奴隷商人の成り上がり!   作:Reppu

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今週分です。


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「結局アレはなんなんだ?」

 

あの化物との遭遇した翌日、俺達は親方の工房でそんな話をしていた。普段なら自分達だけで点検を済ませているのだが、大立ち回りをした後なので念の為と言うヤツだ。

 

「解らん。以前戦った時も感じたが、どうにも奴は異質過ぎる」

 

ほほう?

 

「と、仰いますと、どう言う事ですクロエさんや?」

 

「先ずあれだけ強力な魔物が聞いたことすら無い事。国内で遭遇するだろう魔物は粗方記憶しているが、あんなのは私も知らない」

 

「結局ギルドのブラックリストにも登録されていなかったしな」

 

「ああ。次に行動範囲だ。奴は私達と戦う際に周囲のマナへ干渉していた。つまり親和環境ではない場所に居たことになる」

 

これも確かにおかしな話だ。この世界の生き物は全てマナの影響下にいて、余程の事がない限り自身の親和マナが支配している領域に寄り付く習性がある。そしてこれは高い魔力を持った生き物ほど顕著になる。つまりあれだけ強力な魔物がそもそもマナを書き換えねばならない場所を徘徊しているのがおかしいのだ。

 

「そして最も異常なのが、あの魔物は子供を使い捨てにしていた事だ。有り得ないだろう?」

 

魔物なんて呼ばれているが、別に連中は地獄からやって来た侵略者だとか魔王の従える尖兵といった存在ではない。魔法が使える生物を魔物と呼称しているだけで、本質的には俺達と変わらない生態系に組み込まれた生物なのである。だからこそクロエはその在り方がおかしいと考えている。普通の生物は子孫を犠牲にする事を前提とした戦闘なんて行わないからだ。

 

「…子供じゃないのかもしれない」

 

脳裏に嫌な推測が浮かび、俺はそう口に出す。そう、子供を犠牲にするなんておかしい。だが子供じゃなかったら?

 

「どう言う意味だ?」

 

「例えばスライムだ、連中は体の一部が本体から切り離されても暫く活動をしている」

 

もっと生き物らしい所ではトカゲの尻尾とかだろうか?本体の一部から切り離されても暫く動き続ける器官を持つ生物は案外存在している。だが俺の言葉にクロエは否定的な様子で口を開いた。

 

「そんな事が有り得るのか?スライムならともかく、どう見てもあれは奴の幼体といった姿だ。第一そんな部位が群れのように動けるものなのか?」

 

「解らない、別に俺も魔物の生態に詳しい訳じゃないからな。けどそれなら説明がつかないか?」

 

「…そうかもしれないが」

 

そこまで言って俺は大きく息を吐く。正直この一件についてはあまり深入りしない方が良いと俺は考えている。俺達は別に正義の味方でもなければ勇者でもない、しがないワーカーなのである。なら金にならない危険な事に首を突っ込むのは避けるべきだ。

 

「まあそもそも現状で俺達に出来る事は無い訳だし、この件は一旦保留が妥当だろう」

 

「……」

 

「それに何かあればギルドから正式に依頼があるさ。それまでは国に任せておく方が賢明じゃないか?」

 

調査するにしても個人と国家では出来る事が段違いだし、魔物への対処は国の基幹事業の一つだ。少なくともワーカーが当てもなく個人で動くよりも余程良い結果を出せるだろう。

 

「そうだといいが」

 

クロエがそう呟くのとほぼ同時に親方から声が掛かり、点検が終わった事を告げられる。消化不良気味に話は終わり、俺達は日常へと戻るのだった。

 

 

 

 

「むう…」

 

「むう。じゃないだろう?これも必要経費だと私は思うぞ?」

 

ギルドへ移動する道すがら、助手席に座ったクロエが呆れた顔でそう言って来る。唸っている理由は単純にして明快。親方の点検で俺のシュラクトがそろそろ限界だと告げられたからだ。

 

「スカベンジャーくらいなら問題ねえが、お前最近コイツで真面に討伐をしてんだろ?関節の摩耗が今までと段違いだぞ」

 

元々俺の機体は格安だっただけあり状態も決して良いものでは無かった。それでもこれまで親方が忠告してこなかったのは、俺が徹底して戦闘を避けていたからだ。加えて戦闘になるにしても杖による遠距離戦が主体であったから部品の摩耗も最低限に抑えられていたらしい。それがクロエと組む様になり格闘武器による接近戦も行うようになったから一気に劣化が進んだらしい。

 

「遠距離戦に切り替えれば…いや、でもそれだとスクロールの出費が」

 

「これこそ普段マルスの言っている先行投資だろう。討伐依頼も安定してこなせるようになればシュラクトの購入費だって十分補填できるんじゃないか?」

 

「買うとなるとⅢ号以降の機体になるからなぁ」

 

ワーカーが個人で所有するとなれば現実的なのがⅢ号機兵かⅣ号機兵だ。現在軍が主力で運用しているⅤ号やⅥ号の一世代前の機体になる。この2機種はまだメーカー生産を続けているから、純正パーツで補修が可能という討伐依頼を積極的にこなす上で有り難いメリットがある反面、購入には一つ大きな制限があるのだ。

 

「周辺国との関係が拗れているなんて話は聞かないし、問題無いんじゃないか?」

 

「でもなぁ」

 

その制限とは、国家が危機的状況に陥った場合に無条件で機体を徴発する事を承認するというものだ。まあ第一線は退いたとは言えⅣ号に至ってはまだ後方で運用している部隊もあるくらいだから、妥当と言えば妥当な扱いなのだろうとは思うのだが。

 

「それにな、多分マルスが考えているような事態にはならないぞ」

 

「どういう事だ?」

 

俺が聞き返すとクロエは意地の悪い表情になってその理由を口にする。

 

「考えてみろ。民間で運用されているような怪しい機体すら戦力にしなければならない状況で、普段から乗り慣れているライダーが放置されると思うか?」

 

言われて俺は顔を引きつらせる。言われてみればその通りだ、切羽詰まった国家が戦闘経験すら持つワーカーを徴兵しないなんて有り得ない。

 

「これはやらかしたな…」

 

「うん、だからどうせ手遅れなんだからしっかりしたのを買った方が良いぞ。どうせ徴発するなら纏めてだろうし、送られるとしたら時間稼ぎの戦場だろう。なら少しでも性能が良い機体の方がいい」

 

「そうなるとⅣ号か」

 

「いっそのこと特別資格を取ってⅤ号やⅥ号とかどうだ!?」

 

「馬鹿を言うんじゃぁないよ」

 

因みに特別資格と言うのはクロエの様なアンティーク級やエルザ女史の様に最新型の試作機なんかを使用しているワーカーへ国が発行しているものだ。こちらになるともう殆ど軍属に近く、機体の徴発どころか軍の作戦への参加義務まで発生する。正直余程優秀かつ信頼のある人物でなければ申請自体受け付けられない代物である。

 

「まあ先ずは頭金を稼いでから考えよう。あの機体だってすぐに壊れるって訳じゃないしな」

 

「気持ちは解るが、こういうのは早い方が良いと思うぞ?」

 

そんな事を言い合いながらギルドの会館へ入ると、何故か俺達へ視線が集中する。そして戸惑う暇も与えられず進み出てきた人物が声を掛けてきた。

 

「来たわね」

 

それだけ言うとエルザ女史は踵を返して階段へ向かう。意味が解らずに立ち尽くしていると振り返り再び彼女が口を開いた。

 

「早く来なさい」

 

有無を言わさぬ言葉に俺とクロエは黙ってついて行くことにする。しかし雲行きが怪しくなっていることに、二階を通り過ぎた時点で俺は遅まきながら気が付いた。

 

「あの、エルザさん。どちらへ行かれるんです?」

 

会館の2階は談話室が設けられていて、ギルド主宰の講習会やパーティー同士の折衝に使われている。しかしそれ以上はギルドの運営側が利用している空間であり、俺達ワーカーは基本的に立ち入らない場所なのである。嫌な予感を覚えた俺がそう問いかけると、エルザ女史は呆れた表情で答えた。

 

「付いてくれば解るわ」

 

答えを求めているんじゃねえんだ、その前に心構えをさせて欲しいんだよ!そんな俺の願いも虚しく、比較的奥まった部屋の前で彼女は足を止める。なかなかの威厳を醸し出している扉に貼り付けられたプレートには会長室の文字。すみません帰っていいですかね?

 

「失礼しますわ」

 

「入りたまえ」

 

そんな俺の声にならない願いも虚しく扉は開かれ入るように促される。

 

「来たな、では依頼内容を説明する」

 

典型的な執務室といった室内、据えられたデカイ机に座っている目つきの鋭い初老の男性が、思ったよりも若々しい張りのある声でそう言い出した。だから、少しは心構えをさせてくれって!?

 

「軍からの依頼だ、内容は先日ガーナット砂漠で目撃された未確認魔物の討伐並びにサンプルの確保だ」

 

日常が全力で遠ざかっていく事を自覚して、俺は天を仰ぎたくなるのを必死で堪えたのだった。

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