悪役目指すには楽しい世界。 作:ペットボルト
ゲームの世界に閉じ込められた……なんて創作ではよくある話だ。オンラインゲームという概念ができてからはよくある話の一つになったと思う。最近じゃ使っているアバターに憑依だの、転生先をゲームの世界にしたりだの、むしろ現実がゲームに侵食されているだの。……まあ、よく見られる。僕もこういう作品が好きだ。
しかし自身にそのようなことが起きるだなんて想定している人も少なんじゃないだろうか。かくいう僕も想定なんかしちゃいない。妄想はしたが現実としてその妄想を受け入れろなんて無理な話じゃないか。
『僕のヒーローアカデミア オリジン』―――。僕のヒーローアカデミアを原作とするVRゲームで、プレイヤーは原作キャラやオリキャラとして原作に介入したり捻じ曲げたり。はたまたヴィランになったり。そんな自由ができる夢のようなゲーム。
もちろん僕はめっちゃ夢中になってこのゲームをプレイしていた。それはもうハマりにハマり、梅干し抹殺RTAをしたり、ステインの意志を継いだり、一般人として傍観したり。ヒーロー側のイベントはほぼほぼクリアした。楽しかった。
そんなこんな、やることもやりたいことも消えて適当にゲームを新規出始めた途端。『プツン』と音がしたかと思えば…体が縮んでしまっていた! コ○ンかよ。そしてゲームの世界からは出られなくなっていた。ちくしょう。
いや正直、ゲームの中なのかも怪しい。コンソールもでないし、そして僕のやっていたゲーム媒体はフルダイブ型VRだ。確かにグラフィックはすごかった。現実と大差なかったかもしれない。だがゲームと確信できるグラフィックだった。なのに――。
なんだ、これは。視界に映る光景は現実そのものだ。質感も匂いも風すらも。そして触覚も…リアルそのもの。そしておそらくゲームの世界に入ったと思うしかない受け入れがく小さくなってしまった自身の手。確認すればするほど疑ってしまう。本当にゲームの世界か。
そして今現在いる場所は民家の中、ゲームならチュートリアルの場所だ。新規でゲームを始めればだいたいこのようなところに出る。ここで物語のあらすじやら操作の仕方など基本を教えられる。なら、やるべきは調べることだ。この世界はどのような場所なのか。チュートリアルなんだ。姿見とかあるだろ。
洗面台の鏡、台に登りそれを見る。鏡に映るは幼いさっぱりした黒髪の少年だった。原作じゃ見たことのない特徴であるのでおそらく新規のゲームはオリキャラで始めたのだろう。
…なんだか見慣れた自分の顔がそこにないだけで色々と気が動転するもんだな。落ち着こう。まだヒロアカ世界とは限らない。普通に幼児に憑依しただけかもしてない。……もしそうなら前者のほうがマシだな……。
とにかく外に出てみよう。外でわかることもあるだろう。てかこの家、親とかいないのか。子供一人で外でちゃうんですけどー。玄関にぱたぱたと走りドアを押す。ガンッとぶつかった音がしてドアを開いてみると尻もちついた緑髪の可愛らしい少年がそこにいた。
「いてて…、あ! あそぼ! イチジョーくん!」
oh,so cute...
おっと、意識飛んでた。うん、完全にそうだ。緑谷出久、その人だ。ちょっと近づいて顔を見る。完全に緑谷だ! そんな急に近づき凝視している僕をよそに緑谷は小首をかしげていた。かわいい。…つまり、この世界はヒロアカで確定だな…。
というか結構大事なこと言われなかったか今。イチジョー?が僕の名前か。名字は…表札でも見ればわかるか。今の年齢は…わかんね。
「えと、緑谷? 僕と君って同じ年齢だよね?」
「? そうだよ。いまは4歳だね」
個性発覚前…あれ、ゲームでだったら始まる前に決めれる個性、今どうなってんだ。え。おいおいまじか!? 急いで表札を確認する。天秤。それが俺の名字らしい。名が体を表すこの世界で、天秤イチジョー?という名前。絶望か希望か、誰か教えてくれよ…この仕組みの深さをよ……。
表札前で膝をついて涙する僕を緑谷は心配そうに見ていた。
「ねえねえイチジョーくん。なんで呼び方変わっちゃったの?」
*****
子供の遊びとは、結構残酷なまでに大変なものだった。公園で暗くなるまで遊び、騒ぎ、帰り道でも騒ぐ。緑谷と爆豪とその取り巻き。肉体と精神年齢のギャップのせいで精神的な疲労がすごい。まったく、走り回ることの何がそんなに楽しいのか。いや楽しかったんだけどね。それを中身がなかなかでかい人が言っちゃあね。うん。
そんなこんな、夕方になり親が帰ってきた。なので今持つ解決できそうな疑問はぶつけることにした。わかることはこれで結構増える。あ、もちろん親は無個性でした。泣くぞおい。
名前は天秤一条。年齢四歳の個性発現前。親は両方共働きで時々休みを取って一緒に遊ぶ。そして小学校入学が楽しみ。うん。良い親だ。
だが、ため息は尽きない。親両方無個性なんですけど。僕に個性発現する可能性低いし、弱い個性の場合傍観決め込むのも難しいんですけど! ……まあ発現してからでいいか。ゲームの方でも結構な運要素だったしな。…無個性だったらどうするかな……。
無個性であったなら少し考えもある。皆さんご存知のヒーロー殺し、ステイン。その存在を知ってから僕はこのゲームをやる上でなかなか参考にすることが多かった人物だ。彼の個性は血を舐めることでの一定時間の行動制限をかける『凝血』 だというのに高い身体能力を持っている。
作中でプロヒーローと交戦後、緑谷と轟、飯田を追い詰めたあの身体能力は鍛えたものということだ。つまり個性無しで戦ったら彼に敵う人などそうそういない。個性があったとしても目指すべきところだとは思う。……幼児とは一日何を考えて生活をしていたのだろう。適当に天井を眺めながら思った。
「加速装置……なんて現実にはないしなぁ」
ただゲームと違い引き伸ばされた幼児の一日を僕は適当に過ごしていた。
*****
五歳になった某日、個性が発現した。けど……、なんだかはっきりとしない個性だなと、僕は思う。あとゲームでは特定行動の後に発動だったり感覚器官が無理やり増えた感じがあったけど、やっぱ現実ってすごい。わりとすんなり身体に馴染んだ気がする。あと使う相手によってはすごく弱くなります。
じゃ、さっそく今理解している個性についてここに記す。ゲーマーなんでねカッコつけさせてもらうよ。個性の名前は『イーブン』能力は相手と自身のステータスを同一にする!
まあつまり現在、クソガキである僕の前にムキムキマッチョの変態が立ったとしてもそいつは幼児と同じような力しか出せない。もしくは僕がムキムキマッチョの変態と同じくらい動けるようになる、そんな個性じゃ。えぇ〜、このクソガキこわ〜。
ここでこの個性の欠点だが、相手とステータスがおなじになっても個性は同じくにはならない。つまり個性を持っているムキムキと個性を持たないムキムキと同じ動きができる凡人が戦うことになるんですねぇ〜。やっぱ弱いわ。
でもまあ、個性が発現していろいろと興奮していたかもしれない。一度爆豪をバチクソにボコボコにした。幼児の頃の爆豪は才能マンといえるほど成長していないし、あと弱い。本人に言ったら爆発されました。
*****
小学生になりまして。もう二年生です。順調に二人の幼馴染を続けていて、中学生になるのも待ち遠しい。着々と原作開始も近づいてきて、なんだか焦っているところです。現在は山に誘われて木陰が散りばめられた森の中を歩いています。子供の体力は恐ろしいですね。てか恐怖心が結構ないよね。今は川の上にある丸太を渡っているわけだが、普通こんなところ渡ろうとか思わねえもん。
あ、かっちゃんが落ちた。丸太から足を滑らせたようでそのまま落ちていく。それを追いかけるように緑谷も飛び降りた。これはあれか。原作回想にあるあれか。
「だ、大丈夫? たてる?」
「……チッ」
差し伸べられた手をパシッと叩いてズカズカと川を上っていく。原作でも見下していた相手に手を差し伸べられて、それで目障りに思っていたんだよな。なんだかんだみみっちぃ性格、なんつーか難儀というか、まあいいか。
「……?」
なんだか今さっきの顔が頭から離れない。なんだろ。
不自然に口角の上がった顔を手でいじりながら、そう思った。
そのあとは特に何もなく。騒いで、遊んで、遊んで、遊ぶ。ヒーローごっことか言うリンチも緑谷と二人でヴィランをやったりする。おいそこの翼生えてるデブ。お前将来脳無素材なんだからテメェがやれや。なんて内心で悪態をつきつつ適当に遊んだ。暗くなった。帰ろう。
山帰りだというのに僕の前を歩く二人は元気そうだった。たいして僕は歩く気分にもなれず重い足取りで二人を追う。
「僕もオールマイトみたいなヒーローなりたいなぁ」
「デクがなれるかよ! 俺はなるけどな!」
二人のヒーロー談話も最近じゃよく聞くようになった。僕は全然参加していないが。……だってね。何回も最高のヒーローにはなってきたのでね……。
「イチジョウはヒーローなるのか?」
突然振り返りそう聞いてくる。ここで普通はうんとでも返せばよかったのに、逆光で顔の見えない彼に、開きかけた口はなかなか音が出なかった。
「喉が渇いたなら飲みなよ」
ありがと。
緑谷から水筒をもらい、一口のみ終わった頃には爆豪はその問いに飽きたのか歩を進めていた。正直ありがたい。答えを考える時間がほしいから。
水筒を返して、歩き出す。なんだかわからないけど、うつむいてしまう。
はたして僕はヒーローになりたいのか。そりゃなりたいと、思う。なりたいと叫ぶ二人を一番近くで見ていたと思うし、ヒーローものの番組とかもよく見る。けど。
はたして先が見える未来は楽しいのか。
ゲームで散々ヒーローをやった。原作キャラで暴れたり、オリキャラで足をひっぱたり、踏めるイベントはだいたい踏んで、RTAなんかもやったりして。
僕はヒーローになって本当に楽しいのか。
ゲームの中に入ったかもしれないのに、すでに通ったルートをなぞるのか。おんなじルートは何周もすれば味がなくなる。かみ終えたガムをまた僕は拾うのか。
そんなのごめんだ。
新しいガムを拾いに行くべきなんだ。楽しくないゲームなんてクソだ。
視線を上げる。夕日に照らされる二人が嫌に輝いて見えた。
…決めた。
俺、ヴィランになる。
「僕も、ヒーローになるよ」
ヒーローになるのは飽きた。傍観者も懲り懲りだ。ヴィランになってそんで、最悪の
喜ばしいな。なあ、ふたりとも。
様式美として、僕の物語をこう書き出すとしよう。
これは僕が最悪の
思いついたら書けってバッチャが言ってた。
原作に横槍入れつつやっていきます。面白いと思ったら感想とか評価とかくださいな。
次回は気ままに待っててね。