ドライブソング   作:葛城マサカズ

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たまに早朝に車を出す時に、ラジオから好みの曲が聞こえるとアガるよねと言う話です。


第1話

 「ああ、終わった~」

 僕の名前は月ノ瀬観音、深夜に原稿を書き上げると椅子に背を預け、脱力した。

 なかなか筆が進まなかった原稿がようやく完成し、少し休んでから編集へメールで送る。

 「四時か」

 部屋に掲げた時計は四時一〇分を示す。

 もうすぐ朝だ。

 冬の今では日の出はもう二時間ぐらい先だろう。

 「日の出が見たくなったな」

 僕はふと思った。

 なかなか進まない原稿から解放された今、籠っていた部屋から出たい衝動がそうさせた。

 そうと決まれば外に出る服に着替える。

 ジーンズに履き替え、ハイネックを着てダッフルコートを羽織る。

 玄関から外に出るとまだ暗い。

 夜道を照らす外灯や早起きか徹夜をしている家々(アパートやマンションの部屋を含めて)の明かりも点在して見える。

 聞こえる音は遠くで走る一台の車の走行音がこだまの様に響く。

 そんな静かで寒い夜明け前

 僕は愛車であるスイフトに乗り込む。

 「今日の天気です。沖縄は晴れ、鹿児島は曇り、福岡は曇りのち晴れーー」

 エンジンをかけると同時にカーオディオも電源が入る。

 深夜放送のNHKのラジオ番組が天気予報をしている。

 「東京は晴れ」と聞き、僕は「よし、日の出は見れる」と確信する。

 ラジオは続けて日の出の時刻を伝える。

 関東地方は六時半に日の出だ。

 「少し遠出するか」

 僕は両手に指ぬきのグローブをはめてから、スイフトを発進させる。

 「ここで一曲かけましょう。エラ・フィッツジェラルドで<ア・ティスケット・ア・タスケット>です」

 スイフトが発進した直後にラジオはスイングジャズを流す。

 トランペットの音色からエラの歌声

 新聞配達のバイクが走る横を追い抜き、街路から首都高に乗り込む。

 そんな光景を見ながら聞くこの曲は映画の冒頭みたいでスタートとしては気持ち良い。

 ラジオは今夜の放送する内容を予告してから終わった。

 時刻は五時になって次の番組になる。

 ニュース番組だった。

 トップニュースは政治家の不正疑惑についてだ。

 連日聞いたこのニュースに「つまらないな」と思った僕は別のラジオ局に変える。

 民放も平日のせいか報道番組が多い。そうでなければ通販や宗教の番組だ。

 選局を続けて洋楽が流れている番組に落ち着く。

 キッスの「ラヴィン・ユー・ベイビー」が流れ始めた。

ハードロックは「ア・ティスケット・ア・タスケット」で揚がった気持ちをよりノリノリにさせ、思わず口ずさんでしまう。

まだ暗い空、照明で明るくされている首都高の光景とハードロックはアクセルを踏む力が入ってしまう。

 「気持ちがアガり過ぎだな」

 少し落ち着こう。

 トラックを三台追い越してからそう思った。

 次に流れたロリ・リバーマンの「Killing Me Softly with His Song(優しく歌って)」で気持ちを落ち着かせる。

 スイフトは横浜市に入った。

 ラジオはクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの「プラウド・メアリー」を流していた。

 ギターのリズムにコーラスがよりドライブ感を増す。

 聞きながら思わず右手の人差し指でハンドルを叩いてリズムを刻んでいた。

 車上から見える、みなとみらいの高層ビルと観覧車はよりドライブ感を増す。

 楽しい気分で落ち着いた所をアバの「ダンシング・クイーン」とドナ・サマーの「ホット・スタッフ」がまた気持ちを上げて来た。

 心のノリが高くなりながら僕は神奈川県を南下

 時刻は六時を過ぎ、僕は逗子市に来ていた。

 山道を越え、逗子の街を進む。

 この時間だと起きて動き出す人達が多くなる。

 高速道路を進むような速さでは走れなくなっていた。

 けど焦らない。時間の自由さがあるのが僕の仕事の良い所だ。

 ラジオから流れるケニー・ドーハムの「ロータス・ブロッサム(蓮の花)」の音色がより僕をリラックスさせる。

 このドライブは行く当てを決めて出発した訳では無い。

 日の出を見たいと思っての見切り発車だ。

 何処で日の出を見るか。

 逗子の街を海岸沿いにスイフトを走らせる。

 もはや空は明るい。

 相模灘の水面は水平線に出ている陽の光に照らされている。

 ラジオからはエンヤの「オンリータイム」が聞こえる。

 明るくなる相模灘の空と海を見ながら聞くエンヤは不思議な気分にさせる。

 日本では無い、別世界に来たようだと思えてしまう。

 これがBGMの効果てものかと。

 落ち着く場所として選んだのは、アリーナの駐車場だ。

 スイフトを駐車場に停めながらラジオで聞いたのはルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」だった。

 僕がスイフトから降りた直後に陽が太平洋の彼方から昇り始めた。

 一日が明ける。

 青い空と青い海が目の前に広がる。

 「まさに、素晴らしい世界だな」

 今日も一日が始まる。

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