未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―スナッチ団アジト―(6)

 ハッとして急いで後を追ってみると、棚の奥の壁にぽっかりと大きな穴が開いていた。

 前にレオンが爆破して開けた穴だ。

 外から見た時塞がって見えたのは偽装だったのだ。

 そこを潜り抜けて外に出てみるが、もはやミサンゴの姿は何処にもなかった。

 まだ聞きたい事があったのに、まんまと逃げられてしまった。

「ねぇ、レオン。貴方スナッチ団に手を貸していただけで、団に入っていたわけじゃないのよね」

 男を追うのを諦め、アジトの入り口に向かった少年に、ルナはふと疑問をぶつける。

 さっきの男もそうだが、今まで出会ったスナッチ団員は皆、レオンの事を団の一員として扱っているように見えたのだ。だから彼の事を裏切り者と言うのだろう。

 ルナはそのレオンとスナッチ団員との認識の違いが気になったのだ。

 それに対し、レオンは嫌悪も(あら)わに吐き捨てた。

「ああ、散々仲間になれと言われたがな。そんなもの、誰がなるかっ」

 人の力を当てにして擦り寄り、それが出来なくなった途端簡単に切り捨てる。そんな奴等の為に我が身を削って必死に頑張るなど馬鹿のする事だ。

 だからあの時、それが(わか)らなかった自分は、マーカス達にいいように使い捨てられたのだ。

 ルナの言う信頼など表面だけの薄っぺらなのもで、仲間との間に絆なぞ欠片も存在しなかった。

 イートンとのバトルに勝った後、レオンはそのままスラムに住み着いた。両親の墓のあるこの街から、二度と離れるつもりはなかった。

 それを知ると、イートン達に迫害されてきた者達が、こぞって彼の許に集まって来た。中には負けたイートンの配下だった者達もいた。

 だが、レオンはそいつら全てを拒絶し、誰一人寄せ付けようとはしなかった。自分の力を利用しようと擦り寄って来る連中など虫酸が走るだけだ。

 二匹の相棒達さえいれば、後は誰もいらなかった。

 それから、強く珍しいポケモンを相棒に持った一匹狼のトレーナーの噂が広がるのは、そう時間は掛からなかった。それにスナッチ団が目を付けるのも。

 最初スナッチ団は、レオンの相棒達をスナッチしようとやって来たが、それを彼はあっさりと返り討ちにしてしまった。

 それからというもの、ムキになったスナッチ団は度々レオンにバトルを挑んでは破れ、この小僧からポケモンをスナッチするのは不可能だと悟ると、今度は彼を仲間に引き込もうとしたのである。

 それだけの腕があれば、ストリートバトルなんてシケた事をやらなくても、うちの団に入ればもっと楽にがっぽりと大金が稼げると。

 無論、レオンはきっぱりとそれを撥ね付けた。誰かと(つる)むなど二度と御免だった。

 とはいえ、自分の為に体を張ってバトルしてくれる相棒達の為に金は欲しかった。回復薬や十分な餌を与えるにはどうしてもそれは必要になる。

 最初のうちは、レオンを倒して名を上げようとする者が結構いたが、その頃になるとスナッチ団員以外で、そんな挑戦者は時たまにしかやって来なくなっていたのだ。

 もっともストリートバトルで金が稼げなくとも、この街ではそれ以外でも稼ぐ手立てはあった。だが、それはポケモンを持っていないマーカス達のような奴等の仕事だ。二度と彼等と会いたくなかったレオンは、同じ仕事をする気にはなれなかった。

 それにトレーナーなら無料で利用できるポケモンセンターの各施設も、以前の経験(こと)がトラウマとなっていたレオンは、たとえ無料であろうともセンターを利用する事を忌避していた。使えば利用記録が残るからだ。相棒達を取り上げようとした施設になど、レオンは絶対に行きたくなかった。

 いずれにせよこの街周辺でも既にレオンの名は知れ渡り、ストリートバトルで金を稼ぐには、もはやこの街を出て他に移り住むしかない。それをレオンは十分解っていたが、どうしても両親の眠るこの地から離れたくはなかった。

 相棒達以外の全てを拒絶したレオンにとって、それが彼に残された唯一の心の拠り所だったのだ。

 散々迷ったものの、結局レオンはそのスナッチ団員のしつこい誘いに乗る事にした。

 但し、ポケモンのスナッチに手は貸すが、仲間にならない。貰う報酬はスナッチしたポケモンのレア度や強さによって変えるという条件で。

 その時レオンを勧誘したスナッチ団員というのがデジタスであり、団に入らない癖に凄腕との触れ込みでアジトに出入りするガキが気に入らず、どちらの腕が上かと彼にバトルを吹っかけてあっさり負けたのが、その当時スナッチ団一のスナッチャーだったあのミサンゴだった。

「あいつらが俺を団に入れたがったのは、俺に『仲間』という(かせ)を嵌めて逆らえないようにし、()き使おうって(はら)だったんだ」

 ポケモンのスナッチに手を貸すようになってからも、レオンは再三正式に入団するように誘われた。

 レアだろうと、どんなに強かろうと、狙った獲物は絶対に逃さない腕前なら、その気になれば幾らでも稼げるのに、レオンは自分に必要な金以上のスナッチをしようとしなかったからだ。

 折角の稼ぎ頭がこれでは宝の持ち腐れである。

 それならば、レオンを脅してもっとスナッチをやらせればいい。団員の中でそう考えた奴等が、一度それを実行した事があった。

 だが、その結果は無残なものだった。

 レオンは全員を返り討ちにした挙げ句、スナッチ団のボスにその団員全員の商売道具であるポケモン全部の身代金を要求したのである。迷惑料と共に。

 悪名高い窃盗団相手に大した度胸である。

 その小僧とは思えない大胆さを気に入ったボスのヘルゴンザは、レオンに二度と手下に手出しはさせないと約束し、ポケモンの身代金は団員それぞれに要求するように言ったのだ。勿論団員達に拒否権はなかった。

 その時の臨時収入で、レオンは移動用としてあのとんでもない馬力を持つサイドカーを買ったのである。

 そして、ゴンザレスに気に入られた事で、レオンは今まで制限されていたアジトの全ての場所への立ち入りを許され、部外者であるものの、団員と同じ扱いを受けるようになったのだ。

 そこら辺の事情を知らない奴から見れば、喩え正式な団員スタイルをしていなくとも、レオンを自分達と同じ団員だと思っても仕方ないだろう。

「さっきのやつを見れば判るだろ。『仲間』と言っても、所詮自分の引き立て役でしかない。『仲間』なんて結局利用するかされるかの、そのどちらかなんだ」

「…——じゃあ、あたしは?」

 皮肉っぽく話すレオンの言葉を黙って聞いていたルナは、(すが)る様な目を向けて訊いた。

「聖なる森で、レオンはあたしのことを『仲間』だって言ってくれたけど、ずっとそんな風に思っていたの?」

「それは……」

 かつての知り合いに会った事で、つい本音が出てしまった。

 しまったと思ったが、後の祭りである。咄嗟に誤魔化す言葉が出て来ず、レオンは言葉を詰まらせた。

 「仲間」に対する認識を一度否定されたくらいで、長年そう信じてきたものをあっさりと捨ててルナの言葉を受け入れるほど、レオンはおめでたくはなかった。

 あの時そう言ったのは、彼女の言葉を認めたというより、また泣かれると思ったからだ。

 病室で彼女の涙を見た時、理不尽だと思いながらも、理由(わけ)もなく胸が(うず)き遣り切れなかった。何故ルナが泣いたのか、こんな時どうすればいいのか、まるで分からなかったから余計そう感じたのかもしれない。

 そして、何時まで()ってもその事が頭から離れず、他の事を考えて忘れようとしたが、結局また泣かれるのが嫌で言った「仲間なんだから」との自分の言葉に、嬉しそうな笑みを浮かべたルナの顔を見るまで、その胸の疼きは消える事がなかったのだ。

 だからもう、あんな理由(わけ)の分からない気分に悩まされるのは御免だった。

 それなのにルナはまた目を(うる)ませ、今にも泣きそうな表情(かお)をして自分の答えを待っている。

 まあ、漸くただの便利アイテムではなく、仲間と認めて貰えて喜んだのも束の間、そんな風に思われていたと知れば、泣きたくなるのも無理はない。

 しかし、レオンにしてみれば、本音を言ったくらいで泣かれては堪ったものじゃなかった。

 なにしろバトルの勝敗は純粋な強さ以上に、トレーナーの体調や精神状態に左右される事が多い。しかもスナッチは、ただ倒すという以上に神経を使うのである。

 これからベルデという男を見つけて、ダークポケモンのベイリーフをスナッチしなければならないのに、こんな精神状態ではスナッチ出来るものも出来なくなる。

「ねえ、レオン。どうなの?」

「だから……」

 ルナに問い詰められ、レオンは思わず聖なる森で言った建前を口にする。

「——おまえは違うだろ、あいつらと。俺を利用するんじゃなく、助けて協力する、その為の『仲間』なんだと言ってただろ」

「ええっ」

 レオンの言葉に嬉しそうに頷き、ルナは目尻に滲んだ涙を指で拭って微笑(わら)った。

 泣かれずに済んでホッとしたものの、ルナに信頼し切った目を向けられると今度は居た堪れなくなり、レオンはそれから逃れるようにアジトの入り口から中に入った。

 そして脇の崩れた通路の壁を抜け、ポケモン専用パソコンの許に行く。

 脇の扉も電気が通っていたから、これも使えるだろう。

 レオンがパソコンの電源を入れてみると、低い起動音と共に画面が明るくなる。

 早速レオンは自分のⅠD番号を打ち込み、ポケモンの預かりシステムを呼び出す。そして、パソコンの脇に備え付けられてあるモンスターボールの挿入口に、レオンは手持ちのボールを入れ、一旦パソコンの預かりシステムにそれらを預けた後、再びそれらを取り出す事を繰り返した。

「何をしているの?」

「エーフィ達を回復させてる」

「え? でもこれパソコンでしょ。回復マシンでもないのに、そんな事できるの?」

「ああ、預かりシステムの機能を使った裏技だ」

 レオンは操作を続けながら、目を丸めてそれを見ているルナに説明する。

 パソコンの預かりシステムは、ポケモンを預かるだけでなく体調管理までしてくれるのだ。トレーナーが受け取った時すぐに使えるように、預かったポケモンを万全の状態に回復してくれるのである。

 この事をレオンが知ったのは、このアジトに出入りするようになってからだ。何しろ相棒は二匹しかいなかったので、それまでこのポケモン預かりシステムを使った事がなかったのだ。

 これもトレーナー登録さえしていれば無料で利用できる上、パソコンの個人情報は秘匿される。これなら一番金の掛かる回復薬などの購入を抑えられ、稼ぐのは生活する為の金だけでいい。

 それでレオンは必要最低限のスナッチしか請け負わなかったのだ。自分達が生きていく為とはいえ、人のポケモンを奪う事など本当はしたくなかったのだから。

 操作を続けながら、レオンは今一よく理解(わか)ってない顔をするルナの前に、戻って来たボールからポケモンを出した。

 さっきのバトルで力尽きた筈のエーフィが姿を現す。

 フルフルと頭を振ると、エーフィは甘えた声を上げてレオンの足にすり寄った。

 その白いしなやかな肢体には怪我一つなく、すっかり元気になっている。

「へぇ~、ポケモンの預かりシステムって、こんな事もできちゃうんだ」

「ああ、回復マシンが無い時は結構重宝する」

 感嘆の声を上げるルナに応えながら、レオンは最後の一つを取り出して預かりシステムへのアクセスを切ると、今度は道具の方を呼び出し、回復アイテムの補充をしてパソコンの電源を切った。

 




 こんな画像をもらいました。


【挿絵表示】


 これを見て、思わずめっちゃ可愛いやんけ、と思いました。
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