未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―ダークポケモン研究所―(2)

 扉の脇にあるリーダーに男のⅠDカードを差し込んでスライドさせる。

 カードのデータを読み込み、扉は音も無くスッと開いた。

 中に入るとそこはロビーのようになっていた。

 化学構造図を思わせるような六角形の幾何学的な模様がある壁の角ごとに細長いライトが嵌め込まれ、中に配置されているボックススツールも六角形でいかにも研究所っぽい造りになっている。

 そして、中央奥には円筒型のエレベーターがあった。

 その前に立つと、透明なガラス張りの扉が観音開きに開き、二人はそれに乗り込んで地下にある研究施設に向かう。

 エレベーターを降りて通路に出ると、それは三方に分かれていた。上の案内図では確か右へ行くと別のエレベーターに出、正面と左の先には部屋があった筈だ。

 ただ部屋は何階の何号室と言う風に番号が付けられていた為、それが何の部屋なのかまでは分からなかった。どのみち新しい研究所の場所を知る者が何処にいるか判らない以上、(しらみ)潰しに当っていくしかないだろう。

 レオンはまず正面の部屋に向かった。

 そこの扉はエレベーターと同じような円筒型のガラス張りのものだった。

 円筒の手前と向こう側に一枚ずつ二つの扉がある。この部屋の中に入るには、その円筒の二重扉を抜けなければならないようだ。

 その前に立つと、まず手前のガラス扉が開いたが、向こう側は閉じたままだった。

 中を覗いて見ると、円筒の天井に細かな噴射口が等間隔に並んでいる。

 レオンはポケットから使用前のモンスターボールを取り出すと、大きくしてその中に放った。

 だが、何の変化もない。

「おまえはそこで待っていろ」

 用心しながらレオンは中に足を踏み入れる。

 そして完全に中に入ると、今度は開いていた扉が閉じたが、噴射口からは何も出てこず、少しの間を置いて向こう側の扉が開いた。

 特に問題はないようだ。

「入っていいぞ」

 外にいるルナに声を掛け、レオンは床に転がるモンスターボールを拾って部屋の中に入る。

 そこは会議室らしく、壁際には多分資料を入れておいたのだろう、ずらりとキャビネットが並び、部屋の中央には大きなテーブルと椅子、そしてホワイトボードが置かれてあり、その脇には資料を映し出すプロジェクターまであった。

 レオンは手近にあったキャビネットの中を調べてみたが、やはりあの研究員の男が言っていたように引き上げ準備をしているのか、どの棚にも何も残っていない。

 他に調べるような所も無く、後は会議室の奥にあるもう一つの扉だけだ。これは入って来た円筒型の二重扉ではなく、この施設の入り口と同じような重厚な鋼鉄製のヤツだった。確かこの先にも幾つか部屋があった筈だ。

 前に立ってみるが、ロックされているらしく全く開く気配がない。

 試しにさっきのカードキーを扉の脇のキーの挿入口に入れてみるが、やはり開かない。

 この先に行くには別のⅠDカードが必要なようだ。

 もう一つ探し物が増えた二人は、また一旦エレベーターの所まで戻ると、今度は左の通路に向かった。この先には部屋が一つあるだけだ。

 暫く行くと左側に折れ、その先にも円筒型の二重扉があった。

 またレオンが一人で先に入って安全を確認してルナを呼ぶ。

 今度の部屋は、さっきのロビーで見た六角形のボックススツールやグリーンの鉢が置かれ、壁際にはロッカーが並んでいた。そのプレートの一つに先程の男の名前が書かれてある。どうやらここは、ここで働く研究員のロッカールームのようだ。

 そして、部屋の隅には円筒型のエレベーターがあった。

 確かこの一階下には大きめの部屋があった筈だ。これはそこに通じるエレベーターなのだろう。研究員のロッカールームから直通ということは、おそらくこの先の部屋は何かの研究室に違いない。そこにまだ残っている研究員がいるかもしれない。

 二人は身構え、それに乗ってみる。

 エレベーターは一階分降りると止まり、正面の扉が開いた。

 そこはやはり何かの研究室のようで、所狭しと部屋の随所に培養装置やプラントが設置され、その脇に並べられた机ごとに光学顕微鏡などの様々な装置や器具が置かれてあった。

 こういう物に縁のない二人は、思わず物珍しそうにそれらを見て廻った。

 その並べられた机の一つに、何かが貼り付いたプレート状のガラス片を見付け、レオンはそれを手に取った。何だかよく分からないが、プレートの隅に小さくDNAサンプルと書かれて番号が付いている。

 どうもここでは遺伝子に関する研究が行われていたらしい。

 スレッドに何でもいいから資料を見付けたら持って来てと言われていたので、取り敢えずそれをポケットにしまい、他に何かないかと探してみたが、ここら辺は引き上げの準備は殆ど終わっているらしく、めぼしい物は何もなかった。

 そこに見切りをつけ、二人が更に奥の方へ向かうと、一番奥に短めの階段があった。

 そして、その上から足音が聞こえる。

 まだ誰かいるらしい。

「えーと、このデータはもういらないと……」

 どうやら最後の確認をしているらしく、下の研究室に入って来た二人にも気付いていないみたいだ。

 そっと階段を上がった二人は、出口が他にない事を確認すると、階段を塞ぐ形で男の前に飛び出した。

「ん? なんだおまえ達。白衣も着ないで研究室に入って来ちゃダメじゃないか……と、知らない顔だな……」

 二人の恰好を見咎めた白衣の男は、銀縁眼鏡に片手を添えてまじまじと顔を見た。

 構わずレオンは男に訊く。

「新しい研究所の場所は何処だ?」

「何故そんな事を……」

 (いぶか)しげに呟いて、銀縁眼鏡の研究員はハッとなった。

「おまえ達、研究所の人間じゃないな!? ひょっとして、敵か——っ!」

 慌てて白衣のポケットからモンスターボールを取り出して投げる。

 出て来たのは、体長三十センチ程の中央に一つの大きな目玉が付いた金属製の球体の左右に一対のU字型磁石と、三本のネジを付けた鋼と電気タイプを併せ持つコイルが、放射状に三体連結して進化し、体長が一メートル程になったレアコイルが二匹だった。

 それを見て、レオンは先程と同じにヌオーとムウマを繰り出した。

 「先制のツメ」の効果で素早く動いたヌオーが、コイル達に効果抜群の地面タイプ技の『地震』の一撃でそれらを薙ぎ倒し、次いで出て来た電気タイプのビリリダマの進化形であるマルマインに、ムウマが出て来ると同時に『あやしい光』を浴びせて混乱させ、ヌオーの『地震』でとどめを刺す。

「くっそ~、なんてガキだっ。一体どうやって警備の目を抜けて入ったのかは知らんが、とっとと出て行けっ。さもないとボルグ様がおまえ達を酷い目に合わせるぞっ!」

「ボルグですって!?」

「ここにやつが居るのか!?」

 二人は驚いた。その名は何度も目にした名だった。シャドーのアジトや戦闘員が落として行ったダークポケモンに関する研究レポートの最後に、いつも記されていたダークポケモン研究所所長の名だ。

 まだここに居るなら、新しい研究所の情報を引き出すのに、これ以上打って付けの者はいない。それどころか、それ以外のシャドーの情報も手に入る。

「そいつは今何処に居る?」

「ボルグ様はお忙しい方なのだ。特に今は引き上げ準備の進み具合の確認の為に、各セクションの研究室(ラボ)を回っている処だ。今何処に居るかなど誰にも分からんだろうよ」

「そうか……」

 あの案内図からしてここはかなり広い。ボルグの持つシャドーの情報は喉から出る程欲しいが、あまり時間を掛けられない以上、取り敢えず新しい研究所の場所だけ十分だ。

「だったらもう一度訊く。新しい研究所の場所は何処だ?」

「ふん、ボルグ様は用心深い御方だ。私達は引っ越しの最後に教えられる事になっている」

 つまり今の処ボルグしか知らないという事だ。

 やはり、この広く通路の入り組んだ研究所の中にある研究室を、一つ一つ当たってみるしかないということか。

「じゃあ、あの会議室の奥にある扉のキーは何処だ?」

「さあな、私はこのラボが担当だ。奥とは切り離されたここのな」

 男はあの扉の奥にある研究室とは関わりないとほのめかし、そんな自分がその扉のキーなど知るわけがないだろうと嘲った。

 バトルに負けても余裕の態度を崩さない銀縁眼鏡の男に、レオンは更に問い(ただ)す。

「貴様がこのラボの責任者か?」

「ああ、そうだ」

 胸を張って応え、研究員の男は傲然と言い放つ。

「今頃何しに来たのかは知らんが、ここにはもう何も残っていやしないぞ。見逃してやるからさっさと出て行けっ」

「分かった」

 ぼそりと呟き、レオンはまだ傍らで自分の宝物と(たわむ)れるヌオーに指示を出す。

「ヌオー、この男に『あくび』だ」

「な、何っ!?」

 思わず動揺の色を浮かべた白衣の男の顔に、ヌオーが遊んでいた「先制のツメ」を舌に乗せたまま眠気を誘う『あくび』の息を吹きかける。

 途端に男はそれにつられて大きな欠伸(あくび)をし、その場にへたり込むように眠りこける。

 これでさっきみたいに暴れて騒がれる心配はない。

 銀縁眼鏡の研究員が完全に眠ってしまったのを確認すると、レオンは男の白衣のポケットの中を探り、一枚のカードを取り出した。この研究員のⅠDカードだ。

「レオン、それどうするの?」

「さっきのヤツは駄目だったが、ラボの責任者のヤツなら開けられるだろう」

「で、でも、この人は奥とは関係ないって——」

「出入りしてないとは言ってなかった」

 どちらにしろ、使ってみれば判る事だ。

 一応男を縛り上げ、他に何かないか部屋の中を調べると、隅にあった机の上にファイルが置いてあった。

 例のダークポケモンに関する研究レポートのボルグファイルである。

 「ボルグファイルF」と書かれた表紙を開き、中のレポートを読んでみる。

 

 ——ファイナルレポート——リライブという現象について興味深い事が色々判明した。心を開く為の方法が幾つか存在し、そのポケモンの元の性格により、効果が違うらしい。更に判った事はリライブが進むと、技や性格を取り戻して行くという事だ。

 そして、リライブ完了後には、それまで止まっていた成長が急速に進む事が判明した。これを上手く利用すれば、更に強力なダークポケモンが造れるかもしれない。

 ——ダークポケモン研究所所長ボルグ

 

 レポートには既にレオン達が知っている事が書かれてあったが、表題に「ファイナル」と書いてあるからには、いよいよ研究も最終段階に入っているという事だろう。完全なる最強のダークポケモンが造り出される時が。

 急がなければならない。

 二人はエレベーターに飛び乗って上のロッカールームに出ると、通路を駆け抜けて最初のエレベーター前を通り抜け、最後の右の通路を進む。

 案内図にあった通り、突き当りの左側に円筒型のエレベーターがあった。

 だが、前に立っても開かず、ガラス扉から透けて見える向こう側に、もう一つ同じようなものがあり、床にマークされた矢印がこちらを向いている事から、どうやらこの扉は反対側からしか開かないようだ。

 ここからではこのエレベーターが使えないと判ると、二人はさっさと引き返し、会議室の奥にあった扉の所に戻って来た。

 

 

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