未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―スナッチ団アジト―(8)

 階段を上がり切ったそこは、広い広間になっていた。

 今まで見てきたコンクリートの壁が崩れ、鉄骨の剥き出しになった部屋と違い、壁は綺麗に修復され、スナッチ団のシンボルマークである「盗」の字がでかでかと書かれた旗が貼られてある。

 広間の中央を空けてあちこちにテーブルとソファが散乱し、床には爆発の際に落ちて割れた瓶やグラス、皿などの破片が飛び散ったままになっていた。

 そして、広場の最奥に、ボスのヘルゴンザの指定席である特大の豪華で重厚な造りの机と椅子が置かれてあった。

 今、その椅子にはヘルゴンザの代わりに、一人の男が座っていた。

「貴方は……」

 その男の姿を見て、ルナは思わず声を上げる。

 フルフェイスを被って顔を隠し、見た事のある服を着た男。それが緑色に統一されている事を除けば、シャドーの戦闘員の服装にそっくりである。

「どうやらあのゴロツキは、ちゃんとおまえにオレの事を伝えたらしいな」

 椅子からゆっくりと立ち上がり、ベルデは二人を出迎えた。

「以前フェナスの市長宅で会って以来だな。オレを憶えているか?」

「ああ……」

 確かミラーボと一緒にいた奴だ。青とスナッチしたマグマラシのトレーナーである赤い戦闘服を着た奴と共に。

「そのおまえが、何故ここに居る」

「そうよ。貴方はシャドーの戦闘員でしょ。入り口で会ったあの男もそうだけど、スナッチ団とどういう関係なの? まさか、シャドーとスナッチ団って、同じ組織なの?」

「我がシャドーを、こんな格下の成り上がり組織と一緒にするな」

 不快も(あら)わにベルデが言う。

「今回はたまたまスナッチ団が、その小僧をハメようと画策してるのを小耳にはさんだから、それに便乗したまでだ。俺はロッソのようにやられはしないぜっ」

 そう言い放ち、ベルデがポケモンを繰り出す。

 大型タンカーでも一匹でバラバラに出来る鋭い牙を持ち、白い腹に紺の背中、頭に大きな黄色い星マークを付けた海のギャングと言われるサメハダーと、頭と長い首回りに葉っぱを付けた若葉色の首長恐竜のような体躯をしたベイリーフである。

 どちらも体長は一・五メートル以上あり、前者は水と悪タイプを併せ持ったキバニアの進化形で、後者は草タイプのチコリータが進化した姿だ。そして、こいつがレオン達が追ってきたダークポケモンだった。

 それに対し、レオンはデンリュウとワタッコを出した。

 前者は水タイプに効果抜群の電気タイプ。そして、後者は草と飛行を兼ね備え、さっきパソコンのポケモン預かりシステムから、ダーク・ベイリーフのスナッチ要員として出してきたばかりだ。

 ボールからデンリュウの脇に現れたワタッコは、手と頭の綿毛がブワッと広がり、慌ててレオンの頭の上に跳び乗った。

 デンリュウの体に纏わり付く静電気の所為で、自慢の真ん丸なふわふわの綿毛がぼうぼうに逆立つのを嫌ったらしい。変に広がった綿毛を整えながら、レオンの頭の上に居てもイヤそうな表情(かお)をしてなるべく距離を取ろうとしている。

 ワタッコの態度にショックを受けたデンリュウは、立っていた尻尾の先端にある赤い電気玉が、しょんぼりと床スレスレまで垂れ下がり、淋しそうにユラユラ揺らす。

 この二匹を一緒に出したのはマズかったかと思ったが、もう遅い。バルトは始まっているのだ。

 だったら早く終わせるべく、レオンは決然と指示を飛ばした。

「サメハダーにデンリュウは『雷パンチ』 ワタッコは『メガドレイン』だ」

 ずっとパソコンで休んでいて元気いっぱいのワタッコが、レオンの頭の上でポンポン飛び跳ねながら素早く両手の綿毛を擦り合わせ、サメハダーから体力を奪い取る。

 効果抜群の攻撃を喰らい、サメハダーが苦悶して体を(よじ)らせる。

「くっ、ベイリーフ、『葉っぱカッター』 サメハダー、『地震』だ!」

「なにっ!?」

 レオンは驚いた。

 『地震』は地面タイプ技だ。サメハダーがレベルアップで覚えられる技ではない。多分技マシンを使って覚えさせたのだろう。苦手な電気タイプ対策として。

 とはいえ、これは味方まで巻き添えにする無差別広範囲技だ。いくらベイリーフが地面タイプの技に強い草タイプだからといって、身を守らせようとしないとは。

 あのダキムでさえ、味方には『守る』を指示していたというのに。

 デンリュウが技を出す為に、拳に雷級の電気を溜め込んでいく。

 その隙に、サメハダーは体を思いっ切り床に叩き付けた。

 その衝撃が床を伝わり、敵味方関係なくバトルフィールド内にいるポケモン全員に襲い掛かる。

 飛行タイプを兼ね備えているワタッコには効かないが、足下から突き上げてきた避けようもない一撃に、他の二匹は大きく仰け反った。

 草タイプのベイリーフはまだしも、電気タイプには効果抜群の攻撃に、デンリュウはガクリと膝を付く。

 だが、渾身の力を振り絞り、お返しとばかり雷級の威力を宿した拳をサメハダーに打ち込んだ。

 ワタッコに体力の大半を奪われた処へ、また効果抜群の攻撃を喰らい、サメハダーは苦しげに顔を歪ませ、白い腹を上にして力尽きた。

 一方デンリュウも、サメハダーの「サメ肌」によって更にダメージを受ける。

 そこへ、ベイリーフの『葉っぱカッター』が襲い来る。

 跳び退(すさ)って右に避けるレオンの頭から左に飛び降り、素早い身のこなしでワタッコもそれを躱したが、傷付いて満足に動けないデンリュウは避けようもなかった。

 全身に鋭く尖った葉の刃で切り刻まれ、デンリュウはその場に(くずお)れた。

 そして、レオンとワタッコが躱した鋭利な葉はそのまま宙を舞い、バトルフィールドから飛び出して行く。

 入口近くのソファの後ろでバトルの行方を見守っていたルナ目掛けて。

「きゃあっ」

 悲鳴を上げ、思わずルナはその場にしゃがみ込んだ。

 緑の刃が次々と背後の壁やソファに突き刺さる。

 寸での処で回避したルナに、レオンはホッと安堵した。

 そこに、ベルデの更なる指示が飛ぶ。

「ベイリーフ、『のしかかり』だっ」

「躱せっ、ワタッコ!」

 慌ててレオンが叫ぶ。

 突っ込んで来るベイリーフを、床に降りたワタッコは軽やかに弾んでひょいっと避ける。

 それを見たベルデが、ニヤリと笑った。技が決まらなかったにも関わらず。

 躱されても勢いが付き過ぎたベイリーフは止まれない。いや、止まらない。

 そのままバトルフィールドを突っ切り、倒れたデンリュウをボールに戻していたレオンに前足を振り上げる。

「っ!?」

 避ける間もなくベイリーフに勢いよく全体重で伸し掛かられ、胸を押し潰されたレオンは息が出来ない。

 ワタッコが避けるのは最初から計算済みで、ベルデの本当の狙いはレオンだったのだ。

「レオンっ」

 まだ完治してないのに、あんな重そうなベイリーフの下敷きになったら、また怪我が酷くなってしまう。

 青褪(あおざ)め、ルナはソファの陰から飛び出した。

「来…るなっ」

 喘ぎながら鋭くそれを制し、レオンは胸を押さえながらヨロリと立ち上がる。

「プラスルを出して、そこに居ろ」

「で、でも……」

「こいつは、団のやつらとは違う」

 あいつらの狙いは自分だけだったが、こいつらシャドーはルナも邪魔者として狙っているのだ。

「……分かったわ」

 今すぐレオンの傍に行きたい。でもそれでは足手まといになるだけだと思い直し、ルナはソファの陰に引っ込んでプラスルをボールから出す。

「人には冷淡な一匹狼と聞いていたが、その小娘には随分とお優しい事だな」

 少女を誘き出すのに失敗したベルデは、皮肉げに口の端を歪める。

「やはりダークポケモンをスナッチするのに、その小娘の能力は捨て難いか?」

「………」

 それには答えず、レオンはベルデが次に出してきたポケモンが、エスパータイプのバネブーの進化形であるブーピッグなのを見て、ブラッキーを出す。

 ブーピッグは進化前、尻尾のバネで飛び跳ねていた体が成長して足が生え、耳に挟んでいた真珠玉も色を変え、数も増えて頭と胸で黒光りしている。

「ワタッコはベイリーフに『眠り粉』 ブラッキーはブーピッグに『かみつく』だ」

「ベイリーフ、『葉っぱカッター』で眠り粉を弾き飛ばせ。ブーピッグは悪タイプに『あやしい光』」

 両者の指示に断トツの素早さを誇るワタッコが、漸く戻ったレオンの頭の上で両手を擦り合わせ、技を出そうと大きく長い首を振り被るベイリーフに眠りに(いざな)う粉を飛ばす。

 ブーピッグが頭と胸にある黒真玉から発する光に、ブラッキーはヨロリとよろけながらも果敢にブーピッグに噛み付いていく。

 そしてその直後、ブラッキーは混乱した。

「ワタッコ、ブーピッグにも『眠り粉』だ」

「ブーピッグ、『マジックコート』」

 ——しまった!

 ベルデの指示に、レオンが顔色を変える。

 『マジックコート』は自分が受けた「麻痺」や「眠り」などの状態異常技を、そのままそっくり相手にはね返すエスパータイプ技だ。だが特殊過ぎてエスパータイプでも殆どこの技は覚えないのに、まさかブーピッグがこれを使えるとは。

 技を出すのを止めようにも、もう遅い。

 ワタッコが飛ばした粉が、ブーピッグの紫と濃灰色の体を覆う。

 その瞬間、

 三つの黒真玉から発した(まばゆ)い光が、ブーピッグの体に纏わりついた粉を、飛ばした本人に向かって吹き飛ばす。

「避けろっ、ワタッコっ!」

 ワタッコが慌ててレオンの頭から跳び下りて躱すが、ちょっと掛かっただけでもすぐに眠りに落ちる粉の威力は強力だった。

 その全部を避け切れず、ワタッコは眠ってしまう。

「ブラッキー、ブーピッグに『かみつく』 起きろ、ワタッコっ」

 しかし、ブラッキーは混乱が解けないまま出された指示に、訳が分らず自分自身を攻撃し、ワタッコは余程深く寝入ったのか、目を覚まさない。

 そこでベイリーフが起きてしまう。

「ベイリーフ、悪タイプに『ダークラッシュ』 ブーピッグ、草タイプに『サイコキネシス』だ」

「くっ。ワタッコっ、起きろ、起きてくれっ」

 混乱が解けないブラッキーをボールに戻し、レオンは眠るワタッコに呼び掛けながら、代わりのポケモン——エンテイを繰り出す。

 ボールから出た途端『ダークラッシュ』を喰らいながらも、エンテイは傲然とバトルフィールドに立つ。

 一方黒真玉によって増幅されたブーピッグのサイコパワーが、眠るワタッコに浴びせられる。

 避ける事も出来ずワタッコは、不可視の力に弾かれた。

 背後にいるレオンにぶち当たる。

 表情(かお)を歪めながらも、レオンはそれを受け止めた。

「ワタッコ、起きろ。エンテイ、ブーピッグに『ダークラッシュ』だ」

「ベイリーフ、草タイプに『ダークラッシュ』 ブーピッグはエンテイに『あやしい光』だ」

 ブーピッグの頭と胸の黒真玉が怪しく輝く寸前、一足跳びにエンテイが襲い掛かる。

 スピードに全体重を乗せた強烈な一撃を急所にモロに受け、ブーピッグはフラフラになる。とても技を出すどころではない。

「くぅっ、流石ダキム様のお気に入りだったダークポケモンだ」

 同じ『ダークラッシュ』でもベイリーフとは威力が違い過ぎる。

 一方ベイリーフは真っ直ぐに突っ込んで来た。

 ワタッコを抱えたレオンに向かって。

 またワタッコごとレオンに攻撃を加える気だ。

 パチリとワタッコが目を覚ます。

「ワタッコ、ベイリーフに『眠り粉』だっ」

 ピョンと自分の腕から飛び上がったワタッコに、すかさずレオンが叫ぶ。

 両手の綿毛を擦り合わせ、ワタッコが眠りの粉を撒き散らす。

 頭からそこに突っ込んだベイリーフは、勢いに押されてつんのめる様にその場で眠りこけた。

「ワタッコ、ブーピッグに『メガドレイン』 エンテイはベイリーフに『ダークラッシュ』だ」

 間髪を容れず、更にレオンが指示を出す。

 それを受け、瞬時に二匹は動いた。

 フラフラだったブービックは残った体力を全てワタッコに奪い尽くされてひっくり返り、攻撃を受けたベイリーフは眠りながらガクリと膝を付く。

 ベルデが指示を出す暇さえ与えない、一瞬の出来事だ。

 同時に、レオンは手にしたボールをスナッチ可能なそれに造り変えて投げ付ける。

 ベイリーフを取り込んだスナッチボールは、床の上で激しく揺れ動く。

 だが、今回は最初からモンスターボールの中でも、ゲットの確率が高いハイパーボールを使っていた。そうそう簡単には出て来られない。

 激しく左右に揺れていたボールは、やがて諦めたようにゆっくりと止まった。

「オレのダーク・ベイリーフがやられるとはっ!?」

 次のポケモンを出す暇すら与えられずにスナッチされ、ベルデは愕然となった。

 こんな事は想定外である。

 とはいえ、まだバトルは終わっていない。

 動揺しながらも、ベルデは最後のポケモンを繰り出した。

 途端に悪臭が周囲に漂い出す。

 出てきたのは体長一メートル強の、毒々しい紫色のドロドロブヨブヨした体を持つ毒タイプのベトベターだった。

 ソファの陰からバトルを窺い見ていたルナとプラスルは、思わず両手で鼻を覆う。

「ワタッコ、『眠り粉』」

 動きの遅いベトベターを素早く眠らせ、レオンはエンテイをボールに戻して相棒の片割れを出した。

「エーフィ、『サイコキネシス』」

 もう時間を掛ける必要もない。速攻で叩き潰す。

 その意を受け、エーフィは「曲がったスプーン」で増幅された自分のサイコパワーを額の紅玉に集束し、一気に眠るベトベターに放出する。

 収斂された効果抜群の強力なサイコパワーを浴び、ベトベターはなす(すべ)もなくヘドロの体を床にぶちまけるように潰れて力尽きた。

「くぅっ、これじゃ、もうロッソをバカにできないぜ」

 聞いていた話とはまるで別ものの強さだ。

 ベトベターを戻したボールを握り締め、ベルデは悔しげにスナッチしたベイリーフのボールを拾う少年を睨み付ける。

「そのスナッチマシンを使いこなしているようだが、オレのダーク・ベイリーフをスナッチしたくらいでいい気になるな。世の中には、まだまだダークトレーナーはいるんだぜっ」

 捨て科白(ぜりふ)を残し、ベルデは散乱するテーブルをすり抜けて逃げて行く。

「待てっ!」

 レオンがその後を追おうとするが、バッとソファの陰から飛び出したルナが、その前に立ち塞がった。

「レオンっ、怪我は?」

「ああ、大丈夫だ」

「ウソっ」

 平気そうにするレオンの言葉を一蹴し、ルナは詰め寄った。

「ベイリーフにあんな勢いで伸し掛かられたのよ。大丈夫なワケないじゃないっ」

「本当に大丈夫だ」

「じゃあ、見せて」

 怪我をしたらちゃんと言うと約束したのに、どうして誤魔化すの?

 あくまで大丈夫だと言い張るレオンに、言いようもない怒りがこみ上げる。

 あのデジタスというスナッチ団員みたいに、まだレオンに気を許して貰ってないと思えてしまうから、余計ルナは悔しくてついムキになった。

 返事も待たず、ルナはレオンのコートに手を掛けてバッと前を開くと、下に着ている黒いハイネックセーターの裾を掴む。

「お、おいっ」

 強引なルナに呆気に取られていたレオンは、セーターまで脱がされそうになって慌てて彼女の手を払う。

 それが、更にルナの怒りに火を()けた。

「ダメっ、ちゃんと見せてよっ」

「ちょ、ちょっと待て」

 なおもセーターの裾をたくし上げるルナを焦って止めるが、聞きもしない。

 セーターを引っ掴み、ルナは無理矢理脱がそうとする。

 レオンも脱がされまいと抵抗する。

 自然ともみ合いになった二人は、ちょっとした拍子にバランスを崩し、ハッと気づいた時には遅かった。

「うわっ」

「きゃあっ」

 悲鳴を上げて、そのまま折り重なって勢いよく床に倒れ込む。

「つうっ……」

 ルナの下敷きになったレオンは、受け身も取れずに背中と後頭部をしたたか床に打ち付けて呻き声を上げた。

 バトルで床に散らばっていたガラスの欠片などがすっかり吹き飛ばされていなかったら、今頃打ち付けた後頭部など血だらけだったろう。

「だ、大丈夫?」

「ああ……」

 心配そうに顔を覗き込むルナに応え、レオンはハーっと観念したように息を吐いて全身の力を抜いた。馬鹿馬鹿しくなったのだ。こんな事で揉めるなんて。

 それにもう、急いだ処でベルデには追い付けない。

「だけど、おまえ大胆だな」

「え?」

 ぼそっと漏らしたレオンの言葉に一瞬きょとんとなったルナは、その意味に気付いた途端真っ赤になった。

 レオンの上に馬乗りのようになってセーターの裾を掴んでいるルナは、人が見れば、まさに少女が少年を襲っている処にしか見えないだろう。実際嫌がるレオンの服を無理矢理脱がせようとしていたのだから、あながち間違ってはいない。

「や、やややだっ、あた、あたし、別にそんなつもりは……」

 バッとルナはレオンの体から飛び降り、体ごと顔を背け、耳たぶまで真っ赤にしながらしどろもどろに言い訳する。

「た、ただ、け、怪我が心配で、そ、それで、その、具合を——」

「ああ。ほら、見ろよ」

 レオンは上半身を起こし、片手で黒いセーターの裾をたくし上げた。

「だ、だだからっ、あ、あたしは貴方の裸が見たいワケじゃ……」

 と言いつつも、チラリとレオンの体を見たルナは、思わず目を丸めた。

 胴体にプロテクターのような物が付いていたのだ。

「レオン、これ——」

「医療用ボディーアーマーだ」

 まだ無理がきかないのだからと、退院させる代わりにこれを女医に付けさせられたのだ。動くのに邪魔にならない特別仕立てのこれを。

 実際付けてみて結構これは具合が良かった。衣服の上からは着けているが判らないくらい薄いが、四層構造で肌に直接触れる一番内側はズレを防いで体にぴったりとフィットすると共に、蒸れないような素材を使った繊維で造られ、二層目と一番外側の四層目は軽くて丈夫な特別仕様のカーボン製になっている。そして、その間に詰まっている三層目の特殊な緩衝材が、ぶつかった時の衝撃を和らげ、怪我へのダメージを防いでくれていた。

「ベイリーフに伸し掛かられ時、流石に一瞬息が詰まったけどな」

「そ……、そうなんだ……」

 ホッとして気の抜けたルナは、ちょっと恨めしそうにレオンを見た。

「でも、それなら最初からそう言ってくれればいいのに」

 知っていれば、服を脱がそうなんてしなかったのだ。

「別におまえは訊かなかったし、わざわざ言う程の事でもないだろ」

 ルナの恨み言をさらりと受け流し、レオンはたくし上げたセーターを直して立ち上がる。

 そして、倒れた時落としたベイリーフのボールを探して辺りを見渡し、眉を(ひそ)めた。

「どうしたの?」

「ベイリーフのボールがない」

 パソコンに転送する前にルナに詰め寄られ、そのままもみ合ったりしたので落としたのだ。何処に転がって行ったのか、辺りにそれらしき物は見当たらない。

「大変っ、探さなきゃ」

 慌ててルナも探し出した。

 一つ一つ散乱したテーブルやソファの下を覗き込んでいく。

 ルナはその一つの下にぽつんと、真新しいハイパーボールが転がっているのを見つけた。

「あったわ、レオン」

 手を伸ばしてそれを取り、ボスの机付近を探していたレオンに見せる。

「ほら、これでしょ」

「ああ、そうだ」

 探すのを止めてボールを受け取ったレオンのもう一方の手に、何か薄いディスクケースのような物があった。

「それは?」

「ヘルゴンザの椅子の下に落ちてたんだ」

 開けてみると、レーベルの所に「F」と書かれてある以外、何の表記もされていないディスクが一枚入っていた。

「何なの、それ?」

「判らない」

 レオンは(かぶり)を振る。

 多分さっきの奴が落としていったんだと思うが、これが何なのか見当もつかない。

 取り敢えずそれをロングコートのポケットにしまった時、中から軽やかな電子音が鳴り響いた。

 誰かからメールが届いたのだ。

 P★DAを取り出して画面をメールのそれに切り換えると、メールはパイラの署長からだった。

『レオン君、ヘッジだ。先程ミラーボの手下とみられる二人組を捕まえた。何か情報を聞き出せるかもしれない。警察署の牢屋に捕まえてあるので、すぐにパイラタウンに来てくれたまえ』

 メールにはそう書かれてあった。

「ミラーボの手下が?」

 逃げた筈の奴等が、今頃何の用があってまたパイラなんかに……

「行ってみましょ」

「ああ」

 ここで考えていてもラチがあかない。

 二人はパイラに行くべく、アジトの外へと飛び出した。

 

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