パイラタウンに着くと、二人はすぐに警察署に向かった。
「おおっ、よく来てくれた」
署内に入って来た二人を、署長のヘッジが暖かく出迎える。
「体の方はもういいのかね。レオン君」
「ああ」
「それで、メールにあったミラーボの手下は?」
「うむ、それなんだが、捕まえたあいつらときたら、全く何も喋らないんだ」
少女に問われヘッジは難しい顔になった。
「きっと組織からの報復を恐れているのだろうな」
「その組織の事だけど、『シャドー』って名前らしいんです」
ルナが新しく得た情報を口にする。
「何処でそれを?」
「実はあたし達、そいつらの一人を追ってエクロ峡谷まで行ってたんです」
ルナは昨日泊まったフェナスで、市長のバックレーに話したスナッチ団アジトでの事をヘッジにも話して聞かせた。レオンとスナッチ団員との関係は伏せて。
「成程、やつらはゴロツキだけでなく、あのスナッチ団にもダークポケモンを渡していたのか」
話を聞き終えて呟いたヘッジは、早速本部に連絡しようと机に向かい、自分のパソコンを操作しながら二人に訊いた。
「そうだ、捕まえたやつらに会ってみるかね?」
「えっ、いいんですか?」
「ああ。キミ達なら、もしかしたら何か話すかもしれないからな」
そう言うと、ヘッジは部下の若い警官を呼んで二人を案内させる。
「えへへへっ、ヘッジ署長と一緒に捕まえたんだ。よくミラーボと一緒にいた側近らしいやつを二人も。あのオンボロビルに戻った処を、すかさず御用ってわけさ」
ユイトは得意気に話しながら、レオン達を牢屋に連れて行く。
「あっ、貴方達まだいたの?」
「お、おまえら。まだここいらウロチョロしてんのかよ」
呆れ返った顔見知りの少女に、牢の中のゴロツキは嫌そうに顔を
「悪かったわね。でも今日は貴方達に会いに来たわけじゃないわ」
ムッとして言い返したルナは、そのままレオンと前を通り過ぎ、若い警官に付いて一番奥の牢に向かう。
その鉄格子の向こうにはゴロツキ風の女が二人いた。
一人は赤毛で頭にサングラスを掛け、半袖の黄緑色のシャツの上に黒チョッキを着た女で、もう一人は紫の髪にエンジのシャツに白い毛皮のボレロを羽織っていた。
確か廃ビルの最上階でレオンにダークポケモンをスナッチされた、ブレスとスーラとかいう名の二人組だ。
「あっ、あんた達はっ。きゃ~っ、あっち行ってーっ!」
二人を見るなり紫の髪の女——スーラは悲鳴を上げ、追っ払うように手を振る。
随分と失礼な奴である。
「貴女達、ミラーボと一緒にこの町を出て行った筈でしょ。なんでまた戻って来たの?」
「そんなの、あたしらの自由だろ」
少女の問いにスーラはぶっきらぼうに応え、鼻を鳴らす。
「それとも何かい、この町には一度出て行った
「そうそう、『法』なんて難しい事分かんないお子ちゃまは、引っ込んでなよ」
ニヤニヤと笑ってブレスが相棒に相槌を打つ。
「何ですってぇっ」
軽くあしらわれた挙げ句、馬鹿にされてルナはいきり立った。
「貴女達ねぇ——」
「よせ」
言い返そうとするルナを、レオンが止める。
この女達は暇潰しにこっちをからかって遊んでいるのだ。流石にミラーボの側近だけあって、さっきのゴロツキ達と訳が違う。まともに相手をしていたら馬鹿を見るだけだ。
「何が『よせ』だよ。ったく、何時見てもスカしたガキだね」
嫌味たっぷりにスーラが吐き捨てる。
「誰の所為で、あたしらがこんな目に遭ってると思ってんだい」
「日頃の行いが悪い所為でしょ」
「なんだってぇっ」
さっきのお返しとばかり、やり返してきた少女を牢の女達は額に青筋を立てて睨み付ける。
そんな三人のやり取りを横目に、レオンは若い警官に訊いた。
「さっき、あの廃ビルでこいつらを捕まえたと言ったが、あのビルは元々何に使われていたんだ?」
「え、え~と……」
ユイトは思わず考え込んだ。
自分が赴任して来た時、あのビルは既にあの状態だったのである。何のビルか訊かれても判るわけがない。
「ちょっと署長に訊いて来るよ」
と、そそくさと牢屋から出て行く。
それを見送り、レオンは牢の女二人に振り返ってボソリと言った。
「お前達の目的は、アンダーか?」
「なっ、なんでそれを——」
「ばかっ」
思わず口を滑らせたブレスを慌ててスーラが止めたが、かえってそれはレオンの言葉を肯定したようなものである。
スナッチ団アジトにいたシャドーの戦闘員のベルデは、団員の計画を小耳にはさんでそれに便乗したと言っていた。そして、団の連中はその計画の為に、アンダーでゴロツキどもに求人のビラを撒いていた。あの男が耳にしたとしたら、おそらくそこだろう。
そう考え、二人が口を割りやすいように警官を遠ざけてからカマを掛けたのだが、当たりだったようだ。
「アンダーって、このパイラの地下にあるっていうあの?」
「ああ、そうだよっ」
もう誤魔化しても無駄と開き直り、やけくそ気味にスーラが吐き捨てる。
「フェナスでミラーボ様には置いていかれちゃうし、仕方ないからアンダーに逃げ込もうと、こっそり戻った処を捕まっちゃったんだよ」
「ホント、捕まった挙げ句、エレベーターキーもビルのどっかに落としちゃうし、それもこれも、み~んな、あんた達の所為だよっ」
と、ブレスも二人に八つ当たる。
それに構わず、レオンはルナを連れてそこを出た。
「あっ、あのビルが何に使われてたのか判ったよ」
牢屋から出て来た二人に、ユイトは署長から聞いた事を伝える。
「あそこは昔、この町の地下にあるアンダーって町に、物資などを
「やっぱり」
確信を得て、ルナがさっきの二人の話をする。
「あの二人、そこからアンダーに逃げるつもりだったのよ。地上じゃ、逃げ場がないから」
「な~るほど」
ポンっと手を叩いたユイトがくるりと身を返し、本部とのやり取りに忙しい署長に声を掛ける。
「署長、今の聞きました? あいつら、アンダーに逃げようとあそこにいたんですよ」
「ああ、よく聞き出してくれたな。感謝するよ、キミ達」
「いいえ、でもあの人達と一緒にフェナスに逃げた、ミラーボの行方は分からないままだし……」
「それに付いては、引き続きこちらで調査するよ。何か情報を仕入れたら、またすぐに連絡を入れるからな」
「ええ、お願いします」
そう言って、ルナはレオンと共に警察署を後にした。
「これからどうするの? アンダーに行ってみる?」
黙然と町の奥に向かって通りを歩くレオンに、ルナが訊く。
「いや、ギンザルの事務所に行く」
「ギンザルさんの?」
意外な答えにルナは目を瞬かせた。
「ああ、この間シルバは、アンダーに探りを入れると言っていた。あいつに会ってアンダーの情報を聞く」
アンダーに行くとしたら、その後だ。
——と、
レオンのコートのポケットから、メールの着信音が鳴り響いた。
P★DAを取り出し、画面をメールのそれに切り換える。メールの発信者はレンだった。また何かあったらしく、早々にパイラに来て欲しいと書かれてある。
丁度ギンザルの事務所に行く途中だった二人は、そのままそこの地下にある子供達の秘密基地に急いだ。
「お兄ちゃん達っ、もう来てくれたんだっ」
ホッとすると、レンは感激してレオンに飛びついた。
「何があった?」
「それが、スレッドからのアクセスが突然切れちゃったんだ」
パソコンの前に戻りながら、レンは説明した。
レオンがスナッチ団の求人広告が何時ばら撒かれたのか気にしていたので、二人が出掛けた後、スレッドに連絡して調べてくれるように頼んだのだ。
それからずっと彼からの連絡を待ち、今し方漸くその返事が来たと思ったら、何だが調子が悪く途中でブッツリと切れてしまい、そのままアクセス出来なくなってしまったのである。
「ほら、これがその直前までの通信内容だよ」
と、パソコンの画面をレオン達に向け、再生してみせた。
『レン君、この間の事を……うちに、大変な…判った……』
乱れた映像の向こうで、ぼんやりと見える人影が途切れ途切れに何かを訴えている。
『今このま…を支配……るのは……シャドーってい……そし——』
と、そこで通信は切れていた。
「レオン、これって、まさか……」
「ああ……」
目を
途切れ途切れで聞き取りにくいが、その内容は大体想像がついた。そして、それが合っているとしたら、今のアンダーの支配者はシャドーと無関係ではないという事だ。
スナッチ団の事といい、あのミラーボの手下といい、アンダーに関わりがあるから何かあると思っていたが——
「こんな風にアクセスできなくなるなんて事は、今まで一度も無かったんだ」
不安そうにレンがレオンを見る。
「だから、お兄ちゃん。アンダーに行って、スレッドの様子を見て来て欲しいんだ。もしかして、ボクが頼んだ事の所為で、スレッドに何かあったんじゃないかと思うと、ボクどうしたらいいか……」
「判った。そいつの様子を見て来るだけならな」
「いいの?」
「ああ…」
あまり気は進まないが、そういう事情では流石に俺には関係ないとは言えない。
それにアンダーがシャドーと何か関わりがあると判った以上、行かない訳にはいかなかった。ついでにその少年に会えれば、彼の掴んだ情報を詳しく知る事も出来る。
「ところでシルバは? あいつは今何処にいる?」
「えっと…、ここ暫く会ってないけど……」
ちょっと考え込んでレンが答えると、傍にいたレイラが思い出したように口を挟んだ。
「そう言えばこの間事務所に来て、リュックにロープやライトに軍手。それに干し肉や缶詰とか、色んなモノ詰め込んでたみたい」
「そうか……」
そんな重装備で出掛けたとなると、当分戻る気はないという事だろう。これで事前にアンダーの情報を得るのは不可能になった。
「ねえ、お兄ちゃん。このことヘッジ署長にも話した方がいいかな?」
「いや、まだはっきりした事は判ってないんだ。言った処で相手にしてもらえないだろう。まずはアンダーがどんな状況なのか探ってからだ」
「うん、判ったよ。お兄ちゃん達、気を付けてね」
「ああ」
元気に応える少年に軽く頷き、レオンは地下室の階段を駆け上がった。
そのままギンザルの事務所を後にし、ルナと共に廃ビルへと向かう。
地面の裂け目脇に立つ廃ビルの入り口にあるシャッターは、あの時と同じに閉ざされていたが鍵は掛かっておらず、簡単に開いた。
中は相変わらずの荒れ放題だったが、ミラーボがいなくなった事で中に居たゴロツキ達は何処かに行ってしまい、以前にも増して閑散としていた。
二人は中に入ると、一階の奥にある昔アンダーに物資を降ろすのに使っていたエレベーターの所に行く。
あの女達はここでヘッジ達に捕まり、その時このエレベーターのキーを落としたと言っていた。
二人は手分けしてエレベーターを中心に、付近に何か落ちていないか探していった。
「あっ、これ、そうじゃない?」
エレベーター前にある壊れた二台の自動販売機の間の隙間を覗き込み、ルナが声を上げる。
その奥に落ちていた、使い込まれて黒光りしている古びた鍵を引っ張り出す。
他にそれらしき物は見当たらず、エレベーターの操作パネルの鍵の差し込み口の形状からみても、それが探していたエレベーターキーに違いなかった。
レオンは一階の受付けカウンター内にあるパソコンを使い、アンダーに降りる準備をしてからその鍵を受け取り、エレベーターに乗り込んだ。
エレベーターといっても物資を降ろすのに使われていたそれは、回りに腰の高さ程度の柵があるだけのリフトのような代物だった。
鍵を操作パネルに差し込み、エレベーターを起動させて降下ボタンを押す。
ガクンっとひと揺れすると、エレベーターは低い唸り声を上げて下へと降りて行く。
頭上の穴から射し込む光が遠ざかるにつれ、真っ暗な奈落の底に落ちて行くような錯覚を覚え、思わずルナはレオンの腕にしがみついた。
何処まで降りて行くのか、岩盤を四角く真っ直ぐ下に削った穴を、軋むような音を立ててエレベーターは止まることなく降りて行き、やがて足許に光が差し込んだ。
それ程明るいわけではなかったが、暗闇に慣れた瞳には一瞬眩しく感じられ、視界一杯に広がった光を避けるように二人は額に手を
そして、もう一度ガクっと短く揺れると、竪穴に反響して耳に
アンダーに着いたのである。
油断なく周りを窺いながらエレベーターを降りた二人は、目の前に広がる光景に目を
今度は何とかアンダーに辿り着けました。辿り着いただけですが。