未来(あす)への扉   作:飛鳥 螢

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―ダークポケモン研究所―(3)

 扉の脇にあるカードキーの挿入口に、さっきの研究室(ラボ)の責任者のⅠDカードを入れる。

 カードのデータを読み込んだ扉の開閉装置がカチリと音を立てた。

 レオンの予想通りだったようだ。

 ロックが開いた扉は、静かに左右に開いていく。

 挿入口から出て来たⅠDカードを取り、そこを抜けて奥の通路を進もうとした二人の前に、突如人が降って来る。

 お馴染みのフルフェイスを被った、長い赤茶髪のシャドー女戦闘員である。

「あんた達、所員以外はここから先は立ち入り禁止だよ。勝手に入って来ちゃいけないんだよ」

 そう二人を(たしな)めながら、手にしたモンスターボールを投げる。

 (まばゆ)い光が(ほとばし)り、現れたのはどちらも体長一メートル程で、片方は頭のてっぺんを木の枝にくっつけてぶら下がる姿が、木の実そっくりな草タイプのタネボーの進化形であるコノハナと、赤と黄色と紺の派手な色合いの体に、船底を噛み千切る程の破壊力のある発達した顎と鋭く尖った牙を持った水タイプのキバニアである。

 どちらも他に悪タイプを併せ持ち、コノハナは進化した事で体が人型に変化して攻撃力と素早さがアップしていた。

 それに対し、レオンは炎タイプのバクフーンと、草と飛行タイプを併せ持つワタッコを繰り出した。

 ボールから飛び出すと同時にレオンの頭に乗ったワタッコは、相棒がお気に入りの水色のぽやんとしたヤツではなく、背中の肩回りに炎が揺らぐ、不安そうにおどおどしている漆黒の奴であることに不満そうにポンポン跳ねる。あれでは炎が邪魔で頭に跳び移れないじゃないかと。

「バクフーン、コノハナに『火炎車』 ワタッコはキバニアに『メガドレイン』」

「コノハナ、炎タイプに『猫だまし』 キバニアは草タイプに『噛み砕く』だよ」

 女戦闘員も同時に指示を出す。

 不安そうにしていたバクフーンはチラリと後ろに立つレオンの方に目を向け、その揺るぎない琥珀色の瞳を見た途端気を引き締めてキッと前を見る。

 そこに素早く突っ込んで来たコノハナが、バクフーンの眼前で思いっ切り両手を打ち鳴らした。

 それに怯んで思わず目を(つむ)り、バクフーンは技を出せずに立ち竦む。

 一方ワタッコは不満ながらもレオンの頭の上で、擦り合わせた両手の綿毛を撒き散らし、大口を開けて向かって来るキバニアから一気に体力を奪い取る。

 体力を根こそぎ奪い取られたキバニアは、レオンの眼前でくるりと体を回転させ、腹を上にして力尽きる。

「くうっ、なんで頭にポケモン乗っけてんのよ。バトルするならちゃんと下に降ろすもんでしょっ」

 悪態をついて文句を言い、女戦闘員は次のポケモンを出す。

 出て来たのは、体長五十センチ程の四つ足の真っ黒な全身に、額の他に背中に二本の骨のような物が付いている、悪と炎タイプを併せ持つデルビルだった。

「コノハナ、草タイプに『だまし討ち』 デルビルは『炎の牙』だよ。下のトレーナー共々炎の餌食にするんだよ」

「ワタッコ、コノハナに『眠り粉』 デルビルにバクフーンは『瓦割り』だ」

「なんだってっ!?」

 予想外のレオンの技の指示に、長い赤茶髪の女戦闘員は驚きの声を上げる。

 悪タイプでもあるデルビルに効果抜群の格闘タイプ技を、炎タイプのバクフーンが覚えているとは思わなかったのだ。

 コノハナは動き出す寸前、ワタッコが両手の綿毛をすり合わせて飛ばした粉を浴び、ぐうすかと寝てしまう。

 技を出し終わった瞬間のワタッコの隙を()き、燃え上がる炎を纏った牙を突き立てようと跳び掛かるデルビルの背に、バクフーンが気合いの入った容赦ない一撃を加える。

 体を仰け反らせ、デルビルが悲痛な悲鳴を上げる。

「ワタッコ、デルビルに『メガドレイン』 バクフーンはコノハナに『火炎車』だ」

「コノハナ、起きて炎タイプに『だまし討ち』 立つんだよ、デルビルっ。草タイプに『炎の牙』を今度こそ決めるんだよ!」

 冷静に指示を出すレオンに、負けじとシャドーの女戦闘員も声を飛ばす。

 だが、それにすぐさま応えたのはレオンのポケモン達だった。

 炎タイプに草タイプ技は効きにくいが、相手の体力が殆ど残ってないのなら話は別だ。

 手酷い一撃を受けて軋む背骨の激痛に堪えてヨロリと立ち上がったデルビルに、軽快に飛び跳ねながらワタッコが、残った僅かな体力を根こそぎ奪い取っていく。

 火炎を纏い回転しながらバクフーンが、女の怒声も虚しく眠ったままのコノハナに体当たりし、炎に巻き込みながら轢いて行く。

 こちらは効果抜群技だからたまらない。コノハナは一気に体力を削られる。

「まだまだ、これからだよっ」

 倒れたデルビルを戻し、女戦闘員は最後のポケモンを繰り出す。

 最後も悪タイプだった。体長は五十センチ程で太く鋭い(くちばし)と二本の足以外全身闇色の羽根に覆われ、頭は三つにとんがったつば広の帽子を被ったような形をしている。鳥型から判るように飛行タイプも併せて持っているヤミカラスだ。

「レオン、その鳥ポケモン」

「ああ」

 出て来たヤミカラスを見て注意を促すルナに、レオンが頷く。

「ワタッコ、ヤミカラスに『眠り粉』、バクフーンは『スピードスター』」

 素早い動きでワタッコがヤミカラスに眠りに誘う粉を撒き散らし、バクフーンが星型の礫を出て来たばかりのヤミガラスとコノハナに浴びせる。

 殆ど体力がなかったコノハナはこれでとうとう力尽き、ヤミカラスは咄嗟に礫を躱せずにダメージを負ったものの、ワタッコの粉を浴びても眠らなかった。

「無駄だよ。こいつは『不眠』だからね」

 鼻で笑い、すかさず赤茶髪の女戦闘員は指示を出す。

「ヤミカラス、草ポケモンに『翼で打つ』」

 手痛い礫を喰らったヤミカラスが、恨みの籠った目でその仲間のワタッコを睨み、広げた翼で力一杯打ち付ける。

 効果抜群の攻撃に、体の軽いワタッコは悲鳴を上げて吹っ飛んだ。

「ワタッコっ」

 レオンは床に叩き付けられたワタッコをボールに戻す。

 女戦闘員は馬鹿にしたが、ヤミガラスの特性が技が急所に当りやすい「強運」でないのが判っただけでも十分だ。眠らないのなら、別の方法を取ればいいだけだ。

「バクフーン、もう一度『スピードスター』」

 指示を出しながら、別のポケモンを出す。

 長年の相棒である悪タイプのブラッキーだ。

「そのポケモン……、まさかおまえは——」

 ノーマルタイプでありながら、条件によって五つのタイプに進化するイーブイの中でも進化の仕方が特異なブラッキーを見て、シャドーの女戦闘員はあからさまに動揺した。相手をしている少年の正体に気付いたらしい。

 その隙を()き、レオンは二匹に指示を出す。

「ブラッキー、『あやしい光』 バクフーンは『煙幕』」

「くっ、ヤミカラス、炎タイプに『ダークラッシュ』だよっ」

 とにかく格闘タイプ技を持つバクフーンを先に倒す。

 慌てて女戦闘員は叫んだが、遅かった。

 体の随所で明滅する光を使ってブラッキーがヤミカラスを混乱に陥れたところへ、バクフーンが造り出した黒煙の玉が顔に炸裂する。

 ヤミカラスは混乱しながらも、トレーナーの指示を忠実に実行したが、狙いが定められず当たらない。

 そこへレオンは、左手に持ったスナッチボールを投げ付けた。

 大した抵抗も無く、ヤミカラスを呑み込んだボールがコロリと床に転がって止まる。

「つ、強い……」

 ガクリと床に膝を突き、女戦闘員が呻く。

 そこへ、レオンは再びワタッコを呼び出した。

「ワタッコ、そいつに『眠り粉』だ」

 ハッとする赤茶髪の女を顎で示して指示を出す。

 慌てて逃げようと立ち上がったシャドーの女戦闘員に、ワタッコが逃がすまいと大量の眠り粉を浴びせ掛ける。

「そ…んな……」

 全身から力が抜け、女はへなへなとその場にへたり込んで眠ってしまう。

「どうして皆眠らせちゃうの?」

 死んだように眠ってしまった女戦闘員を見下ろし、ルナは疑問を口にする。

 何時もは相手が逃げるに任せていたのに、この対応の違いを不思議に思ったのだ。

「今までのやつらは、雇われたゴロツキが殆どだった」

 そういう金で結びついた連中は自分の手柄は大々的に自慢するが、失敗した場合は絶対に自分から上に報告などしない。貰う金に響くからだ。そんな奴等は放っておいても害はない。組織の下っ端戦闘員も同様だ。出世の評価に響く。

 だが、こういう重要拠点の警備を任されている組織の戦闘員は、そういう今までの奴等と違って選りすぐりの奴と思っていい。それなりに忠誠心というモノもあるだろうし、こんな所では自分の失敗を誤魔化した処ですぐにバレてしまう。

 隠すメリットより、それがバレた時のデメリットの方が大きいとなれば、上司に自分達の侵入を報告する可能性の方が高い。

 そうでなくともこの女はブラッキーを見て、自分達の正体に気付いたみたいなのだ。報告など絶対にさせるわけにはいかない。だから面倒でも一々眠らせるのである。

 とはいえ、折角眠らせたものの、さっきの研究員達のようにあまり人が来ない所ならまだしも、こんな人目につく通路の真ん中に放置していては、すぐ他の所員達に見つかってしまって意味がない。何処かに隠す必要があった。

 ブラッキーと、また自分の頭に乗って和んでいるワタッコをボールに戻すと、レオンは残しておいたバクフーンに声を掛ける。

「大丈夫だ、バクフーン。その女を連れて来るんだ」

 やはりこの場所の事を憶えているのだろう。バトルが終わってビクビクと辺りを見回していたバクフーンだったが、レオンの大丈夫だの一言で安心したように落ち着きを取り戻した。

 やる気を漲らせて頷き返すと、ビシッと背筋を伸ばして前足の爪に女戦闘員の襟を引っ掛け、ずるずると引きずってレオンの後に付いて行いく。

 少し行った先にある曲がり角に来ると、レオン達はそこに身を寄せてそっと角の向こうを覗き込んだ。

 通路の突き当りに例の円筒型の扉があり、その先は何かの部屋の様になっていた。

 そして、その円筒の透明な扉越しに男の姿が見えた。つなぎの作業着を着て、黄色いヘルメットを被った男である。奥の方に向いて何やら作業をしているようだった。

 レオンは男が一人なのを確認すると、ルナ達をそこに待たせて男に気付かれないように扉を開けて素早く中に入った。

 部屋の中は狭い通路を挟んで四つの大きな強化ガラス張りの檻が設けられていた。その檻はどれもカラだったが、おそらくここに研究用のポケモンを入れていたのだろう。もしかしたら、進化前のワタッコやバクフーンもここに入れられていたのかもしれない。

「騒ぐな」

「な……!?」

 いきなり背後から凄味のある声を掛けられ、男は仰天して振り返った。

 目の前のアッシュブロンドの少年と、その後ろの扉の向こうからこちらを窺う明るい栗色の快活そうな少女。それから気を失ったここの警備員の女戦闘員の襟を前足の爪に引っ掛けたバクフーンを見て、怪訝そうな表情になる。

「なんだね、きみ達は?」

「ここに居たポケモン達はどうした?」

「ああ、あんたらはポケモンが欲しくて来たのかい?」

 二人がここで造られたダークポケモン目当てに来たと勘違いした作業員は、眉根を下げて肩を竦めた。

「だが、残念だったな。もう皆何処かに運ばれて行っちまったよ」

「何処へだ?」

「さあな。わしは雇われて、ここでずっとポケモンの世話をしていただけだからなぁ」

 何処へ運ばれたかは知らないと、男は(かぶり)を振った。

「じゃあ、大人しくそこの檻の中に入ってもらおう」

 分からないなら用はないとばかり、レオンは空いている檻の一つを示した。

「その後で、あの女同様眠ってもらう」

「レオン、この人はポケモンの世話に雇われていただけなのよ」

研究所(ここ)に居るヤツの言葉など信用できない」

「それもそうだな」

 そこまでしなくてもと言う少女に、きっぱりと言い切った少年に男は苦笑した。

「別に構わんが、後でちゃんと出してくれるんだろうな?」

「ああ、用が済めばな」

 バクフーンに指示し、外から見えない場所に女戦闘員を横たわらせながらレオンが請け合う。

「じゃぁ、早いトコ頼むよ」

 と、男は素直に別の檻の中に入った。

 レオンはワタッコを呼び出して男を眠らせると檻の扉を閉めて鍵を掛ける。

 そして、この檻部屋の通路の奥にあったパソコンの電源を入れた。

 おそらくこれで各ラボに研究用のポケモンを送ったり、いらないポケモンを受け取ったりしていたのだろう。

 この研究所専用で外のパソコンとは繋がっていないようだが、ポケモン預かりシステムは基本的に外にあるものと変わらない筈だ。

 早速このポケモン預かりシステムを呼び出すと、そこに今までバトルで消耗したポケモン達を、簡易的なポケモン回復マシン代わりに預け、再び取り出す。

 一応本当に回復したかどうか確認してから、レオンはルナと共に先を急いだ。

 

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