奴隷商人の成り上がり!   作:Reppu

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「よし、全部あるな。カードを出してくれ」

 

「はい」

 

ギルド職員の言葉に従って、俺は懐からギルドカードを取り出した。プラスチックに似た手触りのそれを差し出すと職員のお兄さんは手早く端末に差し込んでデータを更新する。

 

「また頼むよ」

 

「どうも」

 

笑顔でそう言ってくるお兄さんに頭を下げながら、俺は不審にならない程度に早足でギルドの駐車場へと向かう。だが大抵その手の努力は徒労に終わるものだ。

 

「おやおやぁ?ガラクタみたいなトレーラーがあるなと思ったら持ち主は君か、マルス!」

 

入り口を塞ぐように立ちはだかった男がそう俺に告げてくる。態と大声で放たれた言葉に待合席や隣接された売店から好奇の視線が向けられ、それは直ぐに嘲笑や侮蔑に変わった。

 

「ギルドの温情に縋って図々しい。君には恥という概念が無いのかな?」

 

面倒な奴に絡まれた事に内心辟易しながら俺はこの状況をどう切り抜けるか考える。ギルドは基本的にワーカー同士のもめ事には不介入、但し問題を起こせばペナルティだけはしっかりと課せられる。そして大抵はランクの低い方が割を食う事になる。

 

「失礼します」

 

目の前のコイツは俺よりもギルドランクが上だし当然実力も同様だ、つまりもめ事を起こせば俺が一方的に損をする。まあだからこそこんな風に絡んでくるのだが。小さく断りを入れて出て行こうとするのだが、男の取り巻きが壁を作って妨害してきた。いつもの事ながらこいつらよっぽど暇なのか?

 

「イルムさんの話がまだ終わって無いだろう?逃げるなよ」

 

更に俺の腕を掴んでそんな事を言ってくる。仕方なく視線をイルムに向けると、奴は悲しそうに頭を振った。

 

「なあマルス、これはお前の為を思っての事でもあるんだぜ?実力に見合わない仕事を受けて死ぬワーカーは珍しい話じゃない。俺は幼馴染みをそんな馬鹿の列に加えたくないんだよ」

 

白々しい言葉に頬が引きつりそうになるのを強引に押さえ込む。イルムと俺が幼馴染みと言うのは事実だ。まあ同じ街の近所に生まれただけの間柄で、交友関係は幼少の頃に切れているが。

 

「ご親切に有り難う、でも平気ですよ」

 

「平気な訳がないじゃないか、現にお前はまだこうして不相応にワーカーを続けているだろう」

 

イルムは顔を近づけてきて更に続ける。

 

「奴隷商人なんてハズレジョブの奴が同郷というだけでも我慢できないのに、そいつが同じギルドで彷徨っているなんて虫唾が走るんだよ」

 

ジョブ、この世界の住人は7歳を迎えると神様から固有の職業を与えられる。剣と魔法の時代は遠い昔になってもその恩恵は続いていて、今でも生活と密接に関わりを持っていたりするのだが、コイツの言う通り時代の需要や価値観の変化によってジョブの価値は変化し続けている。そして俺のジョブは奴隷商人、奴隷制が絶えて久しい現代においては間違いなくハズレに分類されるジョブだった。因みにイルムは軽戦士で近年人気のジョブだったりする。

 

「ちょっと、邪魔なんだけど?」

 

どうしたものかと頭を悩ませていると入り口からそんな声が掛けられる。見ればかっちりとしたスーツを着こなした女性が苛立たしげにこちらを睨んでいた。

 

「え、エルザさん!?申し訳ありません!」

 

そう言ってイルム達は慌てて道を譲る。その瞬間掴んでいた手が緩んだので俺は腕を捻って振りほどき、素早く入り口へと向かう。

 

「ふんっ」

 

すり抜け様に会釈をするとつまらなそうにエルザ女史は鼻を鳴らす。俺を助けたというよりは本当に邪魔なだけだったんだろう。

 

「貴方達、あんなのに時間を使う暇があるなら腕を磨きなさい」

 

「「は、はい!」」

 

事実後ろからはそんな言葉が聞こえてくる。彼女はこのギルドでも有数の実力者で更に聖騎士のジョブ持ちという所謂勝ち組側の人間だ。本来ならワーカーなんぞではなく国軍にでも居るべき人材なのだが、まあ彼女なりの信念なりなんなりがあるのだろう。自分のトレーラーまで戻った俺は、ハンドルへと突っ伏して小さく溜息を吐く。

 

「現地のリサーチくらいちゃんとやっとけ!クソ神が!!」

 

そして盛大に不満をぶちまけたのだった。

 

 

 

 

「お前の席、来世にねーから」

 

死んだと思ったらいきなり神っぽい奴にそんな事を言われた。なんでも俺の生きていた世界は滅茶苦茶優良物件で転生希望が大量にあるんだそうだ。

 

「神々の恩恵は希薄だが魔物は居ないし、代わりに科学が発展している。勇者が必要な世界なんて悲惨なもんだ。なんせ勇者が失敗したら滅びるんだからな」

 

成る程、そう言われれば納得である。言葉が通じる同族が最大の天敵というのは確かに生存競争を他種族と行っている連中からすればあまりにも平和な世界なのだろう。今俺はそこから追放されるわけだが。

 

「なぁに、ちゃんとフォローはしてやる。あれだ、チートってやつだ」

 

ほほう?

 

「それも飛び切りエロいのにしてやろう。どうだ?」

 

「行きます」

 

即答した俺は何も悪くないと思う。いや、確実に頭は悪かったのか。そうして俺は碌に説明も受けないままに異世界に転生した。そこはかつて剣と魔法というファンタジーが支配していた所で、未だに人類は神様から貰った恩恵であるジョブとスキルでモンスターと戦い続けている世界。そして俺が授かったチートは特殊なエロスキルとユニークジョブ、奴隷商人だった。奴隷商人、奴隷にした相手の能力を一割主人として徴収出来るというトンデモジョブであり、更に奴隷と主従の繋がりが強くなるとスキルの共有まで可能となる。しかも軽度ではあるが奴隷の精神に干渉も出来るから性的興奮を高めたりなどやりたい放題である。

そう、奴隷が手に入れば。

 

「まさか与えられたチートが世界的にアウトになってるとかさあ」

 

人類と言うのは文明を発展させると大体同じ様な思考になるようで、それは魔法とかいう不思議パワーがある場所でも変わらないらしかった。剣の時代が過ぎ去って、魔法と科学の時代がやって来る。科学にとって重要なのは、多くの人間が高い知識を得ることである。そうすることで一人では到底なしえなかった多くの事象に対する観測と情報の収集が可能となり、世界の理が暴かれるのだ。で、人間知恵を付けるとやっぱり身分の格差とかそう言う物に疑問を持つようになるらしく、その内に民族や種族による差別は良くない!とか、奴隷制って野蛮!基本的人権の尊重!とか言い出すのである。いや、それ自体は素晴らしい事であるし、全面的に同意するんだが、

 

「そんな価値観の世界でどうせえと?」

 

奴隷制度が無いなら奴隷は居ない、つまりそれを商人として扱う職業も無い。そこまではまあ仕方ないと諦めるが、問題はジョブに対する周囲の反応だ。通説だと神様が授けるジョブはその人間の魂に即したものが選ばれるとされている。勇敢な者は戦士に、心優しい者は神官にと言った具合だ。…では奴隷商人は?

ええ、神託を受けた瞬間、告げる神官長さんですら虫を見る目でしたね。あの日を境に周囲の女の子からは完全に壁を作られましたとも。ついでに子供って残酷だから即行で虐めのターゲットになったね、イルムの奴もそんな一人だ。幸い両親は表面上変わらずに接してくれたけど、夜な夜な何処で育て方を間違えたのかなんて会議を開かれていると流石の俺も申し訳なくなってくる。そんなわけで大学ではなくワーカーの専門校に進んだ俺はさっさと就職して家を出た。ジョブが就職でも重要になるものだから健康な体があれば誰でも歓迎!であるワーカーくらいしか就職先が無かったともいう。まあその先でも扱いはこんな感じであるが。

 

「うん、飯食って忘れよう」

 

キーを回してエンジンをかけつつ俺はそう呟く。泣こうと嘆こうとジョブが変わる訳ではないし、現状が好転する事も無い。なら悲観的になるだけ無駄というものだ。

 

「幸いにして食いっぱぐれる事はないしな」

 

ワーカーギルドは傭兵ギルドが発展したもので、元々は国軍の手が回りきらない小さな魔物討伐なんかを請け負っていた組織だ。しかし段々と所属している傭兵が暇なときの小遣い稼ぎに色々と仕事を受けた結果、今では日雇い派遣みたいな業務形態になっている。無論本業である魔物討伐は花形職として現役だが、所属しているワーカーの半分くらいは俺の様に日雇いで食いつないでいる連中である。因みに俺はその中でも結構稼いでいる方だ。文明が発展しているとは言え、そこは魔物なんかの脅威に溢れた世界である。俺が以前生きていた現代日本に比べれば教育の水準は劣っているし、大学へ進学できる人数も少ない。まあ小康状態の戦争がずっと続いていると考えれば不思議な話ではないのだろう、良く解らんが専門学校でそんな事を言っていた気がする。

まあそんな世界なので文明水準は殆ど現代だが前世の知識が案外役に立っている。知識チートは望めないが、それでも学業において優秀な成績を修める位は出来たのだ。おかげで貴重品の運搬など実入りの良い仕事が受けられている。魔物討伐?そういうのは適任ジョブの奴が頑張ればいいんじゃないですかね?

 

「まあ、未練が無いと言えば嘘になるけどさ」

 

そりゃあこんな事に選ばれるオトコノコですから?多少は思ったりしましたよ。手に汗握る大冒険とか、世界を救うヒーローとかね?でもさぁ、普通に死ぬんだよ、この世界。王様とか教会の偉い人がもう一度機会をあげましょう!なんて言って生き返らせてなんてくれない。んで、俺のジョブは全然戦闘向きじゃないわけで。

 

「ん?」

 

そんな風に冒険しない言い訳を自分にしていると車載無線機が通信を傍受する。どうやら街の近くで魔物との戦闘があったようだ。

 

「…近いな」

 

戦闘後の戦場というのはワーカーにとって魅力的な職場だ。撃破された兵器の残骸や処分されてしまう魔物の端材といったちょっとした小遣い稼ぎも出来るし、負傷者の救護なんかをすれば報奨金が出たりもする。まあ後者は滅多に無いので専ら小遣い狙いだが。

 

「行くか」

 

夕食をちょっと豪勢にしてやろう、その位の感覚で俺はハンドルを切る。それが俺の人生を大きく左右する事になるなど夢にも思わずに。

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