て石か」

 レオンは嫌悪も(あら)わに吐き捨てる。

 分かってはいたが、こいつの口から改めてそれを聞かされると、余計虫唾(むしず)が走る。

「ああ、そうさ。おまえを倒せるのは、本当のスナッチ団一のスナッチャーであるこのオレ様だけだ」

 そう豪語し、ミサンゴはポケモンに指示を出す。

「ヌマクロー『だくりゅう』 ゴーリキーはエーフィに『リベンジ』だ」

「ヌオーは『なみのり』 エーフィはゴーリキーに『サイコキネシス』だ」

 ほぼ同時に出た指示に、いち早く反応したのは既に臨戦態勢でいたエーフィだった。

 伸び上がる様に大きく首を振り、額の紅玉にいつも以上に収斂したサイコパワーを、一気にゴーリキーに叩き付ける。

 格闘タイプには効果抜群のエスパー技である。しかもアイテムで底上げした上に、嫌いな相手のポケモンという事で、何時も以上に気合いの入った一撃だ。その威力は半端なかった。

 受けた技の威力を倍に返すつもりで待ち構えていたゴーリキーは、それを受け止め切れずにガクリとその場に膝を付く。

 そして、そのまま前のめりに倒れ込んだ。

「なにぃっ!?」

 ミサンゴは思わず目を()いた。

 先にエーフィが仕掛けてくると見越しての『リベンジ』指示なのに、いくら効果抜群とはいえ、一撃喰らったくらいでゴーリキーが倒されるとは思ってもみなかったのだ。

 もし、少しでも体力が残っていれば、確実にエーフィを仕留められたものを。

 ギリっと奥歯を噛み締め、ミサンゴは次のポケモンを出した。

 体長は一メートル強の顔から背中にかけてバサバサの白い毛で覆われ、細長い鼻に葉っぱの団扇のような形をした両手をし、木を思わせるような茶色の体をしたダーテングである。

 草タイプのタネボーの進化形であるコノハナに「リーフの石」という進化を促す特殊な石を与え、最終進化させたものだ。それにより、ダーテングは草の他に悪タイプも併せもつようになった。

 ヌオーとヌマクローが、同時に技を繰り出す。

 青く澄んだ高波と茶色く濁った濁流が、お互いを呑み込もうと中央で激しくぶつかり合う。

「エーフィ、ヌマクローに『サイコキネシス』だ」

 せめぎ合う波間を縫ってエーフィが、痛烈なサイコパワーの一撃をヌマクローの急所に叩き込む。

 均衡が崩れ、茶色く濁った波を洗い流すように澄んだ青い激流が、ヌマクローと出て来たばかりのダーテングに一気に押し寄せる。

 二匹を呑み込んだ波が引いた後には、ずぶ濡れになったヌマクローとダーテングが立っていた。

 ——と、

 ヌマクローがグラリとよろけ、たたらを踏んでバッタリと倒れ伏す。

 やはり急所に当ったエーフィの一撃が効いたのだろう。でなければ、水タイプでもあるヌマクローが『なみのり』を喰らったくらいで倒れるわけがない。

「ちっ、ダーテング、エーフィに『だまし討ち』だ」

 忌々しげに舌打ちしながら指示を出し、ミサンゴは新たなポケモンを繰り出す。

「躱せ、エーフィ」

 だが、ふっと姿を消したダーテングの何処から来るか分からない攻撃に、エーフィは途惑った。

 そこへ、あらぬ方向からダーテングが襲い来る。

 躱す事ができないまま効果抜群の強烈な一撃を受け、エーフィが悲鳴を上げる。

「エーフィっ」

 思わず顔色を変えて叫んだレオンだったが、ミサンゴが新たに出して来たポケモンを見た瞬間、更に大きく琥珀色の瞳を見開いた。

 それは全身が焦げ茶の剛毛で覆われ、腹には大きな白い輪の模様がある、両手両足に鋭い爪を持つリングマだった。ノーマルタイプのヒメグマの進化形で、後ろ足で立ち上がると体長は二メートル近くなる。

「レオンっ。そのリングマ、ダークポケモンよ」

「ああ、判っている」

「え? 判っているって……」

 レオンには黒いオーラは見えない筈なのに……

 何故判るのかと驚くルナに構わず、レオンはミサンゴを睨み据えて問い(ただ)す。

「デジタスはどうした。そのリングマはやつのモノだった筈だ」

「あいつは、おまえが裏切った所為で降格されたんだよ。おまえをここに連れて来たのはあいつだからな」

 その責任を取らされ、ダークポケモンのリングマを取り上げられたという訳だ。

 ——俺の所為でそんな事になっていたとは……

 レオンは一瞬奥歯を噛み締めたが、すぐに気持ちを切り替え、意識をバトルに集中させた。

「エーフィは『スピードスター』 ヌオーはダーテングに『叩き付ける』」

「リングマ、ダーテング。エーフィに『だまし討ち』だ」

 レオンの指示に、構えるエーフィの周囲に輝く無数の星の礫が現れ、ミサンゴの二匹のポケモンに襲いかかる。

 更にのたのたと前に進み出たヌオーがゆっくりと上体を捻り、その反動を利用して丸太のようなぶっとい尾をダーテングに叩き付けた。

 が、ひょいとダーテングは余裕でそれを躱してしまう。

 そして、リングマとダーテングは、エーフィが逃げられないように左右から同時に襲い掛かり、その白い華奢な体に悪タイプ技を喰らわせる。

 二方からの躱す事もできない効果抜群の攻撃を受け、堪え切れずにエーフィは仰け反ってその場に(くずお)れた。

 顔色を変えたレオンを見て、ミサンゴが悦に入った笑みを浮かべる。

「くっ……」

 レオンは倒れたエーフィをボールに戻し、次のポケモンを出す。

 さっき進化したばかりのバクフーンだ。

「バクフーン、リングマに『煙幕』 ヌオーはもう一度ダーテングに『叩き付ける』だ」

 そう指示した後で、レオンはヌオーにボソッと真顔で付け加える。

「ダーテングは泥棒が得意な悪タイプだ。今度外すとあいつにおまえの宝物を()られるぞ」

 効果は覿面(てきめん)だった。さっき「先制のツメ」を盗られたのを思い出したのだろう。

 仰天したヌオーは、慌てて口の中にお気に入りのアイテムをしまい込むと、ギンッとダーテングを睨み付けて猛然と突進していった。

「馬鹿め。ダーテング、躱してそいつに『メガドレイン』だ」

 嘲笑(せせらわら)ってミサンゴが指示を出す。

 余裕綽々のダーテングはヌオーをギリギリまで引き付け、さっと横に跳ぶ。

 その直後、急停止しながら横に逃げたダーテングの方に体を捻ったヌオーは、その反動を利用して振り回した尻尾を、勢いを殺さずにそのまま一回転してダーテングに叩き付けた。

 スピード、タイミングとも先程の『叩き付ける』とは比べものにならない。全体重の乗った激烈な一撃である。

 躱してすぐさま『メガドレイン』を出そうとしていたダーテングは、咄嗟に避ける事が出来ず、モロにそれを喰らって吹っ飛んだ。

 激突したコンクリートの壁に、体の半分近くをめり込ませて力尽きる。

 「先制のツメ」の事になると、本当にヌオーは見境ない。リングマをスナッチするのに邪魔なダーテングをさっさと片付ける為に、それをレオンは利用したのだが、相変わらずの凄まじさだ。

 とにかく、これでリングマのスナッチに専念できる。

「バクフーン、もう一度『煙幕』 ヌオーは『あくび』だ」

「あのぬぼっとしたヤツに『切り裂く』だっ」

 余りの事に暫し茫然自失になっていたミサンゴは、レオンの声にハッと我に返り、慌ててリングマに指示を出す。

 ヌオーが大きく口を開け、思いっ切り欠伸(あくび)をする。

 つられてリングマも目に涙を溜め、ふわっと大きな欠伸をした。

 そこへ、バクフーンが特大の黒煙の塊を吐き出し、リングマの顔に叩き付ける。

 煙幕で顔を真っ黒にしながらも、リングマはヌオーに向けて前足の鋭い爪を振り降ろすが、満足に狙いを定められない。おまけに眠気は増すばかりだ。

「眠るなっ、リングマ!」

 ミサンゴが怒鳴り付けるが、リングマはスカリと空振った挙げ句、スヤスヤと寝入ってしまった。

「バクフーン、『火炎車』だ」

 床を蹴って跳び上がりながら、バクフーンは襟巻き上に吹き上がらせた炎を全身に纏いって転がり、勢いをつけてリングマにぶち当たる。

 眠ったままのリングマは、それに抵抗できずに床に倒れ込むが、力尽きたわけではなく、ぐうぐうイビキをかいている。

 直後、レオンは左腕に装着したスナッチマシンで造り変えたボールを投げる。

 リングマを取り込んだボールは、床の上で左右に揺れ動き、また眩い光が(ほとばし)る。

「よし、起きろっ、リングマっ!」

 ミサンゴが大声を張り上げる。

 その声に反応し、ボールから出て来たリングマがカッと目を見開く。

「バクフーン、『煙幕』 ヌオー、『あくび』だ」

「リングマ、躱せっ。青いヤツに『ダークラッシュ』をぶちかませ!」

 眼前に迫る黒煙の塊を掻い潜り、リングマは大きく口を開けたヌオーに苛烈な一撃を加える。

 軽くはないヌオーの体が吹っ飛び、背後の壁にめり込んだ。

「いいぞっ、もう一匹にも『ダークラッシュ』だ」

 機嫌を良くし、ミサンゴが更に命じる。

 技の反動を受けてよろけたリングマは、その命に従いバクフーンに向き直る。

 そして、特大の欠伸をした。

 リングマの技を喰らう直前、ヌオーの技が決まっていたのだ。

 再び眠りに落ちたリングマに、レオンは既にスナッチボールに造り変えていたボールを投げ付ける。

 さっきよりも高性能のスーパーボールだ。

 リングマを取り込んだそれは暫く激しく左右に揺れていたが、やがて抵抗を諦めたかのようにゆっくりと止まった。

「くっそーっ、先に怪我してるおまえを倒せば良かったっ!」

 こいつは自分よりも、相棒のポケモンが痛め付けられる方が(こた)える。だから自分に叩きのめされる大切な相棒達の無残な姿を見せつけ、絶望のどん底に突き落としてじっくり甚振(いたぶ)ってやろうと思っていたのに。

「覚えてろっ。何時か必ずおまえを倒し、名実共にスナッチ団一のスナッチャーになってやるっ!」

 憎々しげにそう()え、ミサンゴは身を翻して研究室の奥の方、折り重なるように倒れる棚の向こうへと逃げて行く。

 だが、そっちは行き止まりだ。

 そうレオンが思った時だった。

 何かが倒れる音が研究室内に響き渡った。

 




 前回の投稿の後、いきなり多くの感想が送られて来てビックリしましたが、どうやら楽しんでもらえているようでなによりでした。
 これからも楽しんで読んでもらえるように頑張って書きたいと思います。

 ヌオーが何故ああなってしまったのか、自分にも分りません。
 心を無くしたダークポケモンが心を取り戻したらどうなるか。それぞれの動きは判明した性格を基にしている筈が、ヌオーの場合気が付いたらああなっていました。
 今後もヌオーに主人公は苦労するんだろうなと思いますが、どうしようもありません。自分も制御不能ですので、主人公には頑張ってもらいたいものです。
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