未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―フェナスシティ―(6)

 扉を開けた勢いのまま中に乗り込み、大声を張り上げる。

「すいませんっ、市長さん居ますかっ!?」

 殆ど押し込み強盗のノリである。この後「金を出せっ」と言っても違和感がない程に。

 突然勢いよく開け放された扉の音に、奥にあるデスクで書類に目を通していた髭もじゃの恰幅のいい男が、驚いたように扉の方を見た。

 レオンはその男の顔を見て訝しげな表情(かお)になったが、他に誰も居ないところを見ると、彼がここの家主の市長なのだろう。

「あの、市長さんですか?」

 ルナが伺う様に声を掛ける。

 恰幅のいい髭もじゃの男は、入って来たのが強盗ではなく、十代の少年少女だと判ると、ほっとしたような表情になった。

 よっこらしょと椅子から丸々と太った体を降ろし、にこやかに二人を出迎える。

「これはこれは、旅のお方ですかな? ようこそフェナスシティへ! 私が市長のバックレーです」

 そう言いながら、二人を更に家の奥に招き入れる。

「私に何か用でもおありですかな?」

「あ、あの……」

 市長は鷹揚に優しく尋ねてくれたが、ただ勢いに任せて乗り込んだルナは、どう言って話を切り出そうかと思案して口籠った。

 チラリと腕を掴むレオンを見るが、有無言わさずに連れ込まれた彼は、髭もじゃの市長の顔を見たまま自分の方など見向きもしない。

 何の頼りにもなりそうもない連れから、再び市長に視線を戻したルナはゴクリと唾を飲み込んだ。

「そのぉ——」

「何ですかな? 可愛いお嬢さん」

 バックレーはじっと自分を見る少年が気になったものの、少女に話しかけられると両手を広げ、満面に笑みを湛えて尋ねる。

 その笑顔に勇気づけられ、ルナは意を決して口を開いた。

「あ、あの、あたし見たんです!」

「見た? 何をですかな?」

「変なポケモン…っていうか、……黒いオーラを(まと)った、人形みたいに感情が無くて……えっと、機械みたいな……」

 どう言ったら自分が見たアレが伝わるだろうか、あれこれ言葉を探しながら言い募ったルナは、漸くピッタリな言葉を思い付いて口にした。

「そう、まるで戦闘マシンのようなポケモンを見たんですっ!」

「なんだってっ?」

 今まで自分は無関係だと言わんばかりの態度でいたレオンが驚きの声を上げ、ルナに詰め寄った。

「本当か、それはっ」

「え、ええ。本当よ」

 レオンのこの反応に、ルナは目を瞬いて頷いた。

「何処で見たんだ?」

「えぇと、ここと違って町全体が薄汚れてて、なんか(さび)れてるっていうか、(すさ)んだ感じの町よ」

「ふぅむ。それは隣町のパイラタウンかも知れませんな」

「あそこってパイラタウンっていうんだ」

 ルナは昨日自分が迷い込んだ場所がやっと判り、何となくすっきりとした気分になった。

 一方レオンはまたも上がった名に、表情を険しくさせる。

「そのパイラタウンであたし、戦闘マシンみたいなポケモンが、人を襲うのを見たのよ」

「な、なんとっ! そのポケモンは人を襲うというのですかっ!?」

 仰天し、バックレーは少女を見やった。

 だが、すぐに気を落ち着けると、髭もじゃの顎に手を添えて難しい顔になる。

「確かに、もしそれが本当なら大変な事ですが、しかし、そう言われても、すぐには信じ難いですな」

 初めて聞く事だけに、この少女の証言だけでは鵜呑みにはできない。

「本当です! 本当なんです、市長さんっ!」

 ルナは必死になって訴えた。

「そのポケモンを見た所為で、あたし、さっきまで恐い人達に捕まっていたんですっ! ねえ、レオン」

「あ、ああ……」

 同意を求められたレオンは思わず頷く。

「う~む、判りました」

 真摯に訴える少女の熱意に押され、バックレーは大きく息をついた。

「いいでしょう。わたしも調査をしてみましょう」

「本当ですか!? 市長さん、ありがとうっ!」

 パッと顔を綻ばせ、ルナは嬉しそうに弾んだ声で礼を言う。

「いやいや、礼には及びません。こんな可愛いお嬢さんを酷い目に合わせるなんぞ、許しておけませんからな」

 感動する少女を宥め、バックレーは微苦笑して言葉を継いだ。

「ただまぁ、暫く時間をください。事が事だけに慎重に調査しないといけませんからな。でもその分、きっと役に立つ情報を掴んで見せましょう」

 と、胸を叩いて請け合い、ふと思い付いたように更に言葉を続ける。

「そうそう、見れば貴方達はポケモントレーナーのようですな。だったら是非、我が街自慢のスタジアムを見ておいきなさい。水の都に相応しいそれはそれは綺麗なスタジアムですぞ」

「どうする? レオン、行ってみる?」

 あのポケモンの事を市長に相談できて気が楽になったルナは、綺麗と聞いてちょっと興味をそそられた。

「いや、俺は——」

 今は観光する気分じゃない。というか、市長に保護を求めれば、もう一緒に行動する必要はないだろうに、何故この少女はそんなことを一々自分に訊くのか。

 ——まさかこいつ、まだ俺に付きまとうつもりか?

 こっちにはやる事があるのだ。これ以上付き合っていられないというのに。

 思わずレオンが眉根を寄せると、部屋の端に置かれたテレビから、臨時ニュースを知らせる軽やかな音が鳴り響いた。

『ニュースを繰り返します。爆発のあったエクロ峡谷に潜んでいたスナッチ団員の一人が逮捕されました』

 どうやら、かなり前から同じニュースが報じられていたらしい。しかも、前に見たスナッチ団のニュースの続報らしかった。

『このスナッチ団員の取り調べにより、アジト爆発の原因はスナッチ団員同士の仲間割れであった事が判明しました』

 ニュースキャスターの若い女性は、淡々とレポートを読み上げる。

『この爆発のため、スナッチ団の使うスナッチマシンも破壊された模様ですが、それは大型のマシンであったとの事。持ち運びのできる小型のスナッチマシンは、アジトを破壊したとみられる団員によって持ち去られたという事です』

「へぇ、あれって、仲間割れが原因だったの」

 ルナも前の報道を見ていたらしい。

「ほう、お嬢さんはスナッチ団に興味がおありですかな?」

 軽く目を見開き、バックレーは訊いてきた。

「興味あるっていうか、人が一生懸命育てたポケモンを奪っちゃうなんて、やっぱり許せないじゃないですか」

「確かにそうですな」

 少女の言葉にバックレーが大きく頷く。

「まあ、それはともかく、我が街自慢のスタジアムを見ておきなさい。その間に謎のポケモンについて調べておきましょう」

「はい、お願いしますっ」

 元気よく頭を下げると、ルナは押し黙ってテレビに目を向けている少年を引っ張って外に出た。

 

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