未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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― ア ン ダー ―(7)

 足場に続く階段を上がり、何気無さを装って近づいて行くと、手前の長い赤毛のシャドーの女戦闘員が二人を見咎(みとが)めた。

「なんだい、おまえ達。見物に来たのならジャマだよ。さあ、帰った、帰った」

 鬱陶しいげにしっしと手を振って二人を追い払う。

 が、もう一人の黒髪の女戦闘員がそれを制した。

「ちょっと待ちな。この二人、この町の住人じゃないよ」

「なんだってっ!?」

 驚いて赤毛の女戦闘員は二人をまじまじと見返した。

「そうか、仲間を取り戻しに来たんだね。そうはいかないよ!」

 と、問答無用でバトルを仕掛けて来る。

 出して来たのは六本の手足に、二本の黒い触角を持った赤い体のレディバの進化形であるレディアンと、二本の赤い牙と六本の黒と黄色の縞模様の足に、黄緑色の背中には人の顔の様な模様を持つイトマルだった。

 どちらも虫タイプだが、体長一・四メートルの前者はその他に飛行タイプを、体長が五十センチと小さい後者は毒タイプを兼ね備えている。

 別に仲間でも、取り戻しに来たわけでもなく、単にパイラに戻るのに邪魔なこの女達を退けに来たに過ぎないレオンは、勘違いして向こうから仕掛けてくれて丁度良かった。

 すぐさまボールを取り出して相棒達を呼び出す。

 頭に二つの角を持ち、背中が紺で腹が白の翼を広げたような大きな胸ヒレを持つマンタインと、水色の体にふんわりとした綿毛のような白い翼を持つチルタリスである。

 どちらも虫タイプに強い飛行タイプであると同時に、前者はドラゴン、後者は水タイプを併せ持っている。

 マンタインは悠然と翼の様な大きな胸ヒレを広げて構え、チルタリスは後ろを見やってレオンを確認すると、嬉しげに一声鳴いてキッと相手を見据え、臨戦態勢を整える。

「レディアン『スピードスター』 イトマルは鳥型に『糸を吐く』」

「チルタリス、レディアンに『空を飛ぶ』 同じくマンタインは『バブル光線』」

 両者から同時に指示が飛ぶ。

 レディアンがくるりと中空で一回転し、自分の周りに造り出した星型の礫を勢いよく放つが、チルタリスは素早く地下空洞の天井近くまで舞い上がってそれを避け、マンタインは泡を吐き出して迎え撃つ。

 そして、イトマルの吐いた糸は、既に巻き付く相手がいないまま虚しく地面に落ちる。

「くっ、魚型にレディアンは『連続パンチ』 イトマルは『ナイトヘッド』」

「マンタイン、パンチを躱してイトマルに『翼で打つ』」

 拳を構え、マンタインに接近するレディアンに、薄暗闇を裂いて急降下してきたチルタリスが苛烈極まりない攻撃をみまう。

 その脇をすり抜けるようにしてマンタインが、技を出そうと後ろ足を上げで構えるイトマルに激しく翼の様に広がる大きなヒレを左右から叩き付けた。

 共に効果抜群の痛烈な一撃を受けたイトマルとレディアンは、それに堪え切る事はできなかった。

「よくも、やってくれたねっ」

 憎々しげに吐き捨て、赤毛の女は次のポケモンを出す。

 体長が七十センチ程の頭にくるりと巻かれた黄色に黒の線の入った触角があり、背中が黒く薄紫の胴に黄色い線の入ったバルビートである。

 背中に薄紫の羽根があり、尻に夜になると光る丸い発光体が付いている。これも前の二匹と同じ虫タイプだった。

「バルビートっ、魚型に『思念の頭突き』っ!」

「チルタリスは『龍の息吹』 マンタインは『翼で打つ』」

 ヤケクソ気味の女戦闘員に対し、レオンは淡々と指示を出す。

 マンタインに突撃するバルビートに、すかさず頬を膨らませたチルタリスがドラゴンの息吹を浴びせる。

 それに押されて動きが止まったバルビートは、そのまま麻痺して動けなくなる。

 そこへ、マンタインが効果抜群の攻撃を加える。

 バルビートも仲間同様、相手に一撃も与えられずに力尽き、尻の発光体を点滅させながらコロリとひっくり返った。

「なによォっ、こっちのスパイは強いじゃないのーっ!」

「やったわっ」

 レオンの圧勝にルナは小躍りした。

「喜ぶのはまだ早いよっ。次はあたしが相手だよっ!」

 頭を抱えて喚く仲間を押し退け、今度は黒髪の女戦闘員がバトルを仕掛けてくる。

 彼女が出したポケモンは体長六十センチ程の黄色い触角にちょっと太めの体の、愛らしい顔をした虫タイプのイルミーゼと、頭に緑の葉っぱを付けた毒と草タイプを併せ持ったナゾノクサの進化形であるクサイハナだ。

 後者の方は進化した事で体長が一メートル弱程に大きくなり、赤く染まった頭の葉の中央には赤いつぼみが一つできていた。

 相手のポケモンを見て、レオンは先程と同じチルタリスと黒曜石のような黒光りする美しい背に、首の周りを取り巻くように火炎を噴き上げる、炎タイプのヒノアラシの最終進化形のバクフーンを出した。

 生真面目に身構えるチルタリスの横で、バクフーンは進化して精悍な面構えになっても相変わらず自信なさげに何処となく及び腰で立っている。

「イルミーゼ、『甘い香り』 クサイハナ、飛行タイプに『眠り粉』だよ」

「チルタリス、躱してイルミーゼに『空を飛ぶ』 バクフーン、クサイハナに『火炎車』」

 それぞれのトレーナーが指示を出す。

 イルミーゼが愛想を振り撒く様に腰を振って甘い香りを撒き散らす。

 翼を羽ばたかせてそれを吹き飛ばしながら、チルタリスが宙高く舞い上がる。

 それはクサイハナの眠りを誘う粉をも吹き飛ばした。

 甘い香りを吸わずに済んだバクフーンは、レオンの指示を聞くと同時にシャキッとなって鋭い眼光で睨み付けたクサイハナに向って行く。

 突っ込む勢いで体を丸めて回転させ、そのまま炎を噴き上げて勢いよくクサイハナに激突した。

 全身を焼かれたクサイハナは、へなへなとその場に倒れ伏す。

 その直後、チルタリスもイルミーゼに技を決めていた。

 これでは相棒の二の舞である。

「いや、まだだよっ!」

 黒髪の女戦闘員は最後の一匹を繰り出した。

 それはさっきの虫と毒を併せ持ったイトマルの進化形のアリアドスだった。

 体の大きさが倍以上になり、体色も赤く変色して六本の足のうち後ろ二本が背中に突きって立っている。顔付きも精悍になり額の角と二本の牙がより太く鋭利なものとなっていた。

「レオン、そのアリアドスはダークポケモンよ」

 それを聞いてレオンは小さく舌打ちした。

 このまま一気に勝負を決めようと思ったのに、最後の一匹がダークポケモンだとは。

「チルタリスは『歌う』 バクフーンは『スピードスター』だ」

 レオンはチルタリスに出す指示を『空を飛ぶ』から変更した。『歌う』は相手に美しい歌声を聞かせて眠らせる技だ。

 だが、見事に技が決まった筈なのに、アリアドスは眠らない。

 バクフーンが放った星型の礫も、背中に突き立つ二本の足で大半が叩き落とされる。

「お生憎様、こいつの特性は『不眠』なんだ、眠らせようとしたってムダだよ。アリアドス、水色の飛行タイプに『ナイトヘッド』だよ」

「バクフーン、『煙幕』 チルタリスは『竜の息吹』だ」

 それに応じたレオンの指示に、素早くバクフーンが動き、技を仕掛けようとするアリアドスの顔面に黒煙の塊を叩き付ける。

 視界が真っ暗になったアリアドスは、技が出せずに顔に纏わり付いた黒煙を払い除けようと長い足を振り回す。

 そこへ、ドラゴンの力を宿した息吹が猛烈な勢いで吹き付けられ、まともにそれを急所に受けたアリアドスは体の全神経が麻痺してしまう。

 ——今だっ!

 レオンは空のモンスターボールを手に取ると、左肩のマシンでそれをスナッチボールに造り変え、体が麻痺して苦しげに足を痙攣させるアリアドスに投げ付ける。

 ダークポケモンを取り込み、ボールは軽く左右に揺れるとピタリと止まった。

「ウッソーっ、こんなにあっさり負けちゃうなんてーっ!」

 とても信じられず、黒髪の女戦闘員は愕然となる。

「ダークポケモンをスナッチしたって事は、あんた達は——」

 赤毛の女戦闘員も目を見開き、思わず身を引き気味になる。

 どうやら二人の正体に気付いたらしい。

「鍵が掛かってるわ」

 バトルが終わると同時にプラスルと共に、女達の後ろに回り込んで物資置き場の扉を開けようとしたルナが声を上げた。

「鍵を開けろ」

 バトルが終わってもポケモン達をボールに戻さず、レオンがシャドーの女戦闘員に命じる。

 女達の仲間が自分達にした仕打ちを憶えているのだろう。チルタリスが翼を広げて威嚇しながら逃げ道を塞ぎ、バトルが終わってちょっと及び腰になりながらも、バクフーンも肩の炎を噴き上げ、両手を広げて二人を足止めする。

 これにはシャドーの女戦闘員達も逃走を諦め、渋々扉の鍵を開けた。

「ああ、キミ達っ!」

 後ろ手に縄に縛られた若者が喜び勇んで出て来る。二人の思った通りの人物が。

 シルバである。色んな物をリュックに詰め込んでいたのは、ここに潜り込む為だったのだ。

 レオンは女戦闘員達を縛り、被っているフルフェイスを回して前後逆にした。こうすれば視界が遮られ、大声を上げてもくぐもって聞こえにくくなる。

 そうやってから二人を中に押し込んで扉に鍵を掛け、レオンはポケモン達をボールに戻す。

「どこの誰か知らないけど、助けてくれてありがとう」

 少女に縄を(ほど)いてもらったシルバが、感激したように礼を言う。

 どうも二人が誰か判らないようだ。

 そう言えば、変装していたんだと思い出し、ルナは頭のバンダナと眼鏡を取った。

「シルバさん、あたしよ、ルナよ」

「えっ? あっ、じゃあ、そっちの少年は——」

 漸く誰か判ったシルバは、慌てて首を巡らせる。

 レオンも無言でゴーグルを頭に乗せて顔を(さら)す。

「そっか、キミ達も来てたのか……」

 ハァっとシルバは溜息を漏らした。

「道理で、途中まで順調だったのに、いきなりスパイ騒ぎが起こるから——」

「俺達もあんたが捕まらなきゃ、バレずに上に戻れたんだ」

 まるで捕まったのは自分達の所為だと言わんばかりのシルバに、レオンがすかさずツッコミを入れる。

 まあ、元を辿ればレンがコドモネットワークに上げたレオンの情報の所為なのだが。

「ま、まぁとにかく、ここ暫くアンダーに居て色々な事が判ったんだ」

 二人にジト目を向けられたシルバは、ゴホンと咳払いして誤魔化し、強引に話題を変えた。

「やっぱりダークポケモンは、この町からパイラに運び込まれていたんだ。でも、ここも中継地点でしかなくて、更に別の所から連れて来るみたいなんだ」

「ええ、何処かにダークポケモンの研究所があるらしいわ」

 そこでダークポケモンは造られてここに運ばれ、更にパイラへと流れて行ったのだ。

「そうなんだ。それで更に探りを入れたら、どうも昔ここは鉄道が通っていたみたいで、連中はダークポケモンの輸送にそれを利用しているらしいって処までは判ったんだけど、その鉄道が何処にあるか突き止める前にスパイ騒ぎが起こって捕まったんだ」

 無念そうにシルバは唇を噛み締めるが、ふと思い出したように声を上げた。

「そういえば、さっきの連中からこっそりと頂いたものが……」

 と、ズボンの後ろのポケットから薄いディスクケースを取り出した。

 多分さっき揉み合っている時に()ったのだろうが、この男一見普通の若者に見えて手癖の方はかなり悪いらしい。そういえば、風車小屋でも歯車を盗んでいた。

「なんでもアンダーでは役に立つ道具らしいよ」

「ああ」

 頷き、レオンがそれを受け取る。

 自分も持っている。これはあの断層に浮かぶUFOの起動ディスクだ。だが、このディスクのレーベルは「F」ではなく「R」と書かれてあった。

「これってもしかして……」

 思わず呟いてルナはレオンを見た。

 確かあの装置は起動手順の説明で「でぃすくヲ選ンデ(・・・)せっとシテクダサイ」と言っていた。つまりディスクは複数存在するという事だ、今持っている「F」のディスクは前方に動く為のものだった。そう考えると、この「R」のディスクはおそらくUFOを右方向に動かす為のディスク。

 だとすれば、ここで唯一調べられなかったコロシアムの右側にある建物に行く事が出来る。

 あの女戦闘員達は鍵が無ければここより出ることはできない。住民達もあの女達に追い払われ、さっきのバトルでも野次馬は来なかった。まだ他には自分達がスパイとはバレていない今がチャンスかもしれない。

「あんたはあのエレベーターでパイラに戻り、署長に今の話を伝えてくれ」

「ついでに、ここを今支配しているヴィーナスって(ひと)が、シャドーの幹部だって事もね」

「えっ? ヴィーナスって、あのアンダータイムに出ている可愛い感じの美人だよね?」

 確認するように慌ててシルバが訊き返す。

「その彼女がシャドーの幹部? 騙されて利用されてるんじゃなくて、本当に?」

「そうよ、可愛いかどうかはともかくとしてね」

「そうか、そうなのか……」

 ヨロリとよろけ、シルバは金網に縋りつくようにガックリと肩を落とした。

 相当ショックを受けているようだ。

 その様子に、ルナは半目になった。

「シルバさん。もしかしてヴィーナスに憧れてたとか?」

「うっ、いやその、やっぱり美人となれば、男だったら誰だって……ねぇ」

 図星を指されたシルバは、狼狽(うろた)え焦って言い訳しながら傍にいた少年に同意を求める。

「ねぇって、貴方もそうなの、レオン?」

 じっとりとレオンを見据え、ずいっとルナが答えを迫る。

 返答次第では、後でルナの機嫌が無茶苦茶面倒臭くなりそうだ。

「…——それは、人それぞれだろ。好みなんてのは」

 なんでそこで俺に話を振るんだと、助けてやった恩を仇で返してきた恩知らずの若者にチラリと恨みがましい視線を突き付け、レオンは慎重に言葉を選んだ。

「まあ俺は、ああいう()は好みじゃないけどな」

「そうよね」

 途端に満面に笑みを浮かべ、ルナは得意げにシルバを見返す。

「……キミも、色々と大変なんだね」

 二人を交互に見やったシルバは、溜息混じりにしみじみと呟きながらレオンの肩を叩いた。

「………」

 ——大変にしたのはあんただろ。

 憮然として心の中でレオンがツッコむ。

「じゃあ、ボクは行くけど、キミ達は——」

 と、シルバが言い掛けた時だった。

 ガタンと何か重い物が落ちる音がした。

 ハッとして、三人が音のした方を見ると、閉じ込めた筈の女戦闘員達が反対側の通路に出ていた。

 どうやら縛られた手で互いのフルフェイスを回して戻し、奥の方の岩壁と金網との隙間を強引に抜けたようだ。

 さっきの音は近くに積み上げてあった物資の箱を、うっかり落としてしまったらしい。

 女達はレオン達に気付かれると同時に、次々と足場の下に飛び降りて行く。

 もう追っても無駄だ。これで完全に自分達の潜入がシャドーにバレてしまった。

「あんたはさっさと上に行って、さっき言った事を署長に伝えろっ」

 ゴーグルで顔を隠し、レオンが鋭く言い放つ。

「わ、判った。キミ達も気を付けてっ」

 頷くと、シルバは慌ててエレベーターに飛び乗った。

 ガクンと揺れ、軋んだ音を立ててエレベーターが上昇していく。

 それを背に、レオンとルナは足場の階段を駆け下りた。

 




 この小説を読みながら、ゲームをプレイしていた時の事を想い出す人もいるようです。
 これを書く為に、改めてこのシナリオモードを最初からプレイして、色々と確認しながら苦労してデータを仕入れた甲斐があったというものです。
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